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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第九十三話 絶体絶命です。

 
前書き
 以前掲載した話のタイトルと同じだったため、タイトルを変えました。失礼いたしました。 

 
帝国歴487年10月24日――。

グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー主席元帥はその堂々たる体躯と威風で「皇帝よりも皇帝らしい」とまで評された宇宙艦隊司令長官である。だが、その暮らしぶりは派手さはなく、むしろ質素ですらあった。邸宅は堂々としていたが華麗さは全くなく、使用人たちも躾が行き届いていたが人数は過大ではなく、護衛の兵卒らも必要最低の人数で有った。
 日課はこの人物には珍しい事だったが、裏庭の小規模な家庭菜園の手入れであることを知る人は少ない。
 この日も早朝から土いじりをすませ、ひと風呂浴びたミュッケンベルガー主席元帥は軍服に着替え、一分の隙もない素振りでマントを翻すと、家人の見送りを受けて玄関先にとめてある公用車に乗り込もうとした。代々の邸宅であるが、一つ難があった。それは門扉が狭すぎて公用車は門を窮屈そうに出るか、さもなくば門外に止まらざるを得なかったことである。これについては「改修しましょうか。」という声も内外からあったのだが、頑としてミュッケンベルガー主席元帥はそれを拒んだ。先祖の凝らした邸を一部なりとも改装するのを良しとしなかったのだろうと言われた。そういうわけで運転手の技量によってはミュッケンベルガー主席元帥は自ら歩いて門の外にまでいかなくてはならないこともある。この日もその例外ではなかった。

「ミュッケンベルガー主席元帥閣下。」

当直の副官一名と門の外を出たところで、不意にミュッケンベルガー元帥に声がかけられた。顔を向けた元帥の視線の先には若い佐官らしい人物が直立不動の姿勢で立っている。
「私はブラウンシュヴァイク公爵の家臣ダミアン・フーフベルツ少佐であります。ブラウンシュヴァイク公爵閣下より書簡をお持ちしました。」
「ブラウンシュヴァイク公爵閣下から、だと?」
「はい、至急の要件につき、すぐさまご覧になっていただきたいというお言葉でございます。」
確かに書簡にはブラウンシュヴァイク公爵の文様が描かれている。顔をしかめながらも、ミュッケンベルガー主席元帥は書簡を受け取った。その内容を一瞥したミュッケンベルガー主席元帥は不快さと信じがたい表情とを当分に浮かべながら、使者に顔を向けた。
「これは本当にブラウンシュヴァイク公爵がお書きになった物なのか?」
非礼とは思いながらも書簡の内容をみた副官は驚愕の表情を浮かべた。そこにはミュッケンベルガー主席元帥を罷免してラインハルトを宇宙艦隊司令長官にする旨、既に決定されたことが書かれていたからだ。そして書簡の内容は使者に元帥杖を渡すようにとも書かれていたのである。
「はい。確かに。」
「こんなバカな内容をブラウンシュヴァイク公爵閣下がお書きになるはずがない。」
ミュッケンベルガー主席元帥は書簡を引き裂いた。とたんに使者の顔色が一気に急変する。
「何をなされますか!?」
「卿は何者だ?」
じろりと使者の男の顔を見つめたミュッケンベルガー主席元帥の眼光は厳しかった。
「返答によっては卿を即刻逮捕し、取調べをせねばならん。このような稚拙で、露骨な偽書簡などを送ってきた者は誰だ?どこの差し金か!」
「ブラウンシュヴァイク公爵の書簡を、引き裂くなど・・・何たること!!公にどう言い訳をなさるのですか!?」
男の声も、眼も、全てが尋常ではない。燃え盛る狂気の炎が両方の瞳に宿っている。
「閣下、ご返答を!そして元帥杖をお渡しください!!」
「狂人か。」
ミュッケンベルガー主席元帥はすぐさま副官と護衛兵にひっ捕らえるように指令すべく、視線を一瞬男からそらした。その時だ!!!
一条の閃光がミュッケンベルガー主席元帥の脇腹を貫いた。そしてまた一条、今度は右胸と肩の間を閃光が貫く。ミュッケンベルガー主席元帥の巨体が地響きうって倒れるのと同時に、元帥がとっさに放ったブラスター、そして副官、護衛兵らのブラスターで額や体中を撃ち抜かれた襲撃者も崩れ落ちていた。あたりはたちまち血の海になっていく。

