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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第四十二話 どうしてヴァンフリート4=2なのですか?

帝国歴485年3月7日――。

 巡航艦オルレアンだけでなく帝国遠征軍全体が鼎のような状態であった。

 ビリデルリング元帥曰く「イゼルローン回廊を突破し、同盟軍哨戒部隊を前衛艦隊をもってあっさりと蹴散らし、時を移さずすぐに同盟領内になだれ込むんじゃあ!!」
の・・・・はずが、回廊出口付近には既に艦隊が待ち構えていて、一斉に砲撃を開始してきたからだ。

「バカな!回廊出口には哨戒部隊以外はいなかったと報告があったはず!!」
「そうはいっても、見ろ!あんなに敵軍がみっしりと居座っているではないか!」
「どどどどうするんだ!!」
「落ち着け!!奴らがノコノコとやってきたのはこちらにとって幸い、向こうは運の尽き、だ。主砲の餌食にしてしまえ!!」

 各艦隊の参謀たちが怒鳴りあっている中、遠征軍旗艦ではビリデルリング元帥が怒声を上げていた。

「何をうろたえておる!!数の上ではこちらが有利じゃあ!!ひるむなッ!!!左右の部隊はひたすら敵の前衛に向けて猛射猛射猛射じゃあ!!中央艦隊は全軍突撃せよ!!!」

 ビリデルリング元帥の性質は「猛将・猛攻・猛撃」と、ともかく攻勢を主体とする。その攻勢も単なる力押しではなく、当然勢いはものすごいが同時に敵をいかに早く崩すかを瞬時に判断し、実行するその頭脳の鋭さと感の鋭さとにあった。ミュッケンベルガー大将が攻守双方に優れた中堅であるならば、ビリデルリング元帥は完全に「攻」の人である。
 その気迫が電波したのか、全軍はいち早く混乱から立ち直り「進め進めェ!!」の元帥の号令に鼓舞されて、一気に同盟軍を蹴散らしにかかった。
 巡航艦オルレアンも機敏に前衛に出て、駆逐艦2隻を撃沈するという功績を立てている。隣にはミッターマイヤーの巡航艦リシュリューがいた。常に両艦は連携している。オルレアンが狙われれば、リシュリューがそれを阻止し、リシュリューが狙われればオルレアンが狙撃艦を破壊するというように。
 だが、両艦ともほどほどのところでさっさと引き上げ、前衛艦隊の中ほどに引っこんでしまった。

「死んでしまっては、元も子もないからな。まだイゼルローン回廊すら出ていないというのに」

と言うのがロイエンタールの言い分だった。ティアナとしてもそれには反対ではない。イノシシ野郎の様に突っ込んでいって、撃沈された艦は無数にあるからだ。ビリデルリング元帥の気迫はひょっとしてサイオキシン麻薬並に理性を麻痺させるんじゃないだろうか、などと不遜なことをティアナは考えていた。

この時、帝国遠征軍の前に立ちふさがったのは、同盟軍第12艦隊と第10艦隊である。彼らは巧妙に連携しつつ秩序を保ったまま後退を繰り返し、帝国軍を回廊からほど近い、例のヴァンフリート星域に誘い込んでいた。

 と、いうのも、今回の同盟軍の方針は「最優先は負けないように戦うこと。二番目には敵を包囲殲滅すること」だったからである。
ヴァンフリート星域は無数の小惑星帯と恒星が入り乱れる、ダゴン星域には及ばないにしてもそれなりの迷宮であり、下手をすると味方ですら「どこに行ったのかわからない。」という状況に陥る。逆に言えば、味方がしっかりと宙域を理解していればそんな心配は敵だけの問題になるというわけだ。
 ブラッドレー大将が迎撃作戦を立案した時に、真っ先にヴァンフリート星域を選んだのは、一種の賭けだった。だいたい150年間も戦争をしていると、敵も味方も回廊付近のおおよその地理はデータとして入手してしまう。そこでブラッドレー大将はとっておきの会戦場については、切り札としてとっておき、いざというときのためにそこは使用しない規定を作ったのだった。そして今回帝国軍がかつてない規模で攻め寄せてきた時、ブラッドレー大将は「いざという時」と判断、とっておきの場所のヴァンフリート星域を選んだのである。ただし、これでもうヴァンフリート星域は敵に知られたため、今後訪れるかもしれない「とっておき作戦」の舞台には使用できないことになってしまった。

