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ボロディンJr奮戦記~ある銀河の戦いの記録~

作者:平 八郎
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第74話 休暇はあらず

 
前書き
つぶやきに嘘こいてしまいました。すみません。

なんかうまい具合に腹黒い親父がペラペラと頭の中でしゃべってくれました。
話は全然進んでません。省略するところを省略しきれていないのかも。

あと下手なイラストをギャラリーにUPしました。
しばらくしたら消えてるかもしれません。
 

 
 
 宇宙歴七八九年八月 バーラト星系 ハイネセン


 イロナとラリサに散々お土産を買わされた挙句、ブライトウェル嬢の話を詳しくイロナに説明し、テルヌーゼンでグレゴリー叔父一家と一泊過ごして翌朝、直ぐにテルヌーゼンを発して、俺は一人ハイネセンの職場へと戻った。

 第四四高速機動集団は現在部隊再編制中ということで、いわゆる中堅幹部以下は宇宙ドックに入ってしまった乗艦をぼんやりと地上から望遠鏡で見たりなどのんびりしているが、司令部はそうはいかない。特に一番忙しかったのは補給・後方参謀であるカステル中佐。損失・補給・廃兵の集計に、修理・補充・ドックの手配と、目が回るような忙しさに直属の部下だけでなく、戻ってきた俺、司令官室で一息ついていたファイフェル、そしてブライトウェル嬢まで散々に扱き使った。

 軍部の最高幹部である宇宙艦隊司令長官人事はまだ固まり切っていない。予定されていた人事はともかく、人望があると言ってもシトレやロボスがいきなり昇進して要職に就くのは無理な話であり、艦隊司令官の中で最先任の第一艦隊司令官のロドニー=サイラーズ中将が昇進して就任するか、統合作戦本部次長のジルベール=ド=ロカンクール大将が横滑りで就任するか、といったところで止まっている。

 ちなみに俺はサイラーズ中将とは個人的に面識がある。グレゴリー叔父の直上であり、ケリム星域で『ブラックバート』の侵食を許した第七一警備艦隊の代わりに治安回復の指揮を執った人だ。果断に戦闘指揮を執れるようなタイプではなく、帝国軍との戦闘での実績に目立ったところないので、司令長官としては能力的にどうかといった声もあるが、人格円満で地味だが根気のいる治安維持戦には定評があり、『お巡りお爺さん』という、好意的にも嘲笑的にも使われるような綽名がある。

 一方でロカンクール大将の方は士官学校次席卒業で参謀畑を順調に昇進し、第七艦隊司令官として戦闘指揮も執っていて指揮官としての実績もまずまずだ。だが基本的には軍官僚としての性格の方が強い。整理された頭脳から導き出される判断力は高く評価されているが、部下を支配しようとする独裁者気質がありとかく人望がない。原作で言うドーソンのような神経質な性格でもないのだが、能力に性格がついていっていないから、能力にも実績にも問題ない彼を積極的に擁立しよう動きは鈍い。ちなみに綽名は『没落老舗の高級剃刀』

 人望のサイラーズ中将(大将)か、能力のロカンクール大将か。シトレ派もロボス派も積極的ではないにしても大多数がサイラーズ中将を推している。もしサイラーズ中将が司令長官に就任した場合、第一艦隊は壊滅したわけでもないのに司令官と副司令官を失うというとんでもない事態に陥るが、ロカンクール大将が就任した場合は、艦隊司令官のメンバーがごっそり入れ替わって軍内部が大混乱になる可能性がある。

 『国防委員長』派や統合作戦本部もロカンクール大将を積極的には推していない。それほどまでに人望がないのだ。どうせ三年後にはシトレかロボスのどちらかになると、彼らも理解しているからだろう。

「まぁ私はサイラーズ中将になって欲しいと思っているし、そうなると思っている」

 ハイネセン市の繁華街の一角。繁華街にありながらも少し入り組んだ、目立たない場所にあるレストラン『楢の家』。その名の通りに壁も床もテーブルも椅子も全てに楢材を使っている。磨き上げられた美しい木目の床は、素朴なようで品があり、室内も落ち着きと温かみがあって実に居心地がいい……正面に座っているのが、『腹黒い親父』でなければ。

