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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO18-想いによる疾走

「あの日から、私は何があっても生き続けることを誓った。死んだサチのためでもあるけど……私自身のために、あの日の後悔と罪と想いを失くさないように、抱えて生きるわ。」

 口ではいくらでも言えるけど、どれだけ生きたいと願っても、思っていても、いつかは終わりを迎える。唐突に終わりを迎えることだってある。誰かのせいで、終わることだってある。
 そんなに人生はラストにハッピーエンドを迎えるほど都合良くドラマは出来ていない。
 でも、死ぬ時は今ではない。 私にはやるべきことがたくさんあるのだから、簡単に死ぬわけにはいかない。
 死にたくない。
 生きて痛い。
 もう、消えたいと言う想いに浸るのはやめた。
 私の過去は、これで終わった。隣で黙って聞いていたアスナは、恐る恐る口にした。

「その後……キリカちゃんは……? キリト君はどうなったの?」

「私はすぐに兄に謝りに行って仲直りしたよ。兄も、いろいろと合ったみたいだったけど、私と同じように自暴自棄になって死ぬことはやめた。もちろん理由をつけて死のうなんて思ってもいないよ。」

 そう、サチの願いによって私達は命を救われた。でも、それでも癒えることはできなかった。

「救われた後は迷惑かけた人に謝りに行って、とりあえずしばらくは休憩をとったよ……」

 サチに救われた、死ぬことを望まなくなったことを思い出す。クラインから馬鹿野郎ってボロボロ泣いて許してくれたっけな。迷惑かけた人達に謝っても許さない人はいたけども、時が経つにつれて許してもらえるようになった。失われた信頼を取り戻すのに、ちょっと辛いことはあったけど、それでも前を向いて歩けるようになった、私のことを信頼してくれる人もいてくれた。
 改心してからの日々で一番印象残ったのは……。

「しばらく休憩していたらさ、『サボってないで攻略しなさい!』って言う人がいてさ、それ言われた時はちょっと腹が立ったな~。いや、事情を知らないことはわかってもムカついたからさ、隙をついて逃げてやったよ」
「そんな人いたんだ……」
「うん。そう言えば、その人も血聖騎士団のかっこうしていたな……あの頃の私が、将来、血聖騎士団に入るなんて思わなかったな~……」

 過去を振り返って、思わず笑ってしまう。
 
「あれ、アスナ?」

 どうしたんだろう。なんで若干顔が引き吊っているんだ? 心なしか目が泳いでいるような気がする。

「キ、キリカちゃん」
「う、うん」
「ごめん。その人……わたし」
「……あー……そう」

 言われてみれば……しばらくは血聖騎士団の一人となにかと口論し合っていたな……。そうだ、あれアスナだ。相手女だったし、なによりも仕切ったり指示をしていたりしていたから、血聖騎士団のアスナで間違いないわね。

「……大丈夫、恨んでないから」
「そう言ってくれると助かる……」

 そう言えば、昔のアスナって私と似ていたな……。私よりは酷くはないけども、ゲームクリアにかなりこだわっていたようだったし、なによりもアスナはマイペースに攻略する攻略組に対しても、やたらと注意していたな。
 そんなアスナは変わった。そして今、彼女は兄に恋心を抱いている。アスナが買われたのは兄のおかげなんだろう。
 でも私としては、兄にはもう少し変わってほしいところがあるのよね。

「アスナ、お願いがある」
「なに?」

 私達、双子の兄妹の絆は強くて固い。だからって、いつも一緒にいられるわけじゃない。固いから、どんな道に歩み合っても、遠く離れていても、繋がっている。途切れることは絶対にない。
 だから私は……。

「兄のこと……よろしく」

 アスナに任せた。

「それって、どう言う……」
「言葉の通りの意味だよ。アスナはさ、兄のこと好きなんでしょ?」
「な、なななんで知っているの!? わ、わたし教えてないよ!?」
「いや、なんとなくわかった」
「なんとなく!?」
「ごめん嘘。やりとり見て、わかった」
「そうなんだ……そんなにわかりやすかった?」
「そうだね」

 兄みたいな人がアスナみたいな美少女が恋を抱いているなんて、兄にはもったいないって思ったこともあったけど、真面目な話、兄には恋人の存在が必要なんだよね。
 これは、傷つきながらも前に歩いても苦しんでいる。兄を持つ妹からの……願いなんだ。

