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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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勝利の条件

 
前書き
シノン視点

……ペイルライダーェ…… 

 
「その意気は買ってやろう。だが、それは実力が伴ってなければ何の意味もない」

シューシューと嘲笑気味に笑うステルベン。そして、私の脇に置かれたヘカートⅡをチラリと見た

「見たところ、どうやらヘカートⅡの弾丸は全て撃ち尽くしたようだな。攻撃方法を持たないおまえが何を言っても……説得力がないぞ」

確かに、もうヘカートⅡの弾丸は使えない
でも、私にはこの口がある。時間を稼ぐだけならそれだけで十分だ

「それでも、私は生きたいんだ。過去のトラウマに囚われて無為に過ごした日々。それを取り戻すために!」

「無駄なことだ。どうせおまえもここで死ぬ。愛する者が敗北し地に這いつくばって無力を感じているその前で殺してやるよ」

ゾクッと背中が震える。VRMMO内であるはずのガンゲイル・オンラインでは感じるはずのない濃厚な殺気
それを感じた

「はっ……趣味が悪いな」

そんな思い空気を破ったのはペイルライダーの軽い声だ
手は小刻みに震え、額には汗が浮かんでいるが精一杯強がってみせている

「俺はシノンの過去やお前とリンの確執は全く知らないが、少なくともおまえが腐ってるってことだけはわかった。どうしたらそこまで性根が歪むのやら……」

やれやれ、と首を振るペイルライダー。だが、その目は鋭くステルベンの一挙一動を観察している。おそらく、怒りで動きを単調なものにしようとしているのたろう
だが、激昂するかと思われたステルベンは思った以上に冷静だった

「腐ってる、か……。どちらかというと歪んでいる、と言った方が当たっているかもな」

「なにが言いたい」

「おまえもやって見れば分かるだろうよ。ソードアート・オンライン……あの鉄の城での生活を」

「おまえは……SAO生還者なのか……」

喘ぐように声を絞りだすペイルライダー。VRMMOの先駆けにして最悪の死のゲームであるソードアート・オンライン。当時、ネットゲームに興味のなかった私はリンが囚われたことを知って調べたから他の普通の人よりは知っていると思う

「そうだ。俺もリンもSAO生還者にして……あの世界で殺し合った仲だ」

あれは楽しかったなっと懐かしむような声を出すステルベン

「あの城で戦ったやつは全員どこか歪んでいる。俺も、ジョニーも、ヘッドも、キリトも、アスナも……そして、リンもな」

「キリトもリンも歪んでなんかない!」

リンに比べればキリトと交流した時間なんて微々たるものだし、特別仲がいいってわけじゃない
でも、二人とも歪んでいるなんて感じはしなかった

「ククッ……どうだかな」

本当に面白いといった感じで笑うステルベン
確かに私はリンやキリトの全てを知っているかと聞かれれば違うとしか答えようけど……

「例え歪んでいたとしても私がきっと矯正してみせる。それが好きになった人への義務だと思うから」

「……つまらないな」

愉快そうな雰囲気から一転つまらなそうな雰囲気へ

「……おしゃべりはそろそろやめだ。レオンがリンにやられて二対一になると厄介だ、まずはペイルライダーから仕留めてシノン、おまえはじっくりと殺してやろう」

「くっ……」

慌てて銃を構えるペイルライダーにステルベンがその手にエストックを持って突っ込む

ペイルライダーの銃が火を噴くがもうすでにそこにはステルベンの体はない

「くそっ!」

流れるような動作で弾切れになった弾倉(マガジン)を捨て、新しい弾倉を懐から装填するペイルライダー
しかし、その間にステルベンはペイルライダーに肉薄していた

素人目にみても鋭い剣閃が煌めき、銃を胸に抱え身を固くしたペイルライダーの体を穿っていく

「クアッ!!」

「おまえたちは所詮、死の恐怖を感じられないところで遊んでいた甘ちゃんだ。それが、死線をいくつもくぐり抜けてきた俺たちSAO生還者に勝てると思うな」

ペイルライダーは力任せに銃を横に振り、そのまま後ろへ跳び退いてステルベンから離れようとする
しかし、それを許すステルベンではない
後ろへ跳んだペイルライダーにピタリとくっついているかのように追随していく
そして、ペイルライダーが着地し、スピードが鈍ったところで再び無数の剣閃がペイルライダーに襲い掛かった

「ぐっ……マズッ……」

唯一の救いはエストックの単発の威力が低いことか
何度も穿たれているはずの軽装のペイルライダーのHPはまだ残っている
だが、残っているとは言っても確実に減っていっている
これでは、いつか必ずペイルライダーのHPは消えるだろう
ここから降りてサブの銃で戦うという手はある。でも、私の近接戦の技量は普通レベル。今出ていってもペイルライダーの足を引っ張るだけだ
もう一つ、攻撃方法があるにはあるがそれは使えない。切り札になりえるあれは確実に当たるタイミングで撃たないといけない
助けたい気持ちを抑え、加勢できないペイルライダーに心の中で詫びを言いながら、ぐっと我慢するしかなかった

「くそ野郎が!」

銃を無差別に放つペイルライダー。一発でも食らえばショックによるスタンを食らい、蜂の巣になることが確実なペイルライダーの弾丸をステルベンは自分に当たるものだけを選別してエストックで撃ち落とす

どんな銃でも弾丸の最大装填数は決まっている
自動拳銃であるペイルライダーの銃はかなり装填数は多いがフルオートで撃っていればすぐに弾切れになることは確実だ

やがてガキンという硬質な音が辺りに響き渡る。ペイルライダーの銃が弾切れになった音だ

「クッ……!?」

ステルベンの口調に初めて驚愕が走る
ペイルライダーが空になった銃をステルベンに投げ、それに追随する形でステルベンに特攻をかけたのだ

「確かに俺は甘ちゃんだ。死の恐怖なんて今初めて感じたよ」

ステルベンの手を払い、足元を払おうとするがかわされる

「だがな……俺はおまえみたいなやつには負けたくねぇ!」

「HPが消えそうなやつがなにを言う。意気がったところで結局なにもできないだろう」

「残念ながら、俺の勝利条件はおまえを倒すことじゃないんだな」

ここから見えるペイルライダーの顔には笑みがある。
それが見えると同時に、ステルベンの持つエストックがペイルライダーのHPを削り切った

そして、スコープの中に入り込んできた一人の人物

「あとは任せた、リン」

そうペイルライダーの口は動いた 
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