「ケリムで散々世話になったのだから、君も少しぐらい手助けしても罰は当たらんと思うがね」
「……高速機動集団次席幕僚の少佐如きに、できることなどないと思いますが」
「できないじゃなくて、できることを自分で考えて動くべきではないのかね?」
「部下が猟官活動まがいなことをしてるなんて知ったら、ビュコック閣下に見捨てられます。小官はまだまだビュコック閣下から学ぶことがいっぱいあるんです、謹んで『ごめん被ります』」
「もう少し野心があると思ったが、貴官には失望した」
「ワイン片手に笑いながらそう仰られましてもまったく説得力がありません。シトレ中将閣下」

 目の前に並べられた店の名にふさわしい豚ハラミのガーリックソテーに、俺はちょっとだけ手を付けただけで胃がもたれてくる。一方で目の前の腹黒親父が平然とした表情でワインを片手に平らげていくので、余計にムカついてくる。

 だいたい中将・第八艦隊司令官たる(というより派閥領袖が)人間が、同じ派閥のぺーぺーとサシでディナーするというのはどういうことだ。お礼をといってアポを取った時、いきなりこの店を指定してきたのはシトレだし、つまりは客を含めた店にいる人間に、コイツは俺が目にかけてる奴だと触れ回っているようなものだ。この店のプライバシーポリシーには興味はないが、人の口に戸は立てられない。俺がシトレ派の人間だというのが周知の事実であったとしてもだ。

「長官職については、とりあえずは横に置こう。ヴィクトール」

 コンッと音を立てて中身が飲み干されたワイングラスがブラウン・オークのテーブルに置かれる。長身でなおかつ姿勢がいいから、シトレの体がテーブルから生えてきてた大木のような錯覚に陥る。軍人としての迫力以上に、人間の器の差を見せつけているようにも思える。多くの軍人は、このシトレの迫力と有能さに圧倒されながらも、その気さくさと深い配慮のギャップに心酔してしまうのかもしれない。

「エル=ファシルではよくやってくれた。艦隊戦だけではない。地上戦を殆ど行わず惑星奪回に成功したのは、貴官のアドバイスがあったからこそだ。ビュコック少将もモンシャルマン参謀長も、君のことを高く評価しているし、頼りにもしている」
「いえ、運が良かっただけです」
「ヤンと同じことを言う。あぁ、そうか。彼の場合も『エル=ファシル』だったな」
 口では冗談を言っているが、シトレの顔は先程とは違って全然笑っていない。
「彼にとっては甚だ不本意で不愉快だろうが、『エル=ファシルの英雄』の名前と彼の軍における異質の才幹は、軍にとって貴重にしてもはや欠くべからざる存在だ」
「ええ、小官もそう思います」
「君が優秀な軍人であることは理解している。優れた用兵家としていずれはロボスに匹敵するような指揮官になるだろう……だがビュコック少将も言っていたが、君の精神的骨格は軍人ではない。本質的に政治家なのだ」

 シトレの過剰な評価はともかく、その観察眼については評価せざるを得ない。
 当然のことながら、彼は俺が過去からの転生者であることなど知る由もない。過剰に同盟びいきな原作のファンであり、同盟びいきのファンが陥りやすい、民主主義政体に対する信仰心と、戦争と原作における政治的な最大の悪役に対する嫌悪感が、行動となって表れているのがシトレの目に留まったのだろう。

「以前にも言ったが、用兵家としての君の才幹より、政治家としての君の素質の方がはるかにこの国では貴重だと私は考えている」
「ヤンが統合作戦本部長、私が最高評議会議長ですか?」
「君がヤンより『軍人としての才幹に劣っている』と言われたことに怒るかね?」
「いいえ」
 怒るわけがない。ヤンは紛れもなく天才だ。『もしかしたらありえるかもしれない未来らしきもの』を知っている俗人の一人に過ぎない俺では、到底勝負になるはずがない。
「それ以上に私は政治家には向いていません。性格的に海千山千の相手に権謀術策などできはしません」
「君が向いていないと言ってる軍人ですら、君はこの上なく上手くやっているのだ。政治家だってきっとうまくこなせるだろう」
「校長……この席の話は他の誰かに話すことはないということでよろしいでしょうか?」
「録音録画等はしていないから安心したまえ。出来れば声量は少なめにな」
「ありがとうございます」
 俺は小さく頷きながら周囲に一度視線を廻してから言った。
「校長は、校長が政治家にあって欲しいと思う『資質』と、政治家として生きていく技術である『能力』と、政治家として動き続ける為の『目的』をはっきりと分けて理解されていないのだと、私は勝手に考えています」

