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白い虹

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第二章


第二章

「これで後は白い虹のところに行くだけだ。それで万事解決ってわけだ」
 空を見て言う。
「何かついてるっつうかな。里奈ちゃんと一緒になれるんだよな」
 そのことだけを考えていた。吹雪が起こることも何も考えてはいなかった。白い虹がどうして出るかは完全に忘れていたのであった。
 そして当日。二人は学校の校門で待ち合わせをしていた。休日だが部活やら何やらで人の行き来はそれなりにある。学校は休む暇がない。
 遊馬は妙にめかし込んでいた。白い一張羅を着て髪の毛もジェルで整えている。手や指にも微妙なアクセサリーをしている。何か一見すると新宿か何処かのホストである。白く丈の長いコートも実に印象的であった。
「おい」
 クラスメイトの一人が彼に気付いて声をかける。
「何だよその格好」
「ああ、ちょっとな」
 にやけた顔で彼に応える。
「何でもねえよ」
「何でもなくてそんな格好になるのかよ」
 彼はそう遊馬に問い返す。
「歌舞伎町のホストかよ」
「ホストってよ。そんな格好か?」
「ああ、そうとしか見えねえな」
 彼はまた言った。
「就職か?それともバイトか?」
「何で就職なんだよ、おい」
 遊馬は思わず彼に問い返した。
「バイトでもねえよ」
「じゃあそれはお洒落かよ」
「ああ、まあな」 
 彼の言葉に頷く。
「色々とあってな。それで」
「色々ねえ。それはそうとな」
「何だよ、今度は」
「御前傘持ってるか?」
「傘!?」
 友人の言葉に顔を顰めさせる。
「何で傘なんかいるんだよ」
「今日これから大雪になるぞ」
「へっ!?」
 遊馬はそれを聞いて思わず声をあげた。口を大きく開いている。
「雪って!?しかも大雪かよ」
「そうだよ、天気予報見ていなかったのかよ」
 彼はそう遊馬に言うのだった。実は彼はお洒落だけを考えて天気予報とかそうしたことは全く考えても見てもいなかったのである。
「もうすぐ大雪になるらしいな」
「そうだったのかよ」
「持ってないのかよ」
「いや、一応よ」
 持っている鞄から何かを取り出した。黒い小さな折り畳み傘であった。
「ほら、これ。一応いつも持ってるんだ」
「ああ、用意がいいな」
「そうだろ?備えあればってやつだよ」
 遊馬は笑って述べていた。笑いながらまた言う。
「これで大丈夫だよな。何があっても」
「まあ普通の大雪ならな」
 彼はそれを聞いて応えてきた。
「どうなるかわからねえけれどな」
「大丈夫だよ。雪なんて傘があれば平気だ」
「まあな。じゃあ俺はこれでな」
「部活かよ」
「そうさ。御前もカラオケだ何だって遊ぶのもいいが部活もどうだ?」
「そうだなあ」
 少し考える顔を見せてきた。しかしそれは今一つ浮かない顔であった。
「俺はそういうの合いそうにもないな。遊んでる方がいいよ」
「そっちか」
「ああ、悪いけれどな」
 そう述べて苦笑いになった。
「根っからの遊び人なんでな」
「まあ遊ぶのもいいだろうな」
 クラスメイトはそこまで聞いてこう返してきた。
「やることをやってればな」
「何だよ、俺が何もしていないみたいだな」
 その言葉にはまた苦笑いで返した。
「確かに俺はいい加減な奴だけれどな」
「まあいい。しかしだ」
 彼はここで上を見上げた。見れば空が見る見るうちに暗くなっていた。
「そろそろだな」
「おいおい、やばいって」
 遊馬は暗くなっていく空を見上げて目を顰めさせる。思わず空に対して叫ばんばかりであった。
「このままだとよ」
「何かあるのか?」
「あっ、いや」
 その問いには咄嗟に誤魔化す。
「何も」
「本当か、それは」
 何か急に戸惑いを見せたので顔を顰めて返した。
「妙にあれだぞ」
「何でもないからさ、安心してくれよ」
「わかった。じゃあな」
「ああ、それじゃあな」
 クラスメイトは別れて学校の中に入る。遊馬はそのまま里奈を待つ。すると暫くしてその里奈がやって来たのであった。赤紫のセーターに黒いズボンに黒いコートという地味と言えば地味な格好である。セーターと同じ色のマフラーまでしている。
「待ってた?」
「ううん、全然」
 遊馬は屈託のない笑顔で彼女に返す。
「俺も今来たばかりだからさ」
「そう、よかった」
 多分に形式的なやり取りだったがそれでも上手くまとまった。元々こうして待ったりするのは気にしない遊馬だったからこそだ。こうしたところが彼のいいところであった。
 
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