| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

無欠の刃

作者:赤面
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

下忍編
  恋敵?

 「僕の名前は、ロック・リーです。失礼ですが、貴方の名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 幻術を見破り、試験の会場に向かおうといている七班の面々は、そう、声をかけられた。自らのチャクラコントロールが前よりも成長し、普通の幻術使いにも勝るとも劣らなくなってきたことに喜んでいたサクラは、その言葉に、一瞬立ち止まり振り返る。
 緑の全身タイツを見事に着こなしている、太い眉の少年は、サクラが振り返った瞬間に顔を真っ赤に染める。サクラはその少年を訝しそうに見つめながら、名前を告げた。

「春野、サクラですけど…」
「春野サクラさん!! ああ、何て名前通りの美しいお方なんだ」

 そう言って、更に頬を赤く染め、サクラに熱い視線を注ぐロック・リー。
 なんか変な奴が来たなと、思わず目を細め、班の仲間である人間を探そうとサスケは辺りを見回すが、しかし、仲間らしき人影は見つからない。どうやら独断行動の様だと判断し、どうしたものかとリーを見る。
 ロック・リー。カトナが嬉しそうにサスケを抱きしめながら、嬉しそうに話してきた人物だという事でよく覚えている。抱きしめられたことに喜ぶべきか、他の男のことを話されているのに嫉妬すべきかと悩んだことはよく覚えている。
 なんでも、ナルトが入学できる体術クラスを作ってくれた恩人のような存在であるらしく、体術の腕は並外れているらしい。その代り、忍術の才能は点でないらしいが。
 敵にしたら厄介そうな男だ。警戒は、しとくにこしたことないかと思いつつ、現在目の前で繰り広げられている、サクラに向けて贈られる熱烈な愛のプロポーズを聞いていた。

「絶対に、貴方を幸せにしてみせます!! だから僕と結婚してください!!」
「いやです! 私、好きな人がいるんで」
「?! それはだれですか!? 僕より強い人なんですか!?」
「え、えっと」

 ちらりとサスケを見やり、もじもじとサクラは指を擦り合わせる。そこはやはり女の子というべきか、好きな人が目の前にいるのに告白は出来ないらしく、恥ずかしそうに、しかし、分かりやすくサスケの方を伺っている。
 普通の人ならば、すぐさま、サクラの好きな人がサスケと気づくだろうが、しかし、彼女に惚れたのは熱血の象徴ともいえる、ロック・リーだ。
 好きな人とやらが誰か気が付かないらしく、なぜですかぁぁ!! と嘆き悲しむ様子を見て、サクラが引きつった顔になる。どうしてこうなったのだという嘆きの念を浮かべつつ、カトナの手を掴んで問いかけるサクラとリーの顔と見比べて、カトナは、ぽんと手を打った。
 かと思うと、真剣な顔でサクラを睨み付けるようにして、声を低くして言う。

「…サクラ、恋人、作る、止めない。けど、敵は、敵」
「違うからね!? 私はこの人と初対面だからね!?」
「…もてもて、だね」

 こそこそと小さな声で囁きあい会話する二人を置いて、リーは嘆き悲しんだ様子で床を叩き続け、おおお、と言う声を出す。今から試験が始まるというのに、まったく、余裕そうな態度だと、内心で呆れながらもカトナは困惑する。
 何せ、涙を流した少年がそこから微動だにしないのだ。しかも、サクラの名前を呼んで悲しんでいる。なんかいろいろ勘違いされそうな光景である。しかも、この様子だと、その好きな人とやらが誰かを突き止めるまで、サクラに付きまとうだろう。
 …めんどくさいし、サクラの好きな人をばらしたら、サクラが可哀想だし、何より、サクラに惚れているナルトにダメージがいく。仕方ないと、一息ついたカトナは、リーを速やかにあきらめさせるために、サクラの肩を引き寄せて言う。

「悪い、けど、この子、私のだから、告白ならそこらでどうぞ」
「!?」

 サクラが突然そんなことを言い出したカトナに目を見開き、どういうことだと腹を小突くが、カトナは全く気にしないまま、にこりと笑い。
 サクラの首に手を回し、サクラの肩の向こうからリーを睨みつける様にして顔を覗かせ、耳元で目を細める。

 「さっき、言う、好きな人、私の、こと。サクラ、私、相思相愛、いこーる、邪魔無理。ってことで、諦めて?」

 そう言ったことに対する抵抗感が全くなく、自分の性別がむしろ男になった方がいいと、常々思っているカトナにとって、その発言はあまり気に障らず、ゆえに、すらすらと何の躊躇いもなくつむがれる。それがリーの中に生じた疑いを緩和させ、事実ではないかと思わせる。
 しかも肩を引き寄せられ、髪の毛を撫でられて甘い言葉を囁かれたサクラの頭には、パニックが来訪する。
 何せ、カトナは変化をしていて普段は男の姿をしているうえに、その姿は生半可な人間じゃ太刀打ちできないほどに整った容姿なのだ。そんな容姿の人間に、偽りとはいえ告白されてると言う事実に、知らず知らずのうちにサクラの頬が赤くなる。
 それをサクラの了承と取ったらしいリーが拳を握りしめ、カトナを上から下までじろじろと見る。

