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Ball Driver
八話 対照な姉妹
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「………」
「………」

権城と茉莉乃は、隣同士でバスに乗りながら、気まずい沈黙を続けていた。

(瑞乃のヤツが、普通にバスに乗ってくれりゃ、こんな状況にも陥っていないのに)

知り合いの知り合い、それは案外最も気まずい関係である。そして、権城と茉莉乃が何故2人になっているかというと、瑞乃はバスの屋根に乗っかって無賃乗車を決め込んでいるからだ。道交法違反だし、無賃乗車も犯罪だが、どうやらその辺、この島は緩いらしい。たまに屋根から瑞乃の機嫌の良さそうな歌が聞こえてくる。瑞乃が居てくれないおかげで気まずい時間を過ごしている権城としては中々癪に触る。

「……権城さん、中学の時は凄い野球選手だったんですよね」

ふと茉莉乃が話しかけてきた。

「ん?あぁ。……まぁまぁではあったかな」

少し前なら、自信満々で答えられたのだが、自分以上の選手が居るこの島では、このような煮え切らない返事しかしようがなかった。

「わたしも野球、してるんですよ。また来年、高等科の部でよろしくお願いしますね」
「おぉ!そりゃ楽しみだなぁ。」

来年、後輩が入ったらという事を権城は想像した。もちろん、姿も入ってくるのだろう。沢山入ってくれれば良いなと思う。何せ、同学年が2人しか居ないのだから。とにかく、たった2人でこなす雑用から解放されたい。

「それにしても、奇特な人ですね。わざわざ甲子園を目指すのに、この島に帰ってくるなんて」
「あぁ、よく言われるよ。言われ過ぎて飽きたな。」
「この島、一度出て行った人が二度と戻ってこないっていうので有名な島なんですよ。楽園式監獄、そんな風に言われたりもするくらいで」

権城の眉がピク、と動いた。
楽園式監獄?それは初めて聞いた。
しかし、考えてみればそうだった。
この島から出て行って、帰ってきた奴は自分以外に中々思い返せない。

「まぁ、こんな島です。狭い中に、小学校から大学まであるし、この島から出ずに生きていくのだって簡単です。だからこそ、一度出て行ったら戻ろうとは思えない。自分の世界が閉じていくのを感じるから。」
「…………」

茉莉乃は窓の外の海、水平線に沈んでいく夕日を見ながら独り言のように言った。

「……俺はあんまりそんな風には思わなかったんだけどなぁ」

権城も夕日を眺め、目を細めながら呟いた。

「俺は、この島の世界は閉じてなんかないって思ってる。この島から、外を目指す事もできるし、疲れたら帰ってこられると思ってる。生まれ育った故郷ってそういうもんじゃないか」
「…………」
「甲子園か。甲子園、行ったら、みんな気づくかな。この島から夢を叶える事もできるって。島に残るってのは、何も諦める
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