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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第四十八話 第三次ティアマト会戦に向けて、準備です!

 帝国歴486年1月19日――。

 年が明けて帝国歴486年、帝国軍はメルカッツ提督を総司令官とする3個艦隊36000隻を皇帝臨御の下、帝都オーディンから同盟領内に向けて出撃させることとした。
 フリードリヒ4世は綺羅星のごとく正装した武官文官に囲まれ、帝都オーディン将官専用軍港中心部のドーム状の臨御台から出撃する艦隊を見送っていた。
 その眼下を次々と出征する将官たちが行進し、皇帝に敬礼を捧げていく。その中にラインハルト、そしてイルーナの姿もあった。
 OVAと異なる点は、総司令官がミュッケンベルガーではなくメルカッツであること、そして艦隊の両翼を担う主要人物がラインハルト・フォン・ミューゼルとイルーナ・フォン・ヴァンクラフトであったこと、在位30周年記念というよりも、ラインハルトとイルーナの二人を排除しようという動機からの出撃であること、などである。
 もっとも、最後の相違点については、アレーナ・フォン・ランディールから既にきかされていた二人である。今更驚きもしなかった。

「中将に昇進してようやく一個艦隊を指揮できる身分になった途端に、この出征だ。運気が巡ってきているな」

 皇帝陛下に向けて敬礼をしながら、ラインハルトはキルヒアイスに話しかけた。

「もっとも、その動機が俺やイルーナ姉上の抹殺というのは少々あくどいものではあるがな」
「ラインハルト様」
「わかっているキルヒアイス。どうせ戦闘指揮のさなかに後ろから旗艦を狙い撃ちするか、司令艦に暗殺者を紛れ込ませているのだろう。奴らのやりそうなことはだいたい想像はつく。が・・・・」

 ここでラインハルトは少し考え込むような表情を見せた。

「いかがいたしましたか?」
「いや、油断は禁物だと思ってな。これまで俺たちは悉くベーネミュンデ侯爵夫人らの罠を排除してきた。だが、敵の勢いは衰えるどころか、絶えず新たな仲間を加え、活性化していく。どうも繁殖するネズミ並みに厄介なものだ」
「おっしゃるとおりです。油断は禁物でしょう。たとえミュラー参謀次席ら心を許した方たちがそばにいると言っても、暗殺者たちはその裏をかきます」
「その通りだ。キルヒアイス。だが、俺は恐れてはいない」

 ラインハルトは不敵な笑みを浮かべた。

「お前がいるからだ。お前は俺の背中を見ていてくれる。そのおかげで俺はずっと前を向いて進んでいける」

 皇帝陛下や主要幕僚らの視線から見えないところまで二人を搭乗していた車が来ると、ラインハルトはぽんとキルヒアイスの方を叩いた。

「頼んだぞ、キルヒアイス」
「はい、ラインハルト様。」
(必ず、ラインハルト様をお守りしなくては。アンネローゼ様のためにも・・・・)

 キルヒアイスは硬くそう誓ったのだった。


 そして、帝国軍遠征軍出撃の情報はフェザーンを経由して、自由惑星同盟にもたらされた。フェザーンの情報なのであてにはならないが、今回も5万隻を超える大軍が侵攻してくるとの報告である。

「この1年間の間に、三回の侵攻だと?!」

 自由惑星同盟評議会での一議員の困惑した叫びが、全同盟の心情を物語っている。ヴァンフリート星域会戦、第二次アルレスハイム星系会戦、そして今回の防衛戦と、1年間の間に3回もの大規模会戦が行われることは非常に珍しい。