狼狽した叫び声が上がり、ミュッケンベルガー主席元帥はすぐさま邸に担ぎ込まれ、邸内にいた医者がすぐさま処置に当たった。


 リヒテンラーデ侯爵は公用車に老体を乗せ、私邸を出発してノイエ・サンスーシに向かった。涼しくなってきたとはいえ、10月のこの日はまだ十分に気温は高かった。
「老体にはこたえるわ・・・。」
70代に差し掛かろうという今日、いつまでこの職にとどまっていられるかと思わないでもなかった。そのくせ問題は山積しており、時間がいくらあっても足りないのである。反徒共との争いはいっこうに決着がつく様子もなく(外敵存続という、多少意図して行っているところもあるのであるが。)ブラウンシュヴァイク公爵一門を始めとする貴族連中の宮廷ないがしろの態度、そして皇帝自身の世継ぎ問題。
 リヒテンラーデ侯爵の意識は別の方角に飛んでいった。忌避している事柄から少しでも離れたいと思った作用かもしれない。アレーナ・フォン・ランディール侯爵令嬢、前軍務尚書マインホフ元帥の血縁であるこの令嬢がもたらした話はリヒテンラーデ侯爵にとって衝撃であった。
「あの金髪の孺子が、か。」
この帝国を救う英雄となるか否か、リヒテンラーデ侯爵自身にもわからなかった。強大な野心はある。そしてそれに伴うだけの力量と才幹もある。だが、それが帝国にとって良いベクトルとして作用するかどうかはまた別問題だ。
「・・・・・・・?」
不意に車の速度が落ちた。何事かと顔を上げたリヒテンラーデ侯爵の眼前に猛スピードで走ってくる対向車が突っ込んできた。車体が跳ね上がり、衝撃で引き裂かれる中をリヒテンラーデ侯爵は訳も分からず宙を跳ね飛んで意識を失ってしまった。



 このミュッケンベルガー主席元帥及びリヒテンラーデ侯爵襲撃事件は帝都の関係者を震撼させたが、それに対する処置は不思議なほどに早かった。軍務尚書、統帥本部総長らが集まり、後任の臨時宇宙艦隊司令官を選抜したが、その任についた者の名前を見た人間は誰もが驚愕の表情を浮かべていた。
 さらにリヒテンラーデ侯爵は帝国宰相の地位を解かれ、静養することが発表された。
「いささか強引ではないのか?」
流石のフレーゲル男爵もベルンシュタイン中将の手腕に鼻白んだような顔でいる。ブラウンシュヴァイク公爵に至っては露骨に不快さを示してもいる。だが、両人ともこれまでベルンシュタイン中将の意見をないがしろにしてきた事があるため、この度のことは彼に任せている部分が多い。今回のミュッケンベルガー元帥、リヒテンラーデ侯爵両人襲撃事件は、ベルンシュタイン中将が企図したものであることは、本人は明言しないが二人ともうすうす感じ取っている。
「構いません。どうせ罪はすべて彼奴が被るのです。当方としては彼奴が戻ってくる前に権力を手中に収めていた方が良いのです。」
「それはそうであるが・・・・。」
「ブラウンシュヴァイク公一門が繁栄の道をたどるのです。良い事ではありませんか。」
ベルンシュタイン中将が微笑をもって言う。そうまで言われては両人ともに黙らざるを得ない。
「それに、協力すればそれでよし、しなければ排除してしまうのが一番良いのです。」
ベルンシュタイン中将は言外に「閣下方も同じような手段をおとりになってきたではありませんか。」と表情で語り、一礼して部屋を出ていった。彼にはまだまだやるべきことが多いのである。
「叔父上。あの男、少々危険ではありませんか?」
ベルンシュタイン中将が出て行ってから、フレーゲル男爵はブラウンシュヴァイク公爵に話しかけた。その声、その顔には一分の皮肉さも余裕さもない。
「そうかもしれんな。今まで寡黙な男だとばかり思っておったが、いざ蓋を開けてみれば我々以上に大胆、そして残忍な男だ。流石に宇宙艦隊司令長官、そして国務尚書までをも手をかけるとは・・・・。」
ブラウンシュヴァイク公爵の見せる苦々しさの陰には、かすかな狼狽と恐怖がのぞかせていた。
「これは少々甘く見すぎたかもしれませんな。今後の為に準備なりともさせておきましょうか。」
ブラウンシュヴァイク公爵は否とも応とも言わなかった。ただ、テーブルに置いたワイングラスをもてあそぶだけだった。




