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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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IFエンド 「スバル・ナカジマ」

 試験的に運用されることになり、1年間で解散されることになった部隊《機動六課》。毎日のように早朝から訓練があって、体が動かなくなる一歩手前のような状態まで訓練に明け暮れた日々。今振り返ってみても実に大変な1年間だったと思う。
 だけど……あの1年間があったから今の私があるんだと思う。
 なのはさんの考える訓練メニューは正直に言えばきつい……ううん、きついという言葉が生ぬるく思えるくらい自分を痛めつけるものだった。でもそれは確かな成長に繋がったし、個々のスキルを磨くのと同時に仲間という存在がいかに大切なのかを教えてもらったと思う。
 ティアにエリオ、キャロは私にとってかけがえのない存在。きっとそれはこれからも変わらないと思う。六課が解散してからはそれぞれの道を進むことになったからなかなか顔を合わせる機会はなくなったけど、私は信じてる。どんなに離れていてもみんな自分の夢のために今日も頑張っているって……

「……なんて現実逃避をしてる場合じゃないよ~!」

 急がないと大変なことになっちゃう。下手したらジェイル・スカリエッティが起こしたあの事件よりも今の方が大変かもしれない。
 今私が立ち向かっているのは鏡に映る自分。手には服やスカートを持っているけど、着替えの真っ最中なので付けているのは下着だけだ。事実だけを伝えるならかれこれ1時間は今の状態のままどの服を着ようかと悩んでいる。

「これがいいかなぁ……でも何だか子供っぽいような。じゃあ……こっちは何ていうか女の子らしすぎて私っぽくない? あぁもう、全然決まらない……何を着るのが正解なの」

 ティアに相談したいところだけど、今日が休日とは聞いてないからきっとフェイトさんの手伝いをしてるだろうし。ギン姉も仕事……他に頼れる同性はキャロとかなのはさん達だけど、どう考えても普通に仕事してそう。特になのはさんとかは前と違ってヴィヴィオを育てたりしてるわけだし。

「でもこのままじゃ一向に決まらない……決まらないということは待ち合わせの時間になっても出かけることができないわけで。そうなれば必然的に一緒に居られる時間が減るどころか、一般人としての常識も疑われかねない」

 ここまでの流れで分かる人は居るとは思うけど、私にはもうすぐ予定がある。それは……ショウさんとのデートだ。
 何でって思う人もいるかもしれないけど、その理由は単純にして明快。私がショウさんの彼女だから。
 ついこの間までは休みが重なったりしたときに一緒に出掛けるくらいだったんだけど……その、何ていうかいつの間にかショウさんのことが好きになってたんだよね私。それでこの前、別れ際にあれこれ考えている内に頭がこんがらがってきて……気が付いたら告白してました。

「今思い返してみてもまともに告白できた気がしないし、ショウさんもよくOKしてくれたよね……えへへ」

 経緯はどうであれ私がショウさんの彼女に変わりはない。それだけで自然と笑顔になってしまう。
 ティアからは恋愛に疎いだとか、そっち方面は本当に駄目ねとか馬鹿にされてたけど、今ではティアよりも上だ。だってティアには彼氏がいないし、できる気配もないんだから。というか……

『は? ……あんた今何て言ったの。私にはショウさんが好きだとか聞こえたんだけど』
『そう言ったけど?』
『……その、友達とかそういう意味でよね?』
『ううん、そういうのじゃないよ。男の人として好き……大好き』

 なんて流れが過去にあったんだけど、この次に言われたのが「馬鹿なのあんた、あの人達に勝てると思ってるわけ!?」だった。
 当時はティアこそ何を言ってるんだろうって思ったけど……今冷静に考えてみると、確かに私は凄い勝負に臨んだんだよね。不屈のエースオブエースであるなのはさん、執務官として働いているフェイトさん、そのふたりよりも出世してるはやてさん達に挑んだようなものだし。
 子供の頃から管理局員として働いてて経験も実績も上の人達ってことだけでもあれなのに、ショウさんとは長年の付き合いがある。それぞれの家を訪れたり、一緒に遊びに行ったりと青春を共に過ごした過去があるんだから。普通に考えたら私が入り込む隙間なんてありそうにない。

「……でも! なのはさん達って私以上に恋愛面はヘタレというかダメだったわけで。勇気を出した私が勝利したんだからなのはさん達のことなんてどうでもいいはず!」

 長年ショウさんのことを想ってきたかと思うと申し訳なさも感じたりもするけど、ショウさんを渡したくはないし。そりゃ私よりも可愛いし、綺麗だし、料理とかもできる人達だけど……何で私はショウさんと付き合えてるんだろう。
 というか、私なんかがショウさんと付き合っててもいいのかな。他の人と付き合った方がショウさんも幸せなんじゃ……