 同盟軍全艦隊は既にヴァンフリート星域に関する詳細なデータを持っている。これはシャロンの案だった。ヴァンフリート星域会戦の直前、准将に昇進したシャロンは第五艦隊のアレクサンドル・ビュコック中将の次席幕僚として旗艦リオ・グランデに搭乗していたのである。他方、ヤン・ウェンリーはシドニー・シトレ大将の第八艦隊旗艦へクトルに搭乗する身となり、アレックス・キャゼルヌは総旗艦アイアースに搭乗して補給ラインの構築と補給作戦の実質的な指揮を執ることとなった。


 他方、帝国軍遠征艦隊も、どうやら戦場がヴァンフリート星域になるようだと予測し始めていた。しかし予測も何もあった物ではない。何しろ艦隊がそっちの方に誘い込まれているのだから。
 そしてそれは特に後方を進んでいたグリンメルスハウゼン子爵艦隊からはっきりと見えたのである。

「参謀長閣下」

 幕僚として控えていたフィオーナがグリンメルスハウゼン子爵の参謀長に意見具申する。

「このままではわが艦隊はヴァンフリート星域に誘い込まれてしまいます。あの星域は見たところ無数の小惑星帯、多数の恒星と、まさに迷宮です。そんなところに引きずり込まれ、四方から包囲されれば、ダゴン会戦の二の舞になってしまいます」

 参謀長はムッとしたが、さりとてそれを翻しはしなかった。ムッとしたのはやはり自分が女だからかな、とフィオーナは思った。

「だが、本隊が進んでいるのに、わが艦隊だけが後方に座していいものではないだろう」

次席幕僚が反駁した。

「それに、連携が失われれば、わが艦隊は戦場に孤立するだけとなってしまう」
「いいえ、それはないでしょう。何故ならわが艦隊は一番最後尾、つまり安全圏を進んでいるのですから。むしろ最後尾の位置を利用して退路を確保し、一部をもって敵艦隊の後方を扼す形をとることで、敵の攻勢を鈍らせることができるのではないでしょうか?」

 参謀たちの不快さ満載の視線を受けても、穏やかに言うフィオーナの顔にはミジンコたりとも不快の色はない。もっとも内心ではと息を吐いていたが。

「しかし、それは命令にはないものだ」
「命令とおっしゃりますが、まだ戦略戦術会議が行われていない状況下、艦隊行動の制約はされていないはずではないでしょうか?」
「だからこそなのだ、フロイレイン・フィオーナ少佐」

 参謀長が声を上げる。

「貴官はまだ戦場に出て日が浅いようだな。戦場であるからこそ、上層部の指令に従わなくては、指揮系統が乱れ、作戦計画に支障が出る。そしてその上層部の指令とは、本隊に後続すること、だ。本隊は我々が後続していると思い、それに従って作戦を立てているだろうからな」
「わかりました」

 フィオーナが言うと、参謀長は「もう下がっていい」というように手を振った。フィオーナは敬礼すると、静かにその場を離れた。
 艦橋を抜け、豪奢な廊下を折れ曲がったところで、ひとりでに吐息が出た。

「ほ~っ・・・・・」

 予測していたとはいえ、やはりグリンメルスハウゼン子爵艦隊の幕僚は老朽化している。もっとも「昼行燈提督」の下に好んでつくような参謀長はいない。帝国軍上層部は、閑職についていた鳴かず飛ばずの人たちを人数合わせのためにこの艦隊につけたに過ぎない。

 原作と同じだ、とフィオーナは思った。日和見、事なかれ主義。そのためにこれからなん全何万という兵隊たちが死んでいくのを見るのは忍びないし、つらい。

「何をそのようにため息をついているのかな、フロイレイン・フィオーナ」

 はっと振り向けば、一人の銀髪の男が立っている。

「リューネブルク准将」

 フィオーナが敬礼すると、准将は答礼を返してきた。実のところ、フィオーナは准将と会うのは初めてではない。初めてどころではなく、着任した初日に准将に因縁を付けられ、後に引けない形で決闘をした結果、あっさりと准将を昏倒させてしまったのだ。それは悪かったと思っているが、当の准将はそれからまるでフィオーナに対する態度を変えてきた。原作同様斜に構え、皮肉交じりな言動は多いが、フィオーナに対して、因縁を付けるところはなくなった。むしろどことなく敬意をもってきているようだ。