* * * * *
 旗艦ヴァルキュリア艦上でラインハルトは前方、そして側面を流れ、後方に去っていく無数の星々を眺めていた。ブリュンヒルトに搭乗せずにこのイルーナ艦隊の総旗艦ヴァルキュリアに乗っていたのにはわけがある。

 ブリュンヒルトを始めとするラインハルトの本隊はメックリンガーの指揮の下に帝都に報告した行程を進んでいるが、それとは別にえりすぐった高速艦艇で帝都オーディンに急行しているのである。この時の為に改アースグリム級戦艦及び高速戦艦は通常戦艦の数倍の速さを誇るように改装されていた。選りすぐった2万隻の艦艇及び高速で鳴らしたミッターマイヤー及びビッテンフェルト艦隊の高速戦隊は本隊からさらに先発し、一路帝都オーディンを目指したのである。帝都オーディンへの進路上の辺境惑星は既にラインハルトとよしみを通じていたので、この動向を帝都に報告はしなかった。進路上にある基地などについては各戦隊から揚陸艦などを分派させてこれを制圧したのである。航路については既にイルーナが設定し、それを綿密に検討されていたため、躊躇や遅滞等は全くなく、脱落者もほとんど出なかった。

 さらには、ローエングラム陣営は先の先まで手を打っていた。

 貴族連中の造反に備え、ガイエスブルグにはアイゼナッハを派遣し、レンテンベルク要塞にはミッターマイヤー艦隊四天王であるジンツァー、ドロイゼンの両名を差し向け、ガルミッシュ要塞にはビューロー、ベルゲングリューンの両名を、さらにブラウンシュヴァイク星系にはロイエンタールを別働部隊主将としてワーレンを補佐役として差し向けている。さらにラインハルトはヴァルハラ星域の私設要塞群の制圧及び周辺警戒にルッツ、キルヒアイスを差し向けていた。ジークフリード・キルヒアイスは未だこの時には少将であったが、ラインハルトは先の戦いの武功と合わせ、近々彼を一気に大将に昇進させようとしていたのだった。なお、イゼルローン要塞には当初の予定通りケンプが留守役となっていた。また、万が一に備えアレーナ・フォン・ランディールや同調する貴族たちの私設艦隊も待機、準備を怠りなくさせている。
 このことはミュッケンベルガー主席元帥にもリヒテンラーデ侯爵にも知らせていない内々の事である。
「たとえ発覚したとしても貴族連中の造反に備えてと言えば説明はつくわ。一時の指揮命令系統の違反があったとしても後日の厄災に備えて手を打つ方がずっと利益をもたらすのだから。」
この作戦を展開するに先立って、イルーナがラインハルトに説明している。
「オーディンまで約30日の行程だが、短縮に短縮を重ねれば約15日になる。既に過半を越えたが、速度こそがこの作戦の成否を分けるのだ。引き続き機関最大戦速!!各艦機関部は常にエンジンの機能を十全に保て!!」
ラインハルトが全艦隊に指示を飛ばした。まさに速度こそがこの作戦の成否を分けるのである。そのラインハルトは拳を握りしめ、全身からオーラを発散させてともすれば最大戦速度で飛翔するヴァルキュリアにすら不満を漏らしていた。
