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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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IFエンド 「ティアナ・ランスター」

 
前書き
 今回でIFエンドは最後となります。最後は予定していたようにティアナエンドです。普通にデートをしようかとも思いましたが、これまでとは趣向を変えてIFようでIFではない感を意識して書いてみました。 

 
 機動六課。
 私の人生の分岐点になったと言ってもいい部隊であり、今はもう解散して思い出になっている。今思い返してみても色々とあって大変だったけど、そこでの出会いは私を変えてくれた。
 長年コンビを組んでいたスバルとの別れには思うところもあったけど、それぞれの夢のために歩みだしたのだから仕方がないし。まああいつとは割と休日には顔を合わせたりするし、私がこんなこと言ったら調子に乗りそうというかウザそうだから言わないんだけど。

「それに……」

 今の私にとって夢に向かって走ってるスバルは悩みの種じゃない。心配してないというわけでもないけど、あの子だって機動六課での1年で成長したんだから。エリオやキャロは年齢的に不安もありはするけど、ある意味ではスバルよりもしっかりとした子達だし大丈夫でしょう。
 故に……今の私にとって最大の悩みの種はショウさんだ。
 フルネームは夜月 翔。特殊魔導技官という魔導師と技術者、そのふたつの分野で活躍しており、機動六課に所属していた頃は私を含めたフォワード陣の教導を務めた人だ。
 教導はなのはさんが主体だったけれど、デバイスのことや心構え……精神的ケアに関してはなのはさん以上に私は世話になった。あのときのことを振り返ると自分の未熟さが分かるので恥ずかしい。

「……って、問題なのはそこじゃない」

 私が今問題視しているのはショウさんの女性関係だ。
 なのはさん、フェイトさん、はやてさん……と、あの人の周りには魅力的な異性が溢れている。それに私の目に狂いがなければ、全員に好意を持たれているはず。日頃の雰囲気を見る限り、機動六課設立よりも前……下手をすれば、地球に居た頃からの想いな気がする。
 女の私から見てもあの人達は人柄も魔導師としての腕も問題なし。それなのにどうしてショウさんはあの人達と付き合いたいと思わないの? もしかして異性よりも同性を……って、さすがにこれはないわよね。そういう噂は聞かないし、それならあの人達が想いを寄せ続けるのも変だから。
 と考えると……両親が幼い頃に亡くなったって言ってたし、大事な人を作るのに抵抗があるとか。可能性としては考えられるけど……でも今は振り切れてるというか、完全に乗り越えた感じはある気がする。ならいったいどうして……過去の経験が元で自分への好意に鈍感だとか、区別がしにくくなってるとか?

「…………考えても無駄な気がしてきたわね」

 正直あの人の考えは読みにくいところがあるし、何より私は女。性別が違う時点で考え方に違いは出てくる。ならば女性側の視点で物事を考えた方が解決策が浮かぶ気がする。
 そもそも、何であの人達はショウさんのことを好きなのかってことだけど……このへんは考えなくてもいいわよね。
 私には知らない時間があるわけだし、ショウさんは愛想に欠けるところもあるけど魅力はある人だから。魔法関係を抜いてもなんだかんだで面倒見は良い人だし、料理とかもできる。仕事をしたい女性にはある意味理想かも。
 となれば……私に出来る行動はふたつ。
 今の関係がずっと続くならともかく、あの人達は一途だけどヘタレでもあるだろうから年々想いは募るばかり。年を重ねれば同年代は結婚だとかしていくわけだからきっと焦りとかも出てくるはず。下手をすればこじれにこじれてショウさんの命が危ないかもしれない。

