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寄生捕喰者とツインテール

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日常の終わり

 入学式の次の日の朝。


『続いてのニュースです。昨日起きた“マクシーム宙果”での事件は、死傷者こそいなかったモノの乗用車は十数台も破壊され、駐車場は焼け焦げ削れるという……そしてそれを起こした犯人が、よりにもよって人間ではないという未曽有の危機にさらされました……しかし!』



 今まで冷静に無表情のまま坦々と読んでいたアナウンサーの顔が、途端にヘニャッという効果音が聞こえてもおかしく無い勢いで緩む。



『そこに颯爽と現れたのが、赤いツインテールを持った美しき美少女、否美幼女! テイルレッドと名乗るヒロインの―――』



 そこでニュースを映していたテレビは脈絡も無くプツリと切られ、先程までアナウンサーの声が響いていた部屋には静寂が訪れた。

 広めのリビングに一人居るのは、リモコンを使ってテレビの電源を切った張本人であろう、新垣瀧馬だった。

 瀧馬は朝食と思わしきサンドイッチを口に頬り込んで咀嚼し、ペットボトルに入った烏龍茶を煽って一息ついてから、呆れの色濃く溜息を吐く。



「……またこのニュースか」



 彼が今呟いたとおり、このニュースはひっきりなしに流れているのだ。しかも昨日の夜から。そればかりか、ニュースの主な内容は『テイルレッドがどのような活躍をしたか』だの『テイルレッドどれだけ可愛いか』だのばかりで、肝心の『人間では無い人外の犯人』が破壊以外にどのような犯罪を犯したのか、目的は何なのか、此方はどう対応するのか、そもそも他の場所で被害は無かったのかなど、それらの重要な事をすっぽりぬかして放送しているのだ。

 始め見た時瀧馬は、エイプリルフールの嘘映像かとも思ったが、日時的にはまだ早いしインターネットでも多数のテイルレッドファンの者達が張るテイルレッドの画像にまぎれて、合成とは思えないほどリアルに破壊された駐車場が映ったり、テレビでもちゃんとそこの映像を出していたので、完璧に嘘だとは否定できなくなっている。



「……大事な部分をぬかして正義のヒロインに夢現、ね……この国はそこまで末期が居るのか?」



 少なくとも、総理大臣や国防総省、そこまで大きく出ずとも警察官ぐらいはちゃんとしていて欲しいと願っている瀧馬だが、実はこの街の警察も事件の犯人にどう対処するかではなく、テイルレッドを全力で応援しようという事になっており、全く持って当てにならない。

 それに、余りにも情報が早すぎるうえ鮮明に移り過ぎている事も瀧馬は疑問に思った。破壊跡から見て隠れられる場所は殆ど無く、しかもテイルレッドと蜥蜴の様な怪人は炎を上げ鱗を飛ばし派手に戦っていたのだから、映像を綺麗に残すなどそれこそ至難の技になる筈なのだ。



(色んな意味で不安になってくるな……)



 とにかく、いくら考えようが力も無い自分が出張って行った所で何も出来ずにくびり殺されるのが落ちだと分かっている瀧馬は、それ以上は考えずにさっさと荷物を整えて玄関を出て、授業をサボろうかサボるまいかと考え始めた。


 行ってきます、すら言わなかった状況を見るに、彼は一人暮らしをしているらしい。しかし、家はマンションなどでは無く結構立派な造りのモノ。周りに家が殆ど無い事を除いても、中々の大きさだ。


 何故なのか? ……と言うのも、彼の親は重度の遺跡マニアであり、息子を放って置いてしばしば二人で海外へ飛び立ってしまうのだ。不動産や土地経営している為に食うには困っていないのが唯一の救いだろうか。

 
 暫く戻っていない両親の姿を頭に浮かべ、瀧馬は軽く鼻から息を吐いて眼を半開きにしたまま首を一度回した。

 呆れているのか、それとも心配しているのか、微妙な所だ。



 校門をくぐり教室のドアを開け、担任が来ていざホームルームだ……かと思いきや、樽井担任は一時間目が中止になり全校生徒を集めて体育館に集めるよう言われている旨を伝えて、さっさと教室を出て行ってしまう。

