暁 〜小説投稿サイト〜
【短編集】現実だってファンタジー
ルームアウト・メリー 後編[R-15]
[1/11]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 
運び込まれた病院で目が覚めたその日、警察にごく簡単な事情聴取を受けた。俺はいま軽度の心身膠着状態らしいので手短に済まされた。一通り話をして、警察は帰っていった。俺を疑っているのではなく、一応話を聞いただけだったようだ。つまり、2人とも自殺と断定したのだろう。

実感がわかない。
まだ両親が死んでいたあの光景がどこか遠く、ドラマのワンシーンのようにどこか現実味の欠けた映像として思い出された。
まだ、帰れば2人とも家出したあの時と同じ姿でいるのではないかとさえ思える。きっと母さんは、その顔や手の怪我はどうしたのかと訊いたろう。親父は、どうせロクデナシ相手に喧嘩でもしたんだろうと鼻を鳴らすはずだ。事実、会社帰りに絡んできたチンピラの喧嘩を買った代償ではあるのだが、あの喧嘩を買ったのは、親父から電話が来てフラストレーションが溜まっていたからだ、と心の中で怒り狂ったに違いない。

もう、起こらないのだが。あの大嫌いだった日々は、戻りたくても戻らない彼方へと消えてしまった。

あの後、俺は泣き疲れて眠ったようだった。目覚めたら病院で、女の子からの匿名の通報でやってきた警察と救急車が俺をここまで運んだようだ。なんとなく、通報したのはあの人形じゃないかと思った。俺自身、あの時のことをどう解釈していいか分からなかったから、人形の事は流石に言わなかった。
今になって思えば、あれは何だったのだろう。本物の都市伝説だったのか。実際には誰かに話を聞いて欲しいと強く願った幻覚で、通報した女の子は別人かもしれない。常識的に考えたら、その方が可能性は高い。包帯の巻かれた自分の右拳を眺め、ため息をつく。

真実は何も分からないままだ。
何故母は自殺したのか。
俺の到着を待たずに親父が自殺したのは何故か。
メリーさんは実在したのか。
いくつかは後で分かるかもしれないが、改めて両親の死を思うと良い感情は一切湧いて来ない。

確かに両親は嫌いだった。エラそうな事ばかり言って勝手な理想を押し付ける父と、その父の決定に諾々と従うだけの母。どちらもが許せなくて、家を出た。いわば邪魔者で、もう二度と会うまいとさえ思っていて、ナイフまで用意して家まで行ったのだ。
でも、本気で殺すことは出来なかったのだろう。ああして実際に死んだ2人を見て悔しかったから。悔しかった理由は何だろう。ナイフを突きだして、何を叫びたかったんだろう。あの時の俺は何かに取りつかれたようにあのナイフを購入して、懐に忍ばせた。ちゃんと切れ味があるのか自分の指で確かめたりもしていた。

向こうの生活はそんなに憑りつかれるほどよい生活だったろうか。高卒の俺を採用し、仕事を与えてくれたのは有り難かったが、一人暮らしは苦労の連続だった。あそこの生活は、築いた人間関係は、本当にナイフを振りかざしてまでして
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