第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
第一節 旅立 第四話 (通算第24話)
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シャアは、レコアが眠るのをみて、サングラスを外した。
(アルテイシアには似ていないのだがな……)
先ほど感じたものはなんだったのだろうか。妹の気配をレコアから感じたのだ。気の強そうな外見とは裏腹な優しさと弱さを併せ持ちながら芯の強さは恐らく自分以上であろう。だが、レコアはそうではなさそうだ。強いて言えば、ララァよりもクスコ・アルに似ている。
そう気づいた時、感傷を振り払う気になった。
レコアから感じるのはジオンの気配なのだと解ったからだ。
「認めるしかない。若さ故の過ちというものは……な」
自虐的な嗤いを浮かべる。まだ、青年と呼ばれる年齢である。大人になり切らない、だが、大人として行動しなければならない年齢にシャアもさしかかっていた。
シャアは正体を知られていたとしても、そうではない事にしておかなければならなかった。シャアの計画が表に出るには、まだ早すぎるのだ。少なくともスウィート・ウォーターのことは誰にも知られてはいけない。だからこそ、キグナン以外のジオン共和国軍ゆかりの者を使っていないのだから。
「……んっ……」
レコアが起きる気配がした。サングラスを掛けて、様子を窺う。眠ったフリをつづけていると、物思いに耽っているようだった。
「大尉……?」
「なんだ?」
眠ったフリはいつまでも続けられるものではない。バレているのだから、なおさらである。バレている……?勘の鋭い女なのだ。
「お飲物でもお持ちしますか?」
「いや、いい。あとどれくらいだ……?」
レコアが機内時計を確認する。到着まではあと三時間ほどだった。
「もう一眠りさせてもらおうか」
シャアはそう告げて、腕を組んだまま眠りに就いた。レコアはじっとサングラスの奥の素顔を探る様に視線を逸らさなかった。
ジオン共和国に復帰したシャアに最新鋭機であるMS−17B《ガルバルディ》が授与されることになっていた。なじみ深い淡い赤に臙脂色のパーソナルカラーに塗装されている。それも一機ではなく、所属中隊全てが同系色に塗装されていた。式典を明日に控え、政庁前広場に並ぶ十二機のモビルスーツたちの姿は、華やかに彩られていた。
「いかがですかな?シャア准将」
声を掛けてきたのは、国防委員長ラルフ・ホイットマンだった。ジオン共和国次期首相の声が高い人物である。
ホイットマンはダルシアら共和派ではなく、ダイクン派と呼ばれる国父ジオン・ダイクンの遺児であるシャアを擁立しようとする一派だ。ダルシアはダイクン派を取り込むためにこそシャアにキャスバルとして政治家への転身を求めたのだった。
「これは国防委員長。これは軍の私兵化になると批難されませんか?」
「ジオンの英雄《赤い彗星》のシャア――ジオン・ダイクンの子、キャスバル・ダイクンをお守りする親衛隊の様なものです
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