 ここに書くまでもない事であるが、帝国も同盟も、それぞれにおいては、軍隊は税金によって賄われている。両者の間で決定的に違うのは、主権の存在である。帝国の場合主権は皇帝陛下に帰属する。つまり納税者=主権者ではないが、同盟では納税者たる市民が主権者である。軍隊を動かすのにも市民の支持がいるというわけだ。
 よって、自由惑星同盟においては、三度の出兵にかかる莫大な費用の予算取りについては、文字通り紛糾していた。辺境警備艦隊に防衛戦をやらせればいいという者。三個艦隊程度を派遣して、終始守勢に徹し、敵の引き上げを待てばいいという者。この機会に帝国に対し致命的な打撃を与え、帝国の国力を削ぐことこそ、恒久的な同盟体制の維持につながるという者。
 議論百出したが、その間にも帝国軍は待ってくれない。そこで国防委員長になっていたケヴィン・ハンスネルはさしあたって、2個艦隊を動員し、予算が下り次第1個艦隊を動員するように議会に提案した。折衷案というわけだ。

 ヨブ・トリューニヒトはこの時期国防委員長ではない。ピエール・サン・トゥルーデ率いる保守政党がまだ政権を握っているためである。代わりに在野における有力議員として積極攻勢、軍備増強などを掲げ遊説に精力を注いでいた。
 彼の主張は与党の施策のなかでほめるべきところは率直に誉め、非難するべきところは非難するというわかりやすいものだった。わかりやすい論点、人を引き付ける話の展開、そして熱弁に終始しないエビデンスを提示しての討論は、原作にはなかったものである。
 これは、シャロンのアドヴァイスが背後にあったものである。シャロンとしてはヨブ・トリューニヒトなどは、いつでも始末する対象であったものの、今だ少将の身では政財界に十分な影響を与えられないと判断。トリューニヒトを出汁にして、徹底的に、それこそ骨の髄まで吸い尽くす策をとったのだった。

 そのトリューニヒトとシャロンは、国防委員長の案を折衷的で何ら解決策になっていないと批判。(もっともシャロンは正面切ってではなく、トリューニヒトをスポークスマンに仕立てているのだったが。)トリューニヒトは3個艦隊以上の規模を動員するように議会で主張した。ここまでは野党の他の者と一緒であったが、トリューニヒトの凄みは、それによって加速度的に増える重税について包み隠さない指標を提示したことである。だが、同時に彼は帝国軍侵攻によって被害を受ける辺境惑星の損害と、それによって失われる人命などの算出データも提示したのだった。敢えてマイナスの面を率直にさらけ出すことによって、引き続いて提示されるプラスの面の効果を総倍に見せるという方法はシャロンも前世で行っていた事である。

 この日、自由惑星同盟評議会に置いてトリューニヒトが発言したのも、そういう主張であった。
トリューニヒトは自分の議席から立ち上がり、周りを見まわしながら声を張り上げた。

「諸君!!圧政を是とする帝国の暴政に立ち向かうことこそが、我々の使命であることは明白である。そのためには国力を整え、将来帝国に対し大規模な侵攻作戦を行う事こそ、我々の究極の目的である」

 だが!!とトリューニヒトはさらに声を張り上げた。

「それ以前に近隣の同志が危機にさらされているという状況を放置することを諸君は是とするのか!?自由惑星同盟に所属する民は皆平等、自由を享受する権利を受けているのではなかったか。ハイネセンとその周辺の都市惑星さえ、無事であれば、イゼルローン回廊に近い惑星など放置しておいていいと諸君は主張するのか!?」
「口を慎め!!」
「極論だぞ!!」
「我々は市民の血税を投入するのだ。慎重になるべきだ!!」

 などという野次がとんだが、彼を支持する野次の方がずっと多かった。

「国防委員長に問おう!!我々がなすべきこととはいかなることなのかを!!ここでこうして空しく議論をし、もって戦勝の好機を逸し、祖国を守る崇高な義務と理念を持つ軍隊に足かせをはめようというのか!?それとも議論のみで帝国軍を駆逐する必勝の策を委員長はお持ちなのか!?」