「…………はっ!?」

 今は仮定の話を考えてる場合じゃない。ありえる話ではあるけれど、少なくともショウさんの今の彼女は私なんだから私がちゃんとしていれば問題ないはず。そのためにもまずはデートに着て行く服を決めないと。もうすぐショウさんが迎えに来る時間だし。
 ……だけど、決められる気がしない。付き合う前は問題なかったのにどうして付き合い始めた途端にこんなことになっちゃったんだろう。
 私は正直ティア達に比べたら女の子らしくはないと思う。髪の毛は短いし、スポーツとかも男の子に交じってやるのも平気な方だし。体つきに関しては女の子らしいけど……これまでに女の子らしい恰好とか、胸元とかを強調する服とか着てこなかったから恥ずかしいと思っちゃう。

「ショウさんから可愛いって思ってもらいたいけど……でも急に女の子らしい恰好したら変に思われるかもしれないし。というか、下手したら似合ってないとか思われるかも。それだけは絶対に嫌だ。私だって女の子なんだから好きな人には可愛いって思ってもらいたいもん!」
「……おめぇ、服も着ねぇで何やってんだ?」
「――っ!?」

 反射的に振り返ると、そこには呆れた顔を浮かべているお父さんが立っていた。身内だったと安心したのもつかの間、私の中に凄まじい羞恥心が湧いてくる。

「な、何でドア開けてるの。用があるときはちゃんとノックしてよ!」
「おいおい、責任転嫁はやめてくれ。ドアを開けっぱなしにしてたのはおめぇの方じゃねぇか。それに……いくら育ったからって娘の裸見ても何とも思わねぇよ」
「お父さんが思わなくても私は思うの!」

 子供の頃ならまだしも私だって今じゃ年頃なんだから。そりゃお父さんからしたらまだまだ子供なんだろうけど、もう少しそういうところを考えてほしい。というか……

「何か私に用なの? ないならドアを閉めてほしいんだけど……」
「別におめぇに用ってわけじゃねぇが、もうすぐ坊主が迎えに来る時間だってのに姿が見えなかったんでな。寝てるかと思ったが……こりゃ寝てる方がまともなだったかもな」

 ぐ……、と言葉に詰まってしまう。何故なら部屋には大量の洋服が散乱しているから。腹芸が得意とされるお父さんからすればどういう状況なのか理解してしまうだろう。

「何となく分かるが……おめぇは何を悩んでんだ?」
「……着て行く服。……いつもみたいにラフすぎるとショウさんにあれこれ思われるかなって。でも気合を入れすぎても重いとか思われるかもしれないし」
「はぁ……おめぇが女らしくなってくれんのは親としても嬉しいことだが、別に結婚式だとかそういうんじゃねぇんだ。変に洒落っ気出さずに適当に着ちまえ。別にあいつは変な恰好しない限り気にしたりしねぇだろ」

 確かにそうだとは思うけど……娘の今後に影響するかもしれないんだからもう少し真剣になってくれてもいいと思う。お父さんだってお母さんとデートするときはあれこれ考えただろうから。

「しっかし……よくよく考えてみると、何であいつはおめぇなんかを選んだだろうな。近くにもっと良い女はいるだろうに。教導官や執務官の嬢ちゃんだとか、はやてだとかよ。オレの目が間違ってなけりゃ、あいつらは坊主のこと好きだと思ったんだがな」
「う……」
「経済的なことを抜きにしたってあいつらの方が料理だってできるだろうに……何で坊主はうちの娘を選んだんだ? 落ち着きはねぇ方だし、馬鹿みたいに飯は食べる。色気があるかつったら昔よりはマシだがねぇほうなのによ」
「あぁもう、それ以上言わなくていいから!」

 そんなことはお父さんに言われなくても分かってるから。というか、何で娘の私よりもはやてさん達の味方するの。お父さんは娘の幸せよりも元部下だった人達の方が優先なわけ。大体私だってそういうこと考えて不安になるんだから言わないでよ!

