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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第五十話 かくして宴は終わる
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同日 同刻 第21師団司令部より南東三里
集成第三軍先遣支隊本部 支隊長 馬堂豊久中佐


「いやはや、良く凌げたものだな、おい」
 疲れきった支隊長がぼやくと戦務幕僚の石井も苦笑して応える。
「まさか、士官も馬に乗せないというのがこんな所で役立つとは思いもしなかったですね」
 支隊本部は幸運にも龍爆からの被害を免れることができた。
 騎馬ではなく徒であり、また将校達も迷彩を施した軍装だったことで目立たなかったことが齎した幸運であった。ある意味では隠密性の保持という役目を果たしたと言える。代わりに西州第三騎兵旅団の一部が龍爆を受けていた。

「――代わりに叩かれた部隊の兵達には申し訳ないがな。部隊の再集結はどうだ」

「少なくとも、各大隊は集結をすませました。現在の我々の戦力はおおよそ、二千五百程度かと。幸いにも組織的な追撃はありませんので損害の心配はありません。
兎にも角にも第三軍の主力と合流せねばなりませんな、砲も輜重も彼らの下にあります」

「・・・・・・戦力の消耗が少なく済み幸運だった、と云うのは恥知らずなのだろうな。――まぁ、いい。ひとまず、軍主力と合流しよう、俺達は負けたのだ、敗者は尻に帆をかけて逃げるものさ」
 細巻に火を着け、支隊長は平然と肩をすくめた。呻く幕僚達を見て、“北領の英雄”馬堂豊久は笑いを深めながら悪夢を告げる。
「まぁ、安心しろ、俺はそこらの将校よりも負け方を心得ているからな。
――これから先の本番は上手くやれるさ」


 かくして陽が照らす朱に染まった龍口湾に背を向け、護国を謳っていた軍勢は深い手傷を負って敗走する事となる。
 だが、アレクサンドロス作戦を完遂した〈帝国〉軍も戦術的には辛勝か引き分けと言った有様であり、〈帝国〉軍が負った傷は予想以上に深いものであり、ユーリアの意図は、(戦争である以上当然であるが)狂いつつあった。 両国は互いに既に次の手を打っていた。
だが、次の盤面に対峙するものは別の者達だった。
〈帝国〉軍は傷を癒しながら本領からの増援を待ち、〈皇国〉は――――

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