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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  21話

これは相当な負担だな。予め身体中を保護しておいたにも関わらずこのダメージとは……八門遁甲が性能の割りに全くと言っていいほど普及していない理由を身をもって知る事になるとはな。
その上に負担を強いているというのもあるんだが……無茶を二つやるというのは今後は控えよう。
そもそも、第一門だけでも相当な負担なんだからな。
そう考えればリーの事も再評価しなければならんな。ここまでのダメージを追っても動きこそ鈍るものの取り敢えずの戦闘は続行可能であり、しばらく回復に専念すればそれ以上の体内門の開放を可能とするというのは脅威だ。
「さて、少年。君の体格やらおよその総チャクラ量から察するに君の基本的な性能は私達と同等、またはそれ以下のようだ。
しかしだ、君の上司か雇い主かは君の能力で私達の討てると踏んだのだから、小隊を単騎で潰せるだけの力を君は持っているのだろう。
となれば、多少の力量差をひっくり返す優位性が君にはある。察するに血継限界か何かを持っているのだろう?」
「…………あなたも、いえあなた達もですか」
「ああ」
「ヒジリ様!?」
「隠しても意味はあるまいよ。相手が理解していようといまいが、結局のところ私達のやることは変わらんだろう?」
「……確かにそうですが」
「なら構わんだろ。ではネジ、君は私と彼の戦いを観察しろ。能力を見極めるに当たって複数の視点があった方が便利だ」
「はい」
ネジは私の言葉に頷くと観察に専念するために姿を隠し、その場には私と少年だけが残された。
「さて、君も急ぐといい。私が体内門を開いた事で異変に気付いた私の担当上忍が帰ってくるぞ?」
「ご忠告ありがとうございます」
「どういたしまして、戦闘相手にも礼儀正しいのは実に好感が持てるな」
「性分ですからね」
少年は両手を合わせて人差し指に中指を巻きつかせるような印を結び、術の名を静かに私に告げる。
「秘術 魔鏡氷晶」
すると彼の周囲に冷気が漂い、私の周囲を氷の鏡が包囲した。そして、少年は鏡に触れるとスルリと鏡に吸い込まれてしまった。
「ほう、君は氷を扱うのか?となると風と水の性質変化の持ち主と言ったところか」
「これを見てもその余裕は崩れないんですね?では……これはどうでしょう?」
その瞬間、私の右肩の布が破れ皮膚には薄く赤い線は走った。どうやら千本で切られたようだが……全く捉えられなかったな。
リーの重り無しの走りよりも確実に速かった。あの身体でそういう動きが出来るということはこれが彼の術なのだろうが……鏡、超高速移動、そして鏡に吸い込まれた彼、分かっている情報はこの三つ。
ネジとのやりとりではこの速度を使わなかったことから、鏡が無ければこの動きは使えないと仮定しよう。
まず、鏡と超高速移動から連想するものは光だ。となれば単純に考えれば光速で移動する忍術という事になるが、それは違う。
仮に先ほどの攻撃が光の速度で動くというのなら、先程の攻撃では私の体は消し飛んでいただろうからな。
そこで仮定一、彼の動きは光速ではなく私が認識できないギリギリの速度での攻撃である。
仮説二、体の性質を光のようなものに変化させて自らの重さを限りなくゼロにする。その上で私に接触する寸前で実体化している。
では仮定の検証だ。私の周囲を覆うように弁財天をある程度の厚さで展開する。仮に私の捕捉できない速度で動いているのならば、その速度でこの厚さの水に衝突した時に幾らかダメージを負うだろう。
「成る程、捉えられないなら全方位の防御を……ですが、その程度の水に防がれるほど僕は非力ではありませんよ」
彼は私の弁財天を防御用と判断したようで、そのまま素直に後ろの鏡から千本を構えて来た。
どうやら投擲ではなく本体がそのまま突っ込んできたようで、今度は私の耳に僅かに切り傷ができたが……微かな呻き声が弁財天の水が破られた瞬間に聞こえたな。
