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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第百一幕 「緊急事態だよ?全員集合!」

 
前書き
約1か月遅れですが、読者のみなさんあけましておめでとうございます。

いえ……サボってたわけじゃないんです。ただ、色々あって筆が進まなかったというか……色々と書きたいものもありましたし、長期休暇という形で約2か月間休暇を取りつつ頭の中を纏めたりしてたんです。
本当はまだ全然書きかけなんですが、流石にこれ以上休んでると更新諦めたと思われそうなんで……更新、再開です。

2/4 ミスを一つ修正 

 
 
不意に、黒に染まっていた意識が浮上する。
ゆっくりと、目が見開かれた。眼下に広がるは際限のない海。それを空中から見下ろす視点。
右手を見やる。ISを展開した無骨なマニュピレータが映った。白式だ。

「目が覚めましたか、一夏さん?」
「……その声はセシリアか?」
「大寝坊だ馬鹿者め……」
「箒……あれ、俺は何をしてたんだっけ……?」

どうやら箒によって抱えられたまま移動しているらしい。ISのエネルギー残量がイエローゾーンに達していることと装甲ダメージがホロモニタに表示されていることから、戦闘を行ったらしいことが伺えた。ではいったい誰と戦闘をしたのか――おぼろげな記憶が、意識を失う前の行動を必死で探す。
そう、たしか海に来たのだ。臨海学校で海に来て――佐藤さんが以外に女の子っぽくて、佐藤さんがISを……

「佐藤さんが……そう、佐藤さんがハイパーモードになって金ぴかに……あれ?」
「もうちょっとしっかり思い出せ!!お前が気を失ったのはもっと後だ!」
「ご、ごめん!ええっと……」

次第に一夏の頭の(もや)が晴れていく。記憶が少しずつ鮮明に思い出されてきた。
金色のまま空を舞いあがって感動してる佐藤さん。
レールガンを連射するスミス&ウェッソン佐藤さん。
束に弄られて人工知能にフォローされる佐藤さん。
思わぬ極悪武装に悲鳴を上げる佐藤さん。
あと箒がIS貰って差をつけられたから悔しかった。

「……で、よかったっけ?」
「全然思い出せていませんわね。しかも大半が佐藤さんの事ですわ。一時的な記憶障害かもしれません」
「よし、意識も戻っているし今度こそ海に落とすか。その煩悩に塗れた頭を海水で洗い流してこい」
「なにゆえッ!?」

抱きかかえる体勢から投げる体勢へごく自然にモーションが変化していく様に抵抗を試みる一夏だったが、箒の方が僅かに早い。体にばねを利かせたその一投が無慈悲にも振り下ろされる。

「沈めばわかる!……そぉいッ!!」
「お、おい馬鹿やめ……ろぉぉぉぉぉおおお!?」

紅椿に全力投擲された一夏は水面をきりもみしながら何度も何度もバウンドし、どっぽーん!!と大きな音を立てて海に沈んだ。投擲直後の箒は文字通り荷が下りた気分でスッキリ顔だった。


しばらくお待ちください……


「顔を洗ったら目が覚めたか、一夏?」
「潮の所為でべたべたになって気持ち悪い」
「ちょっと、余り近付かないでくださいまし。ティアーズに汚れが移りますわ」
「何で俺の扱いこんなにひどいの!?いや、確かにヘマはしたけどさ!!」

漸く全てを思い出した一夏は2人から軽度のいじめ受けつつ、自力飛行しながらため息をついた。
自分は戦闘の最中、保護したはずのシルバリオ・ゴスペルの暴走に巻き込まれて意識を失ったらしい。確かに言われてみれば撃たれるまでの事は記憶にある。撃たれた後の記憶は――何かがあったような気がするのだが、思い出せなかった。

あの時、俺が油断をしなければ――と一夏は歯噛みする。そうすれば後ろに控えていたシャルとラウラでどうにか出来たかもしれない。性能差があっても数の上では5対2だ。勝算はあった筈だ。だがそんな一夏を慰めるように箒は首を横に振る。

「お前が悪いとはだれも思っていないさ。予想外の事が起こり過ぎた……それに、私たちが出撃した後に別の場所でも事件が起きていたのだ。いずれにせよ仕切り直しは免れなかっただろう」
「別の事件……?」
「それは旅館に戻ってから改めて織斑先生の説明を受けましょう。本土が見えてきました」


