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第五章


第五章

 結果は今回は浩二の勝ちであった。彼は意気揚々とカレーパンを手に入れたのであった。
「美味しい?」
「勿論」
 百貨店の外のコンビニで買って外で食べている。浩二はそのカレーパンをさも美味そうに食べていた。
「けれどまだ何か物足りないな」
「賭けたのはそれだけじゃない」
「そうだけれどな」
「けれどさ。面白いのが手に入ったわよね」
「ミットか」
「それで考えてるんだけれど」
 真里はカレーパンを食べる浩二に対して言う。
「これからはキャッチボールもしない?」
「キャッチボール!?」
「うん。ほら、今までは勝負ばかりだったじゃない」
「ああ」
 浩二は答える。
「左のミットが手に入ったし。バッテリーになって」
「それだったら今までもできたんじゃねえのか?」
 浩二は目をしばたかせて述べた。
「俺がピッチャーで御前がキャッチャーだからさ」
「何馬鹿言ってるのよ」
 だがそれに対する真里の言葉は怒気を含んだものであった。
「何怒ってるんだよ、おい」
「あたしキャッチャーよ」
「わかってるよ」
 それを聞いても今更何を言っているんだと思った。そんなのはもうわかっている。
「出来るわけないじゃない」
「キャッチングできないキャッチャーなんて洒落にならないぞ」
「そういう問題じゃないわよ。あのね」
「どうしたんだよ」
 怒った声で顔もそうなっている真里に対して問う。ここでカレーパンは食べ終えてしまい袋はコンビニのゴミ箱に捨てた。丁度その側で食べていたのである。
「もう一度言うわよ。あたしはキャッチャー」
「だからわかってるって」
 何かくどいとさえ思った。
「それであんたはピッチャーなのよ」
「だからそれが・・・・・・あっ」
 ここでやっと気付いた。
「わかったでしょ。あたししゃがまないといけないから」
「スカートの中が丸見えになるか」
「そうよ。流石にそれは恥ずかしいわよ」
 顔が赤くなっていた。浩二は自然に真里のスカートを見ていた。確かに短くて危なそうである。
「幾ら何でも」
「けれど立ったままでも出来るじゃねえか、キャッチボールは」
「バッテリーよ、やっぱり」
 これはこだわりであるらしい。真里自身の。
「キャッチャーはしゃがまないと」
「そうか」
「そうよ。だけれどさ」
 真里の顔が明るくなった。
「左のキャッチャーミットがあるから」
「つまり俺がキャッチャーになってかよ」
「そうよ。それであたしが投げる」
「成程な」
「それだといいでしょ。キャッチボールも」
「まあな。じゃあそれで」
「今度からね。勝負だけじゃなく」
「よし。ところでよ」
「何?」
 真里は浩二が言葉を変えたのを受けて今度は彼女が目をパチクリさせた。
「御前やっぱりスカートの下はいつも」
「そうだけれどね」
 また顔が少し赤くなったのがわかる。外はもう暗くなっていてもコンビニからの灯りがそれを浩二に見せていたのである。
 見れば表情ははにかんだものであった。浩二はそれを見て内心結構可愛いなとかも思ったがそれは口にはあえて出しはしなかった。
「それでもよ」
 ここは普通の女の子であった。
「恥ずかしいの」
「わかったよ。じゃあ俺がキャッチャーだな」
「ええ、お願いね」
 真里はすぐに元の顔に戻った。闊達な笑顔であった。
「それでさ」
 そしてまた言ってきた。
「何だよ」
「これからは勝負もいいけれどキャッチボールもね」
「ああ、わかったよ」
 浩二もそれに頷く。
「やろうぜ」
「うん。勝負もいいけれど」
「キャッチボールもいいからな」
「ええ」
 そんな話をしながら街を後にした。そしてそれからは勝負だけでなくキャッチボールにも励む二人の姿が見られるようになった。

 
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