 ケヴィン国防委員長は42歳であったが、額の汗を拭きふき、オールバックの砂色の髪を白髪に染めかねないほどの蒼白ぶりである。

「私は言おう。今我々に必要なのは議論ではなく、行動の時なのだと!!こうしている間にも帝国軍はイゼルローン回廊に近い我々の同志の居住する惑星を制圧し、そこに住む同志を弾圧するかもしれない。想像できようか!?我々の隣人、友人、その家族が帝国軍に住居を焼かれ、田畑を荒らされ、工場を破壊され、そして・・・失礼、こういう露骨な言い方をしてしまうことをお許し願いたいが、女子供は強姦され、凌辱されることを諸君らは想像できようか!?今こそ行動の時なのだ。このような悲劇を繰り返さないためにも、我々は立ち上がり武器を取るべきなのだ!!これになお反対をする者に向かって、私はこう言いたい」

 トリューニヒトはクライマックスに向かって突き進む競技選手の様に胸を大きく上下してこの言葉を放った。

「エル・ファシルの屈辱を諸君は忘れたのか?!」

 おおっ!!!という悲鳴に近いどよめきが沸き起こった。そう、エル・ファシル。ヤン・ウェンリーが英雄としての登竜門を果たした惑星の名前であるが、その背後には帝国軍に包囲され、住み慣れた故郷を追い出された300万人の人々がいたのである。一時帝国軍に制圧され、シトレ率いる第八艦隊によって解放された直後のエル・ファシル星は帝国軍に荒らされ、惨憺たるものであった。自由惑星同盟は予算を予備費から投じて「エル・ファシル復興財政委員会」を設立し、1年間という短いスパンで驚異的な復興開発を行ったのだった。そのかいあってエル・ファシルは帝国軍侵攻前の姿をほぼ取り戻していた。
 あれから、エル・ファシル星域は一度として失陥せずに同盟によって保持されている。今帝国軍侵攻が起こり、これを放置するのであれば、エル・ファシルは再び帝国軍に制圧されてしまう。他の星々もだ。そのようなことを許すということは、あのエル・ファシル奪還作戦はなんだったのかと、同盟市民に真っ向から問いつめることになる。

 そのようなトリューニヒト演説は、在野を、そして議会を動かし、紆余曲折を経て、最終的に、4個艦隊48,000隻の動員が確定した。




 この報告はアレーナ・フォン・ランディールが構築していた情報網を通じ、すぐにラインハルトとイルーナにもたらされた。

「4個艦隊、48000隻か、数の上では俺たちに不利だな。どう思う?キルヒアイス、イルーナ姉上、アレーナ姉上」

 侵攻する帝国軍の遠征途上において、極低周波端末を利用した電子戦略会議上、ラインハルトは3人に尋ねた。もっともその顔は不敵な笑みがちらと垣間見えていたが。

『ラインハルト、あなたも私たちのことを良く知っているから、包み隠さずいうけれど、私たちの知っている第三次ティアマト会戦はそれぞれ3個艦隊規模の艦隊が戦ったのよ。結果は敢えて言わないけれど。だから、この世界における第三次ティアマト会戦と少し様相が違うのよ。まずこのことを抑えておいて』

 イルーナの言葉に、ラインハルトとキルヒアイスはうなずく。イルーナとアレーナは転生者だということをラインハルトに暴露したうえで、こう取り決めをしていた。自分たちの知っている銀河英雄伝説の世界は、あくまで数ある選択肢の中から派生した世界の一つに過ぎない。よって、確率の話ではないが、全く同じ銀河英雄伝説の世界が、この世界において構築されるはずもない。だから、ラインハルトに話す際には、あくまで自分たちの見聞きした世界は「可能性の一つ」であることを強調して話すようにしよう、というのである。
 その方が、原作に固執して要らぬ火傷をする危険性を回避できる、というわけだ。もっともラインハルトはその話を二人から聞かされたときには、自分から進んでそう言ったのだったが。

『そのうえで、アレーナの伝えてきた敵の陣容を再度羅列すると、第一陣はウィレム・ホーランド提督の率いる第十一艦隊、ルフェーブル提督の率いる第三艦隊、そしてホーウッド提督の率いる第七艦隊。提督の陣容は違うけれど、ここまでの規模は私たちの知っているあなたたちの世界と同じね。問題は、不確定要素たる第十三艦隊が登場してきたことなのよ』
「第三艦隊のルフェーブルは外連味のない堅実な用兵を展開する提督と聞く。第七艦隊のホーウッドも同様だ。堅実な敵将をもってきたということは、同盟の奴らは、今回は守勢に徹するものと見える。第十一艦隊のウィレム・ホーランドという奴は初めて聞く。おそらく司令官になって間もないのだろうが、その意味では第十三艦隊と同じく不確定要素と言えるだろうな。さて、第十三艦隊だが・・・司令官は誰か、判明しているのですか?」