「兄は……私みたいに人と普通に話せるようになってはいる。だけど……そう簡単に立ち直れるような、浅い傷跡を刻んではない。今もあの日のことを後悔して、自分を許せないはずだと思うの」

 今思えば、全損を賭けたデュエルに私と同じ考えを持って何もしなかったのは、私と同じ考えを持っていたから。
 全部、自分のせいにしたくて、なにもかも楽になって逃げたいと思うところもあったし、兄は自分のせいで私が悲しい思いをさせたことから、何もしなかったんだ。
 相手のことを想っているからこそ、磁石のように反発してしまい、苦しみを分かち合うことなく、お互い背を向けて過ごしていった。
 本来は、私が兄の痛みや苦しみを分かち合いたいところだけど、兄の傍よりもアスナの方が似合うし、アスナなら兄をまかせても大丈夫。

「アスナなら兄をまかせられる。兄もアスナがいれば大丈夫。苦しんでも悲しくなっても暴走しても、二人なら分かち合えたり、引きとめたりできると思っている」

 私はできない。私と兄は双子故に、変なところが似てしまう。似ているから、想い合って反発してしまった。
 似ているからこそ、想いがすれ違いになったこともあった。
 似ているからこそ、仲直りしても私達双子は一緒に行動せずソロとして別の道を歩んで、たまに会っては心の傷跡が開かぬように他者から避けていた。二度とトラウマが再発しないように関わりも避けていた。
 それでは駄目なんだ。避けても逃げても、心の傷跡は自身の心と共にあり、自身が消えないかぎりトラウマも消えない。それだったらさ、消えるよりも向き合って傷ついて後悔しながら生きたほうがさ…………良いことも悪いことも経験できるから。
 死んだら、それすらできない。本当に終わりなんだ。

「アスナ」

 私では無理。私では兄を救えないって諦めてしまったから、一緒に歩まず、ソロとして歩んでしまった私より、兄のことが好きなアスナのほうがいい。
 愛の力は偉大だからさ……。

「兄のことよろしくお願いします」

 兄を、キリトを、

 和人の傍にいて。

 頭を深く下げてお願いすると、不意にアスナは両手で私の頭を包み込み、お腹に顔を埋め込まれる。
 不意であり恥ずかしいけど、今はされるがままに受け入れたいと思ってしまう。
 そう。人の温もりが心地よいから何もしたくない。

「キリカちゃん」

 アスナがどんな表情でどんな想いで言っているのかは見られないけど、大丈夫。
 アスナなら大丈夫。

「まかされました」

 その言葉だけでもう……まかせられる。
 何故か抱きしめられている理由はわからない。もしかしたら、震えていたかもしれない。それに、アスナに抱きしめることを望んでいたかもしれない。

「ねぇアスナ……」
「うん」
「まだ……離さないでね」
「うん」

 アスナの温もりに感謝しつつ、そっと目を閉じて受け入れる。
 その時、私はふと昨夜のことを思い出した。



「…………これが私の過去で今に至る」

 その夜、心の傷跡に刻んだ記憶を掘り出して、あの日のことをドウセツに話した。。

 それは、許されない罪。

 一生償えない罪。

 永遠に曲げられない罪。

 今も、昨日も、一昨日も、先月も、そのずっと前から、あの日を犯した仲間の死を後悔し続け、引きずる記憶は思った以上に苦しい反面、前よりも笑えるようになったし楽しいことも増えた。
 ちゃんと真っ直ぐ生きていられるようになったから、話しても大丈夫かなって思っていたけど……過去の話をすると傷跡を抉るように痛かった。

「あれ……?」

 大丈夫だと思っていた。でも、そうは思っても大丈夫ではないことは多々ある。口にすれば体は痛んで、心臓は締め付けられ、瞳から一筋の雫が落ちれば自分の意志では止められない。

「悲しく、ないのに……大丈夫なのに……もう、死にたいとは……思わないのに……っ」
「大丈夫じゃないから泣いているのよ」

 ドウセツはそう言って、胸へと寄せつけられ抱きしめられる。

「大丈夫だと思っていても、実際は大丈夫じゃないのよ」

 ドウセツの声は透き通っていて毒を吐く氷の聖霊だ。ひんやりとしているけど、心が温まるような気がする。

「貴女は辛いほうを選んでしまった。それはきっといつまで経っても癒えるようなものではない」
「……知っている」
「だから、苦しんだら耐えきってもいい、誰かに温もりを貰ってもいいのよ」

