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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

作者:GOHON
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第13話 『島編第2話・すごく敏感な雪姫先輩「こっちをちゃんと見て……」』

13話


計佑たちが探索を始めて数時間。
結局資料が残っていた部屋でもめぼしいものは見当たらず、
今はまくらが見つけた、床にある扉の前に二人と一人はいた。

「なんか収納って感じはないですね……何にせよ、 開けてみましょうか」
「でも錠がしてあるよ……? こんなところの鍵は預かってないし。いくら計佑くんでも、力任せに開けられる……?」

いくらもなにも、往年のシュワルツェネッガーでも金属製の鍵を引きちぎるなんて無理だろうけれど。

「……まあやるだけやってみますよ。か弱い先輩にやらすワケにもいかないですからね」
「でも……ケガだってしてるのに。そんな力んだりとか……」

やはり心配そうに雪姫が見つめてくるが、

「大丈夫ですってば……ふんッ!!!」
<B>バキッ</b>
──引っ張ってみると、あっさり錠が壊れた。

「うおおおお!! ウソぉ!? 」
まさかの結果に、壊した本人も驚いた。

「すごーい! さすが計佑くん!!」

雪姫が満面の笑顔で、計佑へと拍手してくる。

「あー……老朽化してただけですよきっと……」

また変に雪姫の中で過大評価されたようで、くすぐったくなる。
誤魔化すように扉の中を覗いてみた。

「中はハシゴで降りれるみたいですね……結構深そうだな……」

──先輩を連れていくには、ちょっと危ないんじゃないかな……

「先輩はここで待──」

言いかけて、雪姫が一人にされるのを怖がっていた事を思い出した。

「……えっと。まずオレが降りて、明かりおいてきますね。そしたら呼びますから、それから降りてきてもらえますか?」
「う、うん……」

言い直すと、どこか不安そうにしながらも雪姫が頷いてきた。
雪姫の心情からするとすぐにでも降りてきたいのだろうけれど、
安全の為には、やはり自分がまず降りてしまってから彼女を迎えたほうがいい。

「じゃっ、行ってきます」

─────────────────────────────────

「ほんとに深かったな……」

ハシゴを降り切った計佑は、リュックから明かりを取り出した。

「大丈夫ー?」

雪姫が上から声をかけてくる。

「大丈夫でーす。今から明かりを置いてくるので、もうちょっと待ってくださいねー」

部屋をざっと見回す。
中央辺りにちょうどテーブルがあったので、そこに明かりを置き、ハシゴの下に戻る。

「お待たせしましたー、先輩も降りてきてくださーい」
「はーい……」

雪姫もいそいそとハシゴを降り始めた。

──先輩がジーンズでよかったな。スカートのままだったら、こんな風に下で待ち受けるとかってワケにはいかなかったもんな……

ぼんやりと雪姫を見守りながら考える。
朝はスカート姿の雪姫だったが、祖母の

「相当荒れてるハズだから、服なんかも気をつけておいたほうがいい」

とのアドバイスで着替えていた。

「ほ……本当に深いねぇ?」

途中で雪姫が話しかけてくる。

「もうちょっとですから。頑張ってください」
「あっ、うっうん」

計佑の声の近さで終わりを感じたのか、かなりゆっくりだった雪姫の動きが、少し早くなった。

──おっと……

いよいよ手が届く距離になって、計佑は何気なく手を伸ばした。
──少年には、何の下心もなかった。
なんだかんだでまくらとの触れ合いが多い計佑は、
こういう時に自然と助けを出してしまうクセがついていただけだった。
けれど相手はまくらではなく、緊張と恐怖で震えている少女で。
そんな少女に声もかけず、いきなり腰を掴んだりしたら──

<i>「ひっ!!」</i>

ビクリと硬直した雪姫が、ハシゴから手を離した。そのまま後ろ向きに倒れこんでくる。

──……ええっ!?