「どうしたというの?」
イルーナが尋ねた。
「いえ、何でもありません。」
「なんでもなくはないでしょう?・・・・あなたらしくないわ。」
「戦いを前にして少し気負いすぎているようだ。」
冗談交じりに言うラインハルトの顔をイルーナはじっと見つめていた。その間10秒だったが、ラインハルトの顔色は次第に落ち着きを失っていた。
「・・・・皇帝に会いに行くのね?」
たった数語であったが、ラインハルトの心証を正確にいい当てていた。
「ごまかしは効きませんね。そうです。皇帝とあいまみえる。彼奴に問いただしたいことは山ほどある・・・!!」
ラインハルトの拳がまた握りしめられた。
「おぼえていますか?あの10年前の事を?私は一時たりとも忘れたことはない。あの日から片時も、一瞬たりとも忘れたことはない・・・!!」
「ラインハルト・・・・。」
イルーナは見つめるしかなかった。「弟」の憎しみが隠しようもなく熱を帯びて放射されるのを。
「この手で皇帝を倒し、姉上を救い出す。今こそのその最大の機会だと私は思っています。」
「ローエングラム陣営はまだ盤石ではないわ。リッテンハイム侯爵を倒したとはいっても、ブラウンシュヴァイクはじめまだ貴族たちの基盤は強く、帝室に忠誠を誓う人間も多い。ラインハルト、まだ時は――。」
「ではいつ果たせばよいというのですか?!」
ラインハルトの痛烈な怒りがイルーナを襲った。だが、次の瞬間彼は酷く後悔したように顔色を変えると、顔を背け、黙り込んだ。
「・・・申し訳ありません、姉上。こんな軽はずみな怒りを浴びせるつもりでは――。」
「いいのよ、あなたの気持ちはよくわかるわ。」
ローエングラム陣営№2の参謀総長は若き元帥をいたわりを込めて見つめた。
「あなたの気持ちはよくわかるし、それを最大限尊重したいと思っているわ。でも、機会や情勢を鑑みなくては。帝都に到着次第あなたの思いが果たせる状況にあるならば、私はためらわずに力を貸すわ。」
ラインハルトは黙ってうなずき、両者の間ではこの話題はいったんは終息した。だが、イルーナはラインハルトの胸に秘めた炎は自分が思っていたよりもずっと激しく燃え盛っていることに改めて気づかされたのだった。
『ラインハルト、イルーナ。』
そこに帝都から通信が入ってきた。アレーナ・フォン・ランディールからだ。いつもの飄々とした声ではない。
「どうしたの?」
『緊急事態よ。ミュッケンベルガー元帥、リヒテンラーデ侯爵が何者かによって暗殺されようとしたの!』
二人は思わず顔を見合わせていた。
「容体は?」
『幸い命には別条はないらしいけれど、かなりの重傷らしいの。問題はその後よ、後任の宇宙艦隊司令長官代理、そして国務尚書代理がすぐさま発表されたの。誰だと思う?』
「わからないわ。誰なの?」
アレーナは一呼吸おいて、その名前をはっきりと口に出した。