「つまり……」

 そんな未来を回避するためにはさっさとこの恋愛に決着をつけること。具体的に言えば、ショウさんが誰かと付き合えばいい。さすがにヤンデレはいないだろうし……大丈夫よね多分。
 となると誰の背中を押すか……私にとって身近なのは機動六課で知り合った人達だけど、シュテルさんとかともちょくちょく会ってるのよね。あの人の周りにもショウさんへ好意を持っている人も居るみたいだし、もしかして私が考えているよりも事態は深刻なのかしら。
 ……いえティアナ、ここで迷ったらダメよ。今のままだと仕事にだって支障が出るかもしれないんだから。
 何故なら私は今フェイトさんの下で執務官になるという夢のために補佐官として活動しているわけだけど、フェイトさんはショウさんのことが好きだ。いや、好きなんて生温い。あれはもう大好きだとか愛してると言っていいレベル。
 だって……ショウさんの名前が出るだけで反応するし、シャーリーさんが冗談で休日とかデートしないんですかって聞いたら顔を真っ赤にしてもじもじするわけだから。美人でスタイル良くて優しくて可愛いとか……ある意味反則よね。
 にも関わらず浮いた話は聞かない。高嶺の花過ぎて恋仲まで近づこうとする人が少ないのか、はたまたショウさん一筋なのが知れ渡っているのか……まあ今は置いておこう。

「とりあえず……私が応援するとなればフェイトさんね」

 日頃お世話になってる人だから応援してあげたいって思うし、ショウさんとの好みも結構合うらしいから。黒系統のものが好きだとか、ショウさんの今使ってる車もフェイトさんの勧めで同系統のものを買ったらしいし。
 フェイトさんが保護者になってるエリオやキャロも、ショウさんのことは慕ってる。ふたりの関係が進展しても何もないというか、むしろ喜びそうなんだからいっそのこと付き合えば良いのに……。

「ショウさんだってフェイトさんは満更じゃないというか……好きか嫌いかで言えば好きよね。はやてさんみたいなノリはないから言動も優しいし……フェイトさんが告白すればあっさりOKするんじゃないかしら」

 ただフェイトさんに告白させるのは最大の問題ね。
 あの人は仕事中や戦闘中は凛とした雰囲気になるけど、普段はどちらかと言えば内気な方だし、純情……でもきちんと知識もあるから質が悪いと言えば質が悪い。あれこれ妄想して勝手にオーバーヒートしそうだから。でも聞いた話では水着とか普通にビキニとか着るらしいし、やるときはやる人なんでしょうね。
 ということは……良い雰囲気で気持ちが盛り上がれば告白まで行くんじゃないかしら。思い出話も色々と聞いたけど、フェイトさんは子供の頃からショウさんのこと好きなみたいだし。それだけ長い時間掛けて育まれた想いなら最後まで突き進むだろうし。
 となると……意外と今日は大切な日になるわね。今日私はショウさんと会う予定だから今もカフェで待ってるし……言っておくけど、別にデートとかそんなんじゃないからね!
 その……ショウさんはお世話になった人だし、会える時には会って近況報告とかするべきだと思ったからであって。断じて私が会いたいと思って会うわけじゃないんだから。

「ようティアナ」
「――っ、ショショショウさんご無沙汰してます!?」
「大丈夫か?」

 だだ大丈夫ですから不用意に近づかないでください。私達は元上司と部下、今は……友人と言えるのかよく分からない気もするけど大体そんな感じなんですから。同性ならまだしも異性なんですから距離感っていうのを大切にしてくださいよね!

「待たせてたんだとは思うが、そんなに睨むなよ。約束の時間までには来たんだから」
「別に怒ってるわけじゃないんで……というか、睨んでないですから」
「いや、お前は割と前から俺に睨むことがあったぞ」

 だから……睨んでないですから。
 私が本気で睨んだらこんなもんじゃないですからね。スバルに怒った時くらいしかそんな覚えないですけど……というか、ショウさんにだって非があると思います。今回に限ってはまあ私の方が悪いですけど、前のは公共の場だっていうのにはやてさんとイチャついてたりとか……

「まあいい……それで今日はいったい何の用なんだ? デバイスの関連か、それともスバルとかの愚痴か?」
「そのへんのこともしたくはありますけど、本題は別にありますから。先に言っておきますけど、少し長くなると思うので覚悟しておいてくださいね」

 フェイトさんのためにも頑張らなければ、という思いで意気込む私に対してショウさんは、いつもどおり自然体で店員にコーヒーを注文する。

「覚悟ね……まあ今日は休みだから気が済むまで付き合ってやるよ。ただし徹夜はなしだからな」
「そんなに長く話しませんから。……最近顕著になりつつありますけど、ショウさんって親しくなればなるほど口が悪くなるというか人のことからかいますよね」
「まあそうかもな」
「自覚があるなら直してほしいんですけど?」
「それは無理だな。ある意味俺にとってストレス発散だし……大きくなった小狸とか無表情なメガネを真っ当な人間してくれたら解決するかもしれないが」