「…君のような、なよなよしい方がですか」
「それは、失礼。強さと見た目、一致する、珍しい」

 そういいながら、カトナはくすくすと微笑する。
 サスケはその様子に頭を抱えた。ちょっとこれは怒っている…というか、むかついてきている。
 なよなよしいという言葉は、カトナにとって、=女らしいという事だ。しかも、自分の仲間であるサクラに迷惑をかけてきているうえに、それが色恋が理由だからという点で、イラついてきているのだろう。
 人の恋路に口を挟まず、馬に蹴られない主義のカトナだが、しかし、自分の仲間などに手を出されると、しかも、そいつがその恋に対して乗り気じゃないと、無条件にイラつくらしい。
 ナルトに対してはそれが特に顕著で、ナルトに思いをよせる女子にあうたびに威嚇をしていた。筆頭は…日向ヒナタだろう。別にナルトが誰を好きになろうが勝手だとサスケは思うし、カトナもそれに賛成はしているが、しかし、子供の内から恋愛は速いらしい。
 親かよ、と内心で突っ込んで、…親だなと心の中で納得したサスケは、まったくとカトナの様子に呆れながらも、だぼだぼのパーカーをカトナから預かる。
 タンクトップ一枚の姿になったカトナは何度か屈伸を繰り返し、準備運動を始める。
 その目に浮かぶ、ぎらぎらとした意思だけが光る。

 「それに、一度手に入れたものは、手放さない主義なんだ」

 まぁ、手に入れることなんてないんだけどね。
 と、口の中で小さくそう言って、カトナはサクラから手を離し、持っていた短刀を鞘から抜くと、リーに向かって掌を振る。

「かかって、きたら?」
「…ここでひくのは、男らしくありませんね」

 カトナのその挑発に易々と乗ったリーが拳を構え、腰を低くする。
 短刀が鈍くきらめき、お互いが相手を睨み付けあい、次の瞬間、リーが一気にカトナに向かって接近し、飛び上がり、回し蹴りをカトナの顔に向かって放つ。
 カトナはその蹴りを紙一重で後ろに一歩さがって躱すと、短剣の峰の部分で、自分の顔の横ギリギリそのそばに迫っている足首に向かって、振り下ろす。
 しかし、リーはその攻撃に体を止めずに、直前で自らの足を無視する。そして、体を反転させ、カトナの首に向かって、もう片方の足で蹴りを放つ。一瞬のうちに、いくつかの展開が思考されるが、カトナはその蹴りを避けることに集中し、振り下ろした腕を止める。

「…なるほど、中々のお相手ですね!!」
「肉を切らせて、骨を断つ。そう簡単に、させるわけ、ない」

 カトナのその言葉に、笑みを深めたリーは、空中で体を反転させると、地面に手をつき、ぐるぐると体を回し、蹴りを連続で放つ。
 カトナはその蹴りをひょいひょいと首を動かして躱しながら、持っていた短刀を、蹴りが放った状態であるリーの足に向けて突き出した。
 会心の一撃。だが、リーは直前で、地面を掴み、ぐっと懸垂の要領で体を低くさせる。
 リーの足のぎりぎり上を通り、カトナが舌打ちをしながら、左足で蹴りをリーの顔面に向かって放つ。
 しかし、直前で片手だけで体を支え、もう一つの浮かせた手でカトナの足を掴み、膠着した時。

 「肉を切って、骨を断つ」

 カトナがにやりと笑い、次の瞬間、チャクラで細胞を刺激した足で地面を跳ね飛ばし、くるりと宙で反転する。もちろん、カトナの足は掴まれたままだが、カトナの脚力とリーの握力が競い合った結果、カトナの体に引きずられ、リーの体が後ろへと倒れる。
 え、と目を見開いたリーに、にやりとカトナは笑い、そのまま、足を床に向けて叩きつける。とっさに体を丸めてリーは衝撃を殺したが、カトナはそのまま追撃の手を緩めず、短刀を振り下ろす。
 衝撃で、一瞬息が詰まったが、しかし、リーの体は自分の意思とは無関係に咄嗟に反応し、カトナの短刀を蹴り飛ばす。
 流石に反撃が来るとは思っていなかったカトナが僅かに動揺し、短刀が力の方向に沿って飛んでいき、歩いていた三人の中の一人の首筋に向かう。
 ふと振り返った金髪の二つくくりの女が目を見開き、少年に向かって叫ぶ。

 「我愛羅!!」

 その言葉に、少年が後ろを振り向き、眼前に短刀が迫る。

 あ。
 カトナのその声が漏れた瞬間。
 どくりと、心臓が高鳴り、何かが共鳴したような感触が全身に走る。
 なんだこれは。
 …共鳴?
 どこか感じたことがないような、しかしあったことがあるようなその感覚に、カトナが思わず静止した時、少年が背負っていたヒョウタンから砂が漏れだし、カトナの短刀が砂の盾で止まる。
 化粧をした少年が血相を変えて、少年に向かって言う。

「我愛羅、大丈夫か!?」
「うるさい。この程度平気だ」

 そう返事をした少年が、短刀を持ち、跳ね飛んできた方向を睨み付け、カトナと、目が、あった。



 表向きに九尾の人柱力たる少女と、一尾の人柱力たる少年がその瞬間、邂逅した。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