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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第九六幕 「オンリーノウズ」

 
前書き
正直、モチベーションの低下が著しいです。ボンヤリ話は決まってるんですが、流石に120話近く書き続ければモチベーションも下がるものですね。取り敢えず、出来上がってるもののうち第百幕まで投稿したら暫く休ませていただきます。 

 
 
やられた。あの子が目的である以上は生け捕りが大前提になるのに、こんな乱暴な方法を使って来るとは。

もうもうと黒い煙を上げる護送車を置き去りに、A型装備と呼ばれるパッケージを装備した打鉄で空を飛ぶ言葉(ことのは)(あや)は歯噛みした。顎など砕けてしまえと思うほどの力で食い縛られた口は、今にも言葉にしてあふれ出そうな悔恨をせき止めるかのようだ。
護送車はまるで発泡スチロールを斬ったように真っ二つに裂かれ、前方はそれに加えて運転席付近が熱で溶解している。後方――ベルーナの居た席には人影が無い。血痕の類もないが安否不明だ。彼女はバックミラーで、連れ去られる瞬間のベルーナの姿を見た。

「私がついていながら・・・デッケン!」

まだレーダー範囲の外には辛うじて出ていないが、高速機動を前提としたA型パッケージでも簡単に追いつけない、敵のその推力が恨めしい。

テロリストの行った拉致方法は非常にシンプルで、そして大胆だった。ただ「ISを展開して護送車に近づき、レーザー兵器で文とベルーナを車ごと分断した」だけだ。
本来なら一見して分からないように車を追跡している更識の連絡で敵を察知し、最悪の場合は文がISを展開して迎撃、もしくは直接抱えて護送という手はずになっていた。ベルーナに可能な限り精神的圧迫を与えないため護送車周辺の警備をギリギリまで減らし、そのうえで対ドゥエンデの電子戦装備類も準備していた。

だが、その牙城はほんの一瞬で突き崩された。分断された瞬間咄嗟にISを起動させてベルーナのもとに飛ぼうとした文だが、その瞬間には自分の胴体に向けられた大出力レーザーの直撃を受けていた。咄嗟の行動であったため先読みは容易だったろうが、あと0,1秒でもISの展開が遅れていたら今頃自分は体が炭化していただろう。

自分が死にかけてなおベルーナの身を案じて追跡するという選択を選べるのも、彼女がISを駆る戦士であるという強い自意識があるからだろう。IS学園教師の中でも彼女ほどの決断力を持つ人間は少数だ。だからこそ護衛としてISを任されたともいえるが。
と、通信が入る。更識の特殊回線だ。

『言葉先生!空挺のあさがお部隊に協力を取り付けましたので、そのまま追跡をお願いします!指定座標で包囲をかけます!!』
「あさがお・・・れいかの部隊か、諒解した!!」
『ベルーナ君と連絡は!?』
「意識が無いらしい!失神してるか眠らされたか・・・拉致用の棺桶みたいな箱に詰められてる!!」
『箱とやらの強度がどこまでかはわかりませんが、迂闊にダメージは与えられませんね・・・』

自衛隊の基地と現在の空域は距離が近い。既に出動したなら包囲は間に合うだろう。だが、ベルーナが捕えられているという状況では迂闊に手を出せない。あさがお部隊の隊長である祇園寺れいかは実力も確かで気のおける友人だが、それでも今回の件ではどこまで頼れるか分からない。

(私は戦士だ。戦えない人間の代わりに戦うのが仕事だ。だから、私は――)

なれるのならばその身代わりにも――その呟きは、誰にも聞かれることはなかった。



 = = =



所変わって旅館。
急きょ旅館の一室に集められた生徒たち。呼ばれたのはシャル、ラウラ、ジョウ、箒、一夏、そしてセシリア。このメンバーは今回の作戦に必要な人材の最低限として千冬が選別した人間だ。事が事だけに、専用機全員に知られるのも面倒だった。故にまだ実力不足と判断した3名と予備人員で1名、集合するメンバーから外してある。

