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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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白い光の中で
  ターン11 壊れた鉄砲水

 
前書き
すいません。遅れました。言い訳はないです。単純に書くのにてこずってただけです。しかもそれですらこの有様。
 

 
「ごめん、ごめんね、皆」
『………?』

 あれからどこをどう歩いたのかは、自分でもよく覚えてない。だけどふと気づいたら、海辺まで来ていた。何となく歩く気にならず、その場に腰を下ろす。砂が入ったら洗濯が大変になるだろうけど、そんなこと知ったことではない。誰も何も言わない。だけど、僕にはもうわかってる。僕のデッキは間違いなく、僕のために最大限に力を発揮してくれた。あの初手をきちんと使いこなしていれば、こんなことにはならなかったはずなのに。

「もうわかってるから、気を遣わなくてもいいよ。あのターンでの正解は、白夜龍1体をリリースして霧の王のアドバンス召喚………そうすればリリース封印能力でトランスターンはそもそも発動できないし、エルフェンの効果で霧の王を守備表示にしてもチャクチャルさんが守備表示のままだからバトルが成り立たない。そうすれば、少なくとも次の僕のターンを迎えることができた。………違う?」

 辺りには人どころか海鳥すらおらず、ひたすら波の音のみが聞こえてくる。霧の王はレベル7の最上級モンスターだが、色々と個性的な点もある。その1つが、召喚に必要なリリースを1体、またはなしで済ますことのできる妥協召喚能力と、場のあらゆるリリースを封印する能力だ。白夜龍1体をリリースすればその攻撃力はウォーターワールド込みで3500とまず戦闘破壊されない数値となり、しかも上級モンスターの展開すら許さない。結局のところ、あの初手5枚に無駄なカードなんてものは1枚もなかったのだ。

『だがそれは結果論だ。あの時点では、向こうの手札はわからなかった。白夜龍を残そうとする判断も、決して間違いではない』
「確かにね。だけど、僕が一番嫌なのはそこじゃないよ。僕はねチャクチャルさん、僕は別にそこまでデュエルが強いわけじゃないってのは自分が一番よくわかってるんだよ。そんな僕がここまでいろんな相手に勝ってこれたのは、皆が僕に力を貸してくれたから。それがわかってるはずなのにあの局面、僕は自分のデッキよりも自分の浅い考えを信じたんだ。いつの間にか、実力で勝って来たなんて勘違いしてた僕がどこかにいる。それが、許せないんだよ。ねえお願いチャクチャルさん、今の僕に話しかけないでよ。…………ごめん。わがままなのはわかってる。でも少しだけ、一人にさせて」

 まだ何か言い返そうとしていたようだが、結局何を言っても無駄だと悟ったらしいチャクチャルさんがその場を去っていくような気配がした。
 また一人に戻って深いため息をついた瞬間、入れ替わるようにして別の気配。

「………嫌味でも言いに来たの?」

 棘のある僕の言葉に軽く首を振って、砂の上で体育座りをする僕のすぐ横にすとん、と腰を下ろす銀色の鎧。ついさっき話題にあげた張本人、霧の王だ。別に実体化させた覚えはないけれど、いつの間にかこやつも勝手に出てこれるようになっていたらしい。今初めて知った。
 ………ああ、まったく情けない。無様以外の何物でもない。自分の大事なカードのことすら把握し切れてなかっただなんて。
 そうやって自己嫌悪を強めていると、黙ったままの霧の王が僕の背にポン、と慰めるように手を乗せる。反射的に払いのけた。少し悲しそうなそぶりを見せた後、すうっと霧の王の姿が消えていく。やっちゃったな、と心のどこかでぼんやり思った。
 これというのも、僕が勝てないから悪いんだ。心のどこかで、ぼそりとそんな声がした。そうかもしれないな、とぼんやり思う。なら、どうすればいいんだろうか。その声に問いかけると、さっきよりもはっきりした声音で答えが返ってくる。簡単だ。勝てばいい。どんな相手にも勝てるようになれば、こんなことで迷わなくてもよくなるんだ。