 ラインハルトの言葉に、ディスプレイ上でアレーナが肩をすくめた。

『それが一切不明なのよ。動員について大っぴらに宣伝する同盟軍が、なぜか第十三艦隊については、艦隊の名前しか言わないのよね。同盟軍内部に潜入させているスパイも知らぬ存ぜぬ。第十三艦隊自体が結成直後なんだって。式典も報道も一切なし。大方上層部のほんの一部しか把握していないのかも』
『特務艦隊、極秘艦隊、色々と言い方はあるようだけれど、これだけ極秘にしているということは何かあると勘ぐりたくなるわ。さて、ラインハルト。私たちの方針はどうすべきかしら』
「最たる不確定要素たる第十三艦隊を真っ先につぶす。が、案外それが敵が期待していることなのかもしれない。確たる情報がない以上、ここで話し合っていても結論は出ないだろう。基本方針はそれで行くが、むろん戦場における敵の布陣と動向を見定めてから方針を変えることもあり得る。それでいいですか?」

 他の3人はうなずく。不安そうなキルヒアイスに向かって、

「心配するな、俺たちはどんな敵にも負けない」

 ラインハルトはOVAなどで何度も見せた、あの不敵な笑みを見せた。

「イルーナ姉上、アレーナ姉上、そしてキルヒアイスが俺のそばにいる限り、俺はどんな敵にも立ち向かえる。」



 一方、自由惑星同盟では第三艦隊、第七艦隊、そして第十一艦隊が次々に進発していたが、肝心の第十三艦隊については、動員一覧に名前が挙がっているだけで、肝心の進発年月日も司令官も一切が報道管制の下に敷かれ、不明であった。
 比較的こういったことをオープンにする同盟としては異例の措置である。
 これについては、シャロンでさえあずかり知らぬことであった。彼女はそれとなくブラッドレー大将、シトレ大将に尋ねてみたが、両人とも珍しく口を濁していた。

「一体どういうことでしょうか?」

 シャロンはキャゼルヌ少将のオフィスに来ていた。ちょうど今作戦におけるシュミレートが出来上がったので、それに伴う補給計画の算出を求めにやってきたのである。ついでながら、大まかな戦略立案までを統合作戦本部が実施し、それから先の戦術レベルについては、出先艦隊に任せる、というのがこれまでの慣習になっていた。もっとも、ブルース・アッシュビー元帥の時などには、すべて現場に任せきりという事態も発生したりしていたのだが。

「さぁてな。俺はそこまでは知らん。ヤンなら何か知っているんじゃないか?」

 と、キャゼルヌは自分のオフィスに紅茶を飲みに来ていたヤン准将に顔を向けた。

「私も知りませんね。先輩が知らないことを私が知っているはずがないじゃありませんか」

 ヤンが紅茶を飲みながら答える。

「こいつ、日頃の俺の言動に対する当てこすりか?ま、それはそれとしてイーリス少将。今回の事については、俺自身もよく知らされていない。第十三艦隊に対する補給についても、担当者窓口がすべて副官、補給部長レベルだ。肝心の司令官については書類などにも一切名前は上がってきていないのさ。犯罪者じゃあるまいし、こいつはお前さんの言う通り、確かに妙なことではあるがな」
「・・・・・・・」

