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相棒は妹
志乃「兄貴は私の引き立て役」
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 と、その時俺は左頬に痛みを感じた。口内が痛いのでは無い、外側がヒリヒリするのである。


 思わず閉じた目を開けると、そこには思いがけない光景があった。


 妹が兄を平手打ちするという、滑稽な絵が夕時の路地に浮かび上がっていた。


 「情けないのは今の兄貴だよ」


 静かに、それでいて意思の通った声が俺の鼓膜を振動させる。こいつ、もしかして怒ってる……?

 その声には怒気が含まれていた。同時に、落胆の色が滲んでいた事も俺は微かに感じ取った。


 「今の兄貴はもう挫けてるじゃん。もう諦めてるじゃん」


 いつもは仏頂面オンリーの志乃が、感情を露わにしている。家族に対してもそこまで喜怒哀楽を示さない妹が、俺に対して感情を爆発させている。これは夢か?

 けれど、頬に感じる痛みが俺を夢へと誘う事を許さない。これは現実なのだ。


 「そんなんじゃ、いつまで経っても兄貴は『どうでも良い』を繰り返すよ」


 まるで予言するかのように、志乃は言葉を紡ぐ。ばっと上げた顔には、涙を溜めた怒りの表情が湛えられていた。

 そんな妹に、俺は怯んだ。今の言葉にカチンと来て、怒鳴ろうとしたのだが、妹の顔を見た途端、そんな感情は引っ込んだ。今のは八つ当たりになり兼ねないと、そこで考えを改めた。

 こいつが本気で俺に怒っている。それはこれまでの短い生涯で初めての事だった。だから俺もどうすれば良いか分からなかった。


 「……悪い。俺、やっぱ変なんだわ」


 ひとまず詫びる。何に対してだか、よく分かっていなかったけど。


 「兄貴は、今何がしたいの?」


 すると、志乃はいきなり話題を変えてきた。身体を俺に背けるように翻し、こちらからでは後ろ姿以外見えなくなる。


 「本当はカラオケが遊びじゃないって思ってるくせに、嘘吐いたりして。本当はどうしたいの?」


 こいつ、分かってたのか。やっぱこいつにはエスパーの力があるらしい。

 そこで、俺の中に自然と笑いが込み上げてきた。それがついに表にまで現れて俺は笑ってしまう。


 「ちょっと、何笑ってんの?私は本気で怒ってるんだけど」


 後ろ姿で言われても怖くは無いのだが、本気なのは伝わるので素直に答える。


 「ごめん、でもさ。俺が今やりたい事って言うと……」


  一拍置いて俺は志乃に話す。今俺がやりたい事を。ゆっくりと噛まずに、こいつの耳に確実に入るように。


 「……歌う事なんだ。バカだよな。俺はカラオケで満足するだけの素人なのに。剣道を捨ててまでやりたい事が、結局カラオケなんだぜ?
 俺は遊びじゃないって思ってるけど、それは俺の価値観だ。他の奴らとは違う
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