ベルーナ誘拐事件。
アンノウン襲撃とゴスペルの暴走。
そしてこれから明らかになる、残間結章襲撃事件。

全ての事件を解決するために、関係者一同は旅館へと集っていった。



 = =



そっと、赤く腫れあがった頬に湿布を張ってあげる。内出血で痛々しく腫れあがったその部分には触れる事さえ(はばか)られたが、放っておくほうが見ていてつらい。当人は沈んだ顔で自分の拳――表皮が抉れて出血したために消毒して包帯を巻いたその拳をじっと見るばかりで、半ば放心状態にあるようにも見える。

「痛く、ない?」
「…………」
「…………」

質問しても、さっきからずっとこの調子だ。こちらの声に気付いているのかも分からないそれは、まるで普段見かける彼とは――ユウとは別の人間であるかのようだ。普段の彼は快活で、生真面目で、時々負けず嫌いで、そして優しい少年。なのに、今のユウにはその面影が無かった。


見回りに行ったはずのユウがいつまでも戻ってこないことを気にした簪は、同じく見回りをしていた鈴と共に旅館内を再捜索していた。その途中で、中庭に力なく項垂れるユウを発見したのだ。名前を呼んでも返事を返さず、その目からは涙を零した後があった。近づいてみるとその服があちこちが乱れ、顔も体も大喧嘩をしたように傷だらけの痛々しい姿になっていたときは軽く悲鳴を上げてしまったものだ。

急いで手当をしようとISのパワーアシストで手近な部屋に運び込み、拡張領域内に入れてあった緊急医療キットを取り出して治療に入り、今に至る。恐らく服の中にも打撲痕や傷があるだろう。そのためには服を脱いでもらわなければいけない。なのにユウは返事を返さない。

一体何があったのか。
どうしてユウは何も喋らないのか。
何故こんなにボロボロになっているのか。

誰かに襲われた可能性を考慮すると、放っては置けない。既に鈴とは連絡を取って、彼女は先に先生の方へと報告しに行っている。今は唯でさえ緊急事態なのだ。――更識の家名は伊達ではない。簪は既に盗聴器や本音経由の情報で現在が非常事態であることくらいは理解していた。
だからこそ急いで治療して、敵に備えなければいけないというのに――

「ユウ……!」
「…………」
「ユウ!」
「…………」

呼びかけても呼びかけても、帰ってくるのは沈黙ばかり。
どうすればいいだろうか。自分としては精いっぱいに声を張り上げているのだが、反応が全くない。かといってビンタでもかまして正気に戻るよう促すのは気が引ける。うんうんと考えた簪は、ふとユウの耳を見た。
耳というのは意外と神経が過敏であるらしい。怪我でボロボロの身体は駄目でも、耳を引っ張れば少ない労力でユウを気付かせることが出来るかもしれない。しかし――耳を引っ張ったら間違いなく痛い。簪はユウの目を覚まさせたいのであって、痛がらせたいわけではないのだ。

「どうしよう――」

恐らく鈴なら迷いなく耳を引っ張ったであろうこの状況に置いて、簪は困ったように眉をしかめた。




一方のユウは、簪の目算通り呆然自失の状態だった。

近くに人がいて、声をかけていることはなんとなく理解している。
だが、それに返答して明るく振る舞おうという日常的行動を行う意志は、一切生まれない。
彼にとってはそれほどのショックを受けたのだ。自分の立つ足場が無残にも崩れ去ったと言っても過言ではない。それほどに大切にしていた思いを、経った一度の襲撃で全て崩されてしまったかのような気分だった。夢の残骸を目の前の呆然とする――起こった現実を現実として受け入れられないかのように。

(才能もない、全部ひっくり返す頭脳も無い、覚悟も全然足りてない……そう、なのか?)