つまり鈴、簪、ユウ、佐藤さんは他の生徒たちの面倒を見るためにここには呼ばれていない。本来ならば箒と一夏も呼ばれない予定だったのだが、今回扱う問題を解決するためにやむを得ず声をかけた。佐藤さんも教務補助生という立場上、後で事情を伝えることになるだろう。

そこにはベルーナ誘拐の一報は未だ届いておらず、代わりに別の連絡が届いていた。

「お前らに集まってもらったのは言うまでも無い・・・非常事態だ。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)・・・アメリカ軍とイスラエル軍が共同開発した軍用第三世代ISなのだが、このISが現在、何者かの襲撃を受けている」
「「「ッ!?」」」

世界の警察を自称し、IS開発においても先進である米国と、その米国の援助を受けて高い軍事力を保持するイスラエル国防軍。その2国が開発した虎の子の新型ISに喧嘩を売るということはどういうことか、その襲撃者は理解しているのか?いや、そもそもISを襲撃しているなど現行の兵器ではIS以外では勝負にならない筈。
あるいは、そんな馬鹿な真似を平気で行うあの”正体不明の敵”が現れたのか?集合した専用機持ち達に剣呑とした空気が漂う。この場に佐藤さんがいれば、「またか」という顔をするであろう。つまり、佐藤さんの知る原作とは異なった展開だ。

急きょ用意されたスクリーンには日本からハワイ周辺までの地図が投影され、そこに点滅するいくつかの点や円が少しずつ動いていた。画面の端に次々にデータが弾き出されているがそれらを無視して千冬は太平洋を移動する円を指さす。

「太平洋ハワイ沖で機動実験中に急襲を受け、現在迎撃中・・・・・・だが、状況は芳しくなく、また襲撃者が戦域を西・・・つまり日本の領土側へ押し出している」
「ちょっと待ってくれよ、先生。質問させてくれ」
「構わん。何が聞きたい?」

突然の事態に混乱で言葉が出ない皆の聞きたいことを代弁するように、ジョウが口を挟んだ。

「まず、敵は何者なんだ」
「不明だ。この状況下で米軍が情報を出し惜しむとは考え難いから、本当に不明なのだろう。報告ではどうも要領を得なくて、向こうでもまだ襲撃者の正体が判然としないのが現状だ」
「ISと戦闘行為を行える敵というのは、現状ではISだと考えるのが自然だと思うんだけど・・・」

と、シャル。千冬もそれに同意するように頷く。ただしそれが本当にISなのか、それともあの未確認のドゥエンデなのかは確認するまで分からない。

「その米国のISに武装は?」
「ある。これ以上情報を公開すると機密に触れるが・・・私の見る限りでは実戦戦闘で使用可能な武装だ」
「ならば武器が無くて戦えないわけではないのですか・・・確か米軍はコアを全て試作機実験に回していたな」
「すると、どうなるんだ?」

ラウラが漏らした呟きに一夏が質問した。明らかに状況についていけていない一夏を見かねたシャルが説明する。

「ドイツや日本だとコアのいくつかは実働部隊として動けるように配備してあるんだ。だから有事の際にはその人たちが動ける。でもアメリカではそういう部隊を用意せずにすべてのISコアをフルに使用してIS研究をしている。つまり、アメリカはISに関する問題が起きた時にすぐ動ける『ISを止めるIS』がないって事だよ。分かった?」
「んー・・・つまりアメリカのISは今すぐシルバリオ・ゴスペルを助けられなかったってことか」
「推力の問題もあるでしょう。モニタの移動速度を見て下さい・・・この速度では速度特化型のオートクチュールでも装備しなければとても追いつけません。試作機とはいえ驚くべき移動速度です」

セシリアの指し示す通り、シルバリオ・ゴスペルの移動速度は平均的な第二世代ISの長距離移動モードの5倍はあろうかという速度だ。まともなISでは追いつけるはずもなかった。それほどのISを操っているのならば襲撃者も何とかなりそうなのだが、パイロットの腕が悪いのだろうか。それとも―――