もう殆ど降りきったな、と、半ば安心していたところの不意打ちに、計佑も対応しきれなかった。
支えきれずに、雪姫もろとも倒れこんでしまう。
しかしそこは流石というべきか、自分は受け身もとらずに倒れながらも雪姫の身体から手を離すことはなく、彼女を床からは守りきった。

「ぐぅっ……!!」

──のだけれど、ケガを負ってる身体に相当の痛みが走るのは当然のことで──
雪姫の脇腹を掴んでいた手に、つい力が入ってしまった。

「ひあ!!」

雪姫が悲鳴を上げて、計佑の上で身を捩る。

「──!!」

少女のお尻が、計佑の股間の微妙な辺りを刺激して。痛みも忘れ、金縛りにあってしまう。

「んぅっ、計佑くんっくすぐった──」

雪姫が振り返ってくる。

「「……あ」」

超至近距離で目が合う。
──さっきのキス(事故)を思い出した。また計佑の手が力んでしまう。

「ひぅん!!」

雪姫の身体が、軽くブリッジをして海老反った。

──!! 今のウチに!!

慌ててそのまま雪姫の身体を持ち上げて、隣に下ろした。
まだ身体は痛かったが、慌てて上半身を起こす。ヒザも軽く立て、身体を折り曲げてヒザに頭を乗せた。
──しばらくは、この格好のまま動く訳にはいかない。

「いっつ……」

落ち着いたら安心して、つい声を漏らしてしまった。

「だっ大丈夫っ!? ケガしてるのに……ごめんなさいっ」
「あーいえっそんな……こっちこそ支えきれなくてすいません」

顔だけは起こして、なんとか雪姫に笑いかけてみせた。
「や、でも危なかったですね。また変なコトになる──」

言いかけて、ピキリと固まる。
──また余計な事を言ってしまった。雪姫の顔がみるみる赤くなる。

「あっぁ……すっすいません!! いきなり身体さわったりして……支えるにしても、一声かけるべきでしたよね……」

色恋には鈍い少年だが、さっきの行動の何がまずかったかぐらいは流石にわかった。

「うっううん……私が大袈裟に反応しちゃったのが悪いんだもの。ごめんね、私ちょっとくすぐったがりだから……」

──最初ハシゴから落ちそうになった反応は、くすぐったいというより怯えてたのが大きそうだけど……?

そんな意地の悪い事を雪姫に言える計佑でもなく。

──まあ確かに、倒れてからの先輩の反応は敏感な人のそれだったもんな……って、う!?

あの時の雪姫の、なんだか色っぽかった悲鳴を思い出してしまい──身体(主に一部)が落ち着くまでの時間を延長してしまう少年。

──それにしても……ほっそい腰だったな先輩……

それでも、雪姫の事を考えてしまうのはやめられない。

──まくらよりも背は高いのに、まくらより細かった気がする……なのに柔らかさはまくらと変わらなかったし……

改めて、雪姫のスタイルの良さに驚く。

──でも、まだわき腹とかでよかったかも……
今までのこと考えたら、オレの場合もっと変なトコ触っててもおかしくないもんな。
またそんな事して嫌われたりしたら……せっかく好きなんていってもらえたのに。

そこまで考えて、はたと気づく。

──なんで先輩に嫌われたくないんだ……いやっ、これは別にっ!! 変な意味じゃなくてっ、
嫌われるより好かれてるほうがいいのは当たり前のコトでっ、そんだけのことだしっ!!

ブンブンと頭を振る。

──あーもーだからーっ、今はまくらを戻すコトが最優先!!

……そんな風に、計佑はいつも通り、深く考える事からは逃げ出すのだった。

─────────────────────────────────

落ち着いた二人と一人が室内を見回してみると、
ベッドがあったり写真が飾られていたりで、普通の生活環境だった様子が伺えた。
飾られていた写真には美月芳夏と男性の仲睦まじい姿。どうやら美月芳夏の部屋だった様子だ。

「美月芳夏って人……こんなトコにいたのか? でも……なんでこんな地下なんかに?」

訳がわからずに、計佑は首をひねる。
雪姫の様子を見ると、何やら本棚を調べているようだった。
まくらに話しかける。

「おいまくら、お前はどう──」

まくらが、目を見開いて写真に見入っていた。

「どうしたまくら? この写真になんか気になることでも──」
「わーなつかしー!!」

まくらに質問を重ねたところで、雪姫の弾んだ声が聞こえた。何やら本を手にして計佑の元へとやって来て。

「知ってる? この昔話。じゃんっ!! "寝宮の花嫁"。 寝宮っていうのはこのへんの昔の呼び方なんだよ」
「それってどういう話なんですか?」

雪姫が本をめくりながら説明を始める。

「昔、美しい女の人がいて、ある男の人と恋をしていたの。
しかし二人はスレ違い離れ離れになってしまった……悲しみに暮れた女の人はある山姥に相談に行ったの。
『もう一度あの人に会わせてください』と……
だけど女の人は悪い山姥に騙されて、トゲのたくさん生えた蛇に噛まれて深い眠りに落ちてしまった……
けど最後は恋人のキスで目が覚めるんだよ」