 狸とメガネって……はやてさんとシュテルさんのことですか。
 確かにあのふたりは茶目っ気があるというか、よくショウさんに絡む人達ではありますけど。でもあれはあの人達なりの愛情表見というかスキンシップなんじゃないですか。

「私が思うに本気で解決したいならショウさんがはっきりと嫌だって言えばいいと思うんですけどね。別に本気で嫌がってるわけでもないのに人にどうにかさせようとするのはどうかと思います」
「正論と言えば正論だが……何だかいつにも増して刺々しいな。……もしかしてあれか、髪型とか服装に関して何も言わないから怒ってるのか?」

 私の言動も少し刺々しかったので指摘されるのも仕方ないですけど、何でそういう見解になるんですか。昔からはやてさんとかにそういうことを言われてきたって話は聞いたことがありますけど、別に私はそういうところに気を遣われなくても大丈夫なんですが。
 というか……改めて言われると気になってきたわ。
 普段はツインテールのままだけど、フェイトさんとかと一緒に過ごしてると子供っぽいかなって感じることもあるし。だから最近はたまに髪を下してるというか……今日も下ろしてるんだけど。もしかしてフェイトさんの真似をしてるって気づかれた?
 その可能性は十分にありえる。ショウさんは人があまり気が付いてほしくないこととか、本当に気が付いてほしい時には人一倍の観察眼を発揮する人だから。服装に関してはまあ私らしい感じのだから特に問題ないだろうけど。

「私をはやてさん達と一緒にしないでください……変ですか?」
「聞くんだな?」
「何でそこでそういうこと言うんですか! だからはやてさんとかに乙女心が分からないとか言われるんです。こういうときは素直に答えればいいんですよ。もう少し大人らしい対応してくれても良いと思うんですけど!」

 全て言い終わってから我に返る。
 周囲には人も居るというのに立ち上がって大声を出してしまうとは失態だ。穴があれば入りたいと思うくらいには羞恥心が刺激されている。
 目の前に居る人は涼しげというか優しい感じでこっちのこと見てるけど。あなたのせいでこうなってるの分かってるんですか。

「分かった、分かったから落ち着け。……まあそういうのも良いんじゃないか」
「適当ですね。そういうのなら言わない方が良いです」
「言えって促したのはお前だろうに……個人的な意見で言えば、俺は髪を下ろしてる方が好きだぞ。お前はしっかりしてるから大人びて見えなくもないし」

 …………何でこの人はさらりと好きだとか言えるんだろう。いやまあ私に対して特別な想いがないというか、あくまで自分の思ってることを言っただけなんだろうけど。
 きっと誰からでも聞かれたら素直に言うんでしょうね。そう考えると落ち着いてはくるけど……微妙に苛立つというかムカつく自分も居る気がする。
 別に問題を起こしたわけじゃないけども、ショウさんはもう少し相手を選ぶべきだと思う。男は黙られやすいだというか言うけど、経験を積んでない女だったストレートに好きだとか言われるとときめいたりするんだから。
 きっとフェイトさんとかはこの手の言葉を今までに何度も受けてきたんでしょうね。その度に顔を真っ赤にさせて挙動不審になり……普通ならあの人の想いに気が付くでしょ。そうでなくても少しは自分に気があるんじゃないかって考えるのが普通じゃない。ショウさんの神経どうなってんの……

「黙ったと思ったらまた睨むのか……お前、仕事でストレスでも溜まってるのか? フェイトもなのはに似てワーカーホリックなところがあるし、無理もないだろうけど」
「確かに大変な時もあるけど、フェイトさんは私より何倍も働いてるんですから文句とかはありません。それに執務官になろうとしてるんですから良い経験です。それと何度も言うようですけど別に睨んでないです」
「それで睨んでないのか。知らない間に成長するんだな……今のお前に本気で睨まれたら泣くかもしれん」

 何なら本気で睨んであげましょうか?
 言っておきますけど、こちらが一方的な思考で苛立ってる部分もあるとはいえ……ショウさんも十分に私の神経を逆撫でてますからね。元上司というか恩人というか、先輩だから手は出しませんけど。

