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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第五十話 かくして宴は終わる
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皇紀五百六十八年 七月十九日 午前第六刻 龍口湾
第1教導戦闘竜兵団 団長 ヘルマン・レイター・ファルケ大佐


「おいおいおいおいおいおいおいおい、どういう状況なんだこれは……」
 まさしくこの戦場を神の視点で俯瞰することが出来る龍兵、その中でも最上級の指揮官であるヘルマン・レイター・ファルケ第1教導戦闘竜兵団長は飛行帽ごしに頭を掻きながら唸った。
 戦場の北部、中央、南部でものの見事に戦況が混乱しきった状況になっている。
北部はかの美姫の構想そのままとでもいうべき状況である、無論、蛮軍も相応に工夫を凝らしているが大局に影響を及ぼすほどの物でもないだろう。
 中央は混迷を極めている、昨日痛手を与えた逆襲の主力部隊は火力を欠きながらも再び奇襲を開始し、突破を図っている。それを可能としているのが二個の旅団――その程度の規模である、だがそれが三万の防衛線の後方で師団司令部を、本営を、攻撃しているのだ。
南部に至っては――中央の軍から突破した部隊と南部の軍によって包囲され、壊乱している!
「――ッ」
 刹那、ファルケ大佐は精悍で――どこか歪んだ笑みを浮かべる、この瞬間、自分の判断があの己を見出した戦姫と十万からの<帝国>兵達の命運を左右する事を理解してしまったのである、歓喜と怯懦と憤怒が綯い交ぜとなったなにかがその笑みを浮かべさせたのだ。
「あぁ畜生、戦争だ、まさしく」



同刻 龍口湾 東方辺境領鎮定軍第21師団 主戦場南武戦域 
第一旅団第十七聯隊 聯隊長モルト大佐


「畜生!何たる事だ!」
 第一旅団 第十七聯隊 聯隊長であるモルト大佐は毒づいた。昨日の戦いで大損害を受け、漸く再編と補充を済ませた彼の聯隊は僅か半刻で再び甚大な被害を受けていた。
 既に二個大隊が宿営地を徹底的に叩かれ崩壊、他の大隊も哨兵のお陰で辛うじて防衛に成功しただけだ。 敵の反攻戦力の正面に配置されている旧第二旅団の部隊も同様の状況――否、更に悲惨な状況なのだろう。でなければ自分達が此処までしてやられる筈はない。
 旅団本部壊滅後、カミンスキィの統率宜しきを受け師団司令部は指揮系統の再編を行ったが、その師団司令部方面から銃声が響き、既に師団司令部すらも危機に瀕している事が分かる。そのせいで幕僚達も浮き足立っている。

「第十八聯隊と合流すればまだ機はある!」
 歴戦の大佐は絶望を封じ込めてそう将校達を激励した。彼らは統制を保ち、予備として被害を免れた一個大隊に巧みに潰走した部隊を取り込ませながら後退を行っている。

だが――「聯隊長殿! 第18聯隊が攻撃を受けています!!」
「敵砲兵隊を視認!前進しています!」彼らの終幕を示す情報は的確に、彼が維持した指揮系統を通して伝わりやがて――「聯隊長殿!敵騎兵聯隊が此方に突撃を!」

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