ウンムシ
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3部分:第三章
第三章
島に帰った為朝はまずは勝ちを祝うことにした。そうして暫くは島の者達と酒を囲んでいた。
「これでまずは安心せよ」
彼は上座に座らせさせられていた。その場でまだ不安の残る島の者達に対して告げる。
「わしがおる限りな」
「ですが相手が相手ですし」
「それで」
まだ彼等は不安に満ちていた。それだけウンムシを恐れているということであった。
しかし為朝は動じない。それどころか彼等にこう言い放つ程であった。
「何なら今から海に出て漁をせよ」
「滅相もない」
「それは」
その言葉に皆肝を冷やす。
「幾ら何でも」
「できはしませぬ」
「まあすぐにそれができるようになる」
為朝は剛毅な笑いを見せて彼等に告げた。
「すぐにな」
「もう死んだのでしょうか」
「そう決め付けるのはあまりにも」
「死んでればそれまでだ」
為朝はここで杯の中の酒を一旦飲み干す。側にいる者が注ごうとするがそれを制止して自分で注ぎ込む。そうしてその酒をまた飲むのであった。白く濁った美味い酒である。濁ってはいるがそこには映るものが映っていた。為朝はこの時不敵に笑う自分の顔を見ていたのだ。
「しかし生きておれば」
「生きておれば」
「それ以上は言うまい。さあ飲もうぞ」
「そちらはもうやっておりますので」
「御安心を」
彼等は笑って為朝に答えるのであった。
「それならよい。それではな」
「はい」
こうして彼等は飲み続ける。その途中で宴に加わらずに外で見張りをしている者が入って来た。そうして為朝の前まで来て報告をするのであった。
「為朝様に御会いしたいという者がいるのですが」
「この島の者か」
「そのようです」
彼はそう為朝に答えるのだった。
「是非共。ウンムシを倒した話を聞かせて頂きたいと」
「ほう、それはいい」
為朝はそれを聞いてさらに機嫌をよくさせた。杯を持つその顔がにこやかなものになる。
「では聞かせてやろう。連れて参れ」
「はい、それでは」
見張りは頷いてその場を一旦離れた。為朝はその彼の後姿を見ながら呟くのであった。
「思ったより早かったな」
笑みが変わった。今度は不敵な笑みであった。その笑みで笑いながらまた酒を飲む。そうしてその者が来るのを待つのであった。
程なくしてその島の者が連れて来られた。見れば妙齢の美しい女であった。為朝の知らぬ顔であった。
「その方だな」
「左様です」
杯を手にしたままの為朝に対して答えてきた。彼の前に跪いている。
「私共を脅かすウンムシを倒して頂き有り難うございます」
「その話を聞きたいのだな」
「そうです」
女は答えた。
「それで宜しいでしょうか」
「是非もない」
これが為朝の返事であった。
「話してやろう。しかしその前にじゃ」
「何か」
「杯の酒がなくなってしもうたのじゃ」
彼は笑って女に告げてきた。
「それでじゃ。一杯」
「畏まりました」
「おや」
ここで先程彼に酒を注ごうとした男が妙に感じた。
「確か」
「これ」
しかし為朝は何故か穏やかな笑みを浮かべてその彼に対して言うのであった。
「野暮なことは言うものではないぞ」
「はあ」
彼はこれは為朝の女好きのせいかと思ったが彼は特にそんなことはなかった。武を好むが女に対してはそれ程ではないのはもう島の者達は皆知っていることであった。それについていぶかしむ思ったがここはこれ以上考えるのを止めた。そうして彼が女から酒を受けるのを見るのであった。
「さあ」
為朝はその大きな杯を女の前にぐい、と出した。
「注いでくれ」
「わかりました」
女はそれに従い瓢箪の酒を杯の中に入れる。為朝は何故か注ぐ女ではなく酒を見ている。そうして酒に何かを見た瞬間だった。彼は動いた。
不意に女を突き飛ばした。それで杯が飛ぶ。杯は酒を撒き散らしながら高々と舞う。為朝はそれを眺めることなくすぐに自分の横に置いてあった太刀を手に取った。そうしてそこから稲妻の速さで刀を抜くとそれで突き飛ばされ今起き上がろうとする女の首を一閃したのであった。
首を飛ばされた女の身体はそのまままた倒れ込む。だが首は別であった。宙に浮かび上がりそこで憤怒の顔で為朝を見ていた。そうしてそこから襲い掛かろうとしていた。
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