「堂々と嘘言わないでください。私に睨まれても平然とするくせに……そんなことより最近はどうなんですか?」
「どうって言われてもな……基本的に職場と家との往復だし、休日はのんびり過ごすか今日みたいに誰かと会うことが多いぞ」
「もっと具体的にお願いします。職場や家でのことは分からない部分もあるので、主に後半部分を」
「そこまで聞きたがることか?」
「はい、今日はお互いの近況報告も兼ねてるんですから」

 今言ったことは嘘ではないけど、本音はショウさんの女性関係の把握だ。私がきちんと把握できているのはフェイトさんくらい。仕事内容を考えてもなのはさんやはやてさんの方がショウさんと予定は合わせやすいだろう。
 クロノ提督とかユーノさん、エリオやキャロとかと会ってるなら問題はない。だけどなのはさん達なら要注意だ。ふたりにも恩はあるけど、今お世話になってるフェイトさんを応援すると私が決めた。
 極論を言ってしまえば、正直誰でもいいからショウさんと付き合えばこの問題は解決する。一定期間失恋で大変な人も居るだろうけど、きっと乗り越えてその後は良い人生を送れるはずよ。間違っても傷害沙汰にはならないはず……多分だけど。
 そういう意味では私やスバルがショウさんの恋人になってもいいのだろう。……ま、まあスバルはそういうのに鈍感というか疎いから無理だろうし、私もショウさんはそういう相手に見てはないんだけど。
 別に今日の髪型や服装だってそんなに迷ったりしてないし、別にショウさんから褒めてもらいたいから頑張ったとかそういうのはないんだから。だから勘違いしないでね!

「そうだなぁ……この前なのはとは会って遊園地に行ったな。ヴィヴィオの面倒を見るというか、あいつが俺と行きたいってのが主な理由だったけど」
「まあ……ヴィヴィオにとってショウさんはパパみたいなものでしょうからね」

 ヴィヴィオ本人は今も昔もショウさんをパパだと思ってるでしょうけど。
 それにしても、今のだとヴィヴィオのわがままをなのはさんが叶えたとも言える。でもきっとなのはさんからすればデートに等しいというか、結婚はしてないけど結婚生活を体験してるようなものよね。
 六課の頃の印象では、ショウさんときちんとした距離感を保ってたように見えるけど……まあ今は置いておきましょう。恋仲に発展するにしてもまだ時間は掛かるでしょうし。

「他には?」
「他ね……そういやはやてとは買い物に行ったな。シグナム達の服とか新調したいから荷物持ちしてくれって頼まれて」
「へぇ……デートですか」
「それは定義にもよるとは思うぞ。まあアウトフレーム状態のリインも一緒だったから可能性は低くなるだろうがな」

 確かにリインさんが一緒だとそうなりますが……それはそれでなのはさんの時と同じことが成り立つのでは?
 ショウさんがパパではやてさんがママ、それでリインさんが娘。そういう構図に周囲の人からは見えるだろうし。それにリインさんの誕生にはショウさんやはやてさんが関わっていると聞いた。となると……考え方によっては本当にふたりの子供とも言えるわけで。
 何より……はやてさんは気さくな人だけど、なのはさん達以上に腹芸が得意というか頭が回る。それだけにショウさんも振り回せたりもするわけだけど、親しさで言ったらショウさんの中ではトップクラスのはず。もしもはやてさんが本気で覚悟を決めたら……これはうかうかしてる時間はあまりないかもしれない。

「他にはあるんですか?」
「この他にもか……ヴィータやシグナムとはちょくちょく会って飯に行ったりもするし、流れではやての家で夕食をご馳走してもらうときもあるが」
「六課の頃から分かってはいましたけど、本当に仲良しですね……もしかして外堀から埋めてる? その可能性は十分にあるわね」
「どうかしたか?」
「いえ、何でもないです。続けてください」
「そうか……他だとシュテルだな。あいつとは職業から顔はよく合わせるから飯は食べる。話す内容はデバイス絡みだが……ユーリもそんな感じだな。レヴィはデバイス以外にも遊びに行こうとか言ってくる。最近はロボットとか少年向けの映画にハマってるみたいだな。ディアーチェは地球の大学に通ってるからあまり会わないが、こっちに用事で来たときは弁当を作ってくれたり、夕食を作ったり家のことをしてくれてるかな」

