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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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決意

 
前書き
シノン視点

……無駄に疲れました(笑) 

 
「じゃあ、シノン。俺の背中は任せた」

そうリンに言われたとき、私は自分でもわからない内に体を震わせていた
恐怖や怒りじゃなくて、私の中に浮かんでいた感情は歓喜、そして興奮
これが武者震い……
今までしてきたどんな戦いにも優る高揚感
好きな人から頼られる充足感
それらが一遍に襲ってきて身震いという形で表にでてきた

今までいた洞穴の上に登ってヘカートのスコープを覗く

スコープ内には闇風が映っていた。剥き出しのいかつい顔。腰にプラズマグレネードをぶら下げて両手で持った銃を腰の辺りに構えながら体勢を多少低くし、高速で移動している
真っ直ぐではなく蛇行したり様々な完全にランダムに見える歩き方
狙撃手にとって最もいやな相手
止まった瞬間が一番の狙撃タイミングなのだが、あの様子ではそれは望めないだろう

軽く息を吐く。それで頭の芯を冷やす
意識を冷たく、凍り付かせる。でも、それで凍えることは無い。心の奥にリンという暖かい温もりがあるのだから

目を瞑り、その温もりをしっかりと感じる
そして、意識をしっかり切り替える
詩乃からシノンへと

「闇風か……」

直接戦うのは初めてだが、闇風の戦闘スタイルは熟知している
武装は手に持ったあの銃と腰にぶら下がっているプラズマグレネードのみ
高速で移動して相手の弾を回避しつつ銃弾をたたき込む戦闘スタイル
近接に持ち込まれたらひとたまりもない

一発目で動きを止めて二発目で仕留めようかと少し考えるが瞬時に却下する
ドラグノフみたいな連射性能の高い銃ならともかく、ヘカートⅡはボルトアクションだ

息を吸って止める。指先を動かし僅かに銃身の向きを微調整。そして、照準サークルが最小に……小さな点に収束したとき引き金を引いた

弾丸が発射され、闇風に直撃した
闇風は動いてはいたが、私から見て手前から奥に移動していただけで、左右には動いていなかった
闇風の動きは確かに不規則に見えたが、それは地形を加味した場合でのみのこと
人間というのは完全に不規則な動きというものはできない。必ずそこにはある一定の法則が存在する
闇風の場合は平面において斜め右前、左、斜め左前、右を繰り返していた
……正直勘だったけれど上手くいってよかった

リン!

私は闇風に着弾した弾丸を確認するのももどかしくリンのいる方向へ銃口を向けた

再びスコープを覗きこむとステルベンの髑髏を模したフルフェイス型のマスクとその隣に立つレオンの軽薄そうな男の顔。それに相対して立つリンの姿がはっきりと映し出された

何かを話しているようだったが、やがてお互いに武器を構えた
狙撃銃を後ろに投げて懐から尖った銃剣のような刃物を取り出して構えるステルベン。銃剣を付けた狙撃銃を槍のように構えるレオン。そして、それらに相対して銃を二丁構えるリン

「間に合った……かな」

すぐに二人のうちの一人……ステルベンに照準を合わせる
私の姿は見られているから弾道予測線が自分を貫いたのがわかったのだろう、ピクリとステルベンの肩が震えた
それを確認すると同時に引き金を引く
ヘカートから発射された弾丸がステルベンの元へと飛んだ

ステルベンは転がるようにして弾丸を回避する。その隙をついてリンがレオンに殴りかかった
……おかしい
回避されること自体は元々予想できていたことだが、その動作が大きすぎる(・・・)のだ
以前、吊橋のところで回避したよりも遥かに

起き上がったステルベンはこちらを見てニヤリと笑った

「くっ!!」

嵌められた。元々ステルベンにはリンは眼中になかったんだ。いかにリンをかわして私を殺すか。それだけを考えていたんだ。私を殺すことがリンに最大のダメージになると考えて
状況は最悪だ。私は狙撃手でミドル、ショートレンジは苦手である
対する相手はヘカートの攻撃を余裕でかわせるほどの近接技能の持ち主。しかも相手の黒星は一発でももらったら終わり
私のサブアームの拳銃じゃ削り切れるかどうか……
でも、諦めない。私がリンの足枷になることだけはしたくない
私もその辛さを知っているから