「どうかしたのかな、いや、応えなくて結構。先ほどの会話を私も遮音力場の中できかせてもらった。中々に卓見だ」
「ですが・・・・」

 卓見だからと言っても、それが用いられないのであれば何にもならないではないか。そう言いたかったが、意見を押し通せなかった自分が悪いのだ。リューネブルクには何も言えない。

「貴官にはいろいろな点で負けているが、一つだけ私が優っている点はあるな」
「???」

 リューネブルクはフィオーナのわきを通り過ぎ、さっと振り返った。その表情は不敵らしさ全開だった。

「厚かましさ、神経の太さ、面の皮の厚さ、表現の仕方は無数にあるが、私の言わんとしているところは、お分かりだろう」
「それは、お気持ちはありがたいですが、でも・・・・」
「フロイレイン・フィオーナ。放置しておいていいのかな?このままでは帝国軍全軍がヴァンフリート星域で反乱軍に包囲殲滅されてしまうのだろう?ダゴン星域会戦の時の様に」
「はい、おそらくそうなると思います」

 そうなれば、無関係の兵士たちがまた大勢死ぬことになる。無意味な死を遂げることになる。戦争それ自体で死ぬことなど、無意味ではあるけれど、同じ貴重な生命を消費するのであれば、せめて意義のある戦いの中であってほしいとフィオーナは思う。一番いいのは戦争も何もない事なのだけれど。

「私に任せてくれるなら、強引にグリンメルスハウゼン艦隊をとめて見せよう。それならば敵の包囲網に引きずられることなく、後方で戦局を推移できるというわけなのだろう」
「ええっ!?そんなことできるんですか?」

 驚くフィオーナに、

「言ったはずだ。私の・・・・まぁ、いい。自分で言うのも厚かましいばかりだ。とにかく今しばらく見ていることだな」

 リューネブルク准将はそう言い、フィオーナのわきを再び通り過ぎてどこかに行ってしまった。

「どこに行ったのかな?それにしても、どうして私のわきを通るんだろう?」

 フィオーナは小首をかしげてリューネブルク准将の後姿を見送っていた。

 1時間後――。

 艦橋では参謀長や航海長が先ほどのフィオーナの言動などなかったかのように艦隊を帝国軍本隊におっつかせようと懸命になっていた。フィオーナもリューネブルク准将も艦橋に上がってきていたが、することもなく手持ち無沙汰と言った格好である。

「遅いな!!」

 参謀長がイライラとするが、無理もない。グリンメルスハウゼン艦隊の旗艦は標準戦艦のフォルムであるがその実老朽艦であったからだ。航行や戦闘には支障はないが、帝国軍本隊と比べると速度は劣る。それは旗艦だけではなく、グリンメルスハウゼン艦隊全体に言えることだった。普通の艦や新鋭艦もないではないが、老朽艦の割合が他の艦隊と比べると高いのだ。

 このため、グリンメルスハウゼン艦隊は、前面の自由惑星同盟艦隊と戦闘状態に突入していた帝国軍本隊との距離を、少しずつ開けられていたのである。

「これ以上速度を出せんのか?」
「はっ!残念ながらこの速度が手一杯です」

 航海長が申し訳なさそうに言う。

「これでは帝国軍本隊と離れ、我々が孤立してしまうではないか!!」

 そうはいったって、オメェ、この戦艦の機関がボロッチいことくらい知ってるだろう!!と傍らにいる機関長はそう思っていたが、相手は参謀長。しかも階級は上。なので黙っているしかなかった。

「ふがいない」

 参謀長がつぶやいた時だ。


どぉかぁぁ~~~~~~~ん!!!!!