思い出すのは先ほど自分に敗北を叩きつけた女性の存在。
ユウにとって才能がない事は承知していた。天才的な頭脳を持っていないことも承知している。だが――覚悟が足りない、という言葉だけはユウの心に鋭く突き刺さった。

いつだって本気で生きてきた。絶対に前へ進むと意地を張ってきた。

負けても前へ進む覚悟。諦めないための覚悟。

その覚悟が自分の努力をいつだって支えていた筈だ。

無駄ではない。いつか必ずこの思いが兄に届き、超えることが出来る。
そう固く信じて今まで一歩一歩を踏み出してきた。
ISの操縦技術だって段々と専用機持ちに近づきつつあるし、兄相手の組手も昔より格段に保つようになった。成長は続いている――なのに。なのにあの人は、それでは足りないと言った。事実、勝負は完全に敗北した。

(駄目なのか、今のままじゃ?何で、何が……?)

努力する中で、ただがむしゃらになんにでも食いつくのでは意味がないと感じた。
それはユウが反抗期時代を振り返って一番強く感じたことだ。自分で何でもできると思いあがって様々な事に手を出したが、兄と相対して喧嘩した瞬間に全てが勘違いだったと悟った。現実を思い知らされたとも言えるかもしれない。

だから出来る努力をし、論理的に考えて出来ない事は出来ないと断じて取捨選択してきた。出来ない事をできると叫んでもがくより、出来る努力を積み重ねることが先決だ。いきなり兄のようになろうとしたって、そこに到る積み重ねがなければ全ては砂上の楼閣だ。そう思って、出来る努力で無茶をしてきた。

それが間違っている?

命の賭け時、勝負時くらいは選べると、兄の前では言った。だが、そもそも相手が絶対的に優位に立っていたのならば、自分にそれを選ぶ権利が存在するのだろうか?弱者は死に場所を選ぶことさえできない、とどこかで聞いたことがある。それはすなわち力への屈服だ。強い相手に追いつこうとしても、追い付く前に潰されては意味がない。

(僕は、兄さんを、越えられない――?)

兄の前で言って見せたあの覚悟は、薄っぺらいベニヤ板か。
追い付けると言い張っていたくせに。
今は負けを認めるとか言っていたくせに。
本当は、自分は勝てないだろうって心の底でたかをくくって――


「……かぷっ」
「ひゃあぁッ!?」

その思考は、突如ユウの耳に甘噛みを敢行した簪の英断によって一時中断された。
ちなみに甘噛みの理由は、「これなら痛くないだろう」というちゃんと考えたのだか考えていないのだかよく分からないものだったりする。どっちにしろユウにとって未知の感覚だったのが功を奏し、ユウは思考迷宮からの一時的な脱出に成功した。

「……かぷかぷかみかみ」
「ちょ、えっ!?何!?誰!?何っ!?」

漸く正気に戻ったユウだが、簪は後ろから掴みかかって耳をかみかみしているため自分に未知の触感を与えている物の正体が全く分かっていない。それどころか噛まれるたびに身体をビクンと跳ねさせ「うひゃっ!?」とか「ふわっ!?」とかそのくすぐったさに悲鳴を上げている始末。当の簪は今まで返事を返してくれなかったことにご立腹らしく、思う存分ユウの耳を甘噛みしている。

これによって簪は、ユウは耳が弱点という兄でさえ知らない情報を手に入れることになったのであった。




おまけ


「……む、ユウが何やら思い悩んでいる気がする」

3機のゴーレムを早々に片づけたジョウが突然口を開いたと思ったら、出た台詞がこれである。
決着に時間はほとんどかからなかった。反応の鈍った一機をそのまま八つ裂きにしたジョウと夏黄櫨は、そのまま最後の一機と戦闘を開始。撃墜された2機のデータをもとに急激に機動が良くなった3機目だったが、保ったのは十数秒だった。その3機目の頭部は現在進行形でハルバードの先端に突き刺さっている。

その恐るべき腕前に反して発した言葉がアレである。

(副隊長。どうリアクションすればよいのでしょうか?)
(放っとけ。どうせ今の状況とは関係ない。それより隊長殿から通信が入って来ないのが気になる)
(ぽー………)

そんな男を目の前にリアクションに困るあさがお部隊だったが、よく見ると清浦の様子がおかしい。半口を開けてジョウを眺めながら、熱にうなされたような目線を送っている。

(……清浦?ちょっと清浦。聞いているのですか?)
(ぽー……え?何ですか加藤?結婚するなら年下で逞しい子がいいって話でしょー?)
(全然違います!というかこの前まで仕事と結婚するとか言ってましたよね!?貴方まさか……!?)

人生は何事も突然である。
  
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