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【IS】例えばこんな生活は。

作者:海戦型
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例えばこんな夏祭りはいい思い出になっただろ

8月16日 今日のラッキーアイテムはミサンガ。持ってねぇよそんな古い物!チョイスした奴何歳だ!

箒ちゃんに急遽呼び出されて彼女の地元にやってきた。人型オウカ、おりむー、鈴、シャル、セシリア、ついでに五反田兄妹も一緒に街を回っている。ジェーンさんは悪の組織本部に向かったらしく今日は珍しく一緒じゃない。代わりに褐色肌で身長高い外人のお姉さんが護衛についている。トラッシュさんというらしい。・・・胸?窒息しそうになったよ・・・これで満足か畜生!今回も回避し損なって地獄を見たよ!

何と今回は母さんと弟と会える日と重なった関係で二人も途中で合流する手はずになっている。ウツホとラウラ姉が居ないのは二人の護衛兼連絡員として迎えに行ってるからだ。 

夏祭りをやるらしく、神事で箒ちゃんが不思議な踊りを踊るから見に来ないか誘われたのがきっかけだった。祭りはここ数年・・・弟が生まれてから行っていないので昨日は楽しみで眠れなかった。


そして夜。お祭りが始まった。皆何所から買ってきたのやら一様に浴衣姿だ。・・・非常に眼福だった。改めてみると皆美人過ぎるというか、とんでもない顔面偏差値の高さに周囲の女の子の心がブレイクアウトしているレベルだ。まぁそれはさておき。

いったん二手に分かれて回り、箒ちゃんの舞が始まる前に合流することになった。俺は母さんと弟とオウカとセシリアで5人。トラッシュさんは「護衛の極意は一見護衛に見えない事!」とかいいながら人ごみに紛れてしまった。でもオウカ曰一定の距離を保ってちゃんと護衛してるらしい。プロだなぁ。



立ち並ぶ個性的な屋台。わいわいと雰囲気に酔って浮かれる人々。水風船だの金魚すくいだの輪投げだのできゃっきゃとはしゃぐ子供たち。あちこちから食欲をそそる食べ物やお菓子の香りが飛び交い、それがまた皆の心を軽くする。祭りというのはこの雰囲気と言うか、空気の事を言うんじゃないかと最近は思う。

母さん、弟、俺の順番で手を繋ぎながらその中を歩く。地元でこれやると俺が若干老け顔なのもあってか両親とその子供だと勘違いされたりもしたもんだ。後ろではオウカとセシリアが周囲をもの珍しそうにきょろきょろ見回している。

元々オウカが家族3人の邪魔をしないようにという措置で自制心が強いセシリアが抜擢されたのだが、そういえば彼女は日本の事を直に見たことは余り無いのだったか。気分はさしずめ異国の絵本の世界と言った所か。そんな二人を見ながらくすくすと笑う母さんを見て、そして例のプレゼントであるサングラスをかけてはしゃいでいる弟を見て心が温まる。

自分がオウカに出会い愉快な生活を送っている間、2人は決して気ままな生活は送れていなかった筈だ。要人保護プログラムのせいで自由も聞かず窮屈な思いをしたはずだし、俺にも会えず心配も掛けただろう。その分を今日少しでも返せたらと思っていたが、こうして二人の笑顔を見れれば俺は満足である。



途中セシリアが射的屋で驚異的な腕前を見せつけ、商品を俺達真田家族に・・・主に弟にプレゼントしてくれた。お面とか玩具とかお菓子とかをもらってはしゃぐ弟。無邪気な弟の反応に心をキャッチされたのかセシリアの顔がデレデレである。家族や友達が少ない環境にいた分余計にかわいく見えるんだろう。ティアも心なしかそんなセシリアを見て慈しむような目線を送っているような気がする。

しかも対抗心を燃やしたオウカも輪投げなどで凄い記録を量産し、エアガンとか遊戯キングのカードとかゲーム機とかを手に入れて俺たち一家にプレゼント。余りに手に入れた景品が多すぎておりむーたちと合流することには荷物でいっぱいだった。すかさず駆けつけたトラッシュさんが重いものを中心に預かってくれたが。

女にこれだけのものを貢がせるとは・・・宋詞朗恐ろしい子っ!!将来変な性格の子にならないか心配だ。母さんはそんな俺を見て笑っていたが。俺の子供の頃もこんな感じで周囲にモノを貰いまくってたらしい。・・・やっぱ血が繋がってるなぁ。喜んでいいのかこれ?



