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トシサダ戦国浪漫奇譚

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第一章 天下統一編
  第十七話 雌伏

 織田信雄の本陣に到着すると、織田信雄と彼の近臣達が俺を待ち構えていた。
 織田信雄は眠そうに扇子で口元を隠し欠伸をしていた。
 俺が北条氏規と命を賭けて対面していたのに呑気なものだ。俺は織田信雄に呆れるが、それを面に出すことはなかった。
 俺は早く報告を終わらせたかった。織田信雄には北条氏規との会見の全てを報告するつもりはない。俺にとって都合の悪い部分は省略した。特に織田信雄も知らない、史実の情報と徳川家康が絡む内容は話せるわけがない。織田信雄は馬鹿だが、その近臣には優秀な人材が多い。余計な情報を与え俺の情報の出所を勘ぐられると面倒になる。

「偉そうなことを言っておった割には不首尾か」

 織田信雄は俺の報告を聞いている間、ずっと不遜な態度をとっていた。俺より身分が上の男であることは分かる。だが、この男には不快感しか湧かない。

「言い訳はいたしません。力至らず申し訳ありませんでした」

 俺は口答えせず素直に謝罪した。
 織田信雄は鼻を鳴らし目を細め俺のことを凝視した。

「北条氏規には私がお前に言ったことを全て伝えたのであろうな」

 織田信雄は不愉快そうに言った。北条氏規が降伏しなかったことで気に入らなかったようだ。豊臣軍は韮山城を二日間攻めて味方に大きな被害を出しただけだ。北条氏規が降伏するわけがない。これで北条氏規が降伏したら北条一門として面子がない。北条氏規を馬鹿にしている織田信雄では一生理解できないだろう。

「全て伝えました」
「何と言っていた?」
「『降伏する意思はない』と言っていました」

 織田信雄は北条氏規の返答を聞き終わると、扇子を握る彼の右手に力が籠もるのが分かった。

「お前はそれを聞いておめおめ帰ってきたというのか!」

 織田信雄は俺を睨み怒鳴りつけた。
 おめおめも何も相手を怒らせて交渉が上手くいく訳がない。織田信雄と話していると疲れてくる。

「北条氏規には山中城が一日で落ちたことを伝えた上で降伏を促しましたが、これ以上話すことはないと追い返されました」

 織田信雄からの伝言を伝えなければ、韮山城に籠もる北条家臣達の気持ちを逆なですることも無かったろう。

「お前は本当にそう伝えたのか? 怖じ気づいて何も伝えなかったのではないか?」

 織田信雄は俺が北条氏規に何も言えずに帰ってきたと思っているようだ。
 ここまで馬鹿とはな。俺が年相応に北条氏規と会見して何も言え無かったら、北条方は豊臣軍が彼らを馬鹿にしている受け取り最悪殺されていたかもしれない。
 俺は冷めた目で織田信雄のことを見た。

「その目つきは何だ!」

 織田信雄が不快感を表し俺を怒鳴りつけた。

「申し訳ございませんでした。私の話が嘘と断じられるのであれば、再度使者を送られれてはいかがでしょうか。北条氏規は同じ返事しかしないでしょう」

 俺は織田信雄を見据えて意見した。俺の動じない態度に織田信雄は舌打ちする。

「黙れ。北条氏規を降伏させることができなかった癖に、私に偉そうに意見をしおって!」

 織田信雄は声を荒げた。俺が意見することが気に入らないのだろう。

「相模守、お前のような小僧は私の命令に従っておればいいのだ。分かったか?」

 織田信雄は自分のことを棚に上げ、俺が北条氏規を降伏させることができなかったことを理由に俺を黙らせた。彼の鬼の首を取ったような態度に俺の気持ちは不愉快になる。
 こんな馬鹿の命令に大人しく従うのは癪だが、ここはおとしなく黙るしかない。精々、この馬鹿には秀吉が更迭するまで道化を演じてもらおう。どうせ城は落とせやしない。