 それって、結局は自分の選択肢じゃないか。大丈夫だけど大丈夫じゃないみたいだな。
 あの日のことを逃げずに向き合い続けることが、罪を起こした償い。逃げなければこうやってドウセツの胸へ埋まれて抱きしめられることないんだろう。
 サチ……私生きているのよ。貴女のこと忘れずに嬉しいことも嫌なことも含めて覚えているよ。

「ドウセツ……お願いがあるんだけど」
「なに?」
「ちょっとさ…………このままで泣いていいかな?」

 手も声もひんやりとしているのに、ドウセツって月みたいな人だな。闇を照らす月夜の光には優しさも温もりも感じる。冷たいこともあるけどそれがいい。
 そう、去年のクリスマスで包まれたあの温もりのようなに、私はドウセツの温もりが好きなんだな。

「……好きにして」
「うん……ありがとう」

 私は眠るまでドウセツの胸へ埋まれながら、そっと涙を流した。ドウセツも私が眠るまでずっと抱きしめていた。
 大丈夫だけど大丈夫じゃなかった。そして大丈夫になったから、私が流した涙に悲しみの色は染められてはいなかった。



「ありがとうアスナ。もう大丈夫」

 そう言って私はアスナから離れる。

「大丈夫なの?」
「大丈夫。さっきより元気になったから」

 離れていても包まれた温もりは体を覆っているのがなんとなくわかる。甘えすぎると……恥ずかしいんだよね。場所もそうだし、あまり他の人とかには見せたくないな。
 アスナは悟った様子で追及せず、「そっか」っと、微笑んで座り直した。

「あ、そう言えば去年のクリスマスのこと思いだしたんだけど、ドウセツがギルドを抜けた日でもあるのよ」
「そうなの?」
「うん。本部へ帰ってきたら抜けるって言ってきたこと覚えている。なんかあんなことを急に告げたのはわからないけど、今思えば、ドウセツなりの理由があったと思うわ……」

 そうなんだ。私もよく思い出してみれば、あの人も黒髪だったな……まさか、自暴自棄になった私を助けてくれたのは、ドウセツなのか?
 でも、それも些細な偶然でしょうね。黒髪なんていっぱいいるし。

「あら、微笑ましい光景ね」
「!?」

 別に、二人の空間を作ったわけじゃないが、見守る母親のように割り込む声音が届き、反応と共に振り返る。

「い、イリーナさん!?」
「あら、キリカ。そんなに驚くことかしら」

 そう言うつもりじゃなかったけど、予想以上に驚いたのは、警戒も想定も微塵も思わなかったころなんだろう。
 ここは冷静になって、対処しないと……恥ずかしい思いをされてしまうわ。

「どうしたんですか?」

 アスナが言うとイリ―ナさんはおっとりお嬢様のようにニコニコしながら口にした。

「いや、キリカがアスナに甘えているところで来たんだけど」
「うわぁ――! うわぁ――っ! うわあぁ――!!」

 言い終わらないうちに意味もなく大声を上げて誤魔化した。いや、誤魔化しきれないけれども、それでも先ほどまで冷静に対処しようと思っていたのが一瞬で崩れ落ちてしまった。

「なんかソフトクリームのような甘い空気がなくなるまで見守っていたわ」
「それはありがとうございますね! ほんと!」

 あんまりこう言うのは慣れてないから。人より羞恥心があるだろ。だから、きっと私の顔はリンゴのように真っ赤に染めているに違いない。顔が熱い。当然、堂々と見せられないので顔を隠してやけくそ気味で言い放った。

「大丈夫?」
「大丈夫……じゃない」

 アスナの気遣いに礼を想いつつ、空気を変えるべく、イリ―ナさんがここにやってきた理由を訊ねることにした。

「それでイリ―ナさん。なにしに来たんですか?」

 すると、先ほどのお嬢様のようなニコニコではなくて、私達部下と言う娘達を見守っている母親のような笑みを浮かべていた。

「訓練メニューを伝えに来たのよ」
「それって、先ほど言っていた……」
「そう。二人にも、今日も明日も明後日以降も、生きていて良かったと思えるくらいに強くならないとね」

