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図書館ではじまって

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第四章


第四章

「お姉さんだからな、いいな」
「ええ、そうですね」
「それでだ。私もだ」
「広島ファンですか」
「あの赤は好きだ。一番好きなのは白だがな」
「やっぱりそうだったんですね」
「確かに優勝から遠ざかっている」
 これは紛れもない事実だった。どうしてもだ。
「だが。それでもだ」
「ええ、それでもですね」
「好きだ」
 一言だった。
「子供の頃からな」
「俺もですよ。それでですね」
「広島の本だな」
「ありますか?それ」
「ある。それも豊富にな」
 あるというのである。
「週刊ベースボールマガジンのバックナンバーもあれば増刊もある」
「本当に充実してますね」
「広島についての本もある」
 そうした本まであるというのである。
「それで何を読みたいのだ?」
「優勝の時の増刊を」
「それか」
「ありますか?」
「無論全部あるぞ」
 ここでも彼に対して微笑んで話す。
「全てな」
「じゃあまずはですね」
「うむ」
「八十四年のを御願いします」
「ほう、あの時のか」
「山本浩二と衣笠が一番よかった時期のを」
「一番いいか」
 彼女はその言葉に目を向けた。
「そうか。君はそう思うか」
「もっと若い時の方がよかったんですか」
「二連覇の時が一番よかったと思うがな」
 七十九年、そして八十年の時だ。
「あの二人は」
「そうなんですか」
「だがいい」
 あらためて話す彼女だった。
「八十四年だな」
「その時の増刊を御願いします」
「わかった。それではだ」
 こうしてだった。嶺浩はその増刊を借りたのだった。そうしたことを続けているうちにだ。彼は彼女の胸の名札に気付いたのだった。
「あっ、お姉さんの名前って」
「どうした?」
 彼女は今はカウンターに座っている。そこから彼の言葉に応えているのだ。
「私の名前に何かあるのか」
「守誠っていうんですね」
「そうだが。ついでに言えばだ」
「ついでに?」
「下の名前は栄美という」
 下の名前は自分から話すのだった。
「宜しくな」
「守誠栄美さんですか」
「そうだ。そして君の名前だが」
「脇田です」
 この名前をだ。栄美に話した。
「脇田嶺浩といいます」
「脇田君か」
「はい。そういえば名前はお互い」
「知らなかったな」
「そうですね。本当に」
「しかし今お互いそれを知った」
 栄美は微笑んで嶺浩に話した。
「いいことだな」
「いいことですか」
「少なくとも機能的なやり取りではなくなる」
「機能的なですか」
「それはなくなる」
 また言う彼女だった。
 
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