「分かったかと聞いているのだ!」

 織田信雄は沈黙する俺を眉間に皺を寄せ睨みつけると声を荒げた。

「生意気を申しまして申し訳ございませんでした。内大臣様のお指図に黙って従わせていただきます」

 俺は頭を下げ殊勝な態度で織田信雄に言った。俺が顔を上げると織田信雄は鼻を鳴らし、俺を手の仕草で「失せろ」と伝えてきた。俺はもう一度頭を下げると織田信雄の元から去った。
 織田信雄への報告から半刻(一時間)が経過した頃、俺の元に織田信雄からの使者が伝言を伝えてきた。
 伝言の内容は俺に後方支援を担当しろとのことだ。俺が最前線から遠ざけられたことを意味する。とはいえ韮山城下に駐屯することは許されている。
 織田信雄の本音が見え見えだ。
 織田信雄は俺に手柄を与えるつもりがない。彼の本音は俺をもっと遠くに飛ばしたいと思っているだろうが、それは秀吉が俺に与えた命令もあり無理と考えたんだろう。しかし、織田信雄のせこい嫌がらせに彼の器の小ささを感じた。だが、織田信雄の嫌がらせのお陰で俺の兵達が損耗することを避けることができる。これは怪我の功名だな。





 俺は後方支援の役目について四日目の朝を迎えた。俺は体を起こし寝ぼけた意識の中で前方の木製の壁を眺めていた。木製の壁は板を幾つも貼り合わせたものであるため継ぎ目に隙間があり、そこから陽光が差し込んでいた。
 今日も良い天気のようだな。
 一昨日の夜も大手門に鉄砲を打ち込んだ。
 今夜も大手門に鉄砲を撃ち込む。
 同じ間隔で同じ刻限で同じ時間だけ鉄砲を撃ち込むことに意味がある。俺の戦術は正攻法じゃない。相手が油断してくれないと困る。

「殿、(なつ)様が戻ってきました」

 俺の部屋の扉から聞き慣れた女の声が聞こえた。先頃、俺の家臣になった元風魔衆の(ゆき)だ。俺はゆっくりと扉に視線を向けた。

(なつ)? 風魔小太郎の娘だったな」

 俺は雪の話にしばらくの間ついていけなかった。韮山城を落とす準備に奔走していて、風魔小太郎の娘の名を忘れていた。そう言えば風魔小太郎の返事の期限だった。期限以内に返事が来たということは悪い返事じゃないだろう。

「殿にお目通りを願い出ています」
「そうか。奥の部屋に待たせておけ。私も準備が整ったら直ぐに行く」
「かしこまりました」

 俺が返事すると雪が立ち去る足音が聞こえた。俺はそそくさと準備を整え扉から出ると柳生宗章がその場に座っていた。俺の警護役である彼は何時も俺の側にいる。だから、俺の寝所の入り口で柱を背もたれにして眠っていた。柳生宗章は本当に律儀者だ。彼にはどうしても家臣になって欲しい。

「風魔小太郎の娘に会う。ついてきて貰えるか?」
「御意のままに」

 柳生宗章は短く返事すると立ち上がった。俺は彼を連れ夏の待つ部屋に向かった。





 俺が夏の待つ部屋に入ると夏が平伏したまま待っていた。部屋には雪と玄馬もいた。二人は俺の姿を確認すると俺に平伏した。
 かつての主人に義理立てか、それとも俺に仕えても心は風魔衆ということか。別に構わない。俺にとって役に立つなら使う。

「よく戻ったな」

 俺は夏に声をかけると上座に座った。柳生宗章は俺の左前に座り何時でも夏を斬れる位置に座った。ここまできて夏が俺を害すことはないだろうが、念のためということだろう。

「小出相模守様、お待たせして申し訳ございませんでした」
「夏、面を上げよ。早く風魔小太郎の返事を聞かせて貰えるか?」

 俺は単刀直入に夏に聞いた。彼女は顔をあげると俺のことを見た。そして、彼女は自分の懐から書状を取り出した。彼女は座ったまま俺の近くまで移動すると体勢を倒し書状を俺に差し出した。
 俺は柳生宗章に目配せする。彼は夏から書状を受け取り俺に差し出した。俺は柳生宗章から書状を受け取ると、それを開き中身を見た。風魔小太郎からの返事は俺の条件を全て飲むと書かれていた。山中城が落ちたことで風魔小太郎も悠長にことを構えている余裕が無くなったのだろう。

