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清楚と妖艶

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第三章


第三章

「紅い薔薇が好きなんです」
「紅薔薇ですか」
「それと最後の」
「誕生石ですね」
「それは何ですか?」
「サファイアです」
 最後の誕生石はだ。それだというのだ。
「サファイアなのです」
「そうですか。サファイアですか」
「これで宜しいでしょうか」
「はい、全部覚えました」 
 忘れる筈のないことだった。彼にとってはだ。
 そこまで聞いてだ。忠志は強い声で女に言った。
「有り難うございます、じゃあ明日早速です」
「御昼に来られるんですね」
「そうします、絶対に」
 強い声でだ。彼は言った。
「有り難うございます、今夜は」
「御役に立てたようで何よりです」
「はい。それじゃあですけれど」
「それじゃあ?」
「もう一杯御願いします」
 モスコミュールをというのだ。見ればもう一杯飲み終えていた。
 それを話してだった。彼はだった。
 そのモスコミュールのおかわりを飲みながらだ。女に教えてもらった唯の好きなものを全て頭の中に刻み込んでいた。そうしていたのだ。
 そして次の日だ。早速だった。
 彼は両手に様々なものを持って店に来た。そのうえでだ。
 この日もカウンターにいる唯のところに来てだ。こう言うのだった。
「あのですね」
「こんにちは」
「あっ、こんにちは」
 笑顔の挨拶にまずは応えた。そのうえでだ。
 あらためて唯にだ。こう言いなおすのだった。
「それでなんですけれど」
「それで?」
「あの、これ」
 まずはだ。紅薔薇の花束を差し出した。白い覆いの先からだ。紅の薔薇達と緑が見える。薔薇のその香りが店の中に満ちていく。
 それを差し出しながらだ。こう唯に言うのだ。
「これとですね」
「これと?」
 唯はその花束を受け取りながら彼の言葉に応える。
「それとこれも」
「あっ、これって」
「ケーキです」
 白い薄いダンボールの箱を差し出したのである。
「これもどうぞ。それと」
「今度はぬいぐるみですね」
「兎のぬいぐるみです」
 そのものずばりだった。
「これもどうぞ」
「すいません、何もかも」
「いえ、まだありますから」
 それだけではないと言ってだ。忠志はだ。
 今度はだ。紫の小さな箱を出してきた。そうしてだ。
 そのうえでだ。こう唯に言うのである。
「これ、開けて下さい」
「これは?」
「開けて下さい」
 今はこう言うだけだった。
「そうすればわかりますから」
「そうなんですか」
「はい、じゃあ御願いできますか?」
「はい」
 唯は忠志のその言葉に頷いた。そうしてだった。
 その小さな箱を受け取って実際に中を開ける。するとだった。
 
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