箒ちゃんの舞は・・・うん、月並みだけど綺麗だったとしか言えない。文字で書き表せない神秘的な雰囲気というか、神聖な物を感じた。あれを文字で表すのは無理と言うか、俺自身がしたくない。あれは実際に目の前で見たからこそ良いものなのだと思う。
皆で舞を終えた箒ちゃんに会いに行ったり色々して、ついでに箒ちゃんともちょっと祭りを回ってその日は終わった。



帰り、特別に母さんと弟がその日宿泊しているホテルに俺も部屋を取ることが出来た。
積もる話も皆の事も、母さんには話したいことがたくさんある。

・・・本人は努めて見せないようにしているんだろうけど俺には何となく分かる。母さんは「明日からまた俺と遠い場所に行かなきゃならない」と祭中も少し考えていたんだろう。昔から寂しがり屋なのだ。それなのに今では年に指で数える程度しか出会えない。手紙位は送ることが出来るが、それだけでは母さんの心の空虚は埋められない。
だからせめてこういう機会の時だけはそんな思いをして欲しくない。父さんが死んだ時みたいな顔はして欲しくないんだ。だから俺は母さんにあげれるだけのものを全てあげるし、母さんの望むことは何でもしてあげたい。







「・・・真田の奴、実は途方もないマザコンなんじゃないのか?」
「うーん・・・私はそうじゃないと思うんだよなぁ」

トラッシュから任務引き継ぎをしている途中、報告内容を見たジェーンの反応にトラッシュが難しい顔をする。

「確かに肉親だからってのもあるだろうけど・・・なんかなー溺愛してるってのとは違うと思うんだよなー」
「じゃあ何なんだ?」
「うーん・・・人の感情や好感度を加点方式じゃなくて減点方式で捉えてるんじゃないかと私は予想するね!」
「その例えじゃさっぱりわからん」

この職場一お喋りで人間の心理をさもすべてわかっているかのように喋るこの女は、残念ながら私を遙かに超えたコミュニケーション力と読心力を持っている。なので感情を良く知るにはどうしてもこの女の言葉に耳を傾ける必要があるのだ。

「簡単に言えば・・・その人の機嫌をもっと良くしようとするんでなく、これ以上悪くすまいと考えてるのよ。ほら、彼が行動力を発揮するときって必ず誰かが困ったり悲しんでなかった?」
「・・・アリーナの一件ではゴーレム、シャルの一件ではそのまんまシャル本人、福音では私・・・そういえば篠ノ之からの相談に乗る時もいつもとは少し雰囲気が違ったか?」
「な?心当たりあるだろ?」

なるほど、色ボケも偶には役に立つ。すなわち真田は他人の哀しい顔や困った顔を見たくないと。・・・三文小説の主人公みたいな思想だな。だが言われてみれば何だか妙に納得してしまう。あいつはお人よしが過ぎる、と言うのは他ならぬ私自身の言った言葉だ。逆を言えば特定の誰かに入れ込むことはまずない訳か。オウカがどうかは知らないが。
・・・そういえば。あいつはISと話している時は他のどの時よりも楽しそうな顔をしてたような。

「あいつ実は人間よりISコアの方が好きなんじゃないか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

否定材料はないようだ。何にせよ篠ノ之の最大の敵はISと言うことが解ったのでとっとと引継ぎを終らせることにした。途中学内恋愛について矢鱈聞かれたんで織斑の事を適当に話しておいた。心の底から楽しそうだなコイツ。S.A.を引退したらきっとパパラッチになるんだろう。

「・・・ジェーンまた胸おっきくなった?」
「お前言ってることがスケベ親父そのものだぞ?」
「で?で?実際のことろブラは何カップな訳?ん?」
「うぜぇ」

最近Hカップになったよ。邪魔でしょうがないからデュノア社製のサラシ捲いてるけど。




引き継ぎ作業が終わり、いい加減な会釈をして部屋を後にするジェーン。

「・・・ゴエモン・サナダの行動パターンは確かにそれだが、それと行動原理は別のものだ」

扉が閉まり、足音が遠のいたことを確認したトラッシュは一人呟く。彼女の持ってきた書類には数枚ジェーンに見せていない・・・まだ見せるべきではないと意図的に抜いたものが存在する。
真田悟衛門の、誰にも知られたくない隠し事。それが彼の行動や心情に大きな楔を打ち込んでいる。内容が内容なだけにまだ感情のかの字を学びだしたばかりのジェーンに知らせるのは早いと判断したトラッシュは、その書類をこっそり粉砕しておいた。

「頑張れよジェーン?どういう形に落ち着くにしろ、彼はなかなか気難しい男だぞ?」

きっとこの問題は本人が解決することは出来ないから、ジェーンか彼の友達が自力で辿り着き、ゴエモンを楔から解放するしかないだろう。それが同時にジェーンの人生の分岐点になる。少なくとも自分と―――上司(ヒポクリット)はそう考えている。
 
 

 
後書き
ヒポクリットの思惑・・・そもそもこの護衛任務、どちらかというと不審者の接近に確実に気付けるアリスの方が適任だった。それを曲げてジェーンをこの任務に就かせたのは、ちょっとでいいから人間らしい感情を学ぶべきだと考えたヒポクリットの考えがあった。彼(彼女かも)は「感情の宿らない人間は人間とは言えない。そして人間は感情があるからこそ強い」と考えており、この任務を通してジェーンを「人間」にしようとしての行動だったのだ。今日もヒポクリットは報告書を眺めてニヨニヨしているかもしれない。 
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