 恐らくは昨日の事件の事で話があるのだろう。もしかすると、生徒の中に巻き込まれた人物が居たのかもしれない。
 だが、どうも真面目な内容になりそうにはないと、瀧馬は予感していた。何故ならば―――



「昨日の見たよな!」
「勿論! テイルレッドちゃんだろ!」
「本当に可愛かったようなぁ~……妹にしたいぐらいだぜ!」
「何言ってんだ……妹にすんのは俺だ!」
「ほざきなさい! 私の妹になってもらってお風呂で―――」



 こんな会話がそこかしこで行われているからである。

 しかも、これは瀧馬の耳に入ってきている中で、まだマシな方に分類されるモノなのだ。最後の女子生徒が何やら言おうとしていたが、きっとただ風呂に入って一緒に暖まろうと言う考えなのだ。……決して、それなりに整った容姿を台無しにする涎を垂らすような、非合法的な何かを想像している筈では無いと信じたい。


 よくもまあ蜥蜴怪人の事を見事にすっぽぬかしてヒロインにうつつを抜かせるなと、瀧馬は逆に感心してきている。
 ……と、この場面で一番騒ぎそうな生徒が騒いでいないのに気が付き、隣にいるその人物へと声を掛けた。



「オイ、観束」
「うおっ!? な、なんだ?」
「……お前は騒がないのか? 昨日、アレだけツインテール好きだという事を公言していたのに」
「い、いやぁ……そのな? アレだけ異常に騒いでいるのを見るとさ、ツインテールが好きなだけの俺はちょっと引くというか、えっと何と言うか……」
「……」



 周りの反応は兎も角、瀧馬からみてもテイルレッドは可愛い部類に入った。だからといって信仰心にも近い感情など抱いてはいないし、周りの者達の様な欲望もわき上がってはいないが、それがツインテール大好き人間である、観束まで反応しないと言うのは如何もおかしい。

 もしやこいつ、ツインテールだけ存在していれば他の部分は如何でもいいのだろうか……そんな事を瀧馬は考えた。
 最悪、どこぞの殺人鬼の如くツインテールだけもぎ取って逃げていくと言う、正直微妙な犯罪を犯しそうだとも考え、瀧馬は朝から数えて三度目の溜息を吐く。



 やがてなったチャイムを合図に皆廊下にならび、未だに話題について交わしながら体育館へ向けて歩いて行く。

 昨日は見る余裕がなかった二年や三年の顔も眼に入ったが、彼等の中には欠伸をしていたり手悪さをしたりする人物が皆無と言っても良かった。
 そして一年もまた、アレだけ騒いでいたのが嘘のように静まり返ってただ佇む。


 事前の状況を知っているだけに何とも奇妙に感じる静寂が支配し、先程までの会話の内容とはほど遠い厳粛と言う言葉さえ思い浮かべてしまう。

 そんな空気に付き合う気は無いのか、悪びれも無く瀧馬は欠伸を一発かました。小刻みに足元でタップを踏んでいるので、早く終わって欲しいのが丸分かりだ。

 そんな彼を見て、何故か観束はホッとしたように胸に手を当て溜息を吐いた……何故、ホッとしているのかは疑問である。



 タップの音が無骨に響く体育館に、もう一つの足音が加わる。生徒会長が壇の前へと歩を進めたのだ。
 ゆっくりと生徒達を見回してから、生徒会長は口を開く。



「皆さんも知っているとは思いますが……昨日、この街は観た事も聞いた事も無い、それこそ未知の怪人に襲われました」



 確かに大した情報も出回っていないし、初っ端からオマケ扱いとなっている怪人なんざ、それこそ色んな意味で未知ともなる。

 結局の所、一般人には彼等が何をしたかったのか、どのような生物なのかすらわからないのだから。



「そして……わたくしも、実はその場に居合わせ、被害を受けた一人なのです」
(……なるほど、会長が……)



 生徒が被害にあったという予想は見事当たっていたと言う訳だ。しかもそれが会長となればこの様な会を開くのも当たり前と言える。



「「「「「なんだってぇええぇぇええぇええ!!?」」」」」
「許せねぇ! いや許せる筈がねぇ!!」
「当たり前だろうが! 少しでもこの気持ちが分からない奴が居たら、そいつは人間じゃねぇよ!」
「誰か武器を! 武器を持たせろ!!」
「蹴散らしてやる……塵も残さず消し飛ばしてやるぁ(巻き舌)!!」
「戦じゃ!皆槍を持てぃ!!!」
「ダイナマイトだ! 大量に持ってこい!!」



 ……周りの反応は当たり前では無かった、そして物騒にも程がある。普通は心配するか、動揺が走るか、不謹慎だが自分では無くてよかったと安心するかのどれかではないだろうか?

