暁 〜小説投稿サイト〜
銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
私はマキャヴェリスト
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
いになった。このような話などしなければ良かったと、女々しい気持ちになったのだ。
相手に嫌われようと、それによる嫌がらせを受けようと、日頃から彼は気に留めたことがない。だが無論、全ての人間に対してというわけではない。例えば彼の上官ラインハルトに対して、確かに歯に衣着せぬ物言いをするが、それは上官の自分に対する評価を承知しているからである。ラインハルトは元々、彼に友情や忠誠心を求めてなどいない。参謀としての能力やしたたかさ、自分には背負えない影の部分を担う者として、その存在意義を認められているのだ。であるならば、その役割を全うしている限り、自分の立場は安泰なのである。そのあたりの計算をした上で、彼は自らの言動を統制している。
翻って目の前の女性と自分の立ち位置に、確固たる定義はない。互いに論理的思考を持つ存在であることは認識しているが、論を戦わせたこともなく、また、そのような場もなかった。だが彼は、この頭脳明晰で冷静な思考を持つ秘書官に、好感を抱いていた。ラインハルトにとって「特別な存在」になるのは避けさせたいが、彼女個人だけを評価すれば、その頭の中身に惚れ込んでいると言って良いほどなのだ。だから、いつかは彼女と議論の場を持ちたいと望んでおり、彼女とであればラインハルトと話す以上に高度で知的な話もできるのではないかと考えている。そのために、彼女とは少なくとも敵愾心のない関係でいたかった。

そう考えて、オーベルシュタインは全身にむず痒くなるような電撃が走るのを感じた。
自分は彼女の能力に惚れ込んでいるだけではないのかもしれない。
能力を評価している者ならば、この元帥府にいくらもいる。しかし彼らに好意を求めたことはないはずだ。では、彼女にだけは嫌われたくないと思う、その理由は何だというのか。
オーベルシュタインは心の中で必死に首を振って、平常の自分へと戻ろうと努めた。誰よりもマキャヴェリストの自分へ。すると自然に、口からは彼女への揶揄が出た。
「フロイラインは存外ロマンチストのようだ」
ほのかに笑った自分は完璧な嫌われ者を演じきれたはずだと、後ろ髪を引かれながら踵を返した。廊下を進む己の足が、いつもより重い気がしてならなかった。


(Ende)
[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