 なるほど、なるほど……あまり関わりのない人の名前も出たけど、誰なのかは一応分かる。
 ショウさん、気づいてます? あなたが今口に出した人って全員異性なんですよ。これだけ知り合いの名前を出して同性の名前が出てこないっておかしいとは思わないですが。クロノ提督とかユーノさんと仲良しだって情報があるというのに。
 不味い、不味いわよティアナ。あなたが思っていたよりショウさんの周囲には女性が溢れすぎてる。この状況下でフェイトさんとショウさんをくっ付けるのは至難の業な気がするくらいに。
 職業柄仕方がないと言っても、この状況フェイトさん不利すぎるでしょ。下手したら何か月も別世界に行ったりもするわけだから。ショウさんに会いたい衝動を見せることはあっても、たまにショウさんに連絡を取って満足しちゃうし。
 まあ本音としてはもっと話したいんだろうけど、あんまり長話すると面倒って思われるとかショウにも仕事があるし……みたいに考えて自分の欲望は我慢しちゃうのよねフェイトさん。ショウさんへの衝動で仕事が疎かになることは今のところないけど、この状況をしたら失敗とかもし始めるんじゃないかしら。
 そう考えると私も迂闊に動くのは危険な気がしてきたわ。フェイトさんに付き合ってほしいけど、下手に背中を押すと崩壊しかねないし。魔導師として活動するときと同じくらい恋愛にも凛として臨んでくれたら楽なんだけど……それが出来るなら今みたいな状況は生まれてないわよね。

「なあティアナ……お前は何で百面相してるんだ?」
「――っ、べべべ別にしてませんよ!? 人を変人みたいに言わないでください!」
「変人……つまりお前はなのはを変人だって言うんだな。あいつはよく百面相するっていうのに……まあはたから見たら変か。よし、今度なのはに会った時に伝えておこう」
「やめてください、そんなことしたら私がなのはさんに殺されるじゃないですか!」
「おいティアナ……さすがにあいつはそんなことで法を犯すような真似はしないぞ。恐怖しか感じない笑顔で『ねぇティアナ、今日は時間もたっぷりあるから限界ギリギリまで自分を追い込んでみよっか』みたいなことを言うだけだぞ」
「それが死刑宣告なんじゃないですか!」

 ショウさんだって知ってるでしょ。あの人の特訓は見事なまでに限界を見極めたハードメニューなんですよ。今そのテンションで特訓をするなら六課の頃よりもきっと過酷なはず。なら私は絶対と言っていいほど倒れる気がする。
 あぁもう……あの人の絶対零度の笑顔だけは死んでも見たくない。想像するだけでも気分が憂鬱になるし。もしも本気でなのはさんがショウさんを狙ってたりしたら、私がフェイトさんを応援してるの知られたら露骨ないじめ……じゃなくて特訓という名の扱きに遭うんじゃ。
 そんなことをする人じゃなさそうな気もするけど、今は完全にヴィヴィオのママなわけだから今後のためにも父親は必要だって考えるはずだし。
 それにあの人の座右の銘は『全力全開!』って感じがするから一度決めたら最後まで突き進みそう……私はいったいどうするのが正解なの。というか、何で私がここまで悩まないといけないわけ。別にこの人達がどうなろうと私には……関係するところはあるけど、何か起こってもその後のケアに回るほうが楽なんじゃないの……
 すっかり落ち込んでしまった私はぐったりと倒れこむ。すると誰かの手が私の頭の上に乗った。この感触は覚えがあるし、状況からしても考えられるのはひとりしかいない。その手の主は、私が言葉を発する直前に優しく頭を撫で始めた。

「俺が悪かった。なのはに言ったりしないし、仮にそんなことになったとしても助けてやるから元気出せって。ティアナみたいに真面目な奴にそんなに落ち込まれるのは俺としても嫌なんだから」

