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第六十八話 余裕がない心
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二〇二五年一月十五日(水)

アルンに着いて宿を取ってログアウトしたのが午前四時ちょっと手前。それからシャワーを浴びなおして寝たのが午前四時半。そして現在は午前八時。桜火は未だベッドの中で寝息をたてて眠っている。

コンコン

と、そこに部屋の扉をノックする音と共に寝ている桜火を起こす声がかけられた。

「桜火くーん。ご飯だよー」

朝っぱらから元気な声に桜火は若干眉をひそめると、もそもそと布団から起きあがる。一月という冬まっただなかなこの時期は布団からでるのも苦労するものだが、桜火は目をさすりながら布団からでる。

「おはよーっす」

「うん。おはよう。朝ご飯できてるから顔洗ってリビングにおいで」

「へーい」

瑞希に促されながら背伸びをしながら洗面所に向かう桜火。その姿を微笑ましそうに見つめていた瑞希は桜火の姿が見えなくなるとリビングへと足を運んだ。



「それで、今日の予定は?」

「ALOのメンテナンスが終わる午後三時まで暇。姉さんたちは大学?」

「いえ。水曜日は講義を履修してないの」

「私も焔もほとんど単位は取れちゃってるからね」

「優秀なことで」

そういってパンにかじりつく桜火。咀嚼しているときにふと疑問に思ったことがあったので目の前に座っている二人に聞いてみた。

「そういえば、他のメンバーは?」

「迅が大学あるみたいだけど、休むって。他のメンバーは休みみたい」

「大学生って結構自由なのな」

「いうほど暇じゃないんだけどね」

瑞希のいう通り大学生は聞くほど暇ではないのだが、周りにいるにいる人たちが優秀すぎるせいか、忙しそうには到底思えない桜火であった。

「そういえば、翡翠は?」

未だ桜火がこのマンションに来て一度も帰ってきたためしがない同居人。桜火の記憶がおかしいことになっていなければ、年齢的にもう社会人のはずなのだが――

「一年ぐらい前に小説家としてデビューしたわよ」

「・・・・・・はぁ!?」

「結構収入があるみたいで、今はいろいろネタを探しながら遊び歩いてるみたいよ」

「・・・・・・」

考えていることの斜め上をいく従姉の行動に、桜火はなにもいえなくなってしまった。



「・・・・・・」

朝食が終わった後桜火はあてもなく外を散歩していたのだが、いつの間にか月雫が入院している所沢市の最新鋭の総合病院の正門にいた。

「おいおい・・・」

本来なら来るつもりのなかった桜火は無意識にもこの場所に足を運んだ自分に呆れるしかなかった。

「(思った以上に心に余裕がないなー)」

と心の中で呟くと病院の受付へと足を運ぼうとしたが、一歩踏み出したところでその足を止めた。


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