 政治家としての『資質』と言うのは被選挙権とかそういう事ではなく、清廉さや社会奉仕の意識のことだ。シトレとしては、シトレ自身の考える理想の政治家としての資質が俺に備わっていると思うからこそ、盛んに嗾けるのだろう。だが資質とはナマモノで、時が経つにつれて経年劣化していくものだ。俺個人としてはそんな資質など端からありはしないと思っているが、少なくとも前世において清廉潔白と呼ばれた政治家や独裁者が、時を経るごとに老醜を見せていく例は枚挙に暇がない。俺自身がそうなることを否定できる要素などどこにもない。

 政治家として生きていく『能力』は生存能力のことだ。ぶっちゃければどんなに節度を曲げようとも、どんなに見苦しくても、生き残るためには何でもやるという行動力だ。裏切りに足の引っ張り合い。もちろん軍だって当然あることだ。だが少なくとも後ろから砲撃した奴は軍法会議にかけられるが、政治家では逆にそれが優れた能力とみなされることがある。そんな能力は俺にはないし、いくら鍛えたところで正面突破以外の戦術をとることは出来ないだろう。

 そして政治家として動き続ける為の『目的』だ。シトレに言うことはないが、俺が軍人になる理由の最大の要因はここ何十年かの平和で豊かな世界の成立だ。その為には回廊の向こうで孵化しつつある金髪と赤毛をどうにかして始末しなければならないが、あまりにも厳しい時間制限がある。当然シトレは知らないことだし、それこそ現時点では誇大妄想ではあるだろうが、『ありうるかもしれない未来』に殆ど沿って歴史が動いている以上、可能性は極めて高いだろう。

「思い上がりの戯言と思って聞いていただきたいのですが、校長は私に『素質』があるから、後は何とでもなるとお考えになっているとしか思えません」
「そうかもしれん。だが、『素質』というよりは『資格』といった方がいいかもしれんが、そういう政治家にあるべき規範を逸脱しているのが、今の自由惑星同盟の政治ではないかね?」
「では伺いますが、その規範を決めているのは誰ですか?」
「……自由惑星同盟市民、といいたいわけかね」
「もっと過激で失礼なことを申し上げますが、ヨブ=トリューニヒト氏の頭角は市民が欲した故に起こったことです。彼自身を利権政治家とか扇動政治家とか批判するのは簡単なことですが、彼自身は民主政治の制度によって支えられているのです。彼自身がどんなに空虚な存在であったとしても」

 逆に言えばヨブ=トリューニヒト氏の頭角は、自由惑星同盟が『平和』な証拠なのかもしれない。毎年のように帝国軍と戦い、膨大な犠牲者と経済的損失を負いつつも、戦闘は辺境で行われているだけで、中核星域で痛い目に遭わなければ分からないというのは言いたくないが、ある意味では事実なのかもしれない。

「それでは我々は国家滅亡の路をひたすらに進んでいると言わざるを得ないのではないかね?」
「一四〇年も国家間全面戦争をしているんです。滅びないと考えている方がおかしいと思いますが」
「考えない方がおかしい、か……しかし結局行きつく先は『イゼルローン』というわけだな」

 そう。俺のようにチートしているわけでもなく、回答に行きつくシトレも相当に政治的な思考ができる男だ。唯一(ではないんだが)の軍事的チョークポイントに築かれた永久要塞。同盟への軍事的侵攻の策源地であり、ここを落とさなければ、同盟に平和はこない。そう錯覚させるに十分な色気を持つ虚空の美女。