「なお、ハワイでの目撃報告では敵は『速すぎてカメラで追いきれなかった』そうだ。ともかく、我々はこれより銀の福音を支援し、襲撃者を追い払わなければならん。何故だか分かるか、箒?」
「ISが直接的に関連する事件・事故はISに関連するすべての組織に解決義務がある・・・条約では確かそうなっていましたね」
「ああ。既に自衛隊のIS部隊に打診しているが、相手の正体が不明である以上はISを所持した集団である学園が指をくわえて見ているだけとはいかん。だから―――」

「お、織斑先生!!大変です大変ですたいへんですぅ~~~!!!」

千冬の声は、少しの間席を外していた山田先生が真っ青な顔色で飛び込んできた。出鼻を挫かれた千冬だったが、すかさずジョウとシャルが山田先生に事情を聞いた。様子からして、非常に悪いニュースだと想像できるが。

「はぁっ・・・はぁっ・・・ご、護送中のベルーナ君が所属不明のISに誘拐されました!!自衛隊がそちらに向かっているそうです!!」
「なっ・・・何だとッ!?」

どうして悪い事態はこれほど重なるんだ、と千冬は髪を掻き毟った。



 = =



専用機持ち達は千冬の指示で太平洋方面の迎撃班とベルーナ救出班に分けられた。

太平洋迎撃班は、展開装甲による高速移動が可能な箒の紅椿とオートクチュールによって高速移動が可能なセシリアのブルー・ティアーズ、そして推力に余裕のある紅椿に牽引される白式。そしてその後方で万一領海に侵入されたときのために構えるシャルとラウラという布陣になった。

敵が不明という不確定要素があるが、既に国家代表レベルの操縦技術を持つセシリアがフォローに入り、準代表レベルのシャル、ラウラ両名でバックを固めればそれだけで十分な布陣と言える。

そしてベルーナ救出班だが、こちらは班とは名ばかりでジョウのみとなっている。本当ならばもう一人後詰が欲しかったところだが、既に自衛隊のISと学園のISが合わせて5機そちらに向かっていることと、太平洋側も予断を許さない状況であることから、そちらには更識からの要望も最高戦力を送る形で決定した。

「あの、織斑先生。佐藤さんには・・・」
「・・・・・・黙っておけ」

ベルーナ誘拐の件を伝えれば、いかに佐藤さんと言えど感情や動揺を抑えきれないかもしれない。そう思った千冬は、佐藤さんにこの事は敢えて伝えない事にした。確かに佐藤さんも強力な戦力ではあるが、専用ISはつい先ほど受け取ったばかりで不確定要素が多い。それに、本当ならば紅椿とて問題があるのだ。アラスカ条約にて確認されていないコアを使用した第4世代ISというだけで、世界情勢は恐らく揺れるだろう。佐藤さんのISも言わずもがな、だ。

ユウと鈴はまだ無鉄砲なところがあるし、簪も姉の楯無から「まだ荒事には早い」と言われている。そして何よりこの旅館が狙われる可能性もゼロではない以上、どちらにしろ戦力は残しておく必要がある。

「ベルーナの事はジョウと自衛隊に任せる。大勢で押しかけてはむしろ状況を混乱させる危険性もあるし、ジョウならば上手く立ち回るだろう。我々に出来る事は残念ながら多くない」
「誘拐事件もアンノウン迎撃も、武装ISを6機ずつ投入・・・国家レベルの戦力です。歴史に残る事件になりますね」
「願わくば、どちらも犠牲者を出さずに終わることを願おう」

そう呟きながらも、千冬は全く別の事を考えていた。
それは5年前に犯した過ちと、たった一つの約束。


『必ず連れて帰る。だから、これから俺のやることに口出しをしないでくれないか?束・・・お前も、いいな』


――チカ。これも必要な事・・・そうなんだな?私はお前たちを信じるぞ。
 
  
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