 ゴドフリーと言う人物がお互いの嫁……じゃなくてパートナーが取られてしまい。残って帰りを待つ私達に与えられたのが、私とアスナでの戦闘訓練。

「わたし、キリト君と一緒がよかったのに!」

 アスナは数分前のことを思い出し、再び不機嫌になっては顔を膨らませる。ちょっとイリーナさん、膨らんだ頬っぺたに指で押して遊ばないでくださいよ。
 からかっている様子なのにアスナを怒ることはない。むしろ撫でられるように慰めている感じがする。

「たまには離れることも大切よ。恋愛と同じように」
「はい……」

 イリーナさんは、いとも簡単にアスナを慰めた。言っちゃ悪いけど、同じ副団長でもこんなにも威厳の差が開くものなのか? そう言えば、ドウセツが例え話でアスナが生徒会長でイリーナが先生とか言っていたのを思い出した。そう思えば、同じ副団長でも、威厳の差が開くのも納得できる。

「キリカちゃん。今、失礼なこと考えなかった?」
「考えてないです」
「あらあら。微笑ましいわね」

 微笑ましいんですか? なんか殺気が伝わったのに微笑ましいんですかね?

「さてと、もっとガールズトークしたいけど仕事もあることだし訓練メニューを伝えるわね」

 そう言ってイリ―ナさんは私達に訓練メニューを伝えると、その内容に思わず感心してしまった。



 私とキリトと言う変態の兄と共に、集合場所に指定されたグランザム西門へ向かっていた。
 メンバーはコトブリーと言う間抜けな人と、食に飢えているキリトと言う人と、他数名。
 それと……、

「ざまみやがれ、ドウセツ! また戻ってきてやんの! しっかり面倒見てやるから覚悟しろよな!」
「キャラが定まらないわよ、負け犬」
「きさまあぁ! 負け犬とか言うな! ムカつくんだよ。その態度とかな!」

 ストロングスと言う、負け犬に加えて、

「……どういうことだ」
「ウム。キリトとクラディールの間の事情は承知している。だがこれからは同じギルドの仲間、ここらで過去の争いは水に流してはどうかと思っていな! ついでにストロングスとドウセツの仲を深めようと入れたのさ」

 アスナのストーカーのクラディールを加えて任務を遂行する。
 なんでこの人選なのか疑問に思う中、ガッハッハっと、バカみたいにゴドフリーは大笑いしていた。
 イリーナさんがいても、血聖騎士団にはバカな人がいっぱいるのね。
 しかし、クラディールという男……何があったのかしらね。少なくとも頭を下げて謝る人ではないはず。キリトに深く頭を下げているせいか表情が見られない。

「よしよし、これで一件落着だな」
「……バカみたいに笑ってないで、早く無意味な訓練しましょう」
「貴様! 少しは謹め! 」

 ストロングスが何か言ってきたが、どうでもよかったので無視する。それにゴドブリーのバカっぷりを見ていると苛立ってしまう。悩みってことあるのかしらね?
 そんなことを考えるなんて思ってもいない、ゴドブリーは今日の任務の説明をし始めた。

「よし、今日の訓練は限りなく実戦に近い形式で行う。危機対処能力も見たいので、諸君らの結晶アイテムは全て預からせてもらおう」
「……転移結晶もか?」

 キリトの問いに、当然と言わんばかりに頷いた。

「私は反対よ」
「ドウセツ!」
「バカじゃないの? 訓練って言っても何が起こるのかわからないこの世に、安全の転移結晶を外すなんて何考えているのかしら? その案は受け入れたくないわ」
「だから! いざって言う時の訓練だからやるんだよ。文句ばっかり言ってないで従えよ!」
「わかったから、吠えないで犬」
「いい加減に名前を呼べ、ストロングスだ!」

