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渦巻く滄海 紅き空 【上】
十四 急転直下
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砂縛柩】……」
我愛羅の手の動きに従って砂が蠢く。闘技場に着地したドスを狙って、砂が再び押し寄せた。
ドスが急ぎ、響鳴穿を構える。我愛羅が静かに口を開いた。
「……遅い」



だが次の瞬間、彼の視界はぐらりと傾く。
「……!?」



突然我愛羅はガクリと膝をついた。彼の不調と相俟って、砂の動きが緩やかになる。
その隙をついて砂の包囲網から逃れたドスが、響鳴穿を構えたままゆっくり我愛羅に近づいた。
「言っただろう?音と砂、どちらが速いかとね…。悪いけど三半規管を攻撃させてもらったよ」
響鳴穿を我愛羅の頭部に向け、意気揚々と言い放つドス。内耳にある三半規管は平衡感覚を受容するための器官である。平衡感覚を失えば、立つ事すら不可能となるのだ。


「君の砂がどれだけ速くても音速には勝てない…。この勝負、僕の勝ちだね」
己の勝利を確信するドスが得意げにそう語るのを、我愛羅は静かに聞いている。
顔を伏せている彼の肩が小刻みに揺れているのを見て、多由也が眉を顰めた。
「おい…。なんか、マズイんじゃねえか…?」
女の勘か直感か、訝しげに彼女はナルトに話し掛ける。多由也と君麻呂からの視線を一身に受けているナルトは、冷徹な眼差しで試合を観戦していた。




我愛羅が試合続行不可能だと判断したドスがハヤテに目を向ける。だが、彼の背後から脅威が忍び寄る。
「な…馬鹿な…!?なぜ動ける!?」
紙一重でドスは背後から襲い掛かってきた砂の猛攻をかわした。砂は執拗に彼を追い駆けてくる。それらを避けながら、ドスは慌てて砂の操り手に目を向けた。

平衡感覚を奪ったはずの対戦相手が平然と立っている。ありえない光景に驚愕の表情を浮かべたドスは、更にありえない光景に目を見張った。



我愛羅の耳からぱらぱらと何かが零れ落ちてゆく。それは今現在ドスを襲っているモノと同じ、砂の粒だった。
我愛羅は耳にも砂を纏っていたのである。


ただし耳の奥にまで砂を密着させていたわけではないので、多少なりともドスの攻撃は効いたのだろう。実際この術は全身に砂を鎧のようにして纏う事で防御力を高める【砂の鎧】。流石に聴覚まで完全防御出来るはずもない。しかしながら砂を纏っていたおかげで、ドスの攻撃は内耳まで届かなかったのである。
耳を外耳・中耳・内耳と三つに分けた場合、内耳は耳の最も奥にあたる部分である。
前庭・三半規官・蝸牛によりなる内耳の内、前庭・三半規管が平衡感覚を受容する器官であり、蝸牛が聴覚に関わっている。外耳・中耳はこの蝸牛に音の振動を伝えるだけの構造に過ぎない。
つまりドスの攻撃は我愛羅の三半規管を損傷させるまでに至らなかったのだ。





「殺してやる……」

我愛羅が静かにドスに向かって歩みを進め
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