「絶世の美女とはいえ、四度求婚してもフラれてばかりなんですから、いい加減に新しい女を見つけた方がいいと、私などは思いますが」
「……新しい女、とは?」
「これは受け売りですが、父の後妻に憧れていた息子が、後妻の幼い姪を引き取って理想の女性に育てて妻にするという昔話があります」
「現実にはあんまり感心しない話だが……それを軍が主導せよと?」
「アーレ=ハイネセンは男性なんですから、あんまり華美な首飾りなんかもらっても嬉しくないでしょう」
「新しい首飾りを強請るような愛人を、財布の厳しい男が許すかね」
「つい最近七〇万人ほど道路の舗装材に使われましたが、そちらはいいんですか?」

 俺の比喩が過激で刺激的だったことは、机の上で固く握られているシトレの両拳を見るまでもない。

 無人の戦闘衛星と七〇万人が乗っていた一万六〇〇〇隻の宇宙艦隊。遺族年金・一時金・艦艇の補充・補充した艦艇の乗組員の徴兵・それによる労働者人口の減少と国民総所得の減少。どう考えたって前者の方が国家に対する負荷は小さいに決まっている。出来れば首飾りなんてケチなことを言わず禿鷹の二羽も用意して、二つの穴を塞いでしまえばいいのだが、ダゴンの呪いはシトレですら逃れることができないのかもしれない。

 結局原作でもシトレは第五次イゼルローン攻略に赴き、あと半歩というところで失敗する。やはりイゼルローン要塞を『奪い取る』ことを目的とすればどうしたってそうなる。俺の挑発というか提案を、第五次の時まで覚えていてもらいたいとは思うが、その時は大将であっても統合作戦本部長ではなかったはずだから、難しいかもしれない。

 俺が黙ってシトレのグラスにワインを注ぐと、その音に気が付いたシトレが目を開けて俺をじっと見ている。心が落ち着いてきたのか、頬を膨らませながら大きく溜息をつくと、諦めたように注ぎきったワイングラスを手に取った。

「君は歯に衣着せぬ発言をするが、正直あまり感心しないな。キャゼルヌの悪いところだけ見習う必要はないと思うんだが」
「さぁどうでしょう」
「そのキャゼルヌはとうとう今年結婚したが、君はどうだ。予定はあるかね?」
「さぁ、どうでしょうか」

 それ以外に応えようがないなと思いつつ、いろいろと口を回せたおかげかようやく胃が落ち着いてきたので、ソテーの欠片を口の中に放り込んだところで、シトレが一口ワインを含ませるとあらぬ方向を見て呟くように言った。

「第四四高速機動集団司令部にはいろいろと評判の赤毛の美少女がいるとクブルスリーが言っていたが、彼女がその理想の女性候補かね。たしか君の好みは……」
「ほっそりした顔に赤茶色の長いウェーブで、肌がきめ細かくそれなりに均整の取れた体の持ち主ですね。声が綺麗で、ちょっと拗ね気味で、頭が悪くなければいう事なしです」
「そうだったかな?」
「そうですよ」
「いつまでも過去を引きずるのは良くないから、新しい女性との出会いを見つけるのもいいと、私などは思うんだがね。これは余計なお世話だとも思うが」

 嫌な返し方をされ、俺は返す言葉もなくワインクーラーから店一番と評判の白ワインを手に取ると、手酌で乱暴に注ぎ込むのだった。





 八月一〇日。ようやく国防委員会と最高評議会の承認が下り、ロドニー=サイラーズ『大将』が宇宙艦隊司令長官に就任した。まずは軍内部の人心安定と、外部からの批判を柔軟に受け止める時間的猶予を確保することが最優先であるということかもしれない。

 すでに執行されたもの以外で人事異動が振るわれたのは第四次イゼルローン攻略に参加した部隊のもので、それも艦隊司令官の更迭というような大規模なものではなく、部隊再編までの一時待命といった先送りがほとんどだった。個々のの戦闘では功績を上げているわけだから当然と言えば当然だし、事実上の長官更迭で責任は全部退役元帥に負ってもらうことで、軍内部は一息ついた形だ。作戦指導した幕僚上層部もクビにしてしまえと俺も思わんでもないが、そこまで踏み込まないということだろう。