「いいから早く出てってよ!」
「そんなにガミガミ言わなくても出ていくさ。さっさと準備終わらせとけよ。じゃないと坊主が迎えに来ちまうからな」

 お父さんの姿が見えなくなるまで見送った後、即行でドアを閉める。
 私は大きく息を吐くと視線を散らかった室内へと戻し、もう一度大きくため息。我ながら服を選ぶのにいつまで掛かっているんだろう。少し前までは服装なんてすぐに決まっていたのに。

「はぁ……何だか色々考え過ぎて頭痛くなってきた。いったん落ち着こうか……なっ!?」

 ふと視界に入った時計の時刻は、約束の時間まで30分もないことを告げていた。
 ままま不味いよ、まだ服も決まってないし。それに服が決まったとしても他にもやることが……私だって女の子なんだから多少なりともやることはあるんだから! って、そんなことを言ってる場合じゃない。早く服を決めて準備を終わらせないと。

「えっと……これとこれを組み合わせて! でも、こっちとこっちの方が……あぁもう、時間もないしこれにしよう!」

 青系のノースリーブに白のパーカー付きのジャケット、それにベージュのハーフパンツ。いつものようにボーイッシュな感じなものを選んでしまったけど、下手に女の子らしくて変だと言われる方が私の精神的に辛い。
 着替え終わった私は財布といった必要なもんをバッグに詰めて部屋を出る。残り時間は刻一刻と迫ってきているけど、念のためにもう一度歯を磨いたりして髪の毛とかも整えておかないと。やっぱり女の子は身だしなみが大切だよね。
 そうこうしているとインターホンが鳴る。
 時間帯から考えてもショウさんが迎えに来たのだろう。鼓動が高鳴っているけど、テンパって挙動不審になったら不味い。何が不味いかというと私の精神がね。少しずつでもいいから大人の女性って思われたいし!
 そんな風に意気込んで玄関に向かうと、そこには白いシャツの上に黒のジャケットとシンプルに決めているショウさんが立っていた。普段通りの着こなしなんだろうけど実にカッコいい。

「ショショショウさん、おはようございます!」
「あぁおはよう」

 普通に返してくれたけど……恥ずかし過ぎる。たかが挨拶するだけなのにあんなに嚙んじゃったし。でも仕方ないと思う。だってショウさんカッコ良すぎるんだもん。前から雰囲気が大人だったけど、今ではさらに大人っぽくなってるし。
 それに……きっとショウさんはこれといって服装とか迷ってないんだろうなぁ。いつも自然体で居る人だし。だからこそ一緒に居るとこっちも自然体で居れるんだけど……なのはさん達もそういうところに惹かれたんだろうな。立場があったりすると色々と大変だろうし、可愛いし綺麗だから昔からモテただろうから。
 あ、別に自然体で居られること以外にもショウさんの魅力はあるから。冷たいように見えて優しいし、面倒見も良くてお菓子作りも上手い。それに魔導士としても一流で色々と教えてくれるし!

「スバル、どうかしたのか?」
「――っ、なな何でもないです!?」
「本当か?」

 本当、本当です。ただショウさんのことを考えていただけで……何でそこで近づいて来るんですか。まあ私のことを心配してってことは分かってますけど、今の私にとっては逆効果というか……もちろん嬉しくもあるけど。

「坊主、あんまりうちの娘をイジメてくれるな。色恋はお前さんが初めてだからな。色々と初心なんだからよ」

 何でここでお父さんが出てくるの!
 いやまあ、はやてさんとの繋がりでショウさんとは昔から親しくしてただろうけどさ。これから娘が彼氏と出かけるって時に出てこなくてもいいと思う。大体私のことを初心とかいうのやめてよ。確かにショウさんが初めての相手だし、あんまりそういうの得意じゃないけど何か恥ずかしいじゃん。

「別にイジメてるつもりはないんですけどね」
「ふむ、まあそれもそうか。正直スバルが勝手に自爆してるだけだからな……さっきも何を着て行こうか部屋を散らかすくらい」
「お父さん、そういうことは言わなくていいから!」

 どうして私の恥ずかしいところばかり言おうとするの。ショウさんに知られたら恥ずかしいのに……六課の頃から付き合いあるからすでに知られてそうな部分でもあるけど、今は部下と上司って立場じゃない。彼女と彼氏の関係なんだから知られてることでもさらに知られたくはないんだから!

「馬鹿言ってんじゃねぇ、大事な娘を預けようってんだ。ちゃんとお前のことを知ってもらわねぇと坊主にも悪いだろうが。お前はギンガと違って器量が良いってわけでもねぇんだからよ。坊主に捨てられたら今後男が出来ねぇかもしれねぇだけにオレがどんだけ心配してることか……」
「何で娘よりも相手に対して配慮するの。確かに私はギン姉よりあれだけど……というか、ショウさんは理由もなく捨てる人じゃないし!」
「おいスバル、それは理由があれば捨てるって言ってるようなもんだぞ」

 …………。
 ………………お父さんが悪いんじゃん!
 ショウさんが来る前ならともかく、すでに来てるというか本人目の前にして言っちゃった。これがきっかけで別れることになったりしたら、私はお父さんのこと一生恨むからね。

「ゲンヤさん、それ以上やられるとこのあとが大変なんですが」
「おっと、それもそうだな。だがよ坊主、お前さん本当にこいつでいいのか? はやてだとか教導官や執務官の嬢ちゃんとかスバルより良い女は居るだろう?」

 な……何でこのタイミングでそんな話をするの!?
 確かに私も何度も考えたことではあるし、お父さんが毎度のように疑問としてることだけど……今しなくてもいいよね。せめてショウさんとふたりっきりで酒の席とかでやってよ。ショウさんの答え次第というか、反応によっては私は身を引こうとさえ思うよ多分!