ボルトを引いて次弾を装填する
残り弾数は五。軽量化のためにほとんど持ってなかったのが仇になったかな

「マズいな……」

一発撃って、余裕でかわされたとき思わずそうつぶやいていた
一撃必殺とも言えるヘカートの弾丸。でも、当たらなければ意味はない

再びボルトを引いて撃ったたまの殻を弾き飛ばし、次弾を装填する
その僅かな時間にもステルベンは近づいてくる
死の具現化したようなステルベンが近づいて来ているわけだが、私の思考は冷静にステルベンを倒すための算段を考えている
その可能性がゼロに等しいという事がわかっているけれども

第二弾はわざとステルベンの足元に撃ちこむ。それにより宙を舞う複数の石や砂ぼこり
だがステルベンはそれらがなかったかのように普通に向かってくる
石が当たり、微量のダメージが入るがそれは微量。例え残りすべての弾を今の方法で撃ちこんだとしても削り切ることはできない
しかも、時間稼ぎにすらならない

その時、スコープの中のステルベンが地面に転がった。そして、その上を多数の銃弾が飛び去っていく

「リン、こっちは俺に任せてそいつを倒せ!」

横合いから飛び出してきたのはアーマライト・AR17を手にしたペイルライダー
彼だってあの黒星に撃たれれば命が危ないのに

「ペイルライダーか!?」

レオンと膠着状態に入っていたリンがレオンを睨んだまま叫ぶ

「おまえがそいつを倒すまでの間、俺が持ちこたえてやる!」

倒すと言わないあたり、実力差を理解しているのか。だが、ミドルレンジを得意とするであろうペイルライダーが参戦したことで手段が広がり、時間をさらに稼ぐこともできる
それにしても完璧なタイミングで間に入ってきたな……

変な方向へ飛んでいこうとする思考を頭を振って締め出す。今は、そんなことを考えている暇はない
とにかく、倒すなんてことは考えず時間を稼ぐ。それだけを考えればいい

「ほう……殺されに出てきたか」

「はっ! 誰が殺されるかよ!」

強がってはいるが、剥き出しの顔には冷や汗が光っている。おそらく最初の一撃に賭けていたんだろう

ペイルライダーのアーマライトが火を噴く。しかし、ほぼすべてがかわされ、数少ない当たりそうな弾はエストックによって弾かれる

「ここ!」

ステルベンが銃弾を弾いた瞬間、私は引き金を引いた
高威力のヘカートⅡの弾がステルベンに向かっていく

「……SAO生還者ってのはこんな人ばかりなの?」

よりによってヘカートⅡの弾をそらした。一瞬でも刃のタイミングが違っていたり、ちょっとでもスピードが違っていたりすると失敗する高難度のリンの十八番

「くくく……」

奇妙な笑いを浮かべつつペイルライダーの銃弾を弾くステルベン
私の右手は染み付いた習慣から弾を再び装填している
そして撃つ。もちろん当たる訳がなく、近くの地面に着弾する

「くく……なかなか楽しめた。だが、そろそろ殺すか」

笑いながらのセリフのはずなのに背筋が凍った。そんな気がした
楽しげなその裏に含まれた、狂気、そして殺気
私のトラウマの原因の男もこんな声をしていたっけ
でも……

「私は……私たちはお前なんかに殺されたりしない!」

「ほう……」

感心したような声色に怒りを覚える
抑えるな。そして体をふるわせろ。そして、恐怖からくる寒気を制しろ

「私は、私を暗闇の中から救ってくれた……リンに恩返しをするまでは死ねないんだ!」

私は思う。この時の言葉は詩乃とシノン。それが同一の存在であることを実感した言葉であると 
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