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GGO編ーファントム・バレット編ー
63.温かな雫
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のに......謝罪も......お礼すら言わずに.......」

目尻の涙が、すうっと零れる。隣の、瑞恵という名の女の子が、母親を心配するように見上げる。女の子の、三つ編みにした頭を祥恵さんはそっと撫でながら続ける。

「.......あの事件の時、私、お腹にこの子がいたんです。だから、詩乃さん、あなたは私だけでなく......この子の命も救ってくれたの。本当に......本当に、ありがとう。ありがとう......」

「.............命を........救った?」

その二つの言葉が駆け巡る。
あの時、十一歳の私は、一つの命を奪った。それが私のしたこと。でも、眼の前の女性は、確かに言った。

救った、と。

「シノン」

不意に、隣のキリトが、少し震えた声で囁いた。

「シノン。君はずっと、自分を責め続けてきた。自分を罰しようとしてきた。それが間違いだとは言わない。でも、君には、同時に、自分が救った人のことを考えるけんりもあるんだ。そう考えて、自分自身を赦す権利もあるんだ。それを......俺は.....俺たちは、君に.....」

そこでキリトは、言うべきことが見つからないのか、唇を噛んだ。
少年から視線を外し、もう一度祥恵さんを見た。何か言わなければ、と思うが言葉が出ない。

小さな足音がした。
四歳の女の子、瑞恵がシュウの膝から飛び降り、とことことテーブルを回り込んで歩いてくる。
幼稚園の制服らしいブラウスの上からポシェットに手をやり、ごそごそと何かを引っ張り出した。
それは、四つ折りにした画用紙。それを差し出してくる。
クレヨンで描かれる、母親と瑞恵、それに父親。その上に、覚えたばかりの平仮名で、《しのおねえさんへ》と書かれていた。

それを両手で差し出すその絵を、自分も両手を伸ばし、受け取る。

一生懸命に練習してきたような、たどたどしい声で、一音一音、はっきり言った。

「しのおねえさん、ママとみずえを、たすけてくれて、ありがとう」

視界がにじみ、ぼやけた。
自分が泣いていると気づくのに少し時間がかかった。

大きながようしをもったまま、ポロポロと涙を零し続ける右手を。
火薬の微粒子によって作られた黒子が残る、その場所を。
小さな、柔らかな手が、最初はおそるおそる、しかししっかりと握った。
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