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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第九五幕 「必然たりえぬ偶然は」

 
前書き
Q,貴方は今までにこの作品に登場した名ありオリジナルキャラを何人覚えていますか?
・半分くらい名前が言える →平均読者
・8割は名前を憶えている →ファン読者
・全員言える      →作者より凄い 

 
 
――白式改は非常に高性能なISだ。

馬力、加速力、機動力などどれをとってもその性能は従来のISを凌駕し、既に唯一仕様能力まで発現させた3,5世代IS。必殺の「零落白夜」はその燃費と引き換えに敵ISのバリアエネルギーを根こそぎ奪い、直撃させれば一撃必殺を誇る。速度と小回りを重視したブレード「雪片参型」とパワー・リーチ・破壊力を重視した「雪片弐型」の2つの武装がそれを実現させる。

射撃武装は一切ないものの、それを補えるだけのポテンシャルを秘めた完全剣撃戦用機。選ばれしものにしか与えられない剣。それが白式改というISだ。現行の第二世代ISと第三世代ISに純粋な性能差はそれほど開いていないが、白式は違う。優位性(スペリオリティ)を越えた覇権(ドミナンス)を持つのだ。

だが、俺は――織斑一夏は、それを使いこなせていない。

何度も何度も箒の操る量産型の打鉄に後れを取り、今だに専用機持ちの中で実力は下のほう。それを埋めるために必死の努力を続けて、零拍子も取戻し、ようやく箒との差が埋まってきたと考えていた矢先の――紅椿。

あれはきっと彼女の姉の束が丹精と時間を込めて作った現行最強ISの一角だろう。技術的なことは分からないが、あれが非常に高度な技術を使用しているくらいは俺にもわかった。

技量はきっと箒が上だ。彼女は姉ほどではないが、天賦の才を持っている。とても女性とは思えない膂力(りょりょく)から繰り出される剣術はもとより、勉強の類も教えるのは下手だが成績は良い。ISの特性も本能的に理解しているからこそ、白式とのスペック差も押し返していた。

おそらく紅椿を手にした彼女はその才能で更にIS技術に磨きをかけ、十全なスペックを発揮させて剣を振るうだろう。性能差で拮抗していた剣術は、性能でひっくり返される。また一歩、彼女を守れる立場から遠のく。

俺は最低だ。だって、俺はほんの一瞬だけ箒に――


「・・・・・・夏?一夏?ちょっと、一夏ってば!」
「え、ああ・・・何だよ鈴?」
「何じゃなくて、佐藤さんが他の武装テストする間に篠ノ之博士が白式と風花を見たいって言ってるわよ?」

はっとして横を見ると、先ほどから呼んでいたらしい束がずーんと分かりやすく沈んで地面に「の」の字を書いている。どうも我を忘れてまで考えに没頭していたらしい。どう声をかけて良いのか分からずユウもおろおろしている。
・・・女性との付き合いが少ないユウは助けを求めるようにこっちを見ているが、何故そこで俺なんだ?まるで俺が女性の扱いに慣れてるみたいで止めて欲しい。俺だって女の子に何言えばいいか分からない時はたくさんあるんだが。

「ふんだ・・・いいもん、どうせ束さんはいっくんにとってもチカくんにとっても昔の女ですよーだ・・・」
「す、すいません!ちょっとぼうっとしてて・・・」
「こうなったら東京にミサイル2341発発射させて第二白騎士事件起こして、いっくんの白式を遠隔操作して事件再現しちゃうもんね・・・」
「さらっとテロ予告してるー!?洒落にならないからマジでやめてください!!何でもしますから!!」

結局一夏は白式のフラグメントマップを開示することでなんとか束の機嫌を取ることが出来た。なお・・・

「ん?」
「今」
「何でもするって・・・」
「引っ込んでろおバカ軍団!!」

すぱぱぱーん!!・・・と響くハリセンの爽快な音。どうしても何かボケないと気が済まないらしい生徒たちはモブ子の一人、ツッコミ少女によって黙らされていた。どうやら妖刀覇璃閃は今宵もツッコミに飢えているようだ。

