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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  一尾

「ごめん、巻き込んだ」
「……」

 あわてて謝罪したカトナは、ちらりと、目の前で黙りこむ少年を見やる。沈黙がいかに思いを雄弁に語るかを象徴するような怖い顔で、少年はカトナを睨み付けていたが、ぽつりと言葉をもらす。

「九尾か」
「…」

 今度はカトナが黙りこむ番だった。知られているだろうとは思っていたが、まさか直接言ってくるのは予想外だったと、カトナは手放しに豪胆な性格の彼を褒め称えつつも、どうしたもんかと首をかしげた。
 相手の目にはぎらぎらとした殺気が浮かんでいる。相手にするのは難しくない。しかし、試験の開始時間にはもうあまり猶予はない。
 さてさて、どうしようかと、カトナが冷静に判断しようとしたとき、金色が視界に踊る。振り返ろうとしたカトナを止めるように、風が吹いた。ずいっと横から飛び出てきた影が、少年の前にたち塞がる。

 「俺の家族に何してるんだってば?」

 いぶかしげに、しかし、明らかに怒っている様子で、ナルトは、そういった。
 少年がいきなり出てきた彼に瞠目し、殺気を急激に弱める。そして、じろじろと、ナルトを眺めた…かと思うと興味を無くしたように顔を背け、歩き出す。
 おい、我愛羅! と後方にいた男と女が少年のあとを追いかけたが、少年は振り返らなかった。

 「ありがと、助かった。ナルト」

 その言葉に、ナルトは目を見開いたあと、嬉しそうにうなずいた。
……

 赤い髪の毛に緑の目。そして、我愛羅という名前に、カトナは昔のことを思い出した。
 とても遠き、暖かな日々の一貫だ。
 いつかのイタチ兄さんによる授業。
 尾獣は9匹居る。
 尾の本数で尾獣の強さは決まっていて、国によってだいたい所有している尾獣がいる。
 一尾は風。二尾と八尾は雷。三尾と六尾は水。四尾、五尾は土。七尾は火。そして、最後の九尾は、ナルトの体の中に。
 九尾はそのなかでも特に強い尾獣だ。尾獣のチャクラを操るためには、きちんとした指導を受けなければいけない。それを怠れば、尾獣たちの甘言で封印を解いてしまうものもいるからだ。
 気をつけなければいけないよと、あの人は言っていた。
 ナルトを守るためにも、カトナが生き残るためにも、父と母の遺志を受け継ぐためにも、カトナは動く。
 そういう約束をした。


 あのあと、慌ててナルトを引き連れて、試験会場に来たカトナたちは、録な説明らしい説明もうけず、籤引きをさせられて、席を決められた。
 右隣に、狐の面を被り黙りこんでいる少年と、優しそうな雰囲気を漂わせる、気弱そうな銀髪の青年にはさまれたカトナは、んーと声を漏らす。
 説明がされているが、うまく思考が働かない。酷く眠い気がする。ともすれば、すぐさま微睡みそうになる意識をこらえ、カトナは、今回の中忍試験、第一次審査である、目の前の筆記試験の問題用紙を睨み付けた。
 重要なルールは三つ。
 一つ、この試験はチームメイト全員の点数をあわせたものが合格点。
 二つ、複数の試験官が下忍の動向を見張っている。
 三つ、カンニング五回見つかれば失格だが、五回までなら減点ですむ。
 そして、ルールではないが、重要な問題である『アカデミーでは習わない程の公式を使う…普通の下忍では、決して合格できない』ということ。
 …まあ、つまりは、『試験官に見とがめられないくらいの、立派なカンニングをしろ』とのことである。
 アカデミー以来、勉強していないので、普通ならば赤点のサスケも、今頃気付いているだろう。サクラはきっと普通に解いている。この試験の目的を分かっていない。
 狐面は一瞬でその意味がわかったらしく、黙々と文字を書き続けている。その速さからして、多分本当の目的がわかっているのだろう。
 対する銀髪の青年は、時々腹を押さえながらも、きっかりと質問を解いていく。曲者のようだ。
 あと、様子を見れていないのはナルトだけだ。
 カトナの席は、ナルトの三番前から右後ろのため、一番の問題児が見えないのだ。
 ナルトが心配だなぁ、どっちも出来なさそうだし無事を祈るけど。
 そこまで思考して、カトナの頭はやはり最初の結論へと戻る。
 即ち、どうカンニングしようかということだ。
 普通ならば分身の術を駆使すればいい話だ。しかし…、全員を欺ききれるほどのチャクラがない。生徒ならともかく、中忍の試験官を五名もだ。騙しきれないだろう。
 ならばどうするか。手が無いわけでもないが、しかし、あれは規則的な法則あってこそなのだ。この空間には、そんな規則的が何もない。
 いや、一つだけある…。が、見つかるのはすごく面倒くさいし、何よりリスクも高い。しかも、この法則を使用すると、天井裏の人間にはきかないだろう…まぁ、彼等は試験官なので、その時は真面目に評価してくれると思うが。
 けれど、ほか二人のためにも、落ちるわけにはいかないのだ。カトナのせいで誰かが悲しむなんて、それは、いってはいけないことなのだ。
 あー、めんどいなぁ…、とため息をはいて、カトナは目の前にある試験の問題を見つつ、投げやりに両手を伸ばす。
 その行動に目を光らせていた試験官が、カンニング行為かと目を細めたが、カトナは特に何もせず、持っていた鉛筆をころころと転がした。
 くるくると回っていた鉛筆は、やがて、転がるのをやめる。
 カトナは黙ってそれを見つめていたが、やがてにこりと笑んだ。

