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万華鏡

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第八十四話 リハーサルその七

「繊細でね」
「いや、そうなんですね」
「いい人なんですね」
「外見はヤクザ屋さんでも」
「それでも」
「そうだよ。それでだけれど」
「はい、パンを買いに来ました」
 美優が五人を代表してお店のおじさんに答えた。
「ジャムパンを五つ」
「ジャムパンならそこだよ」
 おじさんは店頭のパンを指差した、そこにだった。
 ジャムパンがあった、それで言うのだった。
「あそこにあるよ」
「あっ、丁渡五つ」
「人数分ありますね」
「それは運がいい、ではね」
「はい、買わせてもらいます」
「それじゃあ」
 五人はおじさんに答えてそうしてだった、五人でそれぞれだった。
 そのジャムパンを買った、おじさんは勘定を済ませてからそのうえで五人に穏やかな笑顔で話した。
「そのパンはさっきの彼が焼いたんだよ」
「あっ、そうなんですか」
「あの人がなんですか」
「うん、そうだよ」
 その通りだというのだ。
「腕はいいからね」
「美味しいんですね」
「そう、だからまた来てね」
 店にだというのだ、こうした話をしてだった。
 五人は店を出てだった、歩きながらであるが。
 そのジャムパンをそれぞれ食べた、彩夏は右手に取って口に入れたそのジャムパンについてこう言った。
「ええ、確かにね」
「なっ、美味いだろ」
「結構以上にね」
「あのパンチの人が焼いたらしいけれどな」
「顔は怖いけれどね、あの人」
「パンチもあってな」
「けれどパンの焼き方は」
 それ自体はだった、パン屋は何といってもパンの味だ。
「いいわね」
「かなりな、けれどな」
「けれど?」
「あのパンあの人が焼いてたんだな」
「アルバイトらしいけれどね」
「パン焼くのは上手なんだな」
「そうみたいね」
 彩夏は自分と同じ様に食べて動いている美優の口を見ながら述べた。その動きはもぐもぐとしたものである。
「それにね」
「いい人だっていうな」
「外見はあれだけれどね」
「ヤクザ屋さんだけれどな」
 パンチパーマに向こう傷、それにいかつい顔でだ。
「あれでグラサンしてたらな」
「そのままよね」
「ベンツ乗ったら完璧だよ」
 少し古いイメージではある、そっちの世界の人にベンツというのも。だが美優達の中でもそれで話が通じるのだ。
「それこそ」
「あの人大学生っていうけれど」
「そういえばそんなこと言ってたか?」
「確かね」
「そうか、あの人あれでか」
「大学生みたいよ」
「それでパン屋でバイトしてるってことは」
 美優はジャムパンを食べつつ述べた。
「しかも焼いてまでいるから」
「将来はパン屋さんかしら」
「パン屋さんって朝早いんだよな」
 そうしてパンを焼くのだ、こうしたところは豆腐屋と同じだ。
「それで頑張ってだから」
「あの人も将来はパン屋さんかしら」
「それかそっちの仕事かもな」
 将来の就職先は、というのだ。 
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