 反対しても埒が明かなさそうね……。
 あまり気が乗らないが、仕方なくクリスタルを預けた。同じくキリトもクリスタルを渡した。

「ウム、よし。では出発!」

ゴドフリーの号令に従って私達はグランザム市を出て、遥か西側に見える迷宮区を目指して進んだ。

「遅いから先に行くわよ」
「ふざけるな! 何のためのパーティーか考えろ!」

 さっさと終わらしたいが、うるさい人がいてうっとうしい。コトブリーの敏捷度がないから、一番後ろで彼らと離れて歩くことにした。

「あぁ……帰りたい」

 私だけではなく、キリトも同じような気持ちなのね。不本意ながら。

「帰りたいなら帰れば」
「帰れたらとっくにそうしているよ……」
「いい子ぶるのね」
「いい子ぶった覚えはないんだが?」

 SAOで最強とも言われる、二刀流のキリト。ソロプレイヤー中でもかなりの実力、反応速度が異常。彼のことは同じソロだから会話もするし、アスナから散々な愚痴を聞いている。それと、キリカの双子の兄。……よく見ても似てないわね。

「それにしても、ドウセツとはちゃんと会話したのはいつぶりだろうな?」
「……会話したことあった?」
「いや、したって。しかも忘れさられるくらい少なくないだろう」
「そうかしら? キザっぽい口調しているからキザな独り言をバカみたいに口にしているかと思っていたわ」
「そんな印象だったのか……俺って」
「どうかしらね。一層のボス戦終了時に、自分はベータテストで誰も到達できなかったところへ行ったとか自慢していたじゃない」
「よく覚えているな」
「しかも高笑いで悪者風にね」
「そんな風に言ったつもりはないんだが……」

 キリトとは似たくはないがおそらく同類だろう。キリカと組む前はキリトとコンビネーションとり易い相手だから同類だろうね。
 深く仲良くなりたいとはお互いに思っていないから……。

「そう言えばドウセツ。最近のキリカはどう思う?」

 キリトの問いに私は迷うことなく言葉に表した。

「レズっ毛の変態でアホでバカのお人好しよ」
「よ、容赦ないな……」

 だって聞かれたんだから、ありのままの事実を言っただけよ。相手が引くことも想定してね。
 彼は「そうか」と呟き苦笑いする。
 
 ……彼の過去のことはキリカから聞いた。
 未だに兄は過去のことで苦しんでいる。未だに光に入るのを拒んでいると……キリカはそう言っていた。
 外見も性格も似てないのに、貴方達は双子の兄妹なのね。お互いのことを想い、お互いに相手に押しつけずに自分の中で溜めていることも……。
 ふと口を開いて言ってしまった。自分でも不思議なくらい、こんな言葉を言うのがわからなかった。

「兄妹仲良くしなさいよ。ケンカしても嫌いになっても、最後には仲直り出来る兄妹関係を築きなさい」
「え……」

 もちろん相手は私の言葉に戸惑い始める。自分でも、なんでこんなことを言うのかわからない。
 なんとなく、八つ当たりでキリカのせいにしたかった。こんなこと、自分が言うような人でできていないのに……。
 キリトは戸惑うもすぐにキリカのことを思ってから微笑んで頷いた。

「あぁ、わかっている」
「……笑顔見せれば恋に落ちると思っているの?これだから変態双子は」
「俺まで変態扱いか!? キリカと違ってギャルゲーなんてやらんぞ!」
「なら、リアルのギャルゲーをしているのね」
「リアルのギャルゲーってなんなのだ!」
「ナンパ」
「したことねぇよ!」
「しているでしょ? キザなこと言って、なんか口説く隠し味を入れたり、名言とか言ったり」
「そんな人に見えるか!?」
「見える」
「…………」

 それ以上、彼は口を開くことなくぶつぶつと呟いていた。
 何度かモンスターに遭遇(そうぐう)したらゴドフリーの指揮に従うわけもなく、一刀両断で斬り倒して行き、やがていくつめかの小高い岩山を超えて灰色の岩造りの迷宮区がその威容を現れたところで休憩を取った。

「ほらよ、貴様の食料だ」
「いらないわよ」
「いい加減にしろ! 貴様も一員ならば我々と仲良くしろ!」
「お断りだわ。特にストロングスとは仲良くなりたくない」
「くそぉ! 殺したい気分だぜ!」

 だいたい、食料が水の瓶と固焼きパンだけっておかしいでしょう。もう少し良い物与えなさいよ。

「……ジロジロ見ないでくれる? あと、にやけるの気持ち悪いわよ」
「お前がちゃんと食わねぇか見張っているんだよ!」

 にやけるのに何も言わないのね。こんな私に見張りとか不運で損な役ね。
 …………ハァ。
 仲良くなんかなれないわよ。貴方なんか……一生ね。
 あまり見られると、うざったい。彼を気にせず意識して一口分、水を流し込んだ。



「ドウセツ何しているんだろうなぁ……」
「隙あり!」
「うわぁっ」

 つか、今そんなこと言っている場合じゃなかった。
 アスナが放つ強烈な細剣の突きが肩をかすめた。声が漏れてしまったけど素早く対処、アスナが繰り出す連続突きを薙刀で防ぎ、防御に徹する。
 まったくもう……アスナの攻撃避けることなく守りに徹することって、私にとってはめちゃくちゃきついんだよね!