「夏、風魔衆は既に動いているのか?」
「既に仰せの通りに伊豆国内に風魔衆の者達を放っております。徳川と江川の間者は全て始末してご覧にいれます」

 夏は顔を上げ俺に風魔衆の動きを説明しはじめた。彼女の報告では既に徳川の間者を七人始末しているそうだ。だが、言うだけなら幾らでも嘘をつける。俺は伊豆国に地の理がない。だから、風魔衆が俺を騙すことは容易いだろう。疑りはじめたら際限にないな。

「私の期待通りに働いてくれているようだな」

 俺は淡々と夏に返事した。風魔衆が俺の指図通り動くことを確約し成果を上げているというなら、俺はそれを賞さなければならない。しかし、風魔衆が俺のために働いている証が欲しいところだ。だが、この場に始末した七人の首を持参しろというのも難しい。間者を始末したというなら、死体はそこらに打ち棄てているにだろうしな。

「勿体ないお言葉でございます」

 夏は俺に返事し平伏した。彼女の声音から彼女が安堵しているように感じた。その様子を俺は静かに眺めていた。
 最近、藤林正保が江川氏の間者を三人始末したと報告があった。真偽はともかく風魔衆は間者を七人始末したと報告している。そう考えると地の利がない藤林正保の配下の成果はまずまずなのものかもしれない。
 藤林正保の報告によると、江川氏の間者は韮山から沼津方面に向かっていたそうだ。伊豆国の交通の要衝、沼津、を経由して向かう先はどこか。豊臣軍が抑えている街道沿いを通って移動を試みるとは大胆不敵な行動だ。
 想像だが徳川の旗本として仕える江川英長の家臣と名乗り街道を自由に移動しているんだろう。少なくとも韮山城に籠もる江川英吉と徳川家康は間違いなく通じている。徳川家康が一枚噛んでないとこんな行動はできない。そうなると徳川家康と北条氏規が通じている可能性は事実と見てしまって大丈夫だろう。
 俺が思案気な表情で考える素振りをしていた。

「小出相模守様、一つ献上したきものが御座います。お役立ていただければ幸いでございます」

 夏は徐に俺に声をかけてきた。彼女は懐から分厚い折り畳んだ紙を差し出してきた。

「それは何だ?」
「拝見いただければ分かると思います。風魔小太郎が小出相模守様に対し二心無きことの証になるかと存じます」

 夏は勿体つけたように俺に言った。俺は柳生宗章に目配せして、夏が差し出した紙を俺を渡すように指示した。俺は柳生宗章から紙を受け取ると開いていく。紙は巻き四つ折りにされ、更に二つ折りにされていた。紙を開くと、その大きさは四尺(約百二十一センチ)あり、建物の見取り図が書かれていた。見取り図に書かれている建物の名前と配置場所を見続けると、俺の脳裏を何かがかすめた。

「韮山城の見取り図か」

 俺は夏に対し質問するので無く確信めいた口振りで問いただした。夏は俺の質問に対し頷いて返事した。俺は口角を上げた。
 この見取り図には堀切などの城の備えについての詳細についても書かれていた。これは最高の軍事機密と言っていい。藤林正保の仕事が楽になる。

「これは信用できるのだろうな?」
「問題ございません。北条美濃守様が韮山城の堀の拡張工事をされていた頃に風魔が作成していたものでございます」
「その頃には風魔衆は北条を見限っていたということか?」

 図面を作って隠し持っているとは油断も隙も無いな。これではおちおち風魔衆を信用できなくなる。だが、役目の上で必要だったのかもしれない。風魔衆には用心しておいた方が良さそうだ。

