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渦巻く滄海 紅き空 【上】
十七 駆け引き
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った天蓋には点々と燈籠が吊るされている。燈籠の照明が、がらんとした板の間にうっすらと朱色の陰影を落とした。
社の如し神聖さを漂わせるその列柱廊は、唐紅一色に染められている。梁までもが赤く彩られ、柱の影がいくつも細長く伸びていた。
その内の一本の柱に、すらりとした体躯を寄り掛からせていた男が、かさついた唇をぺろりと舐める。
「……なにか御用かしら?」

肩越しに振り返った彼の瞳に映るのは、赤の調和を織り成す内装。吹き放ちとした柱廊の周囲には、擬宝珠勾欄が設けられている。匂欄の柱頭に縁取られた宝珠が月光に注がれ、艶やかな光沢を放った。
だがそれ以上に光彩を放つのは、勾欄に腰掛けている人物の髪の色。

一瞬射し込む月明かり。月光を浴び、月以上に輝く黄金の髪。光を背にしながら勾欄に鎮座している者の表情は、逆光でよく窺えない。

「気づいていたのか」
「よく言うわ。わざと気配を漏らしていた癖に…」

コツ、と柔らかな足音が床板を踏み鳴らす。
突如として現れ、空々しい言葉を述べるナルトに、大蛇丸は片眉を上げてみせた。






「ドスとキンは俺の許にいる」

勾欄から降りて早々、ナルトは本題に入る。彼の思いもよらない一言に一瞬言葉を失った大蛇丸は、内心の動揺を押し殺し、辛くも返答を返した。
「……あら。あの子達、貴方のとこにいたの?迷惑かけたわね」
「いいや?それよりお前が釘を刺さなかったおかげで、カブトがうちはサスケを殺そうとしたぞ」
ちょっとした世間話をするかのようにナルトは淡々と言葉を続ける。しかしながらその淡白な会話には、ドスとキンに用があるなら自分を通せという言外の意味が込められている。
彼らの捜索を打ち止めざるを得なくなったと大蛇丸は瞬時に悟った。その一方で、大蛇丸の動きをたった一言で抑制したナルトは、何事も無かったかのように泰然と構えている。

部屋の奥で焚いているお香の芳しい香りが、大蛇丸の鼻腔を擽った。真鍮の金具をあしらっている香炉から立ち上る甘い香り。自身が愛好しているその馥郁たる香気を深く吸い込んで、彼はようやく平静を取り戻す。
そして話の主導権を握ろうと、改めて大蛇丸はナルトの様子をじっと窺った。

「それを知ってるって事は…貴方が事前に止めてくれたってことかしら?」
どのようにして話を己が有利な方向へ誘導しようかと思考を巡らしながら、大蛇丸は偽りの笑顔を顔に貼り付ける。虎視耽々と機会を狙っている彼の心情を察して、ナルトは謎めいた微笑を口許に湛えた。
「余計なお世話だったか?うちはサスケに死なれるとお前が困るんじゃないかと思ったが…」
ナルトと目が合う。底知れぬ青い瞳が大蛇丸を静かに射抜いた。



瞬間、ぞっとしたナニカが大蛇丸の全身を駆け巡る。



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