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面影

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第四章


第四章

「三ヶ月もたないカップルだっているんだぜ」
「それを考えたらな」
「そういうものか」
「それ考えたら順調だよ」
「全くだ」
 友人達の言葉に今度は羨望が入った。
「いいよな、あんな奇麗な娘と付き合えて」
「それも順調にな」
「何か俺が幸せみたいな言い方だな」
 今の智哉の言葉は自爆だった。しかもかなりの。
「馬鹿、幸せじゃなくて何なんだよ」
「御前ちょっとは自分を振り返れ」
 早速友人達から怒りの言葉が来た。そしてそれはヒートアップするものだった。
「あのな。そもそもあんな奇麗な娘な」
「しかも性格は明るくて中々いいし」
「俺言われっぱなしだな」
「じゃあ殴ろうか?」
「悪いが容赦はしないぞ」
 言葉は半分は本気だった。羨望がやっかみになりそれがさらに妬みに変わろうとしていた。流石の智哉もそれを見て流石に言葉を止めたのだった。
「そうだな。それはな」
「わかればいいんだよ」
「わからねえと容赦しねえ」
 当然今の二人の言葉も羨望から来るものである。
「しかし。確かに奇麗な娘だけれどな」
「どうしてまた」
「今度は何だ?」
 友人達に問い返す。
「言葉の調子が変わってきたみたいだけれどな」
「うちのクラス可愛い娘多いよな」
「学校全体がな」
 かなり羨ましい学校である。美人が多いということはそれだけで幸福な場所にいるということだ。そうした意味で彼等はかなり幸せであると言える。
「とにかくだ。それでも何であの娘なんだ?」
「奇麗だからか?やっぱり」
「まあそうだけれどな」
 言われてそれに頷くのだった。だがまだ言葉はあった。
「ただ。何かな」
「何か?」
「どっかで見たようなな。気がしたかな」
 目を上にやってそのことを考えるのだった。
「どういうわけかわからないけれどな」
「どっかで見たような?」
「ああ、何となくな」
 また彼等に対して答えた。
「そんな気がするんだよ。今気付いた」
「今気付いたっておい」
「あの娘に感じるところがあったのか」
「その感じるところに従ったってとこか?」
 自分で自分に問い掛けながらの言葉だった。
「あの娘にコクったのはな」
「どっかで見たようなか」
「それって何なんだよ」
「いや、俺にもわからないんだけれどな」
 今の問いにはこう答えるしかなかった。それしかなかった。
「そこんところはな」
「言ってる意味がわからねえぞ」
「御前何が言いたいんだよ」
 また友人達の突込みが彼に炸裂した。しかしそれでも彼はわからないといった顔であった。
「御前がわからないで誰がわかるんだよ」
「いい加減だな、おい」
「ダブルチーズバーガーにしろ豚骨ラーメンにしろな」
 話が食べ物のものに戻った。
「どっかで聞いたようなな。そんな気がするんだよ」
「まあ御前にわからないのならな。俺達があれこれ言ってもな」
「仕方ないからな」
「そうだよな。とにかくな」
「頑張れ」
 彼等の言葉はとりあえず智哉へのエールで終わったのだった。
「俺達が言えることはそれだけだ」
「応援はするぞ」
「悪いな。しかしあの娘の食べ物にしろ」
 友人達の応援を受けながら食べ物についての考えを続ける。
「何か引っ掛かるな。本当に何なんだろうな」
 そのことも考えたがそれはすぐに忘れた。家に帰るとその日の夕食はラーメンだった。母親の手作りのラーメンであった。
 
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