「いいえ。役目上必要になるため作成していただけです。これを小出相模守様に献上することで、風魔衆は忠誠の証としたいと考えております。どうぞお受け取りください」

 夏は平伏して俺に風魔衆の総意を伝えてきた。風魔衆が北条家が韮山城の図面を豊臣方に渡したことが分かれば、風魔衆は族滅必死だ。風魔衆の意思は固まったと見て大丈夫だろう。

「風魔衆の覚悟はよく分かった」
「ありがとうございます」

 夏は平伏したまま礼を言うと頭を上げる。

「この図面を俺に献上したということは玄馬(げんま)から私が韮山城を調べさている情報を伝え聞いたか?」

 俺は射貫くような鋭い目で夏を見据えた。

「申し訳ございません」
「構わない。だが、今後はこんな真似はしないことだ。私から余計な疑いを買いたくはないだろう。私は風魔衆とは末永く良好な関係を築きたいと考えている」

 俺は夏に婉曲に脅しをかけた。夏は表情を固め俺に平伏した。この位でいいだろう。あまり脅し過ぎても両者の関係に溝を作ってしまう。

「ところで。夏、風魔衆には火の扱いに慣れた者はいるか?」
「火の扱いでございますか? 残念ですが鉄砲の扱いに慣れた者は風魔衆にはいません」

 俺は頭を左右に振った。

「勘違いしているようだな。俺が欲しいのは火付けに慣れた者だ。風魔衆は抱えているだろ?」
「はい、抱えております」
「風魔衆が人を出すなら、風魔小太郎を家老待遇ではなく、正真正銘の家老にしよう。そして、お前を側室として迎える。どうだ?」

 夏は俺の申し出に固まった。俺の話は突拍子もないから驚いているのだろう。だが、悪い話じゃないはずだ。側室とはいえ、主君と縁続きになれば新参の風魔衆も立場が盤石になる。問題は俺が若年過ぎることだろうか。
 俺に韮山城の見取り図を差し出す辺り、風魔小太郎は俺の申し出を喜んで受けるだろう。夏に関しては彼女が婚姻に対してどういう価値観を持っているか分からない。だが、家のためなら受けるに違いない。俺もそう言うものだと割り切るつもりでいる。この時代は婚姻による家同士の絆を強化する手段は有効だからな。御家騒動の原因にもなるが主君がしっかりと舵取りをすれば問題ないと考えている。

「小出相模守様、その申し出は真でしょうか?」

 夏は前のめりになりながら真剣な顔で俺に質問してきた。彼女は凄く乗り気な様子だ。俺から持ちかけた話だが、俺は彼女の反応に戸惑ってしまった。

「二言はない」
「その話を謹んでお受けいたします」
「風魔小太郎には確認しなくても大丈夫か?」

 俺は念のためここで即決してしまって大丈夫か確認した。

「問題ございません。小出相模守様の申し出は風魔衆としても光栄なことでございます」

 俺は狼狽え気味に「そうか」と返事した。

「夏、お前が私の側室になる日取りは改めて決める。それで問題ないか?」
「問題ございません」

 こうして俺は夏を側室することになった。しかし、火付け専門の風魔衆の忍びを韮山城攻めに投入できる。韮山城には煙硝蔵がある。幾ら大量の鉄砲があろうと火薬が無くなれば只のがらくただ。俺は口元に笑みを浮かべた。





 俺は風魔小太郎の娘、夏、との面会を終えると食事を早々と済ませ後方支援の仕事についた。後方支援に回って四日が経過したが、毎日俺の一日は平和だ。今日も大きく変わることはないだろう。韮山城に籠もる北条兵は積極的に城外に兵を繰り出していることはないからだ。数に勝る敵相手に城外戦を行うことは無謀なことだ。北条氏規は俺が伝えた情報で韮山城が完全に孤立した状態に陥いると考え、自軍の消耗を極力避けるように動くはずだ。その証拠に豊臣軍が攻めない限り動かないらしい。

「殿、内大臣様の殿への扱いはあまりに無体です」

 俺の隣で曽根昌世が嘆くように喋りだした。
 俺は馬上から遠く先まで続く荷駄隊の列を眺めていた。俺の近くには柳生宗章と柳生宗矩も控えている。曽根昌世ももう少しこの長閑な雰囲気を堪能した方がいい。一ヶ月後には嫌でも戦場に身を置き神経磨り減らすことになる。