 という腹に響く音、そして凄まじい震動が艦を揺らした。参謀長はバランスを失って、航海長に抱き付き、参謀、副官たちは地面にボーリングのピンの様に転がり、機関長は鼻から地べたにスライディングを決めた。
 フィオーナとリューネブルクはバランスを崩しかけたが、無様に倒れなかったのはさすがであった。だが、そんなことは誰も見ていない。一斉に水鳥の羽ばたくがごとく皆が皆喚きだしたからである。
唯一グリンメルスハウゼン子爵だけが、この大地震のさなか、何事もなかったかのように椅子に座ってうたたねをしている。相当な神経だ。

「どどどどどうしたァ!?」
「何が起こった!?」
「敵か!?敵襲か!?」
「違う!!そんなはずはない!!」
「とにかく状況把握だ!状況確認急げ!!各部損害状況を知らせい!!」

 参謀長と参謀、副官たちが慌てふためいて走り回り、各部の被害状況を知らせろと叫びまくる。その結果、とんでもないことが発覚した。

 なんと機関部がどうしたはずみかオーバーロードし、メインエンジンの主要バイパスが吹っ飛んでしまっていたのだ。幸いそこは立ち入りできないところだったし、付近に居住区画もなかったので、けが人も死者もいなかったが、大問題が起こった。それは旗艦が航行できなくなった、ということである。正確に言えば、補助動力を使えば「のろのろ運転」はできる。だが、とても帝国軍本隊に追いつくことなどできやしない。

「機関部は何をやっていたのだ!!!」

 参謀長が額に青筋を何本も浮かべて、平蜘蛛の様に平伏している機関長に怒鳴りまくるが、どうしようもない。

 あまりの醜態ぶりに唖然としているフィオーナが、ふとリューネブルク准将と目が合った。と、准将がかすかに目を細めてきた。なるほど!!!瞬時にしてフィオーナはこの騒動の原因をさとったが、しかし一歩間違えれば、艦ごと吹っ飛んでいたところだ。よくそんなクレイジーなことができたものだと、あきれもし、感心もしていた。しかし、原作ではローゼンリッターの元隊長というだけくらいしか知らないのだが、いつの間にそんな専門知識を身に着けていたのだろうとフィオーナは疑問に思っていた。

「これこれ、そう怒るでない」

 のんびりした声が参謀長たちの動きを止めた。

「機関長もこのようなことは想定しておらなんだろう。まずは機関の修理を行い、しかる後にどうするかを考えようではないか」
「そんなのんびりなことを言っていいのかよジジイ!!!」

 と、参謀長は喉元まで声を出しかかったが、旗艦の修理が終わらなければにっちもさっちもいかず、どうしようもない。
 旗艦を新しいものに移し替えるべきでは?という意見もなくはなかったが、それは大多数の反対にあった。

 なぜか?

 というのは、旗艦は一応は皇帝陛下から下し置かれたものであるからである。

 旗艦が爆沈しそうなときなどの緊急時を除き、勝手に旗艦を放棄すれば、それこそ皇帝陛下への不敬と言われかねなかったのである。そう、たとえどんな「ボロ船」であろうとも!!

 幸い同盟艦隊は前方のヴァンフリート星域に集中していて、この後方までやってきそうな気配はないし、グリンメルスハウゼン艦隊がいるところはちょうどアステロイド帯や衛星が集まっている宙域の近くであった。ここに艦隊を伏せ、旗艦の修理が終わるまで待つこととするほかないと判断したのである。
 敵の妨害電波がまだそれほどでもなかったので、グリンメルスハウゼン艦隊幕僚たちはとにかくこのことを帝国軍本隊に連絡した。連絡を傍受で来た本隊では、一同が重い吐息をはいた。その心は「やっぱりこうなったか」である。


「あの!!!クソ!!!ジジイめがッ!!!」


 ビリデルリング元帥は一語一語区切るようにして吼えたっきり、後は一言も話さなかった。少なくともグリンメルスハウゼン艦隊の処遇については。
 曲がりなりにも1万数千隻の艦隊が消失するということは、戦力的にだいぶ不利になる。だが、すでに戦端が開かれている以上、退却もできない。
 帝国軍本隊としては「役立たずのクソジジイ!!!役立たずのグリンメルス艦隊!!!うかぶアイロン!!!アヒル艦隊!!!!」
 と散々ののしりながら、彼らのおんぼろ旗艦の修理が終わり、えっちらおっちらと到着するのを待つほかなかったのである。
 
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