| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

野獣

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

17部分:第十七章


第十七章

「宴会ですよ。ムングワも倒したし事件も解決した。それを祝おうじゃありませんか」
「それはいいですね」
 酒の好きなガイドが身を乗り出してきた。
「それでは私も。丁度今日は休みですし」
 館員もそれに賛成した。
「貴方はどうしますか?」
 三人は僕に尋ねてきた。
「決まっているじゃありませんか」
 僕は満面の笑顔で答えた。
「仕事のあとにはお酒はつきものです」
「わかりました」
 三人は僕の言葉に笑顔で頷いた。こうして僕達は医者に連れられ勝利を祝う宴に向かった。
 ふと空を見た。もう夜があけ朝日が昇ろうとしていた。
 
 宴が終わり数日経った。僕の帰国の日がやって来た。
「いやあ、信じられませんでしたね」
 僕はガイドが運転する車の中にいた。そして隣にいるガイドに対して言った。
「私もですよ。まさかムングワと戦うなんて」
 彼は車を運転しながら笑顔で僕に言った。
「ええ。調べに来たら本物に出会うなんて」
「しかも戦うとは。世の中一体何が起こるかわかりませんね」
「同感です」
 僕は答えた。車は今空港に向かっていた。
「おっとと」
 僕はここで車の天井に頭をぶつけた。
「ちょっと丁寧に運転してくれませんか」
 そして彼に対し注文をつけた。
「私は丁寧に運転していますよ」
「嘘でしょ」
 見ればメーターは100キロをとうに振り切っている。とてもそうとは思えない。
「いえいえ、本当に。速度の問題ではなく」
「速度が問題でしょう?」
「違いますよ。さっきは道路がへこんでいたからです」
「本当ですか?」
 ここでまた頭をぶつけてしまった。
「またですよ」
「スピードとは関係ありませんよ」
「本当ですか」
 その言葉は信じてはいなかった。何はともあれ僕達は空港に着いた。
「お待ちしていましたよ」
 そこに医者と館員もいた。
「来てくれたんですか」 
 まさか見送りに来てくれるとは思わなかった。これには正直驚いた。
「何水臭いこと言ってるんですか」
「そうそう、一緒に戦った仲じゃないですか」
「・・・・・・戦友ですか」
「ええ」
 二人は微笑んで答えた。
「一緒にムングワと戦ったね」
「そうですか。何だか嬉しい言葉ですね」
「そりゃそうでしょう。この国では最高の褒め言葉なんですから」
 医者は言った。軍人であった彼が言うと説得力がある。
「またお会いしましょう。今度は仲良く心ゆくまで酒を酌み交わしましょう」
「それはもうやりましたよ」
「何度でもですよ。酒というのは幾ら飲んでも飲み足りないものです」
 館員が言った。僕もそれには同意見だった。
「またいらして下さい。特上の酒を用意しておきますから」
「はい、楽しみにしてます。もし日本にいらした時はこちらが」
「ええ、日本の酒を飲みましょう」
「はい」
 僕達はこうして別れた。そして飛行機の中に入った。
 窓の外を見る。戦友達は何時までも僕に向けて手を振っていた。


野獣    完


                     2004・5・26
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