「キリカちゃん。どうしたの?」

 アスナの強烈な突きに一瞬よろけてしまうも、すぐさま保つことができ、再びアスナの攻撃から守りに徹し続けた、
 本当にイリ―ナさんはよく見ていたな……。
 イリーナさんの戦闘訓練は、お互いの弱点を強化することだった。
 とりあえず適当な場所でやれって、言われた時は、なんてアバウトだなって思ってしまったが、与えられた訓練メニューを聞かされて抜け目のない人だと改めて認識してしまった。
 それは弱点を克服する訓練であり、イリーナさんは私とアスナの弱点を見抜いていたのだ。
 まず、アスナの弱点は予想外な出来事に弱いこと。アスナはどの方向から対処は出来るがセオリーのない予想外な出来事に対処仕切れないらしい。アスナは教科書にない戦術の方法を意識するように戦えとイリーナさんは告げた。
 私に与えられたのは、避けないことと短期戦で勝とうとしないことだった。と言うのも、たった一回の戦闘で私の弱点が回避に特化故に防御が危うく、ごり押し気味で突破されそうなことと、回避が限界だと思い込んでいるが故に短期戦でとどめをさすことに意識が強く感じているのも危ういことを見抜いていたんだ。
 確かに、危ないと思ったら回避を強く意識して対処していた。そして、あえて隙を見せたところを回避して逆に隙をつくってとどめをさすカウンター戦術が主な戦闘スタイルだろう。短期戦でやるには回避には限界があるから長期戦を避けていたんだけど……それが弱点の一つだとは考えもしなかった。
 イリーナさんの戦った時を思い出してみれば、イリーナさんが剣と斧の二刀流になった途端、私はイリ―ナさんの凄まじい攻撃の連打に圧倒されてしまい、急激に流れが変わって隙を作ったと思い込んでいてしまい、絶対回避を活かしきれなかった。無意識に、長期戦に入ったら負けると感じて、無意識に強引で絶対回避を使ってしまった。それを含め、私は負けたんだ。
 今後上の層にいるモンスターやボスは今まで以上に手ごわいだろう。やり直しができない、一つの命を生かすには弱点を克服して、明日も明後日以降も生きるために強くなること。今日やるべきことはアスナのラッシュを避けずに防御だけで対処し、長期戦に慣れることだ。
 犯罪防止コード圏内で広い場所で約一時間ずっとアスナと戦っている。武器による攻撃が当たっても不可視の障壁がダメージを防いでいるので安全だ。とはいえ、最初のアスナからの一撃は、衝撃が大きく思わず倒れてしまった。カッコ悪くて情けないようにね。
 犯罪防止コード圏内だからオレンジに変わらないからって、怒りの矛先を私にぶつけているよね? だって勢いが凄いんだもん、アスナ。
 避け禁止、慣れない防御に徹する私はアスナの細剣から繰り出す突きの連続に対処仕切れなかった。これがデュエルなら二桁は私の負けである。しかし参ったな……。
 薙刀で細剣を抑えたり弾き上げたり、足を使って避けたりすればいいんだけど、今の薙刀は受け止めたりするだけなので長くて細い縦として扱っている。
 アスナの細剣スキルは、ドウセツに誇る速さ。剣先が処理落ちしているし、何よりも連続攻撃が速いから近寄れないし隙がない。それと、アスナは予想外なことに弱いから対処しろって言うことは、私が予想外なことをやれと言うことになってしまう故に、私だけ注文が結構多いのだ。……私だけ厳しくないですか、イリーナさん?
 二桁のうち四回負けたのは、予想外な奇襲が浮かばずに隙になったところを確実にさされてしまったからだ。なんて情けない。
 訓練と言っても、情けないままで負けるのは嫌なのでそろそろ反撃に出たい。そろそろ長期戦にもなれてきたところで、攻撃に参加するとしよう。
 アスナが繰り出す突きを防いで距離をとり、私は薙刀は剣道の上段の構えをした。