まくらが「なんかいい話ダナー」と、うんうん頷いている。
計佑からしたら特に興味深い話でもなかったが、少し気になる事はあった。

「それって……」
「眠り姫とおんなじだよね」

計佑の言いたい事を察したのか、雪姫が先回りした。

──そういえば……病院の研究室にあったな……眠り姫の本。何かしら関係あるんだろうか……まくらの症状と。

そんな事を考えるが、その先には考えがいかなかった計佑に、雪姫の言葉が続いた。

「この寝宮の花嫁も、眠り姫も白雪姫も……物語のお姫様は、いつも王子様のキスを待っているよね」

雪姫が赤い顔をして計佑の顔を見つめてきた。雪姫の言葉とその顔に、計佑もまた顔が熱くなる。
資料室での『事故』を思い出したからだ。
雪姫も同じ事を思い出しているだろうとも、鈍い少年には珍しい事だが察してもいた。
けれど──今の計佑は、ただ雪姫の事だけを考えていた訳はなかった。

──眠っている姫はキスで目覚める……だったらまさか、キスをすればまくらは起きるとか……!?

雪姫の言葉から、1つのアイディアを思いついていた。

──いやいやいやっ……そんなコト……そんなファンタジーな方法で?
……といっても今のまくら自身がとんでもファンタジーな存在なんだし。試す価値はあるのか……?

まくらを見る。キョトンとした顔で見つめ返された。
すぐに視線を外して俯き、思案に耽る。

──試すっていっても……物語をマネするんなら、相手は王子様とかってコトになるよな。
……こいつに付き合ってるヤツはいないハズだから、好きなヤツってことになるけど……

授業・部活・目覚の家にいる。
この三種でまくらの活動は殆ど占められている。
まくらから色恋の話など聞いたことはなかったし、まくらに付き合っている男がいるとは考えにくかった。

──しかしコイツに好きな男だと……?
まあ、もう高1なんだし、いたっておかしくないんだけど……このお子様にか……?

またまくらに視線を戻す。

「なに? なんなのさっきから?」

まくらも不審そうな顔をしてきた。

──うぅーん……

どうにも納得行かず、難しい顔になっていく計佑だった。

─────────────────────────────────

──どうしたんだろう計佑くん……何だかさっきから、ちょっと変……

きっと自分と同じ事を思い出してくれていて──赤い顔をしていた筈なのに。
突然視線を逸らしたと思ったら俯いて。難しい顔をし始めて、また明後日の方向を見だしたり──
そんな計佑を見ていたら、不安が募ってきた。
資料室で、幼なじみというコの話を聞いていた時のような……

──……こっちをちゃんと見て……

昼間みたいに、何かまたでっち上げてでも。
彼に話しかけて、触れて、私だけを──そんな欲求に憑かれて動き出そうとした瞬間、

──ピリリリ……

ケータイのアラームが鳴った。その音で、我に返って。

「えっ!! もうそんな時間!?」

ケータイを取り出し、時間を確認し、アラームを止めて。

「計佑くん!! もう戻らないと日が暮れちゃう!!」

慌てて計佑を急かした。
雪姫としては、夜の海なんて絶対にごめんなのだ。危機回避というより、霊回避の意味合いで──

─────────────────────────────────

外に出ると、随分天気が悪くなっていた。
空は黒雲で覆われ、雨も降り出している。かなり風も強い。

「昼はあんなに天気良かったのに……?」
「計佑くん早く早く!! 急いでボートの所に戻ろうよっ」

雪姫が腕を引っ張ってくる。
とりあえず逆らわずに、小走りで来た道を戻り始めるが──

──こんな天気の中じゃあ、ボートを使うわけにはいかないと思うんだけど……

怯えて焦る雪姫に対して、ちょっと言い出せない計佑だった。

─────────────────────────────────

──結局、ボートのところまでは戻らなかった。
いよいよ荒れてきた天気に、ついに計佑は

「この天気じゃ海渡るのは絶対無理です。しばらく様子を見ましょう」

と雪姫を説得し、道中の寂れた民宿に避難したのだった。

「……ボロい……」
「……カビくさい……」
「……コワイ……なっななんでもないっ!!」

一人毛色の違う感想が混じっているが、雪姫の言葉も無理はなかった。
太陽が完全に隠れてしまった暗がりの中、激しい風雨にボロ建物は悲鳴をあげている。
昼間に過ごしたボロ屋敷より、こちらのほうが更に恐怖を煽る環境だった。

