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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
  第二節 決意 第一話 (通算第46話)

 
前書き
シャアを待つアポリー・ベイとロベルト・フォス。二機のリックディアスが捉えたのは黒いガンダムだった。墜落したガンダムが引き起こす惨事。そこにはあのブライト・ノアが。そして突然現れたメズーン・メックスを伴いシャアたちは脱出する。

君は刻の涙を見る……。 

 
 シャアが〈グリプス〉に潜入する数時間前まで時間を遡る。
「ったく、やってられんゼ!」
 部屋に入るなり悪態をついたのはパイロットとしては最盛期を過ぎたであろうか、四十に手が届きそうな男である。階級章を見ると白い線が二本――連邦宇宙軍大尉だ。丁度、メズーン・メゾットはガンルームで待機中だった。
「メズーン!今日の演習は『お客さん』に優しくしろよ」
「はぁ…」
「どうしたんです?大尉どの。またやらかしたんですか?」
 曖昧に気乗りしない風なメズーンを余所に、横から別のパイロットが冷やかす。男は仏頂面で、荒々しく背凭れを前にして椅子に座った。派手な音を立てて、椅子が男に抗議した。
「どうもこうもねぇ!いつから此処は大学のアクロバットサークルになったんだよっ」
「それはそれはお疲れ様デシタ」
 冷やかしたパイロットの横を通過して、ヘルメットが唸りをあげて壁に叩きつけられた。幾度か弾んだあと、コロコロとメズーンの足許に転がった。仕方なく、機械的に拾い上げ、男に渡しに立ち上がる。
「ムキになって突っ掛かって来やがったから、軽くいなしてやっただけだっつーの!」
「ムキにならきゃいいのに…」
「なんか言ったか?」
 じろりと大尉に睨まれて冷やかしたパイロットが首を竣めた。
 サイド7駐留軍は今やティターンズの使い走りに成り下がっていた。サイド駐留軍はサイド政府の自治権拡大に伴い、多くが解体され、残っているのはサイド7駐留の第九機動混成師団をはじめとした極一部である。第九師団が保有するMSは三十機は全て《ジムⅡ》であり、〈ルナツー〉鎮守府麾下の機体らしく、赤紫のボディーカラーで塗装されており、シールドには《L2》の文字が中陰紋の様に描かれている。
 メズーンたちはティターンズの演習相手として駆り出されているのだ。大尉と呼ばれた男は本気で演習相手をしたために、新米の上級士官からドやされた――といか修正されたのだろう。『お客さん』という言い回しからして、どうも新しく赴任したパイロットたちが相手だった。パイロットたちはさすがに選抜されているエリートだけに、操縦技術は高い。しかし、大尉に言わせれば「実戦では役に立たない」ということになる。だからこそ『アクロバットサークル』などと揶揄するのだ。
 軍司令本部庁舎に隣接した滑走路脇のエプロンにはMSデッキが併設され、管制塔と庁舎に接続している。軍の施設らしく無機質で民族性を排した中近代的な建造物であり、機能性と合理性を追及した非効率的な造りだ。遊びのない空間は人を圧迫するという逆説を具現化した建物とも言える。
 ティターンズが〈グリーンノア〉と〈グリーンオアシス〉を接収してからというもの、サイド駐留軍の任務といえば、すべてティターンズの支援活動であり、〈ルナツー〉でも唯一スペースノイドの比率が高い第九師団はティターンズに対する反感を募らせていた。
 根っからのスペースノイドであるメズーンは、それもあって軍に居続けるのは限界だと考えていた。いっそ辞めたいという気持ちになるが、巷に仕事が溢れている訳でもない世相では、そうもいかなかい。戦後の復興ラッシュは地上にその資本が大量に投入されていて、宇宙は慢性的な就職難が続いていた。
 サイド7には5年前、コロニー再建事業に携わる両親に連れられて移住してきた。技術者である両親はメズーンに技術者か研究者になることを望んだが、メズーンはパイロットの道を選んだ。それがそもそもの間違いであったのか。メズーンには、軍内部の差別――地球出身者偏重がこれ程のものとは想像もつかなかった。
 仲間内には反地球連邦運動に参加している者もいる。エゥーゴと繋がり、移動を申請したいところだが、ティターンズの嫌疑を呼びかねない。家族に類が及ぶのは避けたかった。
「こうなりゃ、エゥーゴに攻めてきてもらいてぇもんだ!」
 これは大尉の口癖である。誰もがティターンズへの反感を持っており、ティターンズのお膝元でそんなことを言ったら――などとは誰も思わない。連邦宇宙軍のガンルームには、ティターンズの連中は近寄りもしなかいからだ。例外がいない訳でもない。たった一人ではあるが、ティターンズでありながら、節度も礼儀もあるエリートらしいエリート――『選ばれし者』と呼ばれるに相応しい男がおり、彼だけはここに来ることを厭わなかった。
おっと、いけねぇ!メズーン、《御曹司》が呼んでたぜ」
「ありがとうございます。ではっ」
 大尉の愚痴に付き合ってはいられない。謝辞と敬礼を返してガンルームを出た。
《御曹司》は、その唯一の例外であるティターンズの若手士官、レドリック・ランカスター少佐のことだ。コロラド・サーボ社の重役の息子であり、飛び級で士官学校を首席卒業、ティターンズから名指しで配属要請された若者である。それでいて、リベラルな考え方を持ち、ティターンズにおいて異彩を放つ青年だった。愛称はレド――カミーユやランバンとは士官学校の同期である。カミーユ等はハイスクール時代メズーンが主将をした空手部の後輩だった。
 奇妙な縁であった。最初は二歳年少の佐官に反発もしたが、今では親友と呼べる間柄になっている。
 それにしても、レドは暫く任務で〈グリーンノア〉を離れていた筈であり、待機中とはいえ、勤務時間に人を介して呼び出すのは不自然だった。
(急用か?)
 何故か解らないが、胸騒ぎがした。
 確かに仲はいいし、俺お前の間柄ではある。だが――
(行けば解るか……)
 今、あれこれ考えたところで解決する疑問ではない。取り越し苦労ということもある。実際に会えば全て解ると、レドの公務室へと急いだ。 
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