「なに、その構え?」
「剣道の上段の構え、薙刀バージョン」
「どんな使い方よ」

 アスナはクスッと笑うもすぐ警戒して、構え直す。イリーナさんが与えられた通りなら、私が普通なことしないことを予想しているだろう。だから敢えて、このまま面打ちするのも裏をかいてありにはなりそうだけど。アスナの要望通り、普通じゃないことをやってみますかね。
 私は上段構えを保った。
 どちらか攻めるかで駆け引きで勝てば、そのまま勝利につながるけど。私がやろうとしているのはアスナから攻めないと出来ない。

「どうしたのキリカちゃん? 全く動かない……」

 なんていうのはないんだよね!

「おりゃああああ!」

 私はアスナの一瞬の隙を見逃さずに、そのまま薙刀で面打ちを仕掛けた。

「甘いわ、キリカちゃん!」

 それをアスナは読んでいたようで、逆にこっちが隙を与えてしまい懐に飛び込まれてしまった。
 この場合、絶対回避を使えば問題ないんだよね。スキルを使ってないし。でも、それじゃあ面白くはないので、私なりに対処することにした。

「とどめだと思うのは早いんじゃないかな? アスナ!」

 私は薙刀を手放して懐に飛び込んできてひと突きをしゃがんで回避。そのままアスナの後ろに回って、地面に落ちていく薙刀をキャッチ。

「しまっ……」

 そのまま薙刀を後ろに向け刺した。丁度薙刀の刃がアスナに当たった。

「……今回は私の勝ちだね」
「あーもう! 読んでいたのに!」」

 自信満々に言うとアスナは悔しそうだった。
 でも、自信満々に言うことじゃないんだよね。結局想定外のことをしたら、アスナに全部読まれていた。ただ、勝てたのはアスナがそれに対応できる速さが足りなかっただけである。最後の攻撃を避けていたら、まだ続いていたか私の負けになっていただろう。
 私もまだまだ強くならないといけないってことか。

「これで一勝十二敗か……」

 やっと一勝……。数字にしてみればひどいな。一時間でやっと一勝だもんね。縛りルールあったとしても酷い結果だよ。
 ちょっと落ち込んでいる様子が出てきてしまったらしく、アスナに褒められた。

「でもキリカちゃん。後半になってから隙が少なくなってきたし動きも早くなっていたよ」
「え、そうなの?」
「うん。だから自信持ったら?」

 ……思い返せば、前半は八回当たって、中半は三回、後半は……一回しか負けていなかったかもしれない。戦闘に集中してあんまり覚えていないけど……。
 もしかしたら、短期戦より長期戦のほうが得意なのか? いや、まだわからないな。たまたま後半になったら強かったって言うこともあるし……それを証明するには、次は敗北数が二桁にならないように防御に徹しよう。

「そろそろお昼になるけど休憩する? って……聞いている?」
「え、う、うん。聞いているよ。聞いている」
「……明らかに他のこと考えたでしょうよ。そんなに兄のことが心配?」
「え、うん、まぁ……それもあるんだけど」
「それも?」

 以外にも素直に返したら、いつのまにかウインドウを操作してマップを私に見せる。映し出されたのは、ここの層の地図でその中心には五つの光点が示されていた。

「コトブリーのパーティーのメンバーにクラディールがいるの」
「く、グラビィ……ビイ?」
「重力じゃないって。しかも全然違うし」

 いや、なんかどっかで耳にしたような、ないような……つか、初耳でもおかしくはないかなぁ?