 …………気づいたら、いつのまにか体育座りのまま寝ていたらしい。ついさっきまで頭の上にあった太陽が、今では海の向こうに沈みかかっている。そのまま特に一言もしゃべることなく、ただただ時間だけが過ぎていく。ひたすら日が沈んでいくのを眺めながら波の音を聞いていると、少しずつ荒んだ気持ちが落ち着いてくるのが分かった。気分はいまだに最悪のままだけど、少なくとももう誰彼構わず当たり散らすようなことはないだろう。時間がたって落ち着いたのももちろんあるけれど、なによりもこれからは勝つことだけを考えていけばいいというはっきりした目標ができたのが大きい。完全に日が沈みきって辺りが暗くなるまででもう少し待ってから、思い切って立ち上がる。
 ゆっくりと歩いていると、すぐ横の草むらで何やら音がした。位置から言って、まず人間ではない。別に珍しくもない狸か何かだろうと思って特に気に留めないでいると、もう一度何かが動くガサゴソという音。しかもちょっと近づいてきてる。この島の動物は基本的に野生のままなのでわざわざこんな人の多いところまで来る方が珍しいのだが、もしかしたら道に迷ったのかもしれない。さすがに見捨てる気分にもなれず、刺激しないようにそっと音のした方へと近づいていくと、そこから飛び出してきた茶色い影は。

「あれ、ファラオじゃないの」

 僕の足元をのそのそと歩くのは、最近どこかに出歩いてばっかりでめったに帰ってこなくなったオシリスレッドの正式寮長の猫であるファラオ。ちゃんとご飯食べれてるのかちょっと不安だったけど、相変わらず丸々としてるところを見ると何不自由なく暮らしているらしい。

「じゃあ、ファラオもたまには家に帰ってくるんだよ。ってあれ、どしたの一体」

 ちょっと気が抜けて、そのまま通り抜けようとするが、その瞬間にファラオが僕の目の前に回り込んできた。

「んー?よくわかんないけど、もう帰るから………って、何?」

 道の端によって通ろうとするも、またしてもそれを妨害しにくるファラオ。反対側に移動すると、今度はそっちに回り込んでくる。ぐるぐるとその場を回ること数秒、ようやくどこか来てほしいところがあるのだと察しがついた。自分のことにいっぱいいっぱいで、そんな簡単なことに気づくのにすら時間がかかったのだ。

「わかったわかった。……ハア」

 今日何度目かもわからないため息をつき、のそのそと歩くファラオの後ろを大人しくついていく。その後レッド寮へ続く道からは大きく外れ、森の中を歩くこと10分。最終的にたどり着いたのは、僕もよーく知ってる場所だった。別に何かとんでもないものを期待したわけではないけど、ちょっと拍子抜け。

「ああ、よく来たね。さ、上がって上がって」

 そんな家主の声がして、ギギギと音を立てて錆びついた門がひとりでに開く。ここは廃寮、元特待寮の現幽霊屋敷だ。そして2階の窓から手を振っているのがここの主である稲石さん。そう言えば、前にここに来たのはもうテスト前だから、だいたい2週間ぐらいかな。たったそれだけの間にいろんなことが………と、これまであったことを思い返すと嫌な記憶を思い出しそうになって慌てて頭を振って余計な思考を追い払う。すぐ後ろのファラオを見ると、さっさと入れ、と言わんばかりの態度。ふむ、そこまで言うならお邪魔してみようかな。





「なるほどねえ、今そんなことになってたんだ」

 誰かいるのを悟られないようにとわざと荒れ放題な庭や埃まるけの玄関と違い、きれいに整頓されてキャンドルの明かりがともる稲石さんの自室。入れてもらった紅茶をすすりながら、聞かれるままにここ最近の出来事を話していた。なにしろ、地縛霊の稲石さんはこの敷地から外に出ることができない。誰も訪ねてこないこの場所も相まって、本校で何が起きているのかはまるでわかっていないのだ。