「ぐふっ・・・」
「い、いつのまにハリセンなんて用意してたの・・・」
「アンタらと付き合っていくためには必要だと思った。それだけよ・・・・・・灼熱の砂塵に埋もれて果てなさい」
「見事な対応だと感心するがどこもおかしくはない」

周囲に翻弄されていた未熟な彼女はそこにはいない。いるのは、逆光に受け止めた背中で語る少女の一回り成長した姿だった。彼女はこれからも変人だらけのこの世界を生きていく。頼りになる相棒(ハリセン)を片手に・・・・・・

そしてそんなよく分からない成長を遂げているツッコミ少女を尻目に、一夏は束の機嫌をとることに成功していた。「こういうのは一夏に任せるに限るね!」と屈託のない笑みを見せるユウに色々と言い返したい一夏だが、ユウはこの手の事態が本当に苦手である。
そもそもユウの女性友達の殆どが中学時代の不良状態から更生までのスパンで出会った不良少女のみ。しかも小学校時代はジョウの過保護の行き過ぎで友達自体少ないという体たらくであり、一番近かったのが男勝りの鈴ではそうなるのも無理はない。

IS学園に入ってからは大量の女子が周囲にいるから少しはましになったものと思っていたが、年上相手ではそうでもないようだ。

(でもユウの苦手意識って、癒子ちゃんに向けてるのと年上相手に抱いてるので微妙に違うような・・・?)

取り敢えずユウが束相手に緊張しているのは分かったが、一夏にはそれ以上は分からなかった。


「えっと、初めまして。浅間結章と言います」
「ん、知ってるよ。IS合体攻撃の第一人者の一人だね!束さんがIS関連で後れを取るなんて一生モノの不覚だよ?」
「「「いやぁ、それほどでも・・・」」」

ユウ、鈴、簪が同時に照れ顔で頭を掻いた。ユウはまだしも残り二名は呼ばれてないのにのこのこやってきている辺り、何とも乗せやすそうな連中である。IS開発前から束を知っている一夏は実感がわかないかもしれないが、3人にとってIS開発の母である束は雲の上の存在(ユウは『ノーベルやアインシュタインの延長線上にいる人』というちょっとずれた認識を持っている)だ。これ見よがしに自分たちの存在をアピールしたいのだろう。

しかし、一夏の知る束は極端な人間だ。あまり他人のことを言いたくはないが・・・・・・この人は自分が興味を抱いていない人間は「存在しないもの」として扱っている節があった。チカと出会ってからはいろいろと精神治療をがんばったらしく、IS開発前は嫌々ながらも前代未聞の「通行人にあいさつ」を達成したとかそういうレベルだった。

見たところ破天荒でノリを重視する子供のような性格は変わっていないらしく、佐藤さんにも妙に冷たかった。ユウは好感触だがほかの2人はどうか・・・?

「という訳で3人には政府を通して贈り物しておいたから!そのうち届くんじゃないかな?」
「マジですか!?」
「あ・・・あぅ・・・あ、ありがとう、ございます・・・!」

そのとき一夏に電撃が奔る。ついでに遠目で見ていた千冬には雷撃が奔る。

顔も合わせた事が無い人間に笑顔で対応し、贈り物まで用意するなど、そこまで成長していたのか。
途中で行方をくらましたせいで直接会えてなかった千冬は、そこまでコミュニケーション能力を発達させていた束に涙を禁じえないレベルらしい。ハンケチで目元をぬぐっている光景はさしずめ鬼の目にも涙とでも言い表すべきか。
あの超絶コミュニケーション障がい者タバえもんがここまで立派になるなんて。奇跡と言うのは本当に起きるのだな、と一夏は感動した・・・と同時に、きっとチカが死ぬほど頑張ったんだろうなぁと遠くの彼に哀悼の意をささげた。(・・・死んではいないのだが)

「それはそれとして早速白式とユウ君のパートナー、『風花・百華』を見せてもらおうか~!」

と束が両手を振り上げる、と同時にその胸囲の包容力がおもいっきり揺れたのでユウと一夏は全力で目を逸らしたが。姉妹揃って恐るべき戦闘能力を誇る篠ノ之家のDNA、恐るべし。
なお、その直後に上から佐藤さんの声が聞こえてきた際に――

