暁 〜小説投稿サイト〜
悪霊と付き合って3年が経ったので結婚を考えてます
1年目

冬B*Part 2*〜氷のように温かな〜
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 
 あたしは玄関から家の中に入ると、その重たい扉を閉めそれに寄りかかるようにして背中を預けた。そこからは氷のように冷たい感覚が背中に伝わってくる。
拓海には、また明日にでも、と言ったが明日来ようがいつ来ようが親父が拓海に会ってくれないことなんてわかりきっている。

「ははっ……。拓海に期待させるだけ期待させて……。ほんと、あたしは馬鹿だな……」

 拓海に会わなかったのは拓海を疑ってしまった背徳感からだけじゃない。
会ってしまえば、話してしまえば、また夢を諦めきれなくなるのがわかっていたからだ。
夢は諦めると、親父と話したあの時に決めていたはずなのに。

―――もうあたしは歌わない。

 そう思うと目頭が熱くなるのを感じた。それを誤魔化すようにそのままあたしはその場に座りこむ。そして、少しだけ、ヒック、と声を上げてしまった。
ふと誰かの視線に気づき顔を上げてみると、高尾さんが心配そうに廊下の先にあるリビングのドアからこちらを見ているのが見え、あわてて腕で目を擦って立ち上がる。

そう言えば親父に呼び出されてるんだった。
 
 そのことを思い出して、玄関から家に上がろうと厚底のブーツを脱ごうとしたが少し手間取ってしまった。あたしの手は外の寒さで(かじか)んでしまっていたが、拓海が握ってくれていた左手だけは温かさを感じていた。
なんとか脱ぎ終わるとあたしはそのまま親父の部屋に向かった。

 部屋の前まで来てみたが、その扉は鋼鉄のような重々しさを持っているように思え、手をかけることに戸惑ってしまう。そして、軽く深呼吸すると部屋の中に向かって呼びかける。

「親父、愛華です」

「あぁ。入りなさい」

 部屋の中から聞こえたその声は低く、そして冷え切っていた。そんな声に恐怖を感じながらもゆっくりとあたしはその扉を開けた。部屋の中からは鼻をくすぐる様なコーヒーの香りが立ち込めている。その中で親父は深々と椅子に座りかけ、机に向かい分厚い資料に目を通していた。

「もうあんな男と付き合うのはやめなさい」

 親父はこちらに振り向きもせず、資料へと目を落としたまま開口一番そう言い放つ。そして、それに続けるように話し始めた。

「彼か。お前がよく話してくれていた尼崎拓海君というのは。全く、失礼なやつだ。今を何時だと思っているんだ」

あたしはその言葉に何と返せばいいのかわからなくなってしまった。そんな中、何か返事をしなければ、と言葉を探す。

「それに関しては本当にすみません。でも、拓海も悪気があったわけじゃないんだ。あいつ、自分の中で決めてしまったら突っ走ってしまうのが悪い癖なんだ。だから…」

そこまで言ったところであたしの言葉を(さえぎ)るように親父が声を発する。

「だからと言って今
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