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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第九章 双月の舞踏会
  エピローグ

 
前書き
 遅くなって申し訳ありません。 

 
 空へと昇り、月や星の替わり世界を光に満たし始めた太陽は、魔法学院や草原だけでなく、新たに現れた巨大な船を照らし出す。
 魔法学院から少し離れた草原に、海を行く船が停留するさい下ろすアンカーのようなものを突きたて。その巨大な船は草原に停泊していた。
 朝日に浮かび上がるその巨体を一目目にしようと、朝早く噂を聞きつけた魔法学院の生徒だけでなく教師も草原の上に姿を見せている。
 船の形自体は、ハルケギニアの何処でも見られるものと同じだが、大きく違うのは、取り付けられた差し渡し百五十メイルはあろう巨大な翼と、そこに設置された同じく巨大なプロペラ。プロペラは翼だけでなく、船体の後部にも一つ取り付けられている。
 巨大な船の前、朝日の影となっているそこで、この船の開発者たるコルベールが、オスマン氏に向かって熱心に機体の説明をしていた。

「―――と言うことから、この船は通常の船よりも少ない風石で、倍以上の航続距離を稼げるのです」
「ふむ、良くわかった……わからんことが」
「ッ! お、オールド・オスマン……ッ!」

 白い髭をしごきながらうんうんと頷くオスマン氏を、コルベールがぷるぷると震える拳を握り締める。

「あ、いや落ち着きたまえミスタ・コルベール。この船がとんでもなく凄いことは分かったのじゃが、しかし大丈夫かのう? この船の力。空軍の者が知れば目の色を変えるじゃろ」
「でしょうね。しかし、私は絶対にこれを軍事利用させるつもりはありません。これはあくまでも探検船として作り上げたのです。それ以外のことに利用させるつもりはありません。それに、これの建造費はゲルマニアのツェルプストー家から出されており、船籍もゲルマニアとなっております。王軍が目につけたとしても、この船を検分することは外交問題になりますし……何より」
 
 コルベールはふっと、不敵な笑みを浮かべると、隣に立つオスマン氏を見る。

「この船を作ることも動かすことも私にしか出来ません」

 自信たっぷりに言い放つコルベールの姿に、オスマン氏は軽く目を見張った後、楽しげに笑い声を上げた。

「ホッホッホ……そうか、ならば問題は何もないの。君は君の好きにすればよい。それはきっと後に続く者の道標となることじゃろう」





 コルベールとオスマン氏から少し離れた場所で、並んで船を見上げる三つの人影があった。
 キュルケ、ギーシュ、そしてモンモランシーの三人だ。
 モンモランシーが首を攣りそうな状態で船を見上げながら、隣に立つキュルケに声をかける。

「この船の建造費、ツェルプストー家が出したんですってね」
「まあ、ね。手紙でコルベール先生が開発した船を建造しているって聞いてたけど、まさかこれほど大きいなんて」

 呆れたようなモンモランシーの問いかけに、同じく初めて船の姿を見るキュルケも呆れたような声を上げる。

「いやしかし、コルベール先生はトリステインの人のはずだが、これだけの船の建造費を、よくゲルマニア貴族のツェルプストー家が出したね」
「家の父親は、こういうところが貪欲だからね。才能があれば出し惜しみはしないわよ。使える人間なら一族に積極的に取り組もうとするし。実際、わたしに届けられた手紙の中に、コルベール先生と結婚しろって言う話も書かれていたしね」
「「ええッ!!?」」

 何気なく口にしたキュルケの言葉に、モンモランシーとギーシュが同時に驚愕の声を上げる。
 
「け、結婚って! もしかして承諾したのあなたっ!?」
「するわけないじゃない」

 モンモランシーの問いかけに、キュルケは「何言ってんの?」と首を傾げて見せる。

「わたしにはシロウがいるのよ。まあ、確かに、コルベール先生はいい男だから、もしシロウと出会わなかったらそういう未来もありえたかもしれないわね」

 ふっと口元で笑い肩を竦ませたキュルケは、ぐるりと辺りを見渡すと疑問の声を上げた。

「そういえばシロウを見なかった? 朝から見てないのよ」
「え? シロウさん? えっと、見てないわよ」
「そう……」

 モンモランシーの答えにキュルケは目を伏せると、風になびく赤い髪を抑える。

「何処……行ったのかしら」





 コルベールとオスマン氏が、キュルケとモンモランシーたちが話をしていた頃、ルイズは自分の部屋でアンリエッタと向かい合って椅子に座っていた。
 会話の内容は、世間話などではない。昨夜、ルイズを襲った相手について、アンリエッタが直々に聞き込みを行っているのだ。とは言えルイズは舞踏会の会場であるホールを出た時から気を失って何も覚えていないので、説明のしようがないのだが。それでも分かっていることはあった。自分を攫おうとしたのが、あの『ミョズニルトン』と名乗っていた『虚無の使い魔』であったこと等を。
 しかし、やはり気を失っていたルイズでは詳しい話は分からず。結局あとから事情をよく知る士郎から直接話を聞かなければならなくなる。
 だがそれは最初から分かっていたこと。一通りの聞き込みを終えた今、本当の話し合いが始まることを、ルイズと、そしてアンリエッタも気付いていた。

「ところで話は変わりますが……どうでしたか舞踏会は?」

 口火を切ったのはルイズだった。
 何気ないように装い、机の上に置かれたティーカップに口を付ける。

「そう……ですね。とても、楽しく過ごせました」
「そうですか、楽しく過ごせましたか」

 カチャリと音を立て、ルイズはカップを皿に戻す。
 視線はまだカップから離れていない。

「……気持ちは確かめられましたか」

 カップを弄りながら、ルイズは呟くような声で問いかける。
 
「ええ……あなたのおかげで」
 
 ティーカップに伸ばしたアンリエッタの手が一瞬カチリと固まったが、直ぐに何事もなかったように動き出す。その様子を冷めた瞳で見つめていたルイズが、すうっと静かに顔を上げる。
 ルイズの鳶色の瞳が、真っ直ぐアンリエッタの瞳を貫く。
 じっと、値踏みするかのような目で、ルイズはアンリエッタの瞳を見つめる。アンリエッタは、ルイズのそんな視線をただ無言で受け止め続ける。
 ルイズの部屋に、無音の軋む音が響く。ギリギリと音も無く軋みを上げるそれは、次第に大きくなり……そしてそれが限界を超える寸前―――。

「……なら、忠告を一つ」

 ガタリと音を立てルイズは席を立つ。
 アンリエッタに背中を向けた姿のまま、ルイズは言い放った。

「シロウと一緒にいたいのならば、覚悟を持つことです」

 それだけを言い放ったルイズは、そのまま部屋を出て行く。
 一人取り残されたアンリエッタは、テーブルの上に残された冷え切ったカップを手に取ると、それを一気に飲み干し。

「覚悟は―――持ちました」

 カチャリと音を立てカップを皿の上に置いた。





 必要最低限の家具の姿しかない部屋の中、一人佇む士郎は開けっ放しの窓に近づくと、窓枠に手を置き空を見上げる。空には眩いほどの青が広がっていた。

「……遅かったか」

 窓から吹き込んだ風が、士郎の白い髪を揺らす。吹き寄せる風に目を細めた士郎は、避けるように窓に背を向けると扉に向かって歩き出す。
 淀みのない動きでドアを開け放った士郎だったが、廊下へ身体を出した瞬間突然ピタリとその動きを止めると、主がいない部屋を振り返り、

「それじゃあ、迎えに行くとするか」

 パタンと扉を閉めた。


 
 
 

 
後書き
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