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バッテリー

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第六章


第六章

「何かさ」
 野球部とソフト部の面々はそんな二人を見て囁き合った。
「あのミットって結局」
「あいつ等の為のものになっちゃったよね」
「そうよね」
 それに加奈が応える。
「まさかこんなことになるとは思わなかったわ」
「同感」
 隼人が頷く。
「本当はあれだったんだよ」
 彼は言う。
「珍しいものだったから教材として買ったんだよ、先生の言葉で」
「それがね」
「ああして二人のものになるとはね」
「いいボールだ」
「有り難う」
 グラウンドでは浩二と真里がキャッチボールをしていた。朗らかな顔で投げ合っている。面々はそれを部室から見ながら話をしているのである。もう部活は終わって夕暮れだ。
「どうしたもんかね」
「けれどいいじゃない」
 隼人の言葉に加奈は笑って返した。
「いいのかよ」
「だってさ。あの二人を見ていると」
 加奈の声が優しいものになる。
「微笑ましいじゃない」
「まあそうだな」
 言われてみるとそうであった。
「あいつ等は気付いていないだろうな」
「多分ね」
 加奈はまた言う。
「だってそんなに大人じゃないし、二人共」
「だからか」
 隼人もそれを聞いてわかってきた。
「勝負してたのは」
「そうでしょうね。今も勝負をしてるけれど」
「キャッチボールもしている」
「そういうこと。けれどそれは」
「進歩ってやつか?」
「ほら、この前先生言ってたじゃない」
 ソフト部の顧問の先生のことである。
「恋愛は」
「キャッチボールみたいなものだってか」
 よく言われる言葉ではある。それはこの学校でも同じであった。
「そういうこと。だから二人もね」
「けれど順序が違うな」
 隼人は加奈の言葉に少し訂正を入れてきた。
「そうね」
 加奈もそれに気付く。
「キャッチボールからはじまる恋ね」
「そういうことだな。けれどな」
 彼は笑った。優しい笑みだった。
「それもいいものだよな」
「そうね。悪くはないわね、見ていても」
「ああ。さて、これからだぜ」
 隼人はまた言う。
「あいつ等がバッテリーになれるかどうかはな」
「期待ね」
 二人はそんな声をよそに笑顔でキャッチボールをしていた。勝負の時とは全く違う屈託のない笑顔で。それは次第に恋人同士になろうとしている顔に見えた。


バッテリー   完


                   2006・11・16


 
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