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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  1話

さて、唐突な質問だが何故子供は無邪気だと思う?
ああすまない付けたし忘れたな、この質問において子供は特異な環境で育った訳でなく、トラウマなどを抱えていないと仮定しての話だ。
生物的に考えてしまえば大人へのご機嫌取りのためだ。自分は無力であり、無知である。それ故にあなたの庇護がなければ生きれいけないということを示す為の性質、とでも言うべきだろうな。
だが、私の問いはそこではない。子供が無邪気であれる理由を問うている、そう考えてくれ。
…………考えて貰えただろうか?
では答えを、何も知らないからだ。自分の目の前で起こったことを世界の全てと錯覚し、それをそのまま理解することなく受け入れるからだ。
例をあげよう。
ここに一人の少女がいたとしよう、彼女は生まれながらに名家の娘として不自由の無い生活を送り、周囲から惜しみない愛情を注がれた。彼女はそれを世界の全てと錯覚し無邪気に絵に書いた子供のように育った。そして、ある時家の外の者によって攫われかけた。
幸い少女は無事だったが、少女はそこで初めて悪意という物を知った。結果として少女は少なからず周囲に大して怯えるようになった。トラウマ……とまではいかずとも引っ込み思案位にはなったな。
とはいえ、周囲はより一層彼女に愛情をそそぎ彼女を慰めようとしたので、結果として彼女は子供として成功したと言えるのではないだろうか?
では、もう一例。
その少女は生まれながらに色々な事を理解しすぎていた。愛していると言われても、その言葉の裏にある感情を手に取るように理解できた。要するに心を、いや相手の本当の感情を理解することができたという事だよ。
結果、少女はその年齢不相応な人間となり不気味がられる事となった。もっとも、少女はそうなる前から既に大人達の内にあるものを知っていたので、それに対してさしたる感情を抱かなかった。
強いて言うならああ、そうかという諦観に近いようなものがあっただけだな。
そして、いつしかその少女は一人となり子供として大失敗をしてしまった訳だ。それが少女にとって不幸かどうかは別なんだがな。
ん?ああ、済まない話が少し逸れたな。要するに私が言いたかった事は、子供の内に要らん知識を身につけるとロクな事にならんという事だ。
何?君の質問に答えていないだと?
まったく……いいか?人の上に立つ者はいつだって真っ当な人間でなければならんのだ。順当に愛を知り、順当に悪意を知って成長した者でなければならないのだよ。
だから、私のような勘当娘に拘るな。むしろ君が当主になればいいだろうに、一族でも天才と呼ばれているのだろ?
まったく……分家だ宗家だと面倒な男だな君は。そもそも宗家が憎ければ暗殺なり何なりすればいいだろうに……
呪印?解く方法くらい自分で探せ。人が施した物なのだから解けぬ道理もあるまいよ。
ああ、ただしヒナタを狙えば君を解体するからそこは注意したまえ。勘当された身でも妹は大事なのだよ。
……おいおい、そんなに怯えることはないだろう?私は殺人鬼じゃない、無意味に人殺しはしないさ。
……分かった分かった、ではこうしよう私もアカデミーに入ってやる。そこでの私を見た上で再度判断しろ、いいなネジ?




まったく、生真面目というか何というか面倒な男だな、あれは。話をするだけで疲れる……そうさな、少し外をうろつくとしよう。
部屋着である薄手の浴衣を脱ぎ、外出用の着物に着替える。そして、いつものように兎の面を被り、屋敷の隅に建てられた私の住処である離れを出る。
む?離れから本邸に通じる廊下に私の愛しの妹 日向 ヒナタがいるじゃないか。
「どうしたんだ、ヒナタ?何か本でも読んで欲しいのか?」
「そ、そうじゃなくて……姉さん、ネジ兄さんにまた言われたの?」
「ああ、まただよ。安心したまえ日向の家はヒナタが継ぐのだから何の心配もいらないよ」
「違うの、姉さんの方が私なんかよりずっと賢いし強いのに、どうして姉さんは私に家を譲ろうとするの?」
この子はどうしてこう、自分を過小評価するのかね?いやまぁ可愛いからいいんだが……これをネジがやったら解体確定だな。
「いいかい、ヒナタ。上に立つ者はね、ちゃんと成長した者、つまり弱い頃を経験して徐々に強くなった者で無ければならないんだ。そして、それを満たした上で優しさを持ち弱者を労われる者でなければならない、分かるね?」
「う、うん」
「私は少しズルをして強くなってしまった人間だから、そもそも最初の条件でダメなんだよ」
「姉さんはズルなんか……」
「してしまったんだよ、私は。この眼のおかげでね」
私は仮面から唯一外から見える自分の眼を指差して言う。そこには日向一族の証であるあらゆる物を見通す白い瞳孔の瞳、白眼はない。
私の瞳孔は白ではなく紅色なのだ。どうにも突然変異に近いようなものらしく、能力も少々本来の白眼とは違う。白眼の能力はほぼ全方位への視界と、ある程度の透視能力は、チャクラ……まぁ忍のあらゆる行動に使われるエネルギーのようなものの流れを視覚として認識できるという物が主だったものだ。
しかし、私の白眼は全方位への視界はあるものもチャクラの視覚化があまり機能していない代わりに、透視能力が異常に発達しているのだ。
本来の白眼の性能を説明するにはネジを例出すのがいいだろう。ネジは相手の体内のチャクラの循環を見抜き、点穴と言われる全身にあるチャクラの噴出口に自分のチャクラを打ち込んで封じ込めるというのが主な戦い方だ。
しかし、私の場合は違う。相手の筋繊維一本単位の動きを白眼で視認することで動きを予測し、人体の構造上どうしても脆くなる関節や強度の低い骨などにチャクラを打ち込み破壊するのだ。
それを応用することで忍術は不可能だが、体術であれば一度見れば理解、二度見れば盤石といった具合に動きを模倣する事に関しての自負はある。言うまでもないが筋力の問題で実行できないものは流石に無理だがな。
もっとも、日向の家は柔拳という力をあまり使わないので既に殆ど取得済みだ。とはいえ、真っ当な白眼でないという事もある上に、色々とやらかした影響でこうして離れで一人で暮らすことになり、外をうろつく時には顔を明かさぬようこうして面をつけなければならんのだがな。
「まぁなんだ、こんなズルい姉だが困ったことがあれば頼るといい。少なくとも私は君の味方であるつもりだからな……それとネジをネジ兄さんと呼ぶのならば、私も名前で読んでくれてもいいんじゃないか?」
「ご、ごめんなさい、ヒジリ姉さん」
「うん、よろしい。ではな、私は外をうろついてくるよ」





 
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