『次の装備は・・・なになに、「ゴルディアスの結び目」??・・・・・・指向性重力衝撃波を相手に叩き込んで粉砕する。相手は死ぬ・・・・・・死んじゃ駄目じゃないのぉぉぉーーーー!?!?』
「ちっ、五月蠅いなぁ、成金ちゃんは・・・チカ君がそんな欠陥品造る訳ないだろ何変な文章説明に付け足してんだよ!!」
《私がジョークで書き足しました。かなり危ない武器であることには変わりないので》
「ちっ・・・レーイチくんが言うんじゃ仕方ないな・・・」
『その心遣いをちょっとは私に分けて欲しいな・・・なんちゃって』
「・・・・・・・・・(養豚場のブタを見る目で睥睨)」
『・・・・・・・・・(切実な願いを込めて応戦)』

いくらチカさんの事で嫉妬しているからって、何で束はそこまで佐藤さんを目の敵にしているんだろうか。そう疑問に思わずにはいられない一夏他数名だった。



 = = =



IS学園の臨海学校が行われる場所は毎年決まっている。それは周辺の気候や旅館とは実は関係なく、その地域に自衛隊の訓練エリアと常駐IS部隊がいるからである。アラスカ条約によると、ISが直接的に関連する事件・事故はISに関連するすべての組織に解決義務があるとされる。

つまり、万が一IS学園側でISでしか解決不能な問題が発生した場合に学園は自衛隊のIS部隊に助けを求めることが出来る。特に学園は今年、事実上二度の襲撃を受けているためかなり警戒心を強めており、その旨は『陸上自衛隊第一空挺団特務中隊』・・・通称あさがお部隊にも伝えられていた。既に自衛隊の偵察部隊が極秘裏に旅館周辺を見張っており、護送中のベルーナも更識と連携を取っての護衛だ。

あさがお部隊は、アラスカ条約締約後に日本が独自に設立した自衛隊の特務部隊であり、その存在目的は「ISの運用ノウハウの蓄積と有事の際の出動、及び事件事故の鎮圧」というものである。実際にはドイツをはじめとした複数の国家がISの管理組織として軍を選んだことに起因しており、当時北朝鮮と韓国の小競り合いが激化していたことも相まって高度な人材が集められた。

あさがお部隊は通常の空挺団とは指揮系統が異なり、その運用は自衛隊上層部よりIS委員会日本代表の影響力が強い。部隊は尉官のIS操縦者が、中隊長である祇園寺(ぎおんじ)一尉も含めて4名。他は輸送班やISメンテ班、通信班などに分けられ、IS運用に特化した構成になっている。IS学園を卒業後に操縦者として生きようとしたら、この舞台に入るか民間テストパイロトの座を勝ち取るかの事実上2択である。

そも、二機のアンノウンが当然のように国内に出現しただけでも異常なのだがと、あさがお部隊隊長の祇園寺一等陸尉は思案した。既に操縦者4名はISスーツ着用の上でスクランブルに備えているが、今のところ出動が必要な状況ではない。予定通りならこのまま護衛対象は基地の敷地横を通り過ぎて臨海学校中の学園側と合流するだろう。

何もなければいいが、と祇園寺一尉は数日前の会話を思い出す。




「非常事態だとは聞いていたけど、まさかAからDまでの全換装装備(パッケージ)使用許可が下りるなんて・・・・・・」
「全パッケージってことは・・・え、3級から1級までの武装も解禁でありますか!?」
「ああ、そういうことになる。とはいってもB型を使用することはないだろう」

部下の加藤三尉が驚愕をあらわにする。ほかの部下――清浦三尉と黒田二尉も驚きを隠せない表情だったが、それも無理はないと祇園寺一尉は思う。そもそも基本的に戦闘行為が許されない自衛隊は、実弾訓練の度に事前準備と事後処理が大変なのだ。ISと言う特殊な兵器であるがゆえに融通は利くが、ISの射撃武装はどれもこれも航空兵器並みの火力なためしょっちゅう火器をぶっ放すわけにもいかない。下手をすれば地形が変わるし、IS学園と違って弾薬の代金は国の負担なのだ。