「それで、わざわざ自分のところまで?」
「あーいや、そういうわけじゃなくてファラオに連れてこられて」
「ファラオが?あーなるほど、自分に手を貸せと。ねえセンセ、自分で言ったらどうなのさ」

 紅茶に砂糖を入れながら、じとーっとした目でファラオを見る稲石さん。すると見つめられたファラオの口から、黄色いピンポン玉サイズの光の球がポワンと吐きだされた。そのまま光の球は僕らの方へふわふわ飛んできて、そこを中心として半透明の人間の姿が浮かび上がる。もう今更幽霊ぐらいじゃ驚かないぞ、と思いながら見ていたのだが浮かび上がってきたその顔を見た時、思わずカップを取り落としそうになった。

「ちょっとファラオ、なんで出しちゃうのかニャ!………あ、えーと、お久しぶりなんだにゃ、清明君」
「だ、大徳寺先生!?」

 ちょっとくたびれたスーツを着た、長身でメガネの男。忘れようもないその顔は僕らの元教師にしてセブンスターズ最後の刺客、大徳寺先生こと錬金術師アムナエルだ。

「えっと、何やってんですか先生。去年成仏してませんでしたっけ」
「うん、私もそのつもりだったんだけどニャ。まあいろいろあって、今はこうしてファラオと一緒にいるのニャ」

 そう言って咳払いをし、まあそんなことより、と露骨に話題を変えてくる。………今の反応を見るに今まで出てこなかったのは多分あれなんだろう、いきなり出てきてびっくりさせるタイミングをうかがってたとかそういうしょうもない理由なんだろう。とはいえ、今は深く追求する元気もないので気が付かなかったふりをする。

「今日ここまで来てもらったのは、君のことが心配だからなのニャ」
「僕が?」
「うん。ファラオと一緒に私もあの場所にいたんだけど、はっきり言ってだいぶこっぴどくやられてたからニャー。これでも去年までは教師だった身、元生徒のことはやっぱり気になるもんだニャ」

 ああ、やっぱりこの人はいい人なんだなあ、と思う。つくづく、いい先生だ。だからこそ、その心配に素直に答えられない自分が情けない。

「………カウンセリングならいりませんよ、よけい惨めになるだけなんで。用がそれだけなら、もう帰りますね」
「あ、待つのにゃ!」

 もうだいぶ落ち着いたと自分では思っていたけど、今の僕はまだこの好意を素直に受け取ることができないみたいだ。本当は嬉しいはずなのに、乾ききった眼からは何も出てこないし口を開けば嫌味が飛び出す。なんとかしたいのに、まだまだガキの僕には自分を抑えることができない。
 と、そこでさっきからずっと冷めた目で紅茶をすすっていた稲石さんがカップをコトリと置いた。

「なるほどねぇ。さすが錬金術師、こうなることも予想済みでここまで引っ張ってきたのね。ねえ、1つ聞いてもいいかな?」
「え?」
「君はここを出て、その後どうするつもりなんだい?十代君の話はもう自分も聞いたけど、同じく行方不明にでもなるの?」

 む、それについては特に考えてなかった。だけどあえて何か言うなら、負けっぱなしというのは悔しい。多分十代だって、今頃新しい力を手に入れているだろう。特に根拠はないけど、何となくそんな気がする。というか、そうであって欲しい。
 とはいえ、今この話に十代は関係ない。これは僕についての話だ。要するに一言でまとめるなら、

「強くなりたい、かな」

 月並みな答えだと思う。でも、すごく正直な僕の気持ちだ。
 だけどその答えを聞いた稲石さんはフン、と馬鹿にしたように軽く鼻で笑った。再びカップを手に取り、残っていた紅茶を一気に飲みきってから再び口を開く。