 返事がなかった。シャロンが珍しく真面目な顔をして、目の前に広げられた書類を見ている。キャゼルヌの話の途中で何かに気が付いたようなはっとした表情をみせていた。

「どうかしましたか?何か気になる点でも?」

 ヤンの問いかけに、シャロンは端正な顔をキャゼルヌとヤンに向けた。

「失礼しました。ごめんなさい、少し考え事をしていました」
「というと?」
「今の同盟において、中将以上の指揮官は無数にいるはずですし、その中から今回の第十三艦隊司令官のポストに就けるだけの力量を持つ指揮官も少なくありません。が、なぜ第十三艦隊は司令官の名前を一切伏せているか。そう考えているときに、キャゼルヌ少将のお言葉が耳に入ってきたのです。『犯罪者』と」
「おいおい、まさかとは思うが、本当に犯罪者が司令官になるというのか?それはありえないだろ。」

 キャゼルヌが冗談だろうというように肩をすくめたが、一転顔をしかめた。

「いや、お前さんの言いたいところは、つまりこうか?軍内部における名前を上げることもはばかられるような『異端児』を司令官につけ、奴が功績を立てれば、それを公にし、復帰させる」
「その可能性を考えていました」

 と、シャロン。

「あるいは、第十三艦隊を囮にするのかもしれませんね。帝国軍にしてみれば、これだけ厳重に報道管制を敷く第十三艦隊には何かがあるに違いないと勘ぐりたくなります。不確定要素は真っ先にたたかれるものですから、その司令官は集中攻撃を受けて戦死か負ける危険性が高くなる。それを狙っているのかもしれませんよ」

 ヤンが示した新たな見解に二人は目を見開いた。

「功績者として手柄を立てさせたいか、あるいは生贄とするのか、若しくは戦場で殺させようというのか、こうしてみてみると、全く真逆の可能性が並列されているのは、面白い事ですわね」

 シャロンが微笑する。

「その対象になるのは御免こうむりたいですがね。誰がどんな意図をもっているのかはわかりませんが、私が望んでいることは、そう言った特定の者の意志に一般の兵士たちが引きずられ、巻き込まれることがないように、ということです」

 ここでシャロンはヤンに対し、一つの疑問を口にすることとした。かねてから聞いてみたいとシャロン自身が思っていた事であった。

「では、ヤン准将。あなたは同盟と帝国が繰り広げてきた150年間の戦争とやらをどう思いますか?あれらについても、上層部の思惑、駆け引きが無数にちりばめられている歴史ですけれど」

 ヤンは紅茶のカップをぐっと傾け、と息を吐いた。

「私に対しては敬語でなくてもいいと申し上げたのですが」
「私が好きで話しているのですから、そうさせてください」

 ヤンはやれやれというように肩をすくめたが、

「先ほどの質問については『おっしゃるとおりです』という回答しか出せませんね。土台戦争というものは、利害、利権、感情そう言った要素をはらんでいますし、そもそもこれらの要素が複雑に絡み合って発生するのですから。私もそれは否定できません。ですが、だからといって第三者の眼で当然のことと達観し続ける無作法な神経も、私にはないですし、かといって表立ってそれをとめに行こうとするエネルギーと義務心も私は持ち合わせていないですがね」
「昼寝と紅茶と酒と歴史書読を日課とするお前さんの口から出る言葉とも思えんがな」

 キャゼルヌ少将が少し困惑の混じった苦笑いを浮かべている。

「ヤン准将の人間性とやらが垣間見える発言ですわ。ご参考になりました」

 シャロンが微笑んだ。イルーナらを殺すために転生してきているとはいえ、せっかく自由惑星同盟に、それもヤン・ウェンリーのそばに来ているのだから、彼の心情の一端を垣間見たいというのはシャロンの正直な思いでもあった。こうしてみると人間というのがいかに矛盾、複雑な深層心理をもつ生き物かがよくわかるだろう。

 今回の第三次ティアマト会戦の帰結について、シャロンとしても結論は出てこなかった。原作の知識があると言っても、だいぶかい離している(第6次イゼルローン攻防戦もおこなわれていない。)この世界で、果たして第三次ティアマト会戦がどう決するのか、そしてそれが帝国同盟それぞれにどう影響をもたらすか、この時点ではシャロン、そしてそれに参加しているイルーナら転生者もわからなかったのである。
 
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