 何故自分事の様に……そして当の本人よりも憤っているのだろうか。その様相、最早暴徒と形容しても差し支えない。



「皆さんのその怒り、その正しき怒りを誇らしく、そして嬉しく思いますわ」
(……おいコラ)
「他人の為に怒りを抱く事が出来るのは、人間としてこの上ない誉だと、そうわたくしは思います」
(どっちかと言うとアイドルファンの怒りに近いと思うがな俺は)



 この演説開始までは生徒会長はまだ常識人に入るかとも思っていた瀧馬は、彼女の抜けたその言葉を聞いてちょっと考えを修正した。



「そして、怪人はわたくしだけにあらず……他の女子生徒や、学園外の女性達までもその毒牙に掛けようとしたのです。その行為、許せるものではありません……」


 そこで一拍置き胸に手をやり、生徒会長は凛とした声で続きを口にする。


「まだ情報も少なく詳しい事は明らかにされてはいませんが、あの場に颯爽と現れた戦士を、皆さんもニュースやネットで知っているでしょう……その戦士はおろかな怪人を葬り、私を助けて下さいました」



 何故だろうか、途中から凛とした声に何処か甘い物が混ざっていた気がすると、瀧馬は訝しげに眉をひそめた。ふと隣を見ると、観束が顔をひきつらせ冷や汗を流しているのが目に入る。

 多分、二人が思っている事は同じなのだろう。……僅かな希望を託し、生徒会長が次に口にする言葉が “ソレ” ではない事を二人は人知れず祈る。



「わたくしは、わたくしはっ……あの少女に心奪われてしまいました!」
「「「「「フォオオオオオオォォォォオオ!!!」」」」



 周りからあがる喜びの歓声、盛大なる拍手……そして項垂れる一人と顔に手をやる一人。……残念ながら、彼等の祈りは全く届かなかった。

 何より全校生徒を集めてすべき話では無い。始めの厳粛な雰囲気と緊張感が懐かしく思えてくる。



「その言葉を、この時をどれほど待ちわびた事か!」
「よかったよぉ……これからは、これからは胸を張って小さい子はぁはぁと、言えるんだね……!」
「これでもう何事の憂い無し! 堂々と幼女を愛でるのだっ!」
「憂いを持てよ!? ……持ったうえではぁはぁするんだよぉおっ!!」
「世界に心理かコレは。ちっっちゃい会長がちっちゃい正義に味方に心奪われるとは……正に心理なのか!」



 テイルレッドの事で盛り上がる彼らだが、観束の件では巻き込まれたくは無い、関係ないと無視を決め込んでいたくせに、教室はおろか体育館でもここまで異常に盛り上がるのは果たしてどうだろうか。 しかも白昼堂々変態だと公言している輩が大部分を占めている……『大部分を占めている』。

 というか、最終的にこのような醜態をさらすのならば最初からブレーキ無しのアクセル全開でふっきれていてほしあったモノで……いや、やっぱり最後まで隠して貰っていた方がいい。

 ずきずきと頭が痛むのを瀧馬は確かに感じ、同時に観束の認識をただツインテールが好きなだけで他は常識人に切り替えようと、この時強く思ったと言う。



「では……彼女の勇猛なる姿、美麗なる容姿を今一度ご覧あれ!」




 何時の間にか用意されていたスクリーンに、朝っぱらから散々見てきたテイルレッドの映像や画像が次々と映し出されて行く。

 どんどん高まって行く周りの高揚感とは逆に、瀧馬はどんどん沈んでいっている。中学の時も変態的人物はちらほら見受けられた事は覚えているのだが、よもや此処まで蔓延しているとは知りもしなかったのだから。

 止めとばかりに、生徒会長は声高に叫んだ。



「神堂家はこれより、彼女を全面的にバックアップ、サポートすることを決めましたわ! 皆さんも私と共に、この救世主を支援し応援して行きましょう!」
「「「「「「テイルレッド! テイルレッド!!」」」」」

(……末期を通り越して地獄か、ここは?)