「まあ自分だってあんまり厳しいことは言いたくないんだけどさ。無理だね」
「えっ………」

 とっさのことに言葉が出ない。気持ちを立て直す前に、稲石さんの冷たい声が飛ぶ。

「そもそも1つ聞きたいんだけどさ、強くなる、ってどういうことかわかってる?」

 強くなるとは何か。そりゃあもちろん、デュエルに勝てるようになることだろう。強ければ勝つ。これはもう疑いようがない。あいあんだーすたーんど。
 間違ったことを言っているつもりはないが、なぜかその答えにさらに眉をひそめる稲石さん。

「…………こりゃあ、ちょっと見ないうちにずいぶん重症だねぇ。いい?強くなるなんて一口に言っても、その方法なんて星の数ほどあるからね?例えばビートダウン1つにしても一発あたりの火力を高めるか連続して細かく攻撃を仕掛けていくか。バーンデッキでも同じことが言える。矛盾した話だけど、ロマンを安定して出せるようにするとか戦線を分厚くして数の勝負を仕掛けていくかってことだね。相手のデッキ切れを狙うためにデッキを直接切り崩す方向に進化するか、ひたすら耐え忍んで何もしないうちに相手が負けるように防御力を高めるか。あんまり推奨はしないけど、なんかこう電波が出せる機械を発明して相手のデュエルディスクがカードデータを読み取れなくさせるなんて方法もある。あるいはもっとてっとり早く、相手がカードを出す前に骨を折るとかして物理的にカードを使えなくさせるなんてのも一つの手だよ。ほかにも相手が切り札の使用をためらうように仕向けるように相手の思考を誘導する話術を磨いたりするのもグレーゾーンだけどありっちゃありだろうし」
「後半が色々物騒だニャ!?」

 色々とツッコミどころもあるが、僕は一言もしゃべることができなかった。大徳寺先生、あなたは稲石さんの顔が見えない位置にいるからそんなことを言うだけの余裕があるんだ。それほどまでに稲石さんの目は冷たく、まるでその視線に物理的な拘束力でもあるかのように体がピクリとも動かない。

「言うだけなら、そりゃあまあそれはノーコストだろうさ。ただね、そんなただ強くなりたい、だなんて雑な願いはどう頑張っても叶わないよ。………構えてみな。自分が相手したげるから」
「え、稲石さん……?」
「今何かしないと本気で手遅れになりそうだしね。方向を見失って負けがかさんで完全に心が折れる前に、なんとか叩き直してあげるよ。はい、構えて。早く!」
「は、はい!」

 怖かったから、というよりもむしろなにがなんだかよくわからないままにデュエルディスクを構える。デッキをセットし、机を挟んだ状態のまま稲石さんと向かい合う。大徳寺先生もいつものニコニコ笑いではなく、アムナエルの時みたいな鋭い視線で僕らを眺める。うう、やりづらい。

「「デュエル!」」

「先行はもらうよ、自分のターン。モンスターを裏守備でセット、これでターンエンド」
「僕のターン、ドロー。ここは………」

 稲石さんの場には、セットモンスターが1体。またいつものゴーストリックだろうか、それとも別のリバース系モンスターだろうか。僕の手札には水属性をリリースして手札から特殊召喚できるモンスター、シャークラーケンがいる。このカードを出したうえでさらにモンスターの攻撃力を1000ポイント上げるこのカード、アクア・ジェットを使えばほぼ確実にあのセットモンスターは破壊できるけど。

「ここは慎重に、モンスターをセット。さらにカードを2枚セットして、ターンエンド」

 今セットしたモンスターは下級魚族ではかなり高めの守備力1600を誇るツーヘッド・シャークで、カードは守備力3000を誇る最強クラスの罠モンスター、メタル・リフレクト・スライムと相手の攻撃を無効にできるポセイドン・ウェーブ。これで少なくとも、このターンは持ちこたえられるはずだ。

 稲石 LP4000 手札:4
モンスター:???(セット)
魔法・罠:なし

 清明 LP4000 手札:3
モンスター:???(セット)
魔法・罠:2(伏せ)

