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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
  第一節 離叛 第五話 (通算第45話)

 緊迫した空気が漂っていた。
 その場にいる総ての者が固唾を飲んで見守っている。接近中だった三機の《クゥエル》も、状況の急変に対応しきれずに遠巻きに旋回しつつ、滞空していた。
 地上の司令本部内は突然の事態に右往左往していた。たかが飛行試験についていられるか――これはバスク・オムの言い様である。その結果が責任者の不在となり、命令系統の混乱に拍車を掛けている。が故に、こういう時にこそ人は真価が問われるとも言えた。
 張り詰めた空気をキーンというスピーカー音が切り裂く。状況の収拾に、誰かがマイクを取ったのだ。
「カクーラー中尉、私はブライト・ノアだ!相手の言う通りにしろ!」
「ブライト……ノア……中佐?」
 カクリコンは相手が誰であるのかに気付いて、慌ててオールビューモニターに、拡声器のマイクを手にした声の主を見つける。見覚えがある顔だった。自分たちをここに運んできたシャトルの艦長であり、間違いようのない有名人の顔がそこにあった。傍らにはエマの姿も確認できた。カクリコンの名はエマが教えたのだろう。
 ブライトがこの場にいたのは偶然である。ブライトは今回のフォン・ブラウン市から〈グリーンノア〉への往復フライトでティターンズの兵員輸送を終え、空の機体で地球に降りる予定になっていた。本来であれば、直ぐに遠ざかっている。しかし、現在の〈グリーンノア〉は完全にティターンズの基地であり、民間はおろか連邦軍のシャトルさえ後回しにされていた。ティターンズに横入りされ、ブライトらのシャトルは補給も整備も放置されている状態なのだ。そこへ来て、シャアの〈グリプス〉侵入である。大慌てで軍司令本部へと駆けつけたのだ。それは丁度《02》が庁舎に墜落した時だった。
 ブライトとて自分の行為が越権行為であることは解っている。しかし、誰も事態の収拾に乗り出さない以上、やるしかなかったのだ。普段は威張りくさっていながら、右往左往するしかないティターンズの連中に腹が立っていた。
「…了解!」
 カクリコンは憮然としながらも指示に従う。司令不在のこの状況において、一般将校とはいえブライトの命令は適切であり、正統性がある。それに、ブライトが先任士官ではないといっても、この場にいる最高位の佐官の命令であるから、自分が責任をとることにはならない――カクリコンはそこまで計算していた。
 コクピットハッチを開き、外に出ると、オールビューモニターで見るよりも迫力のある銃口が眼前にあった。
「降ろしてくれ!」
 無言で差し出されたMSの大きな手が、答え代わりだ。カクリコンが乗ると、ゆっくりと地上に降ろした。
 その間に、アポリーとシャアが《03》を確保した。両脇からしっかりと抱え、《01》が充分に離れるのを確認して引き起こす。
「大尉!アポリー!」
 ロベルトが大声を挙げた。敵――遠巻きにしていた《クゥエル》が動き出したのだ。シャアにもアポリーにも、彼らの心情は解る。誰だって目の前で、最新鋭機――しかも、《ガンダム》を奪われるなどという失態は犯したくない。だが、それはコロニー内で取るべき行動ではなかった。
「ついて来れるか?」
「は、はいっ。頑張ります!」
 多少の怯えと緊張の混ざった若者の声が応える。シャアはこの若者を無事《アーガマ》に辿り着かせる責任を感じはしたが、同時にそれは煩わしさでもあった。戦場では自分の命は自分で守るしかない。だが、シャアは多くの命を預かる身にならなければならない。この若者の命を守り抜くことで、過去のシャア・アズナブルとは違うクワトロ・バジーナになれるのではないか?何故か理由もなく、そう感じた。
「よし!アポリー、ロベルト、脱出するぞ!君は…」
「メズーン・メックスです」
「私はクワトロ・バジーナだ。メズーン君、ついてきたまえ」
「はいっ!」
 若者らしい元気の良さと真っ直ぐな性格を感じさせる声に、何故か不安を拭い去れないシャアではあった。
 ゆっくりと二機の《リックディアス》に引き上げられて《03》が宙に浮く。四機のMSはそのまま上昇しつつ、重力を振り切ると、侵入孔へと急いだ。当然のように、三機の《クゥエル》が追撃の体制を取り、シャアたちの後を追った。
「トリモチに気を付けろ!」
 シャアが接触回線でメズーンに指示を与える。いつの間にか《03》をアポリーに預け、メズーンのフォローに回っていたのだ。メズーンの操縦はお世辞にも上手いとは言えなかったからだ。
(このままだと、不味いな…)
 シャアは後詰めを呼び寄せることを考えていた。カミーユやレコアがいれば、メズーンを守りつつ後退することも可能だろう。それには、先ずトリモチを潜り抜けさせることだった。
 敵が待ち受けるにはコロニーを出た所に伏せているのが一番であるが、今回の場合、時間的にそれはない。艦艇の出撃がそれほど短時間でできる筈もない。先回りされる心配はなかった。だが、メズーンの操縦では後ろから狙撃されるのがオチである。ましてや、アポリーは《03》を抱えている。機体の制御は普段より鈍い。
「どうしたものかな…」
 盲射ちの《バルカンファランクス》で追撃隊を牽制しながら、《02》を誘導する。自らが最後尾についても全機の安全を確保したかった。
 シャアの見守る中、危なっかしくも侵入孔から《02》が宇宙へと出た。続けてシャアも抜ける。と同時に、ロベルトが侵入孔に向かってトリモチを連射した。シャアもそれに加わる。瞬く間に侵入孔が塞がり、三機の《クゥエル》の姿は見えなくなった。 
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