『宇宙艦隊司令長官代理は・・・バイエルン候エーバルト。』


ラインハルトは心持目を細め、普段滅多に動じないイルーナですら愕然となった様子を見せている。
「流刑になったのではなかったの?」
『私にもわからないのよ。どうやらベルンシュタイン中将、そしてその一味、よほど巧妙に彼を隠していたようね。さらには国務尚書にはブラウンシュヴァイク公爵自らがなると発表されたわ。そして、この襲撃事件の元凶・・・・誰だと思う?正確には誰だとされていると思う?』
「まさか――。」
イルーナが目を細める。
『そう、あなたたちよ。ローエングラム陣営。』
アレーナが長い青い髪をかき上げた。
『わかっているわよ。大方今回の犯人はベルンシュタイン中将。あいつがすべてお膳立てしたってことは。でも世間の眼はそうは見ないわ。あの野郎がブラウンシュヴァイク公爵のマントの下に隠れている限りは。』
「つまりは、ブラウンシュヴァイクを討伐する理由がもう一つ増えたというわけだ。」
ラインハルトが言った。
「でも、ベルンシュタイン中将がここまでやるとは思わなかったわ。ラインハルト、これは帝都に戻るのは危険だと思う。何があるかわからない。敵にもそれなりの備えがあるかもしれない。」
『私もそう思うわ。』
「わかっています。ですがイルーナ姉上、アレーナ姉上、危険を忌避していてはつかみ得るものもつかみえないで終わってしまう。私にはそのことの方が耐えられない。それに、今イゼルローン要塞に戻ったところで結果は同じはずであるし、本隊到着を待っていては奴らにますます時間を与えてしまうことになる。まだこの話は帝都全域にわたっているわけではないのでしょう?」
『そうよ。ごく一部よ。』
「ならば話は早い。このまま電撃的に進撃を続け、一気に帝都を制圧し、首魁を捕えるのだ。それしか方法はない。」
アレーナとイルーナは顔を見合わせた。なるほど、これこそがラインハルトらしいと言えるものだった。危険を忌避すること、先延ばしにすることを彼が是とするはずはなかったのだ。
「わかったわ。アレーナ、そういうわけだから帝都の情報を引き続き収集してちょうだい。できる限りそちらに早く到着するようにするから。」
『どのくらい?』
「後1日というところかしら。もうヴァルハラ星系に差し掛かっているところだから。」
ほどなくね、と言おうとしたイルーナの耳に、
「前方に艦影多数!!」
というオペレーターの声が飛び込んできた。
「艦影!?馬鹿な、この宙域には帝国軍は配備されていないはずだ!!」
ベルトラム准将が狼狽の声を上げる。
「いや、違うな。スクリーンに拡大投影せよ。」
ラインハルトは前方のスクリーンを見つめる。漆黒の宇宙を背にしてエメラルドグリーンの色合いが出ているのはそのかなたにヴァルハラ星域があるからだ。そのヴァルハラ星域を背にして展開しているのは紛れもない帝国軍艦隊だった。
「帝国軍正規艦隊!!」
誰もが総立ちになっていた。この宙域に展開する帝国軍正規艦隊は――。
「ローエングラム陣営のものではありません!これは・・・ミュッケンベルガー元帥の艦隊です!!!」
ミュッケンベルガー元帥はローエングラム陣営に加担こそしないが、敵対をしないと確約したのではなかったか。
「確かなの?」
「旗艦捕捉しました。帝国軍艦船データベースにアクセスします!・・・データ照合終了、識別反応、ウィルヘルミナ級一番艦ウィルヘルミナと確認。」
その決定的な言葉を聞いて、なお動揺しなかったのはラインハルトただ一人だった。
「ミュッケンベルガーの旗艦だからと言って、奴自身が座乗しているとは限るまい。いったん交わした約定を破ることは奴らしからぬ行動だ。」
「ラインハルト?」
「派遣軍司令官はおそらく敵側の誰かでしょう。・・・敵の規模の解析はまだか?」
オペレーターたちがあわただしくコンソールを操作していたが、
「帝国軍正規艦隊、数、判明しました。よ、4万?!」
四万隻!?と幕僚が声を上げる。それを制しながらイルーナは報告を続けさせる。
「さらに2時方向に艦影多数!!急速に接近中!!数、2万5000!!」
「8時方向からも艦影急速接近!!数、3万!!」
十万隻の大艦隊が三方向から迫ってきた事実の帰するところは一つしかない。
「敵は私たちを待ち伏せしていたのだわ・・・・!!」
イルーナが言った。表向きは冷静だったが彼女の拳は震えていた。
 
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