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渦巻く滄海 紅き空 【上】
十七 駆け引き
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里内でも辺鄙な場所にある一軒の宿屋。

その一室の中央には燭台がひとつ、ぽつんと置かれている。燭台上でちらちらと燃える灯火は、薄暗い部屋全体を照らすには些か心許無い。それでもぼんやり畳に落とすのは部屋に居座る人影ふたつ。

ふっと、炎が揺らめく。
部屋の片隅で、片膝立てて瞳を閉じていた者が薄く目を開いた。

独特の模様が施された格子窓。その窓の隙間から、そよ風が吹き抜ける。質素にも程がある無愛想な室内を、月の斜光が冴え冴えと彩った。
隙間風と共に小柄な影がするりと滑り込んで来たのだ。わざと気配を露にしているその存在に、部屋にいた者は双方共に気を緩める。


「―――首尾は?」
「誰に物言ってんだ?」


訪問者のだしぬけな発言に臆する事もなく、部屋の片隅で座っていた者が逆に問い返す。
唐突な問い掛けを即カブトの件だと察し、再不斬はにやりと口角を吊り上げた。
一方訪問者の姿を瞳に映した途端、顔を綻ばせる白。喜びを露に話し掛けるその様は、会うのを心待ちにしていたと言外に匂わせている。
「中忍試験はもうよろしいのですか?」
「ああ」
窓枠に腰を下ろしながら、後ろ手で窓を閉めたナルトが白の言葉に頷く。ふと窓の外に目をやった再不斬に、彼は「気にするな」と身振りで示した。
依然として外を気にする白の隣にて、再不斬がふんと鼻を鳴らす。何の気もなしに手を懐にやった彼は、はたと思い当った。

「―――ああ、忘れるところだったぜ。ミズキがお前にだとよ」
今思い出した風情で懐から取り出したモノをピッと指で弾く。鋭い刃の如く空を切るそれを、造作も無くナルトは受け取った。
「そんな紙切れ、何の役に立つんだか…。白紙じゃねえか。なんも書いてねぇ」
再不斬の言う通りミズキが渡してきたそれは白紙であった。何か書いてあるならともかく、真っ白な一枚の紙切れなど話にならない。
普通ならば再不斬のように気にもかけないその紙を、ナルトは暫し興味深そうに眺めた。そして指先でくるりと紙を回したかと思うと、おもむろに口を開く。
「これはただの紙じゃない―――チャクラ紙だな。再不斬のチャクラ性質は水、だったか」
「それがどうし……ああ。そういう事か」

普通の紙ではなく、チャクラに反応する材質で作られた感応紙。チャクラを流し込む事で自身の性質変化を知り得るその特殊な紙は、水の性質に当て嵌まる再不斬がチャクラを流せば濡れる仕組みになっている。

「チャクラの性質変化による水で濡らす事で、書いた字が浮かび上がるってカラクリか…。あん?」
「どうしたんですか?」
ナルトから受け取った紙にチャクラを流した再不斬が怪訝な顔をする。白の問い掛けにも答えず、彼は訝しげに濡れた紙をぴらぴらと振った。
「どう見たってこりゃあ遺書だぜ。どこの誰かは知らねえ
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