「自分のターン。モンスターをセット。そして最初にセットしていたモンスターを反転召喚、ゴーストリック・ワーウルフ!」

 ワーウルフ、つまり直訳して人狼。ワオーンと吠える上半身裸の狼男が飛びかかってきて、4回連続で両腕の爪で僕を引き裂く。

 ゴーストリック・ワーウルフ 攻1400
 清明 LP4000→3600

「ワーウルフはリバースした時、場のセットカード1枚につき100ポイントのバーンダメージを与えることができる。自分の場には1枚、そっちには3枚。まずは400ダメージからさ」
「くっ……」

 結果的には、さっきのターンはシャークラーケンで攻撃する方がよかったらしい。外した。

「それから魔法カード、大嵐を発動。場にある魔法、罠カードは全部破壊さ」

 荒れ狂う風が僕のスライムカードを、そしてポセイドン・ウェーブを吹き飛ばしていく。不味い、これで僕の場には守備力1600のツーヘッドが1体だけだ。

「止めにフィールド魔法、ゴーストリック・ハウスを発動。これで相手が裏守備モンスターしかコントロールしていない時、お互いにダイレクトアタック可能。ワーウルフ、直接攻撃!」

 またまたとびかかってきた人狼が、今度は僕の肩にがぶりと噛みつく。ツーヘッド、表側守備表示で出しておけばよかったのかな。

 ゴーストリック・ワーウルフ 攻1400→清明(直接攻撃)
 清明 LP3600→2200

「メイン2にワーウルフの効果で自身を裏守備に変更、ターンエンド」
「ぼ、僕のターン………」

 強い。元からかなり強い人だったけど、今日の稲石さんはいつもより強い。でも、まだ勝機はある、はずだ。

「ツーヘッド・シャークを反転召喚、そして魔法カード、アクア・ジェットを発動!これで、ツーヘッドの攻撃力は2200だ!さらに、そのままシャクトパスを通常召喚!」

 ツーヘッド・シャーク 攻1200→2200
 シャクトパス 攻1600

 以前までだったらアクア・ジェットを使うたびにマジックコンボ呼ばわりしてたユーノも、今はもう僕の隣にはいない。ふと感じた寂しさをごまかすように首を振り、バトルに集中しようとする。

「ツーヘッドの能力は2回攻撃、これでゴーストリック・ハウスの効果を逆手にとればこっちからも直接攻撃ができる!ツーヘッド、稲石さんにダイレクトアタック!」
「はい残念、手札からゴーストリック・フロストの効果発動ね。直接攻撃してきたツーヘッド・シャークを凍りつかせて裏守備に変更、そしてこのモンスターを裏守備で特殊召喚」

 2つの顎をもつ鮫の牙が稲石さんに躍り掛かるが、獲物を捕らえる前に突然吹いてきた冷風に当たってその体がみるみるうちに氷漬けになる。犯人と思われる厚着をした雪だるまが、見つかったことに気づいて慌ててクロッシュ………西洋料理を入れておく蓋をかぶって隠れこむ。

「まだまだぁ!シャクトパスでダイレクトアタック!」
「ゴーストリック・ランタン効果。手札から裏守備で特殊召喚して、その攻撃は無効さ」
「く、くぅ……」

 何てことだ、まさか全部止められるとは。こうなった以上僕にできることはない。

「ターンエンド………」

 稲石 LP4000 手札:0
モンスター:???(ゴーストリック・ワーウルフ)
      ???(ゴーストリック・フロスト)
      ???(ゴーストリック・ランタン)
      ???(セット)
魔法・罠:なし
場:ゴーストリック・ハウス