 「やるか」

 ぼそりと呟いた言葉を耳ざとく聞きとがめた、音の下忍ドスが、その言葉の意味を図ろうと一瞬思考を働かせたが、今は試験中だということを思いだし、無視する。
 ドスとは違い、聞こえていながらも、思考に余裕があった試験官は、カトナの方を向く。
 カトナは適当に杜撰に、ころころと鉛筆を回し続けている。
 運任せかと、訝しげに試験官は眼を細めた後、暫くの間、カトナを凝視する。
 無意味な行動をしないはずだと、落ちながらない筈だと、試験官はカトナを睨み付け、その真意を探ろうとする。
 しかし、カトナはその視線に気がついていながらも、ふあーあと欠伸をし、体の全身から力を抜いた。
 とたんに押し寄せてくる睡魔に、身を任せる。
 カトナは、うつらうつらと、いっそ、器用なまでに規則的なリズムで舟をこいで、睡魔に身をおかす。
 その適当な様子に、警戒を緩ませて、気のせいかと思い直した試験官が、カトナから目を逸らした瞬間、にやりと、カトナが笑う。
 とんっ、と、その一瞬の隙に、彼女は、指で丸を描く。
 決して常人では気づけないほどに美しい、繊細なチャクラが指を追うように描かれ、机に痕を残す。
 カトナが声を出さないままに口を開け、ぱくぱくと開いては閉じてを繰り返す。
 きっと、声が出ていたならば、こんな言葉が響いただろう。

 ショータイム、の、始まり。



 そしてその言葉から間をおかず、かちりと、時計の音が響いた。




 かち、かち、かち。
 かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち。

 規則的に刻まれる時計の音が、耳に届く。
 もう何度目かわからないくらいの音が響いたとき、一人の少年が苛立たしげ足をがんがんとぶつけた。
 一定的ではなく、規則的ではないその音が耳に届いた瞬間、彼らの脳にひとつの疑惑が渦巻く。

 だが、どうしてだろうか。
 どうして。
 さきほどまでよりも、明らかな違和感。

 こんなにも、時計の音が大きく聞こえるのだろうか?

 そこまでに思考が至った瞬間、ぱちんっ、という泡が弾けるような音が響き、彼らは目を見開いた。大事な試験なのに、ぼっーとしていたらしい。なんという失態だと、今まで固まっていたのが嘘のように、彼らは辺りを見回して、首をかしげた。
 生徒も慌てている。どうやら、何人の人間もぼーっとしていたらしい。どうしてこんなに一斉に全員が動揺しているのだろうか、そう疑問に思うことがあっても、彼らはその疑問を問い詰めようという思考が無い。
 いつもならば考えるはずなのに、なのに彼らはかんがえれない。仕事に忙しいからとか、今この試験に集中しなければならないとか、そんな言い逃れが、責任転嫁が頭の中を渦巻いている。

 だから、試験官も、誰も、気が付かなかった。

 時計の長針が、先程よりも動いていることに。前に、進んでいることに。
 彼等が気づかぬうちに、時間が、たっていることに。
 気づていたのは、見ていたのは、天井の裏に隠れている試験官だけだった。 
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