「ちゃんと天気予報見とけばよかったですね……台風のコトなんて全然考えてませんでした」

黙っていてはますます恐怖が募るかと、とりあえず雪姫に話しかけてみた。

「そっそうだね。服もビショビショになっちゃうし……もう最悪……」
「先輩は着替え、持ってきてますか?」
「うん、一応もってきたハズ……」

計佑も、雪姫の祖母のアドバイス通り、替えのシャツくらいは持ってきていた。

「じゃあ……オレは向こうの部屋に今の服干して、着替えてきますから。 先輩はこっちの部屋で着替えをお願いします」

歩き出しながらまくらに目配せする。
今のまくらが風邪をひいたりするのかは怪しいところだが、濡れ鼠の妹をほうってもおけなかった。

──とりあえず先輩の目を離れて、コイツの服とかもどうにか──

<b>「待って!!」</b>

突然の雪姫の大声に、ビクリとした。

「どっ、どうしました先輩……?」

計佑が振り返ると、雪姫が震えながら傍まで歩いてきた。

「はっ……離れないで……怖いの」
「あ……それはわかりますけど、流石に着替える間くらいは──」
「そばにいて……お願い」

きゅっと裾をつままれた。
震えながら涙目で見上げてくるその姿に、なんだか抱きしめたくなるような衝動が湧いて──

「きっ着替え終わったら呼んでください! すぐに戻りますからっ」

誤魔化すように大声を出した。けれど、雪姫は頷いてくれなかった。
プルプルと首を振って、相変わらず裾をつまんできたまま。

──やっやばい……なんか今の先輩カワイイっ……!!

初い少年をして、手が伸びそうになる程だった。

──ダメだダメだ!! 今の先輩はこんな怯えてるのに、そんなマネ、男としてやるワケにはっ!!

ヘタレ力を全開にして、むしろ正解から全力で遠ざかる鈍感少年。
あるいは昨夜のように、『手を握っていて』とでも指針を示してもらえればそのように行動できたかもしれなかったが、
ノーヒントではこの少年には厳しかった。
結局何も言えないまま、計佑は硬直を続けて。やがて、雪姫のほうが口を開いた。

「……向こうを向いてて……」
「……え? あ、はい」

ようやく事態が動いたことにほっとして、何も考えず言われるままに後ろを向いた。

「絶対……振り向かないでね……」

──パサッ

布が落ちたような音が、計佑の耳に届いた。

──……え゛!?


─────────────────────────────────

<13話のあとがき>

雪姫の格好は原作と変えてみました。
スカートのままだと、計佑が支えようとするシーンには繋げにくかったので^^;

雪姫のくすぐったがり設定は、エロ妄想によるものです。
……身体が敏感な少女……///
一応、今回のそのシーン(と、くすぐったがりなトコロ)は、後々また、ちょろっと生かしてみたいと考えてたり。

珍しく、ちょっとまくら寄りなところが?
雪姫と二人で『事故』を思い出して甘い雰囲気になるところなのに、計佑の意識はまくらのほうへと偏っていて……

今回初めて、雪姫が登場してる話なのに雪姫視点を書かない話になりそうでした。
一応ここまで守ってきたことだから、
『何か上手いこといれられないかなぁ……でも入れるとしたら悶えてるトコとかになるかなぁ……うーんでもなんかこう……』
と悩んだりしましたが、最終的には、何とか自分には納得できる挿入箇所見つけました。

まくらのコトを考える計佑に、不安を抱く雪姫。本能でライバルを嗅ぎ分けてるとか、そんな感じぽい?
でも僕が書きたかったのは、別にまくらの存在に嫉妬してるのではなくて、
単純に自分をちゃんと見てくれないコトを寂しがってるとか、そんなイメージでした。
 
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