「確かにあいつらとは付き合いも長いですし、周囲も認めてるように美人ですからね。それに経済的な面だけでなく性格的な面でも良い女だとは思いますよ……時折面倒臭いですけど」
「それはお前さんには素を出せてるってことだろ。あの子らは誰かに甘えるのが苦手というか何でも自分でやろうとするタイプだからな。お前さんみたいな奴は貴重だろうさ」
「まあそうなんでしょうけど……」

 私(彼女)がいるのにこの満更でもない感じ……ううん、ショウさんは悪くない。だってなのはさん達は私の目から見ても良い人達だもん。美人だけど話しかけづらい雰囲気とかないし、何事も真剣で訓練とかは厳しかったりもするけど、そのぶん日頃優しく接してくれるわけだから。
 私があの人達に負けてないところなんてあるのかな……魔導士としては経験や立場を考えても劣ってるし、女としての魅力とかもあっちが上だよね。正直に言って私はあんまり女子力ある方じゃないし……負けてないところなんて元気と胸の大きさくらいかな。でもそれだけで勝てるような人達じゃないよね……

「スバルは俺に真摯に向き合って……それでいて好きだって言ってくれましたからね。だから俺もこの子に真剣に向き合おうと思ったんですよ。スバルの気持ちが変わるまで……修復できない亀裂が出来るまでは」
「ほぅ……なら順調に事が進めばお前さんはスバルを嫁にもらうってことだな?」
「えぇもちろん。そのときが来たら改めて挨拶に来ますよ」

 何だかショウさんとお父さんの間に良い雰囲気というか男だけの空間みたいなのが出来上がってるけど……凄まじいことになってる気がする。主に私の今後に関することで……。
 今お父さんはショウさんに私を嫁にもらうつもりでいるんだなって聞いて……それにショウさんは肯定の返事をしたよね。ということは……遠回しにプロポーズをされたというか、結婚を約束されたようなもの。つまり遠くない未来に私はショウさんから指輪を…………

「ショ、ショウさんから……アハハ、何か凄いことになってきたよ。こここれからデートなのに……だ、だだだ大丈夫かな」
「はぁ……我が娘ながら情けねぇ。普段は男っぽいってのに初心すぎて困る。坊主、わりぃがこのあとは任せていいか?」
「いいですよ。これくらいどうにか出来ないと将来困りますから」
「へ、違いねぇ。んじゃ頼むぜ」

 あれーお父さんがどっかに行っちゃった。まあこれから私とショウさんは出かけるわけだから当然と言えば当然なのか。
 ……って、しっかりスバル。こんな調子じゃ変だと思われるんだから。よーし、ショウさんとのデート楽しむぞ……デ、デート。楽しみにしてたし緊張もしてたけど、これまでの比じゃないくらい心臓がバクバク言ってる。将来的に私のこともらってくれるって言ったし……今日はど、どこまでするんだろう。

「スバル」
「は、はい!?」
「こうしてる時間も勿体ないし、さっさと行こう」

 私に向かって差し出された手。男らしく大きくて何度も私を救ってくれた優しい手だ。
 私は人間だけど戦闘機人でもある。戦闘機人であることを昔の私は嫌に思っていた。でもこの人が私の心を救ってくれた。
 戦闘機人の力は魔法と変わらない。大切なのは扱う人の心なんだって……心があればそれは機械じゃなくて人間なんだって。この人の言葉があったから私は今も折れることなく前に進むことが出来る。この人が居れば私はどこまでも真っ直ぐで居られる。
 だからこそ、私はショウさんが好きだ。
 憧れのなのはさんにだって渡したくないし、渡すつもりもない。ずっとずっと私がショウさんの彼女で居続ける……将来的にお嫁さんにもらってもらうからこれは無理なのか。でもいつまでも今の気持ちを忘れずには居たい。そのためにも今は今という時間を大切にしよう。
 そう思った私は、ショウさんを手を握って真っ直ぐに彼の目を見た。

「ショウさん」
「ん?」
「今日も……そして、これからもよろしくお願いします!」
「ああ、こちらこそよろしく」


 
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