 今すぐにでも体育館から出たい瀧馬は、小回りも利かず隙間も抜けれらない自分の身長の高さと体格のよさを、この時すこぶる恨んだ。

 ……そして覆いに呆れたその様子を見て、観束は地獄に仏と大層嬉しそうにしていたという。















 寝ても覚めてもテイルレッドテイルレッド、しかも教師までそれと来てもうやってられなくなったか、瀧馬は許可も取らず正午で学園を早退してしまった。原因が原因とはいえ、中々に豪胆な人物である。



「テイルレッドウィルスにでも取り付かれましたか~ってんだ……頭割れるっての」



 ブツブツ文句を言いながら、道すがら菓子を買う為スーパーや、ゲームソフトを買う為ゲームショップへとよるが、そこに設置されているテレビに映るのはやはりテイルレッド。道行く人が口にする話題もテイルレッド、しまいにはムカつくほど上手いテイルレッドが書かれたポスターまで張ってある始末。



(……もう帰って寝る、じゃねぇとキレそうだ)



 周りの人、家屋、商店、他の何にも目はくれず、半ば走るように家へと向かう。景色は下を向けばそれなりに緩和されるものの、耳から入ってくる音はどうしようもなく、ボルテージを確実に上昇させて行きながら、瀧馬はようやく自分の家へとたどり着いた。

 達成感から自然と笑顔になり、落ち着かせる様に深呼吸をして家のドアを開けた。

 余りにも静かな家の中だが、それが今の瀧馬にとっては天国にも等しい安らぎを与えている。


 鞄を置き制服から私服へ着替え、棚の中にあったチョコレートコーティングのビスケットを取り出して、大きめのコップにコーヒー牛乳を注ぎ、MDプレイヤーで彼の好きな洋楽のヘビメタを聞きながら、菓子を齧り牛乳を飲む。



「……ふぅ」



 落ち着いたと深く息を吐いて、暫く食べては飲む食べては飲むを繰り返す。食べ終えた後は深くソファーに腰掛けて、その落ち着いた雰囲気とは裏腹に激しく掻き鳴らされるギターをバックに叫ぶ、ヘビメタを流し続ける。


 頭に上った血が段々と下がり、冷静にればなるほど、瀧馬は彼らの行動理念がまるでわからなくなってくる。

 再度言うが彼等は入学式直後での観束の失言の際、何も言わず沈黙を保ち関わる事を避けていたのだ。なのに、彼が犯した大失態以上の愚行を晒してしまうとは本当に何を考えているのか。


 それ自体が悪い事かと言えばそうでは無く、人前で声高に公言しなけらば趣味の一つとして受け流す事も出来た。が、今回は趣味どころか大イベント級。頭が痛くならない方が不思議なのだ。


 そもそも何故にメディアはテイルレッドの事ばかり報道するのか。一番に危惧すべきは異質な生物たる怪人と言う、生体も特徴も分からない未知の生命体の方であり、間違ってもどこぞのヒーロー番組の宣伝が如くテイルレッドばかり流す理由がない。

 辛気臭いニュースなぞ流しても面白くないなどと言うのはそもそもの理由にもならないうえに、物事の光だけ見ていたく闇などは見たくはないと言っているにも等しく、余りにも愚かである。

 優先すべきは人命に対しての危惧、生活の安全保障、そして確固とした対策の発表であり、間違ってもヒロインを愛でたりヒーローを応援したりすることではない筈。
 勿論、一日二日なのだから対策も保証もないかもしれない、しかし余りにも蜥蜴人間に対して興味をもたな過ぎ、無頓着すぎるのだ。



(……誰かが意図的にそうなる様にしているのか……? まさかな……)



 考え始める瀧馬だったが、そもそも自分一人が動いてもどうもならない事を思い出し、大人しくソファーに寝っ転がった。

 今晩の飯はどうするかと考え、一先ず寝た後で考えれば良いかとMDプレイヤーの電源を切って、端っこに置いてあったクッションを引っ張り本格的に寝るべく頭の下に引いて横になった。