 そしてようやくというかエル=ファシル奪回作戦に参加した部隊にも論功行賞が行われた。第四四高速機動集団司令部内では、第三部隊指揮官ネリオ=バンフィ大佐(代将)が正式に准将になったのと、ファイフェルがそれまでの功績を加味されて『職責そのまま』で大尉になっただけだった。爺様には昇進の代わりに自由戦士一等勲章と国防功労勲章が授与されることになる。奇跡に近いという評価も、一気に爺様を中将に昇進させるには不足というか、もう少し時間とポストが空くのを待ってから、といったところだろうか。

 俺も昇進はなかったが国防従軍記章を授与された。流石に勲章の入っていた小箱を石鹼入れにするつもりはなかったが、失くすと後が面倒なのでクリーニングから戻ってきた礼服のカバーに放り込んでおいた。どうせつけるのは礼服を着る時だけだし、略章も普段からつける義務もないわけだから一緒。同じ記章を授与され昇進もなかった他の司令部の三人はというと、モンシャルマン参謀長は「妻(奥さん)に預けた」、モンティージャ中佐は「情報部のロッカーに放り込んだ」、カステル中佐は「メダルマニアの甥に預けた」という。揃いも揃って名誉欲というか見栄っ張りでないことが分かって、何となくホッとした気分だ。

 ブライトウェル嬢は兵長待遇から伍長待遇になった。給与が増えただけで特に変わることなく、いつものように司令部要員に珈琲を淹れ、カステル中佐の指導下で料理を作り、ファイフェルと俺の下で受験勉強している。待機時間中にこっそりとキッチンでダンベル運動しているのを俺は見たが、誰にも言ってはいない。

 第八七〇九哨戒隊の面々も昇進はなかった。ただ所属するミサイル艦と駆逐艦が、全て巡航艦にクラスアップすることになった。これではもはや哨戒隊ではなく巡航隊というべきであって、本来なら指揮官であるイェレ=フィンク中佐を大佐に昇進すべきなのだが、未だ罪なき罪は許されないということだろうし、本人達も何故か哨戒隊のままでよかったと喜んでいる。

 独立部隊の方ではネイサン=アップルトン准将とクレート=モリエート准将がそれぞれ少将に昇進と国防従軍記章が、他の二人には国防功労勲章が与えられた。勲章に差をつけているのは、昇進の有無の調整を込めているのかもしれない。

 地上軍の方は大規模に移動があったとジャワフ少佐から私信があった。彼自身昇進はしなかったが、ディディエ少将は中将に昇進し、星域管区司令官に相当する地位に就いたそうだ。またミン=シェンハイ少将も中将に昇進し、ダゴンやティアマトで失われた地上軍の再編成に駆り出されているらしい。彼らの部下も、エル=ファシル駐留の地上戦部隊が現地に到着したことを受けて順次ハイネセンに帰投している。

 第四四高速機動集団隷下部隊の艦長クラスも、それぞれ人事部の持つ功績値によって昇進したり昇給したりしなかったりで悲喜こもごもといったところだが、結局二〇〇人ほどの戦隊指揮官と艦長が部隊を離れることになった。代わりに副長や航海長が内部昇進したり、外部から入ってきたりした。兵員の入れ替えはだいたい三割といったところ。

 損傷が激しく動きはするが戦闘行動ができない艦は正式に廃棄が決まり、永遠に失われてしまった分も含めて新造艦と別部隊からの転籍による補充とによって、第四四高速機動集団は再編成されることになった。この戦いで戦場にて失われた艦艇は四一二隻。失われた将兵は四万二三〇名。約半年前の集団結成式に参加した約三〇〇〇名のうち艦長・戦隊指揮官だけで四二一人が冥界の門をくぐった。これが『勝ち戦』とはあまりにも苦い。

 そして新しい艦と艦長達が揃い、部隊編制を終えた八月二八日。休暇を終えて部隊に戻ってきた将兵達はまったく変わっていない司令部にケツを叩かれながら、再び宇宙へと乗り出すことになる。

 目的地はロフォーテン星域キベロン星系。同盟軍最大の演習宙域がある場所であり、今度は演習査閲を受ける側として赴くことになった。

 第四七高速機動集団と一緒に、である。
 
 

 
後書き
2022.07.31 更新 
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