「内匠助、そう悪いことばかりじゃない」

 俺は意味深な笑みを浮かべ嘆く曽根昌世を見た。曽根昌世は俺の態度に溜め息をついた。彼は俺の企みの全て知らされているから、俺が兵力を無傷で温存できる現状を喜んでいることも理解している。しかし、彼の表情は俺の気持ちとは異なるようだ。

「殿はもう少し家臣達のこともお考えください。今度の配置で家臣達の士気が下がっております。先陣に出て戦っていた者達の中には殿に仕官したことを嘆いている者達もおります」

 俺の脳裏に思い浮かんだ者達は十河家の旧臣達だった。彼らは十河存英、十河保長を名目上の頭にして二部隊を編成して行動している。この二部隊は俺が指揮する夜襲とは名ばかりの演習に加わらず、織田信雄の指揮する豊臣軍の先陣に加わっていた。だが初日は俺が日和見していたため、彼らがが先陣に加わったのは昨日一日だけだなる。折角得た手柄を立てる機会を奪われたことで落ち込んでいるんだろう。
 嘆くなら俺の指揮する夜襲に加わればいい。だが、嘆くだけでふて寝とはどうしようもない奴らだな。
 二十六日後には織田信雄は解任され、俺は城攻めに取りかかれる。そうなれば彼らに手柄をあげる機会を与えることができる。俺は彼らにそのことは伝えていないため、俺の余裕綽々な態度に心乱されるんだろう。だが、べらべらと誰彼構わず話せる訳もない。

「嘆いているのは十河家の旧臣達か?」

 曽根昌世は何も答え無い。それを俺は肯定の返事と理解した。十河家の旧臣達の扱いはどうするべきかな。俺の指示で行わせている夜襲に興味を示さない。その重要性を知らせていないため仕方ない部分がある。だが、俺に対して協力的でないことも事実だ。他の家臣達は俺に協力的に行動していることもあり、十河家の旧臣達の行動が目立つ。

「どうしたものか」

 俺は腕組みして視線を落とすと嘆息した。

「十河家の旧臣達で口の固い者達から人を選び殿のお考えを説明してはいかがでしょうか?」

 曽根昌世の提案を俺は妙案だと思った。

「心辺りはあるのか?」
「何人かには心辺りがあります」
「その者達で十河家の旧臣達を説得できるのか? できないなら話す意味がない」
「彼らを全て納得させることは難しいでしょうな。その者達は十河家の旧臣達の中では中堅の立場にいる者達です。家老達は戸次川の戦いで死亡しましたからな」
「一部は抑えることができるということだな?」

 曽根昌世は頷いた。それで良しとするか。

「内匠助から、その者達に説明してくれるか?」
「殿からご説明された方がよいと思います」
「私がか?」
「殿が直々にご説明されれば、その者達も殿が座興で話されているとは思わないでしょう」

 曽根昌世の提案に俺は思案した。態々主君が陪臣達に作戦の詳細を説明する理由はない。だが、俺は志気がこのまま下がることを望まない。肝心な時に使えないことになると俺が困る。俺が奇襲を成功し江川砦を落とした後、天ヶ岳砦を襲撃する時に十河家の旧臣達を使うつもりでいた。だから、やる気を無くして俺の軍から逃亡されても困る。
 曽根昌世が選んだ者達には、俺が城攻めを行う準備を整えていることだけ、説明することにしよう。全てを話す必要はない。

「内匠助、今夜にでもその者達を集めておけ。私が直々に説明しておく」

 曽根昌世は「かしこまりました」と頭を下げた。
 家臣を束ねるのも一筋縄じゃない。俺の家臣団は粗製乱造の寄せ集めだ。それでも家臣団をまとめなくちゃいけない。今後、領地が増えれば家臣が増える。そうなる前に俺なりの組織作りの方針を考えた方がいいな。 
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