「前に言っていたじゃない。護衛ABCの一人」
「護衛ABC……あぁ! 護衛Aのやつか!」
「そんなモブみたいな覚え方して……」

 確か護衛Aがそんなような名前だった気がする。護衛Cのストレングスの印象が強かったから普通に忘れていた。
 確か、その人の特徴が……ネチネチしたストーカーっぽいおじさんだっけか? 兄がアスナと慣れているのが気に食わないようだったな……。
 そうなると確かに心配。クラディールと言う人は兄のことを邪魔者だって思うかもしれない。

「あと、もう一人がストロングスなの」
「いや、それだとストロングスのほうが心配だわ……」

 今頃、ドウセツの毒舌でタジタジにされているかと。見た目は知的なのに純粋と言うか、挑発にすぐ乗ると言うかキャラに似合わないと言うか……今頃、ドウセツは何やっているんだろう。ちゃんと馴染んでいるのかな?
 帰ってきたら話してもらおう。そして、今日のことをドウセツに話そう。
 期待とは裏腹に、アスナの表情が深刻になった。

「アスナ?」

 アスナは立ち上がった。

「行こ、キリカちゃん! キリト君とドウセツが危ない!」
「え、どういうこと?」
「死ぬかもしれないってこと!」
「え?」

 私は急いでウインドウを操作してマップを表示。アスナは急いで行ってしまったので、私も慌ててマップを見ながらアスナの後を追う。

「こ、これは!?」

 マップを見て、私は何故、アスナが必死に走り出しているのか、深刻な顔で言った言葉を知った。そして街の西門へ通り越し、荒野のフィールドへと全力疾走で足を動かす。
 コトブリーを含めた数名の光点が突然消えて、兄とドウセツのステータスはHPバーの周りに緑色に点滅する枠で(おお)われている。これを意味するのは、麻痺状態だ。
 麻痺になれば、一部を除いてしばらく行動が不可能になる異常状態。これまで多くのオレンジプレイヤーが人の命を奪った手段でもある。
 イリーナさんから血聖騎士団のフレンドリストを登録させてくれたからみんなの情報がわかる。その中で、クラディールとストロングスだけがHPは満タンで、ステータスも平常になっている。
 嫌な予感が当たれば、二人が仕掛けた罠にかかってしまった。コトブリー達はそれにやられてしまい、兄もドウセツもいずれかは……。

「させるかあああああああああ!!」

 この世界はゲームの中だから息切れはしない、常に全力疾走することも可能だ。だけど、二人がいる場所は一時間かけて歩いた距離。間に合うかどうかわからないけど、間に合わなければ……。
 いや、違う。
 なんとしてでも、間に合わせる!

「アスナ…………」

 兄のことはアスナに任せよう。
 私は、ドウセツを助ける!

「兄のこと、よろしくね!」

 もう一段、もう二段、ギアをかけて力強く地面を蹴り上げ、前へと進み出した。
 失ってはいけない。死んではいけない。何があっても間に合わなければ、助けださなければいけない!

 だって…………。



『センリさん。本当に言わないでくださいよ』
『なんなら契約書みたいなもの書く?』
『そこまでしなくていいです』
『それは残念』
『もう…………最初は本当に成り行きだったんです。ドウセツも成り行きで泊めてくれたと思います』
『うんうん』
『そこで……初めてドウセツの素顔を見たような気がしているんです』
『素顔?』
『ドウセツは気づいていないと思います。だって、寝ながら私に抱きしめて…………泣いていたんです』
『寝ぼけたんじゃない?』
『そうかもしれません。ですが、ドウセツは確かに泣いていました。その次の夜の日も私にすがって泣いていました。もちろん寝ていましたが……』
『放って置けなかっと?』
『泣いているのに、私は素通りなんて出来ませんよ。普段はクールで毒舌、でも不器用に優しくてなんだかんだ言っても私につきあってくれる。そんなドウセツが、夜になると温もりを離したくないように掴んで怯えるように涙を流しながら寝ていました』
『ドウセツの意外な一面ね……』
『意外じゃないかもしれません』
『どう言うこと?』
『本当は寂しがり屋で臆病じゃないかと、弱さを見せず、クールで毒舌になれば独りでも強くて大丈夫だと思えますからね。でも、寝ながら泣いていたドウセツに……確かな弱さがありました』
『…………そう。そう言うことね、いいの? お節介って思われるよ?』
『お節介でいいですよ。言われまくっていますから。ドウセツを救いたい、そして何よりも笑顔のドウセツが見たいからですね』
『……そっか。キリカちゃんなら、まかせられそうだね』



 撮影が終わった時、センリさんにドウセツの一面を話したことを思い出していた。
 そうよ。
 まだドウセツの笑顔見てないのよ。
 死なせてはいけない。

 絶対、

 絶対に、

「守ってみせる!!」

 一生に一度しかない全力疾走は助けたい想いを力に変え、ドウセツの元へと駆け出した。 
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