 刹那。







『グオオォォオオオオオン!!!』

「!? なんだ!?」




 脈絡もなく突如ガラスがぶち割られ、恐ろしげな叫び声と共に何かが飛び込んできて、進路上にあったリビングにあった物を残さず壊してしまう。

 寝ていた事が功を奏したか、飛び込んできた何かはソファーの上を通り過ぎるだけで、瀧馬自身には当たらずに済んだ。


 しかし、そんな事で喜んでいられる状況では無い。




『グルルゥウウゥウゥゥ……!!』
「い、犬、なのか……?」



 目の前にいたのは犬……と言うより狼と機械、そして異世界の何とも知れない化け物を合体させたような、奇怪且つおぞましい風貌たたえた化け物だった。
 その姿形は、ニュースで流れていた映像の中に映る、あの蜥蜴人間の方が余程生物として成り立っていると、そう思わせるほど奇妙すぎる。

 腐った機関銃、ひん曲がった人間が振り回すには大きすぎる剣、何故そこにあるのか分からないジェットエンジン、何に使うかもわからない謎の鉄の塊、それらが滅多矢鱈にくっ付いている……生物かどうかも怪しいぐらいだ。


 瀧馬は自分の脚を動かし、恐怖を感じながらも竦んで動けない事は無い事を確認する。


 当然の事ながら、こんな化け物に挑んだりはしない……逃げるのだ。



 テイルレッドの様な剣を持っている訳でも無く、英雄の様な力も持っていない。
 優れた反射神経を見せる事をのぞけば、そこらの男子高校生と余り変わらないのだから。


 ドアの位置を確認し、化け物と睨み合いを続け―――――先に動いたのは化け物の方だった。



『ヴォラァァアアーーーーー!!!』
「ぐっ!」



 跳びかかりを間一髪で避けてから間髪置かず、化け物などには眼もくれずに一目散に背を向け走り出す。

 と、嫌な予感を感じ扱ける様にして頭を下げた。



 瞬間、柱が根こそぎ切り落とされ、二階部分が派手に崩落する。




「な、に……?」



 家全体のダメージは少ないが、この崩落の所為で逃げ道は塞がれてしまった。周りには家が殆どどなく、ある家も今は旅行中で実質誰も居ないに等しい。

 実家をこんな森林近くに立てた親を若干恨みながら、それでも何とか出来ないかと辺りを見回すが窓の方には何時移動したか化け物が陣取り、他の場所は鍵を外したり回り込んだしせねばらなない為、背後を突かれて殺される可能性大。


 八方塞がりとはこの事だった。



 彼の焦りを理解したかは定かではないが、化け物はニヤリと口角を上げて瀧馬を見る。その視線を受けた彼は、何が何でも生き残ってやると逆に闘志を燃やした。



(こうなったら一か八か……あの割れた窓から飛び出るしかない……!)



 態と追い詰められたかのように動き、跳びかかりを誘うべく瀧馬はじりじりと下がりながら窓が見える方向へ寄って行く。

 化け物も追い詰めるのを楽しむ様に、段々とゆっくり近づいてくる。



 そして……その時は来た。




『ヴォラァァアアアーーーーーーーっ!!!』

(今だ!!)



 思いっきり床を蹴ってスライディングの要領で下を潜り抜け、化け物の衝突音を後ろで聞くも振り返らず窓へ向けて走り出す。



(ここで、跳ぶ!!)



 窓に届くか届かないかと言う位置で、瀧馬は思いっきり踏み切り外へと飛び出した。







「が、ほっ……!?」




 その途端、右足に鋭い痛みが走り、踏み切り切れずに派手に転がって割れ残っていたガラスにぶつかった。

 痛みが走った右足を見ると―――――既に“膝から下”が無く、少し離れた場所に転がっている。

 よく見ると、右足の痛みが強かったせいで気が付かなかったか、体中に傷があった。その傷とガラスにぶつかった際の衝撃で体中を痛みが駆け廻り、足が無い為に立ち上がってて逃げる事も出来ない。



「く……そ……」



 声も無く跳びかかってくる化け物を前に、瀧馬が最後に鋭く鈍い矛盾した痛みを感じ、ドアップになった化け物の体表と右側に少しだけ見えるボロボロの部屋を見て、そして――――










『クハ、みつけたゼェ』





 悪意交じり奇怪な響きを持つ声を聞いた。


 
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