 清明 LP2200 手札:3
モンスター:???(ツーヘッド・シャーク)
      シャクトパス(攻)
魔法・罠:なし

「ドロー。カードをセットして、メタモルポットを反転召喚。お互いに手札をすべて捨てて、カードを5枚ドローしてね」

 メタモルポット 攻700

「さらにカードを2枚セットして、モンスターをセット。そのままゴーストリック・ワーウルフ反転召喚で今度は600ポイントダメージって言いたいところだけど、ハウスのもう1つの効果でそのダメージは半分の300にしかならないね。だけど、減ったダメージは量でカバー。今セットした魔法カード、火炎地獄を発動。このカードは相手に1000ポイントダメージを与える代わりに自分も500のダメージを受ける………けど、ハウスの効果によってお互いが受けるダメージはこれまたその半分さ」

 清明 LP2200→1900→1400
 稲石 LP4000→3750

 じわじわと削られていくライフ。気づけばその数値はゴーストリック・ワーウルフの攻撃力と同じ………僕の手札にこの状況を打破できるカードはなく、もしあのカードの中にシャクトパスを破壊できるカードがあればハウス効果のダイレクトアタックが成立するようになり、僕の負けだ。
 ああ、また勝てない。だったらもう、別にこのデュエルを続けなくてもいいんじゃないかな。そんな思いが、ちらりと胸をよぎる。

「稲石さん、もう………」

 やめよう。そう言おうとした瞬間、稲石さんが諦めたように肩をすくめた。

「………ふーむ。もう1ターンだけ待とうかな。ワーウルフを裏側守備表示に変更、これでターンエンド」

 どうやら、このターンでシャクトパスを倒すことはできなかったようだ。なんか綱渡りばっかりで、つくづくデッキに対して申し訳ないと思う。こんなしょうもないのが使い手でいいんだろうか、ほんとに。

「ああ、僕のターンか。ドロー」

 一応手札は5枚、今のドローも合わせると6枚ある。だけど、勝てる気がしない。

「速攻魔法、サイクロンを発動。対象は、えっと」

 どれを破壊しようか。ハウスを破壊すればシャクトパス達がやられても返しのダイレクトアタックは防げるけど、稲石さんもあれだけドローして手札に2枚目のハウスかミュージアムが来ていないとは考えにくい。じゃあ、セットカードだろうか。とはいえ今の稲石さんのデッキはバーン軸らしいし、何も考えずにこのサイクロンを使ってもフリーチェーンでかわされる可能性もある。いや、そんなのは度のデッキでも同じだし考えるだけ無駄か。

「その伏せカード、僕から見て右側の方を」
「ん」

 風が吹き、稲石さんのカードを巻き上げる。その際に見えたイラストは、っと。

「地砕き………?」

 僕でも知ってる割と有名なカード、地砕き。大地を砕く拳のイラストが印象的な、相手フィールドに存在する守備力の1番高いモンスターを破壊する対象にとらないことが厄介だったりする通常魔法カードだ。それをセットしたのは別にいい。おそらく、ワーウルフの効果で与えるダメージを増やしたかったから先に伏せたのだろう。いや待てよ、その前のメタモルポットで捨てるのを回避するために伏せたほうだったかもしれない。だがそんなことはどうでもいい、今重要なのはそれを稲石さんが前のターンに使わなかったということだ。通常魔法は他のカードと違って1度セットしてからでもそのターン中に使うことができるという特徴があり、当然稲石さんもそのことは知っている。だというのに、それを使っていれば勝てる状況だったにもかかわらずそれをしなかった。
 というか大体、今の稲石さんのプレイングはちょいちょいおかしい。バーン軸なのにハウスを使ってダメージを減らすなんて本末転倒だし、さっきのターンだって十分にライフが残ってる状態でわざわざランタンまで出す意味は薄いだろう。メタモルポットだってわざわざこのタイミングで反転召喚するようなものでもないし。

「稲石さん、今、本気ですか」

 自然と声が固くなる。もし舐めプされてるんだとしたら、それは嫌だ。でもまさか、あの稲石さんはそんなことするキャラじゃない。だけどそんな思いを全部見透かしているような目で稲石さんは僕の顔を見て、嫌味たっぷりの口調で返す。

