暁 〜小説投稿サイト〜
フェアリーテイルの終わり方
九幕 湖畔のコントラスト
7幕
[1/2]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 大人たちが皆出て行った。家の中に残されたのは、イスを立たなかったフェイと、ソファーで眠るエル、そしてルル。

「むにゃ…パパ…エル、けっこうがんばってるんだよ…やくそく…だから」

 姉の寝言はしあわせ色に染まっている。

 フェイはようやく椅子を立ち、リビングの中を歩いて回った。
 棚の上に写真立ては二つ。一つは赤ん坊の姉を抱えた母と、母に寄り添う父。もう一つはごく最近の物らしき、姉と父のツーショット。
 それだけだ。それだけ、だった。

 次いでフェイは斜陽の湖を臨むバルコニーに出た。風が色のない髪を吹き上げる。
 ウプサーラ湖。フェイの感覚では10年前、この世界の時間経過では数ヶ月前、フェイが死のうとした湖。
 〈あの人〉がフェイを〈妖精〉にした特別な場所。

(もう分かってるでしょう? フェイリオ・メル・マータ。〈あの人〉が、あそこにいたユーレイたちがダレなのか。〈あの人たち〉をあそこに沈めたのがダレなのか)

 家の中に戻り、テーブルまで行ってエルが座っていた席の前で止まる。エルのスープ皿に残ったスープを指でなぞって舐めた。

(ああ。やっぱり)

 そして、踵を返してソファーに向かった。

「ナァ〜…」

 ルルが心配そうにフェイの足にすり寄った。

「わたし、こんなにバカだったんだね。言われなきゃぜんぜん分かんなかった。メガネのおじさんの時も、セルシウスの時も、ミラの時も。パパの、時、も」

 フェイは眠るエルの前に座り、エルに状態回復術(リカバー)をかけた。間を空けずエルは目を開けて起き上がった。

「あれ……パパは? みんなは?」
「外でルドガーたちとお話し中。わたしはここで、お姉ちゃんと一緒に待つようにパパに言われたの」
「ナイショ話?」
「多分」
「エルたち、のけもの!? ズルイ!」

 エルがフェイに詰め寄った。フェイは悪いことをした気分になり、つい謝っていた。するとエルも勢いを無くし、同じく謝ってきた。

 二人して気まずい空気の中、エルのほうが先に声を上げた。

「――エル、パパんとこ行ってくる。何の話か気になるし。フェイも行こ?」
「で、でもわたし、パパに来るなって言われてる……」
「ダイジョーブ! フェイをおこらないでってお姉ちゃんからパパに言ったげるから」
「ほんと?」
「うん!」
「……じゃあ、フェイも一緒に行こっかな」
「ん、よしっ」

 エルがソファーを降りて手を差し出した。フェイはその手を握り返した。姉妹は手を繋いでこっそり家の外へ出た。






 テラスに出たフェイたちは、柱の陰へ身を屈めて進んだ。柱に隠れてこっそり陸を覗くと、ヴィクトルと何か話しているルドガーたちが見えた。

 話をよく聞こう
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