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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五話 嘲笑する虐殺者
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帝国暦 486年 11月18日    オーディン  新無憂宮  ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム三世



「では我らはフェザーンに向けて出撃します」
貴族連合軍総司令官ブルクハウゼン侯爵が誇らしげに出撃を告げた。その後ろにはビーレフェルト伯爵、ヒルデスハイム伯爵等十人程の貴族が居る。貴族連合軍の総勢は十五万隻を超え十八万隻以上になった、誇らしくもなるだろう。ブラウンシュバイク公が頷いた。

「そうか、武運を祈るとは言わぬ。卿らの出兵はあくまで有志によるもの、政府は関係ないからな」
「分かっております」
「反乱軍はシトレ元帥が負傷しヴァレンシュタインが総司令官代理になるそうだ、知っているかな」
「……知っております」
ブルクハウゼン侯爵が僅かに緊張を見せた。流石にニーズホッグは怖いらしい。

「恐れる事は有りません。あの男は亡命者です。総司令官代理になったものの周囲からは受け入れられずにいるとか。何程のことも出来ますまい」
嘲笑交じりの声を出したのはフレーゲル男爵だった。その声に貴族達が同意の声を上げる。ブルクハウゼン侯爵の顔から緊張が消えた。ブラウンシュバイク公は憮然としている。

「フェザーンを征服し反乱軍を打ち破り宇宙を統一する。十八万隻を超える大軍なのです。不可能ではない」
「何を言う、フレーゲル男爵。不可能ではない等と弱気な。我らなら十分に可能だ」
「その通りだ、我らの手で宇宙を統一するのだ」

景気の良い言葉だ、意気軒昂、気宇壮大なのか。それとも馬鹿なだけか……、考えるまでも無いな。参加者が多くなったのは武勲を上げる事よりもフェザーンで略奪出来ると期待しての事だ。クロプシュトック侯の反乱鎮圧で略奪の味を占めたらしい。

「以前にも言ったが武勲目覚ましい者はエリザベートの婿にすることを考えている。わしだけではない、リッテンハイム侯もサビーネの婿にと考えている。我らには娘しかいないからな」
ブラウンシュバイク公の言葉に皆が貪欲そうな表情を見せた。獲物を見つけた肉食獣のような笑みだ。サビーネの父親としては余り面白い笑みではない、ブラウンシュバイク公も不愉快だろう。

ブルクハウゼン侯爵達が去るとブラウンシュバイク公が溜息を吐いた。
「よくもまああそこまで自分達に都合よく考えられるものだ」
「そう言うな、公。気宇壮大な馬鹿なのだ。付ける薬は無い」
公が私を見た、そして笑い出す。私も笑った。

「酷い事を言うな、侯」
「仕方あるまい、ああも簡単に引っかかるとは」
「まあそれもそうだな」
また二人で笑った。

同盟軍は総司令官代理にヴァレンシュタインを任命した。レムシャイド伯からの連絡ではヴァレンシュタインの総司令官代理就任に同盟市民の多くは賛成の様だ、好意的に受け取られている
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