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愛は勝つ

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第四章


第四章

「おい」
 真もその中の一人だった。彼は尚志が一人になっている時に声をかけてきた。
「どういう風の吹き回しだい?」
「どういうって」
「御前矢吹さんと付き合っていたのかよ」
「いや、別にそれは」
 それは否定する。
「けれどさ、矢吹さんっていい人だぞ」
「ほら見ろ」
 真は今の尚志の言葉の言質を取る。そのうえでまた言うのだった。
「いい人だって。普通は言わないだろ」
「いや、それはね」
 話がまずい方向にいっているのを感じながらそれを否定する。
「変な意味じゃなくてさ」
「じゃあどういう意味なんだ?」
「そんなに意味はないよ」
 尚志は困った顔で述べる。
「別に。何も」
「何もないのか」
「当たり前だよ」6
 尚志は真に対して語る。語るその顔は困ったものではあったが言葉ははっきりしていた。その顔は真がよく知っている真面目な尚志の顔であった。
「何でそうなるんだよ」
「わかったよ」
 真は苦笑いを浮かべてそう返した。
「何もなしならな。困ったことにはならないな」
「!?」
 尚志は今の真の言葉にふと気付いた。
「困ったことって?」
「あれ、知らないのか」
 真は今の尚志の言葉に返してきた。
「矢吹さんの親父さんいるだろ」
「あの滅茶苦茶強い人?」
「そう、その人」
 尚志に対して語る。語りながら言葉を続ける。
「その人が問題なんだよ。実はさ」
「どういうふうに問題なの?」
「あの人凄い過保護らしいんだよ」
 今度は真が真面目な顔になった。その真面目な顔で尚志に述べる。話もどうにも真面目なものになっていた。尚志も真面目な顔で聞いていた。
「過保護なんだ」
「ここに転校した理由だってそうだったじゃないか」
 次にそのことについて言及してきた。尚志もそれを聞いてあのことを思い出した。
「そうだったね」
「思い出したな、あれだよ」
「そうだったね。転校したのは」
 若菜の転校の理由は彼女にストーカーしている変質者を彼女の父が成敗したからである。そのことを今話しているのである。
「だろ?それでな」
「うん」
「その人が言っているらしいんだよ」
 真は言う。
「娘に近付く奴は成敗するって」
「剣呑だね」
「それだけじゃなくてな。告白するだろ?」
「どうなるの?」
「言っているんだよ、勝負するって」
 どちらにしろその父親が出て来るということであった。
「それで勝ったらってな。言ってるらしいんだ」
「それって無茶苦茶じゃない」
 尚志は話をそこまで聞いて述べた。
「そんな柔道や空手をやってる人に勝てるの?」
「マス大山ならどうかな」
「死んでるし」
 大山倍達のことである。極真空手の創設者でありカラテ馬鹿一代の主人公でもある。一代の武道家としてその名を残している。
「じゃあ一番凄かった時代のアントニオ猪木か」
「よく知ってるね」
「まあな。けれど普通の人間には無理だな」
 真はそれを言う。
「そこまで無茶苦茶な人に勝つのは」
「そうだね。けれどさ」
 尚志はふと述べてきた。
「どうした?」
「いや、話を聞いてると」
「ああ」
「何かお姫様を守るあれみたいだね」
「ドラゴンか?」
「うん、そんな感じじゃないかな」
 彼は首を傾げながら述べる。真もその言葉に頷いてきた。あながちそうでもないといった感じであった。
「そうかもな」
「だよね。物凄い話だよ、本当に」
「だからな。話をする位ならいいが」
「交際は止めておけってことだよね」
「そういうことさ。まあ」
 ここで彼を見てくすりと笑ってきた。
「何?」
「御前にはその心配はないかな」
「心配ないってどういうこと?」
「別に興味とかないだろう?」
 真はそう彼に問うてきた。何か彼の心を見透かしたような言葉であった。
「女の子には」
「そうだなあ」
 尚志も首を傾げながらそれに応える。
「そうかも。矢吹さんともさ、普通にお話してるって感じだし」
「多分それ位なら問題はないさ」
 真は言う。
「けれどな。それ以上は・・・・・・わかるな」
「わかったよ。深入りするなってことだよね」
「ああ、わかったな」
 真はそう話してまずは安心した。これで彼もわかったと思ったからだ。しかし話は微妙にでも動いていくものだ。それは尚志と若菜についても言えることであった。
 
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