 …………。
 ………………。
 ……………………ななななな何でそういうことをさらりとやるんですか!?
 ままままったくあなたって人は普通女の子の頭に気安く触りますか。それなりに親しい関係だとは思いますし、私にとっても最も親しい異性と言える人ではありますけど。でもだからって何でこのタイミングでそういうことをやっちゃうんですか!
 嬉しいか嬉しくないかで言えば……嬉しくないこともない。でもショウさんを異性として意識している自分に対する怒りのおかげで不甲斐ない顔をすることもない。
 あぁそうよ、そうですよ、フェイトさんのこと応援するとか言っておきながら心の隅では私がショウさんの……って考えたりもしたわよ!
 でもしょうがないじゃない。この人は今みたいなことを自然にやっちゃう人だし、今よりも自分で自分を追い込んでダメになりそうだった六課の時に私を救ってくれた人なんだから。

「……そういうこと誰にでもやってるといつか刺されますよ」
「別に誰にでもやってるつもりはないんだが。俺は自分にとって大切な奴以外にはそこまで興味は持たない方だし」

 大切な人の中に女性が多いから言ってるんです。本当に刺されても知りませんからね。
 ……でも、あれこれと考えてみたけどこの人を巡る争いはなるようにしかならない気がしてきた。なら私ももう少し気楽というか、好きなようにしても良い気がする。なら……

「いい加減機嫌直してくれないか?」
「いいですよ……その代わり今度から私のこと――って呼んでください」
「何だって?」
「だから……今度から私のことはティアって呼んでくださいって言ったんです!」

 確かに言い淀んだ私も悪いですけど、剣の達人とか周囲に言われるんですからそれくらい読み取るなり予想して汲み取ってくださいよね。聞き返されて答えるのって恥ずかしいし、勇気も必要なんですから!

「それは別に構わないが……」
「何か文句でもあるんですか?」
「文句ってほどじゃないが……呼び方を変える必要があるのかと思って」
「だったら気にしないでください。今後も顔を合わせることはあるでしょうし、デバイスのこととかで困ったら頼るだろうから私なりに歩み寄ってみようと思った結果です。他意はないですから……本当にないですからね!」
「何も言ってないし、分かったから落ち着け」

 落ち着け……気になってる異性が目の前に居て心の底から落ち着ける人間が居るわけないでしょ。何で私はこの人のことこんなに気に掛けるのよ。好意を持つならもっと別な人に持ちなさいよね。自分のことながらどことなく呆れるわ。
 ……でも。
 そんな風に思う一方でこういうのを悪いないと思ってる自分も居る。きっとそれはあの馬鹿……スバルのせいで騒がしい感じに慣れちゃったからに違いない。そう、きっとそうよ……。

 まあでも……今は目の前に居る人のことだけ考えよう。私の中にある想いがこれからどうなっていくのかは分からないけど、後悔のない結果を迎えるためには目先のことをきちんとしていくことが大切なはずだから。

「あんまり子ども扱いしないでください。私はもう子供って呼べる年でもないんですから」


 
 

 
後書き
 今回の話を持ちましてIFエンドは終了となります。

 今後は前に希望をもらったこともあり、Vivid編に進みたいと思います。まあその前にVivid変に進むというか、繋がるための話を何話か書くか迷ったりもしていますが。
 それにVivid編ではメインがこれまでの世代であるなのは達から子供であるヴィヴィオ達に変わるので、この作品のまま書き続けるか別作品として書くか迷ったりもしています。主人公もヴィヴィオ達に合わせて変えるつもりですので。

 ただショウといったこれまでのキャラは引き続き出ると思います。中にはVivid編で師匠的な立ち位置になっている人物もいますから。出番に関しては多くはない気もしますが。
 それと以前からVivid編でのショウとヒロインたちの関係についてアンケートを取っていましたが、IFエンドを読んで意見が変わった人も居るかもしれません。今後作品を書いていく上で参考になると思いますので、よければ今後のショウ達への要望などもあれば教えてもらえると嬉しいです。


 IFエンドの数も多くなってしまいましたが、とりあえずここまで読んでくださってありがとうございました。
 気が付けば今回で135話と長編になりましたが、長い間読んでくださりとても嬉しく思います。読者の皆さんが居たからこそ、この作品はここまで無事に書くことができました。今後とも執筆活動は続けていきますので、よければ今後ともよろしくお願いします。

 
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