正解は仮説一のようだな。とはいえ、ネジにやられら腕に与えられたダメージがあった上での呻き声だろうし、私の想像よりは速くないようだ。
よって、速度は本当に私が認識できないギリギリの速度のようだ。その上で鏡から鏡の移動しなければならないという制約を考慮すれば、一つの鏡から私を攻撃しつつ移動することができる移動先はおよそ六枚。目指す鏡を当てられればその直線上に立つだけで、彼はこちらに勝手に突っ込んでくる。
理由は彼の攻撃は二度受けたが、彼はどうにもこの能力を完全には扱い切れていないようだからな。あの速度はどうやら彼自身対応出来ていないようで、殺すと宣言したにも関わらず私の傷のように致命傷には程遠い傷しか与えられない事から、取り敢えず千本を構えて雑に振るっているといった所だろう。
しかし、賭けとしては六分の一というのは些か分が悪いな。彼が鏡の中という珍妙な状況でなければ眼で読めたんだが……今現在私が見えるのは彼の正面のみ。予測の精度は格段に落ちるので精々六分の一を四分の一にするのが手一杯だ。
さてどうしたものか…………ふむ、雑な戦いというのも悪くないな。
私は両腕に蓬莱の枝を持ち一気に彼のいる鏡に枝を右腕で振り下ろした。
「そんな棒切れで割れる程、僕の鏡は脆くはありませんよ?」
「それは結構、だからこそ割れるんだよ」
蓬莱の枝は対象が硬ければ硬いほどにその効果は大きくなり対象を確実に打ち砕く、ただ硬いものを破壊するためだけに作り上げた忍具だ。彼ご自慢の鏡であるというのならば、尚更に砕けやすいだろうよ。
彼は驚きながらも別の鏡に移り、ついでに私の背中に何本か千本を刺していった。
…………傷は深く無いんだが、痛みは割とあるのだな。
「さて、後は鏡を叩き割っていくだけだな?君の千本は確かに痛いが、急所にだけ当たらぬように気をつければ何の問題もない。
それに仮死状態に陥らせるツボやらも君より私の方が詳しいので、仮に突かれたとしてもそれを解くツボを自分で突けばいい。
そんな私に君はどうする?私の担当上忍が帰ってくるまでもう一分もないだろう、さぁ君の道は二つだ。
一つ目は今すぐ私とネジを殺して口封じを終えて、君の依頼を完遂する。
二つ目はこのまま負けを認めて私達に捕まり、君の上にいる者の情報を差し出して私達の保護を受ける、だ」
「ふふ、言うまでもなく……一つ目ですよ!!」
私は正面に対して最速のカウンターを叩き込むため、八卦の構えをとり全神経を集中させる。
そして、彼が動いた気配と共に私の最大速度で枝を振るった。が、枝は空を切ると共に深々と私の心臓を彼の握った千本が貫く感覚を味わった。
「成る程……君の真のスピードは……方向転換の速度だったか……」
「ええ、正面から突っ込めばあなたになら返り討ちにされそうでしたので、あなたの真横の鏡を経由して貫かせて貰いました。
それでの、面を壊されてしまいましたけどね」
体から力が抜けて、枝が手から落ちる。そのまま枝は彼の背後に落ちてコロコロと地面を転がった。
「そうか……では、君の名前を教えてくれないか……勝負は……ついたんだ」
「白(はく)、それが僕の名前です」
「…………」
「もう、聞こえていないんですね……次は君の番ですよ、ネジ君?」


白は私から千本を引き抜くと構え直し、ゆっくりとネジに千本を向けた。
そんな彼は白の姿をさも滑稽そうに見つめ、私の方に呆れるような視線を向けた。
…………分かったよ、遊び心の分からん奴め。せめて一時でも勝ったという気分を味わせてやってもいいじゃないのか?
「とりあえず、白。君の負けだ」
私は白の首筋に掌を当てて、意識を奪う程度のチャクラを撃ち込む。
「えっ?」
白は意識を狩られる寸前に自分の背後に立っていた無傷の私を見て、呆気に取られたような表情を浮かべていた。
「影分身と変化……慣れないことはするものではないな」


 
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