「ああ、気づいた?でもね、今の君に舐めプに対して怒る権利なんてたいそうなものがあると思う?悪いけど、今の君に文句を言う資格はないよ。………さっき君が何を言おうとしてたのか、自分が気付いてないとでも思った?もうやめようだなんて、随分と馬鹿にしてくれたものだね。自分が知ってる遊野清明って男は、そんなこと言うような屑じゃなかったよ、うん」
「…………」

 稲石さんがなんで怒ってるのか、正直まだよくわからない。だけどその沈黙を理解と受け取ったらしくそれに気をよくしたのか、さらに口を開く稲石さん。

「勝敗だけにしかこだわらなくなるとこうなるっていういい例さ。勝ちを目指すのは結構だけど、その路線変更に君のデッキが、何より君自身がまるでついていけてない。こういう説教みたいなのは苦手なんだけど要するにまとめるとだね、なんだ、そんな慣れないことはするもんじゃないよ」
「は、はい」

 そうは言っても、勝つことができなければ何の意味もない。あなたの言ってることは、ただの理想論だ。ヒーローである十代がおらず、万丈目たちも次々と光の結社に飲み込まれていく中、僕が勝ち続けるしか道はないじゃないか。そう言いそうになるが、また喧嘩になりそうだったのでぐっと飲み込んだ。
 だがそれすらも鋭い稲石さんにはお見通しだったようで、ため息を一つつくとつまらなそうな顔でデュエルディスクの電源を落とした。デュエルが強制終了されたことで、お互いのソリッドビジョンが消えていく。

「え………?」
「もういいよ、どうやら自分と今の君とは、根本的なところで噛み合ってないみたいだし。これ以上やっても時間の無駄さ。さ、帰った帰った」

 ああ、僕は勝ちたいだけなのに。チャクチャルさんに続いて、稲石さんにまで見限られた。このまま取り返しのつかないことになる前に考え直せ、という声が頭の中で響く。だけどその声は、もっと大きな声にかき消された。
 いわく、この程度で見限るというならば、所詮はその程度の仲だったのだと。僕は何一つ悪くないのだ、むしろ自分のことをわかろうともしない者に全ての責任がある。だから無視してそのまま帰り、金輪際関わり合いにならなければいい。そして僕は一瞬迷った末、その声の言うことを聞くことにした。手早くデュエルディスクの上のカードをデッキに戻し、振り返りすらせずに廃寮を出ていく。あちらから非を認めて謝るなら別だけど、そうでもない限りもうここに来ることもないだろう。さあ、帰ったらどうしたら勝てるようになるか考えないと。勝とう。とにかく勝とう。勝って勝って勝ち続けないと。
 そんな僕の背に、とどめを刺すかのような稲石さんの言葉が突き刺さった。

「あ、それとね。トランスターンは対象モンスターを墓地に送って発動するカードだから、君の言った通りの手札ならどっちみち詰んでたよ」






「………さて、と。どう思う?」
「かなり荒れてるのニャ」

 清明がいなくなった部屋に、幽霊二人の声が響く。

「いや、そうじゃなくて。それはわかってるけど治るかな、あれ」
「正直、本人次第としか言いようがないニャ。錬金術はあくまで命を作ることが目的の技、心を作ったり癒したりは専門外だから私には何とも」

 あっさりと言い切った後、ただまあ、と言葉をつなげる大徳寺。

「今回の彼はどうも、単にショックを受けたなんて理由じゃすまないと思うのニャ」

 その言葉に同意を示すよう頷く稲石。大徳寺の次の発言を最後に2人の姿は幻のように消え、そしてそこには誰もいなくなった。

「なら、私にも何かできるかもしれない。ファラオ、それに君にも一緒に来てほしいのニャ。私のかわいい教え子のため、できる限りの手は尽くしてみるのニャ」 
 

 
後書き
ちなみに私は、この作品におけるシリアスな展開はあまり長引かせる気がないです。
今回もまたしかり。

………えっ、この程度でシリアスとか言うなって?これでも本人は割と頑張ってる方なんですよ、ええ。 
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