そのレベルの装備も、現場の状況によっては使用もやむなしだと命令が下った。つまり、周囲の被害を無視してでも任務を遂行しろという事だ。御上の判断にしては大胆すぎる。

「委員会から直接圧力でもかかったんじゃねーですか?」と清浦三尉。「なにせ世界で3人しかいない男性IS操縦者ですからねー?機動のメカニズムが分からないうちは死なせるわけにもいかんでしょうし、メンツってもんがあるよ」
「にしても、嫌に潔い。確かに失態は失態でありますが、学園侵入事件は日本政府とは関連性がないでありましょう?」
「そうはいかんのさ」

黒田二尉が口を開いた。あさがお部隊では隊長の祇園寺より年長者だ。

「アンノウンが出現した施設はどちらも日本国内にあった。つまり、国外からちょっかいをかけるなら日本の防衛網に引っかからないのは大問題。そして国内なら獅子身中の虫でさらに大問題だ。このままだと委員会で責任を追及されかねないか・・・是が非でも解決したいだろうよ、御上は」

さも可笑しそうにくっくっと喉で笑う黒田二尉。どうも政治家の家系の出らしく、家族仲が極端に悪いそうだ。そのため自分の母親が困るであろうことに対してはいつもこの調子だ。が、政の家の出なだけあって指摘は的を射ていた。

「それに・・・自衛隊にIS隊が存在できるのも『有事の際に国益を守る』という役割を果たせてこそだ。ここで成果を出せなければ、将来的にはあさがお部隊は不要とされての4つのコアも研究目的で持っていかれるだろうな」
「ひー!?折角正規のIS乗りになったのにソレは勘弁してほしーですよ!?」
「自分の居場所はあさがお部隊であります!離れたくはないであります!」

清浦三尉と加藤三尉の慌てぶりに、黒田二尉は腹を抱えて笑いをこらえた。そこに至って2人は、自分たちがからかわれた事に気がついたらしい。2人の顔が真っ赤になる。祇園寺も不覚ながら、そんな未熟な部下を愛らしいと思った。




「事件が起きて我々がそれを解決できれば、あさがお部隊の存続意義も・・・と思ってしまう自分は、未熟ですか?」

不意に、加藤三尉がそう漏らす。昔は真面目が過ぎて清浦三尉と衝突を繰り返していた彼女だが、良くも悪くも感情豊かになったものだ。

「・・・自衛官にあるまじき心構えだ」
「申し訳ありません」
「そんな未熟者を部隊の外に出すわけにはいかんな・・・ふふっ」
「隊長がジョークなんて珍しーですね」

そんな彼女のちょっとしたジョークは、緊急通信によって唐突にさえぎられた。無線機類からスピーカーの音が割れるほどの音量で飛び出た怒号。それは、聞きたくはなかった最悪の報せだった。

『こちらデルタ1!!あさがお部隊、応答せよ!!クソッ・・・信じられん!ISだ!!未確認のISが学園の護送車に奇襲をかけてきた!!護衛対象(ベルーナ)が攫われた!!応援を求む!!繰り返す!!未確認のISが・・・』
「・・・・・・加藤」
「か~と~・・・」
「じ、自分の所為ではありませんよ!?偶然です、偶然!!」
「そんなことはいい!あさがお部隊、スクランブル発進、急げ!!」

後にあさがお部隊最初の難事件として語られることになる、長い長い一日の始まりだった。
  
 

 
後書き
・補足説明
A~D型装備・・・自衛隊が独自に開発した実戦用パッケージです。
武装の1級3級というのは武装の使用がもたらす周辺の被害別に区分けしたランクです。IS世界の銃器はその多くがヘカート以上の大口径なのでアサルトライフルなんかは2級、被害が小さい格闘武器は3級、1級は高層ビルをへし折れる威力の武装になります。

A型・・・ 高速パッケージ(増速、機動力増加・ミサイルランチャー内臓)
B型・・・ 砲撃パッケージ(砲撃パーツ2つをバックパックに装着・操作可能、弾数増加)
C型・・・ 電子戦パッケージ(言葉そのまんま)
D型・・・ 重装パッケージ(シールド増設、馬力強化) 
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