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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第七話 矛盾が消えるとき
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つ負わせることも難しい程の相手であると。
 だから、それなりの代償を払うことで一矢でも報えようとした。
 賭けたのは自分の命。
 自分の命を人質とした罠。
 あの日、あの夜わたしは、自分の放った魔法である氷の矢の雨で死ぬはずだった。
 でも、死ななかった。
 生を諦め死を覚悟した自分を救ったのは、わたしが殺そうとした相手だった。
 己の身体を盾にし、何本もの氷の矢をその背に受けながらも、彼は全身から血を流しながらも、わたしに笑いかけてきた。
 殺そうとしたわたしを何故助けたのかと問うと、彼は言った。
 『泣いてる女の子を助けるのに理由がいるのか?』と。
 笑みを苦笑いに変えながら。
 
 ああ、そうか、とタバサは天井の闇を見上げる視線を落とし、手に持った『イーヴァルディの勇者』を見つめる。
 昔、子供の頃、この本を読んだ皆は、イーヴァルディの心に住む『勇者』に従い英雄になることに憧れていたが、自分はそうではなかった。
 自分は勇者ではなく、勇者に助け出される少女に憧れていた。
 絶対絶命、絶望の最中から助け出される少女に……。

 ……違う。

 そうじゃない。

 わたしが本当に憧れたのは……夢見たことは……救われる少女自身ではなく、そんなところから救い出してくれる『勇者』との出会いだった。

 だから……うん……そうなんだ。

 きっと……そういうこと。
 
 ぽっ、と胸の奥に火が灯ったような暖かさを感じながら、タバサは自分の身体を抱きしめた。

 心の奥に灯った火により溶け出したものが、閉じた瞼の縁から透明な雫として溢れ落ちる。
 




    「母さま……わたし、好きな人ができました」






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